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アメリカ医療保険制度改革の失敗

ヒラリー・クリントン大統領夫人を改革責任者として進められた最重要公約の一つ。アメリカには6 5才以上の高齢者を対象としたMedicareと低所得者に向けられたMedicaidが公的医療制度としてある。 公的私的医療保険に入っていない国民は3700万人と、全体の15%を占める。誰 にでもすべての医療サービスを提供するといったクリントンのプランは、一見 安心感を与える政策のように見えるが同時にアメリカ経済の14%を占める成長 産業である医療保険を政府の管理下に置くといった民主党のリベラリズムの表 れとも見られる。

<米医療保険制度改革の政府案骨格>
  1. 国民皆保険を原則。
  2. 「国家医療理事会」を新設し医療関連価格・料金を抑制するために強制力を持たせる。
  3. 原則として企業は8割、従業員は2割を負担する。
  4. 96 年から5年間で政府の関連経費を2380億ドル圧縮。
  5. 5年間で1050億ドルの増税を実施し、新規の財源とする。

医療改革の最大の争点は、企業への医療保険加入の義務づけであるが、中小企 業の反発で共和・民主党ともに反対が強かった。政府による医療保険関連の価 格・料金抑制を前提に制度を抜本改革し、財政赤字を長期的に減らす内容であっ たが、政府の介入が過剰になり、かえって政府負担が増すとの反対論もあった。 こうした背景から議会に否決され、クリントン政権の最重要公約とされていた 医療保険制度改革は失敗に終わった。中間選挙で国民が共和党に投票したのも、 国民が保守的になり、クリントンの目指していた「大きな政府」よりも「小さ な政府」を望んでいたことの表れであろう。

クリントン政権は、銃規制ブレイディ法、攻撃的武器禁止法などを成立させ、 財政赤字もピーク時より3割削減、失業率も低下させた。しかし一方では、労 働者の最低賃金の低下、貧困の増加、凶悪犯罪、教育事情、社会問題の悪化な どを抱え、この2年間で国民が納得するような前進もみられないまま、中間選 挙に至ったのである。



Shuichi Shibukawa
Thu May 8 12:52:18 JST 1997