知的所有権問題は、数年来米中間の交渉で取り上げられてきた問題であり、米
国は兼ねてから中国で大量に密売され内外で販売されている海賊版CD、レー
ザーディスク、ビデオなどの取り締まり、著作権の保護について中国と交渉し
ていた。海賊版による米国の損害は年に10億ドルに達するといわれ、この問
題は深刻な両国間の摩擦を引き起こしている。
1995年2月26日には中国側が取り締まりを強化するなど、この問題に対する合
意をみたものの、その後まもなく閉鎖された工場が一つを除いて全て再開され
るなど中国側の誠意を疑わせる事態が相次ぎ、アメリカは中国側の合意の履行
が不十分なため巨額の損害を被っているとしとして不満をつのらせていた。
このため1996年4月30日、米通商代表部(USTR)は米包括貿易法のスペシャ ル301条(知的所有権侵害国・行為の特定と制裁)に基づく調査結果を発表 し、中国を制裁の対象となる「優先交渉国」に指定した。さらに5月15日には 繊維や衣料品(約20万ドル)、電話機など家庭用電気製品(約5億ドル)、合計 30億ドル相当の制裁リストを発表した。中国側もさっそくアメリカから輸入する 綿花、植物油、自動車、同部品、通信機器などに対して100パーセントの追加 特別課税を課すなどの報復措置を公表し、両国は険悪な雰囲気となった。しか し、最終的には制裁発動ぎりぎりの6月17日に妥協が成立し、危機は回避され た。バーシェフスキ代表代行は同日夜のアメリカ大使館での記者会見で、以下 の項目について合意が成立したと発表した。
交渉妥結によって米中間の貿易戦争は回避されたが、今や世界唯一の超大国 となったアメリカも中国を相手とする交渉では苦心した後が伺える。この問題 の根底には、まず一つに知的所有権の重要性について、中国担当者の認識がア メリカ側の発想を十分に理解していないという「法文化」に問題がある。二つ 目は厳格な法の執行を要求するアメリカ側の態度を「内政干渉」あるいは「主 権侵害」ととらえたがる中国側の発想である。これらの根本的な発想の相違が あるために、ひとまず合意したとはいっても知的財産所有権が再び両国間の摩 擦の火種となる可能性は否定できない。