アメリカの中国に対する最恵国待遇更新については、人権問題・台湾問題・核
拡散及び大量破壊兵器の輸出問題・知的所有権問題など様々な問題を抱えなが
らも、最恵国待遇更新という措置がとられるだろうと予測される。クリントン
大統領は、1996年11月20日のオーストラリア議会においての演説でも、中国に
対しては「封じ込め政策」ではなく「建設的関与」として積極的に関与してい
くという今後の姿勢を明らかにした。アメリカとしては、積極的に中国に関与
することによって中国の行動に対して影響力を与えようという政策をとり続け
ていくだろうと思われる。
この政策をとる誘因となっているものの第一番目として、アジアにおける安全
保障上の問題があると思われる。アジアにおける安全保障を安定的にするため
には、中国と正常な関係を保つことが非常に重要になってくる。アジアにおけ
る紛争の火種のうち、台湾をめぐるものと南沙諸島の問題などに中国は直接当
事国として関わってきている。米国はこれらの火種を和らげるためにも中国と
問題を起こしたくないだろうと考えられる。また、中国との積極的関与によっ
て影響力を行使し、核拡散を防止したいとの考えもあるだろう。
第二番目に、経済上の問題があげられる。現在も中国の市場というものは成長
し続けており、今後も引き続き成長していくものと思われる。そのため、米国
企業にとっても、この新しい市場である中国は魅力的なものでありこの市場で
優位性を確保したいという希望があると考えられる。さらに、米国企業の中に
はすでに中国に進出している企業が数多くあり、それらの企業が中国でたたか
れるのを懸念するという動きもある。
第三番目に、中国政府によるロビー活動などの対米議会工作などがあげられる。
在米中国大使館で対議会工作をするスタッフが最近倍増したという情報も流れ
ており、その主たる目的は中国からの輸入品に対する最恵国待遇維持にあると
もいわれている(世界週報 1997年4月1日号)。
クリントン大統領にとって、最恵国待遇を更新するにあたって問題となってく
るのは議会の反対であろう。基本的にアメリカの議会は中国に対して消極的で
あるといえる。議会で中国の事が取り扱われることも少なく、人権問題などを取
り上げて中国を非難するという姿勢をとっている。しかし、クリントン大統領
は1994年の春に中国の人権状況と貿易問題を切り離すという政策を打ち出して
いるし、1997年4月15日の国連人権委員会では中国の「市場カード」の前に先
進国の足並みが乱れ、中国の大勝という経験をしたばかりである。さらに言え
ば、議会は中国に消極的であるといっても中国の重要性を認めるという点では
一致しており、中国の最恵国待遇を更新しないということになると米国企業か
ら強い反発が出ることも予想されるため、「本気」で反対はできない立場にい
ると思われる。また、最近ではアメリカ議員の訪中が盛んに行われており、こ
の交流で雰囲気が和やかになりつつあり、議員の中にも中国を重要視する傾向
が現れている。
中国側としても、アメリカは強大な国家であり世界の政治・経済の秩序安定の カギを握っているとの認識がある。また、両国の貿易関係は拡大し続けており、 アメリカ市場は中国経済にとって重要であるという認識もある。そのため、ア メリカとは正常な関係を保っていきたいという考えがあるであろう。