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国務長官〜マドレーン・オルブライト〜

第2期クリントン政権の組閣人事の中で、この人ほど注目を集めた人はいない。 アメリカ史上初の女性国務長官の誕生である。それだけではない。米国史上、 女性で政府の最高位に就任したのはオルブライトがはじめてである。彼女の特 集記事は、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、各雑誌に当時連日報道 されていた。彼女がここまで注目された理由として、彼女の生い立ちや波瀾万 丈な人生に国民が理解を示したこと、そして同時に「鉄の女」と形容されるよ うな豪胆なオルブライト流の「攻めの外交」に期待が寄せられていたことが挙 げらる。

しかし、ウォーレン・クリストファー国務長官の後任人事については、当初は、 ジョージ・ミッチェル前民主党上院院内総務が有力視されていた。ジョージ・ ミッチェルは大統領選のテレビ討論会の予行演習では、クリントン大統領を相 手に「ドール役」を務めるなど大統領の信任は厚かった。だが最終的に、国務 長官に指名されたのは、候補には挙がっていたもののさほど有力視されていな かったオルブライト前国連大使であったのである。それはいったいどうしてで あろうか。

1期目の外交は、ボスニア・ヘルツェゴビナやアジアをめぐる迷走が批判され、 目立たぬ「黒衣外交」に徹した前任のクリストファー長官像と相まって「忍耐 の4年」と評された。ワシントンポストは昨年の暮れに、

It is difficult to imagine two more different personalities than Warren Christopher and Madeleine K. Olbright. --- Clinton is acknowledging the need for American leadership in the post-Cold War world more explicitly than ever.
という記事を載せた。忍耐の外交から、攻めの外交への転換である。新クリン トン政権が2期目において、外交に強い意気込みをみせており、オルブライト による外交路線の転換を狙っていることがうかがえる。外交上の当面の課題は、 「対中関係」「NATO拡大」「中東和平」の3つに絞られているといえよう。 しかしオルブライト国務長官は、ヨーロッパ・対ロシア関係に強い反面、対中 関係や北朝鮮問題などのアジア外交、中東問題ではその手腕は未知であるため、 不安が残るとされる。国連大使当時、ボスニア問題やハイチ侵攻においては実 績を残したが、ソマリア救援活動に関する国連決議は失策だったと言われてい る。諸外国のこの人事に対する反応は様々だが、接触の機会が少なかった日本 をはじめとするアジア諸国はしばらく慎重にその手腕に注目していくことにな ろう。

では最後に、オルブライトの目指す外交政策についてまとめておきたい。

90年の湾岸戦争の時は、武力行使に慎重であった。(後にそれがまちがいで あったと自ら認めている。)この時期、オルブライトは民主党の外交政策の本 流に位置しており、ニカラグアの反政府ゲリラへの武器供与の問題の際も、反 対を唱えている。ところがその後時がたつにつれタカ派として知られるように なる。ボスニア介入にも積極的で、ボスニアへの派兵に慎重だったコリン・パ ウエル統合参謀本部議長(当時)らと、激論を戦わせたこともあった。現在N ATO拡大の問題は難航しているが、オルブライトは祖国のチェコやポーラン ド、ハンガリーなどをNATOに加えたい意向で、力を注いでいる。オルブラ イトは世界各国を4つに分類している。

  1. 現行の国際システムを維持しようとする大多数の諸国。
  2. それに加わろうとしている新興民主主義国。
  3. システムの破壊を狙う無法国家。
  4. 国家の体をなしていない国家。
そして、アメリカ外交の長期目標は、すべての国家が最初のグループに入ることだと強調している。

「歴史に名を残す」ことを目指すクリントン大統領は、NATO拡大の時期を19 99年に設定し、任期中に「平和で民主的な統一的な欧州」実現を目指してい る。オルブライト国務長官もこの問題に強い意欲を示しており、タルボット副 長官とならんで、国務省トップは強力なNATOシフトで固められたことになる。 オルブライトの起用は、アメリカ外交の活性化と求心力回復をうかがう人事と いえよう。



Shuichi Shibukawa
Thu May 15 15:42:32 JST 1997