井庭崇 担当科目 (2004年度)



「企業と市場のシミュレーション」

大学:慶應義塾大学SFC
分類:学部・大学院対象 / クラスター-総合政策系科目(学部) 研究領域科目−総合政策系科目(大学院)
担当:井庭 崇 (iba@sfc.keio.ac.jp)
開講:春学期
時限:金曜2限
教室:大学院棟τ12(予定)
単位:2単位

授業形態:講義, 演習/実習
学生が利用する予定機材・ソフト等:ノート型パソコン


【主題と目標/授業の手法など】
 現在の科学研究では、理論を発展させるための重要な方法として「シミュレーション」が注目されています。シミュレーションとは、モデルの設定を変えることで、その振舞いがどのように変化するかを観察するというものです。シミュレーションを行うことにより、複雑なモデルや大規模なモデルの理解が容易になり、また、その世界を体験的に理解することができるようになります。
 社会や経済のシミュレーションを行うために、これまでいろいろな種類のモデル化が提案されてきましたが、本講義で取り上げるのは、最新の「マルチエージェントモデル」というものです。マルチエージェントモデルでは、複数の主体(エージェント)が相互作用することによって社会・経済現象が生じる、と捉えます。このようなモデル化は、株式市場や商品市場、流行、文化、政治、社会現象などのさまざまな分野で利用され始めています。
 本講義では、マルチエージェントモデルによる社会・経済シミュレーションを、どのように作成していくのかを解説し、実際にモデルを作成する演習を行います。


【提出課題・試験・成績評価の方法など】
 授業内容を経験的に理解するために、学期の後半から1人または2人によるミニ研究プロジェクトを行います。自分たちの興味に合わせて考察対象を設定し、モデル化とシミュレーションの作成をしてもらいます。作成するのは、独自のモデルのほか、授業で取り上げたモデルの改良や、既存モデルの再現でも構いません。この最終課題で問われるのは、プログラミングの技術力ではありません。自分たちで自らの成果の評価軸を設定してもらい、それに基づいて評価されます。例えば、研究設定の面白さ、モデル化の妥当性、シミュレーション設計の巧みさ、インプリケーションの説得性 等、自分たちの研究内容のどこに魅力があるのかをアピールしてください。
 このほか、授業の進行によって、理解の補助となるような宿題を出すことがあります。中間・期末試験は行いません。
 成績評価は、宿題や演習での取り組み、ミニ研究プロジェクトの最終レポート等から総合的に評価します。


【履修上の注意】
 各自、ノート型パソコン(ラップトップ・コンピュータ)を用意してください。授業中に、シミュレーションの実行や作成の演習を行います。プログラミングなどの前提知識・技術は問いません。ただし、授業での演習や最終課題ではプログラミングを行うことになりますので、そのつもりで履修してください。技術的な面については、担当教員とTAがサポートします。
 シミュレーションの実行にはBoxed Economy Simulation Platform、作成にはComponent Builderを用います。これらの操作方法や作成手順については、授業中にガイドブックを配布します。プログラミングにはJava言語を用います。
【その他】
この授業は、KEIO UNIVERSITY SFC GLOBAL CAMPUS (SFC-GC)でアーカイブおよびネット配信されます。SFC-GCは、講義をオンライン上でグローバルに共有し、学内外の学習者に役立てるための仕組みです。やむを得ない事情で欠席した場合や、復習の際に、SFC-GCの映像記録を活用してください。


【授業計画】
第1回(4/9 金) イントロダクション
第2回(4/16 金) 複雑系と進化の社会システム論
※1週休み

  • 授業の前に指定のソフトウェアをダウンロード&インストールしてください。 >>ダウンロードページへ

    第3回(4/30 金) シミュレーションによる分析
      各自のノート型パソコン上で、実際にいくつかのシミュレーションを動かしてみます(Boxed Economy Simulation Platform)。シミュレーションを用いた分析の特徴や、その際の注意点についても取り上げます。

      授業スライド [PPT形式 / PDF形式]
      この回のガイドブック使用部分 [PDF形式]
      授業映像 [ SFC-GCのページへ ]

      宿題(1):シミュレーションによる分析
      • 待ち行列モデルの設定を変更して実行し、そこから何らかの考察を行いなさい。
      • simu-staff@sfc.keio.ac.jpまでメールで提出
      • メール本文に記述。 分量は、任意。
      • メールの件名は「simu-hw1」
      • 5月6日(木)夜11:00まで
      • 所属・学年、学籍番号、名前を必ず書いてください。

      宿題(2):これまでの授業の感想・意見
      • これまでの授業を通じて、わかったこと・考えたこと、感じたことなど。授業内容だけでなく授業運営に関することも、どうぞ。
      • 上記と同じメールの本文に、宿題@の下に分けて書く。


      ※聴講生、SFC-GC生も、ぜひどうぞ!(SFC-GC生の感想や意見もお聞きできればと思います)

    第4回(5/7 金) シミュレーション作成プロセスとUML(統一モデリング言語)
  • 授業の前に指定のソフトウェア(Component Builder)をダウンロード&インストール&設定してください。 >>ダウンロードページへ

    第5回(5/14 金) 概念モデリングとシミュレーションモデリング
      シミュレーション作成プロセスで記述するUML図について、具体的に取り上げます。概念モデリングでは、概念モデルのクラス図とアクティビティ図、トランザクション図(シーケンス図の変形版)を作成します。シミュレーションモデリングでは、シミュレーションモデルのクラス図と状態遷移図を作成します。これらの図の意味と書き方を習得します。

      授業スライド [PPT形式 / PDF形式]
      授業映像 [ SFC-GCのページへ ]


    第6回(5/21 金) シミュレーション作成演習@
      各自のノート型パソコンにインストールした支援ツール(Component Builder)を用いて、簡単なシミュレーションを作成していきます。作成演習は、配布したガイドブックに沿って行います。

      授業スライド [PPT形式 / PDF形式]




      宿題@:シミュレーション作成演習でマスターしたことを踏まえて、漫才・劇・名場面・会話などをつくってください。
      • 新しいプロジェクトをつくる。
        • プロジェクト名は、姓+名前。
        • 例えば、「IbaTakashi」というように。(スペースは入れない)
      • コミュニケーションシーケンス図を書き、動くものをつくる。
      • simu-staff@sfc.keio.ac.jpまでメールで提出
      • プロジェクトの圧縮ファイルを添付
      • プロジェクトのエクスポートの仕方は、WWW上にアップします。
        Eclipse上で該当するプロジェクトを選択し、右クリックして、「Export」を選択。「Zip file」を選択して「Next>」を押す。圧縮したいプロジェクトにチェックがついていることを確認してから、「To zip file」のところで、圧縮ファイルの行き先を指定する(「Browse」ボタンを押して置き場所とファイル名を指定してください)。「Finish」ボタンを押して、処理を行う。できたZipファイルをメールに添付して提出する。
      • モデルの説明
      • メールの件名は「simu-hw2」
      • メールに所属・学年、学籍番号、名前を必ず書いてください。
      • 6月3日(木)夜23:00まで ← 延長しました!
      • この宿題は、後にWWW上でお互いに公開します。

      宿題A:シミュレーション作成演習後の感想
      • 上記と同じメールの本文に、宿題@の下に分けて書く。
      • こちらは公開されません。

    第7回(5/22 土) シミュレーション作成演習A
    第8回(5/22 土) シミュレーション作成演習B
      配布したガイドブックに沿って、シミュレーション作成の演習を行います。

      授業スライド [PPT形式 / PDF形式]



    ※5/28は休講の予定です。



  • 授業の前にこの圧縮ファイル(成長するネットワークモデル, 56K Byte)をダウンロードしておいてください。

    第9回(6/4 金) 成長するネットワークモデル
      シミュレーションの具体例として、成長するネットワークモデルを取り上げます。このモデルは、現実世界に存在するネットワーク(例えば社会ネットワークやインターネットなど)のほとんどが「成長する」という特徴をもっていることに着目し、モデル化したものです。このシミュレーションモデルの設計を理解した上で、パラメータを変えて実行・分析してみます。

      授業スライド [PPT形式 / PDF形式]


    第10回(6/11 金) 規格競争シミュレーションモデル




  • シミュレーション作成宿題の提出一覧はこちらです。ダウンロードしてBESPで実行できます。



    第11回(6/18 金) 繰り返し囚人のジレンマモデル
      シミュレーションの具体例として、繰り返し囚人のジレンマモデルを取り上げます。囚人のジレンマのモデルは、利己的な主体間で利害が対立する状況の中で、どのように協調が形成されるのかを調べる枠組みとして用いられています。この囚人のジレンマを反復的に行うのが「繰り返し囚人のジレンマ」です。このシミュレーションモデルの設計を理解した上で、自分の独自の戦略を加えて、実行・分析してみます。

      ■今日ダウンロードしてほしいもの
      • BESP用
        • 「besp.jar」 (バージョンアップしたBESP本体) → bespフォルダ内にコピー(上書き)
        • 「IPD.jar」 (繰り返し囚人のジレンマシミュレーションのBESP用実行ファイル) →bespフォルダのなかのpluginsフォルダ内にコピー
        • 「.properties」 (BESPグラフ用の設定) → bespフォルダ内にコピー(上書き)
      • CB用
        • 「componentbuilder2.1.1RC3.zip」 (バージョンアップしたCBプラグイン) → 解凍してできたeclipseフォルダのpluginフォルダの中身を、自分のeclipseフォルダの指定の場所にコピー(上書き)
        • 「IPD.zip」 (繰り返し囚人のジレンマシミュレーションのモデル一式) →解凍してできたIPDフォルダを、自分のeclipseフォルダ内のworkspaceフォルダにコピー。Eclipse上で、Files→Import→「Existing Project into Workspace」。そして、IPDフォルダを選択。
      • 予備
        • 「BESPALL-20040607.zip」 (バージョンアップしたBESP一式) ※上記のバージョンアップを行って、特に問題がない限り、これはダウンロード&インストールする必要はありません。

      授業スライド [PPT形式 / PDF形式]


    第12回(6/25 金) 貨幣の自生と自壊モデル
      ■今日ダウンロードしてほしいもの
      • BESP用
        • 「complexityofmoney.jar」 (貨幣の自生と自壊シミュレーションのBESP用実行ファイル) →bespフォルダのなかのpluginsフォルダ内にコピー
        • 「.properties」 (BESPグラフ用の設定) → 右クリックで名前を付けて保存でダウンロード。bespフォルダ内にコピー(上書き)
      • CB用
        • 「complexityofmoney.zip」 (貨幣の自生と自壊シミュレーションのモデル一式) →解凍してできたcomplexityofmoneyフォルダを、自分のeclipseフォルダ内のworkspaceフォルダにコピー。Eclipse上で、Files→Import→「Existing Project into Workspace」。そして、complexityofmoneyフォルダを選択。

      授業スライド [PPT形式 / PDF形式]



    第13回(7/2 金) 企業競争の進化的シミュレーションモデル
      シミュレーションの具体例として、R.R.NelsonとS.G.Winterのモデルを取り上げます。現代に進化経済学を復活させたと言われる彼らは、新古典派の想定する企業の利潤最大化行動の代わりに、「ルーティン」(日々繰り返される作業様式)という概念を導入しました。このルーティンが「組織的記憶」として遺伝子と同様の働きをするとして、企業競争の進化的なシミュレーションモデルを提案しました。ここでは、その概念モデルの概要について理解します。



  • 最終レポート課題

    自分の興味のある現象などの「モデリング」と「シミュレーション」を行い、レポートにまとめる。


    【教材】
    授業のシミュレーションの実行・作成演習では、冊子『社会シミュレーション デザイナーズガイド』(第2版)を配布します。このガイドブックに沿って演習を進めます。


    【参考文献】
    教科書は特に指定しません。以下は、重要参考文献です。

  • ナイジェル・ギルバート, クラウス・G・トロイチュ, 社会シミュレーションの技法: 政治・経済・社会をめぐる思考技術のフロンティア, 日本評論社, 2003 (ISBN: 453555241X)
  • 井庭崇, 福原義久, 『複雑系入門:知のフロンティアへの冒険』, NTT出版, 1998 (ISBN: 4871885607)
  • ロバート・アクセルロッド, 対立と協調の科学: エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明, ダイヤモンド社, 2003 (ISBN: 447819047X)
  • R・アクセルロッド, つきあい方の科学: バクテリアから国際関係まで, 新装版, ミネルヴァ書房, 1998
  • E.S.アンデルセン, 進化的経済学: シュンペーターを超えて, シュプリンガーフェアラーク東京, 2003 (ISBN: 4431710094)
  • アルバート=ラズロ・バラバシ, 新ネットワーク思考: 世界のしくみを読み解く, NHK出版, 2002 (ISBN: 4140807431)
  • 安冨 歩, 貨幣の複雑性: 生成と崩壊の理論, 創文社, 2000 (ISBN: 4423851016)
  • 和泉 潔, 人工市場: 市場分析の複雑系アプローチ, 森北出版, 2003 (ISBN: 4627850115)
  • マーチン ファウラー, ケンドール スコット, UMLモデリングのエッセンス: 標準オブジェクトモデリング言語入門, 第2版, 翔泳社, 2000 (ISBN: 4881358642)
  • 高橋 麻奈, やさしいJava, 第2版, ソフトバンクパブリッシング, 2002 (ISBN: 4797319062)


  • 【授業に関する補足情報】
  • 昨年度の授業の感想 → ファイナル・フィードバックコメント(PDF)
  • 昨年度の授業評価 → SFC-SFS(学内限定)
  • 担当教員について → 教員プロフィール / 個人ホームページ

  • (C) 2004, Takashi Iba