自己変革能力のある社会システムへの道標(抜粋)#2

2009.10.27 Tuesday 10:43
井庭 崇


「自己変革能力のある社会システムへの道標:複雑系と無気力の心理学の視点から」(井庭崇, 1998)からの抜粋第二弾。僕が社会変革に関する重要な分析枠組みだと思う、アルバート・ハーシュマンの voice-exit モデルの説明の部分です。

今回は、先に引用してから、現在との接点について書くことにします。



自己変革能力のある社会システムへの道標:複雑系と無気力の心理学の視点から
・・・
3. 社会変革のための退出と発言

社会や組織の変革の力として、A・ハーシュマンは「退出」(exit)と「発言」(voice)の二つの行動様式を提示している [2]。第一の退出オプションとは、不満のある商品や政党を選ばなくなったり、あるいは組織から脱退することによって、反対の意思表 示を行なうというものである。度重なる退出オプションの行使によって、経営者や政党は自らの欠陥を間接的に知らされることになる。第二の発言オプションとは、不満のある商品やサービス、政治、組織などへの反対や異議の表明を、直接あるいは世間一般に対して行なうというものである。ここでは、経営者や政党は、直接的に指摘された自らの欠陥を修正することになる。

社会システムを変革するために個人が行なえることには、この二つのオプションがあるわけだが、現在の日本ではこれらは有効に機能していない。第一の退出オプシ ョンは、もともと社会の経済的な側面の行動様式であるが、日本の社会では行使が困難なオプションである。例えば、雇用が完全に流動化していなければ企業に対し退出オプションを行使するのは困難である。また退出オプションは淘汰の犠牲によって無駄が生じることを前提としているため、来るべき環境福祉国家にはそぐわないオプションであるといえる。政治の場面においては、特定政党への投票行為が他の政党への退出オプションの行使にあたるが、各政党の提示する政策ミックスが似通ったもので あれば、退出オプションの効果を有効にはたらかせることはできない。以上のことから、現在の日本社会の社会変革の力として退出オプションに大きな期待をかけることはできない。

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