自己変革能力のある社会システムへの道標(抜粋)#2
2009.10.27 Tuesday 10:43
井庭 崇
(井庭 崇, 「自己変革能力のある社会システムへの道標:複雑系と無気力の心理学の視点から」, 第四回読売論壇新人賞佳作, 読売新聞社, 1998 より抜粋)
興味深いのは、執筆当時に比べ、今はインターネットが「退出」と「発言」の両方を強化しているということだ。ただし、それは社会変革のためというよりは、「脱社会化」の傾向を助長する方向性で、である。特に日本においては、この傾向は強いように思われる。ネットを駆使することで、家にこもっていても生活できてしまう。これは、脱社会的な退出といえるだろう。また、2ちゃんに代表されるようなネタ化やつっこみというのは、一種の発言的機能をもつが、それは社会変革のためというよりは、コミュニケーションへの志向性が強い。
この流れを「若者論」として拒絶・否定するという方向性もあるだろうが、この流れもひとつの現状として認め、それを包括するヴィジョンでまとめあげていくという道もある。例えば、次のような問いが考えられるだろう。
社会活動的な発言・退出と、脱社会的な発言・退出をまとめあげて、社会変革の力とすることは可能だろうか?
ハーシュマンのいう退出や発言は、社会変革的な「活動」としての退出・発言であったが、上で触れたネットによる退出・発言は脱社会的であり、社会変革的な活動ではない。しかし、そのような退出・発言を「情報」としてすくい上げることで、社会変革の力とすることは可能なのだろうか? これが、ハーシュマンの Voice-Exit モデルから発想されるひとつの論点である。
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