Creative Reading:『小説、世界の奏でる音楽』(保坂 和志)

2015.01.17 Saturday 22:11
井庭 崇



そして、そのようにつくられた小説にはリアリティが宿る。ただし、現在の事実にもとづくというよりも、それはもっともらしく、自分の未来に実際に起きそうであると感じるという意味でのリアリティである。

小説はリアリティがあるからおもしろいのではなく、おもしろい小説には何らかのリアリティがある。この関係を間違ってはいけない。(p.84)

パターン・ランゲージも、似たようなことを言えるだろう。リアリティがあるから「共感」できるのではなく、「共感」できるからリアリティがでる(を感じることができる)、と。

そして、それは新しい価値を提示する。

?小説を書くということは社会全体に流布している価値とは別の価値による領土を作ることだ。(p.328)

これはパターン・ランゲージにも言える。パターン・ランゲージをつくるということは社会全体にすでにあるような価値とは別の価値の領土をつくることなのだ。例えば、プレゼンテーションが伝達だと思われているときに、伝達ではなく創造である、と捉えることや、認知症になるということは、家族と過ごす時間が増えたり、いろいろな挑戦をする機会を思い切って増やすことができるという意味で、「新しい旅」だと捉えることができる、というような、普通と異なる価値の領土をつくるということである。

そして、この別の価値というものを、作家はあらかじめ明確に理解しているわけではない。書く・つくることで、それが見えてくるのである。いや、それを見るために書く・つくるのである。

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