【論文公開】「無我の創造」(Egoless Creation)とパターン・ランゲージ

2018.02.19 Monday 16:13
井庭 崇


(井庭 崇)

Abstract:
本論文では、パターン・ランゲージの思想のなかでも最も重要であるが、見過ごされがちであり胡散臭いものだと片付けられてしまいがちな、自我を入れない創造のプロセスについて論じる。アレグザンダーは、デザイナー個人の能力ではなく、個々人のレベルを超えた生成的なメカニズムを見据え、それにもとづく創造を重視した。本論文では、アレグザンダーが主張していることは、物語作家たちが「物語をつくるときには、自分がつくっているというよりも、登場人物が自律的に動き、物語自身が展開していく」と語っていることに共通点があるとして、それを「無我の創造」(egoless creation)という概念で捉える。ここでいう「無我の創造」とは、自分の身体や感覚を総動員して全身全霊で取り組むが、「こうしてやろう」という作為を生む自我を抜く創造のことである。そして、その無我の創造では何が起きているのかを、オートポイエーシスのシステム理論である社会システム理論と創造システム理論から考察する。その結果、無我の創造とは、創造システムでの発見の生成・連鎖の結果を、心的システムが「体験」しているということだと捉えることができる。このとき、仏教の瞑想におけるマインドフルネスの状態と類似した状態になっていると考えられる。そのような無我の創造を可能とするのが、パターン・ランゲージである。再び、システム理論の概念で考えるならば、パターン・ランゲージのパターンは、創造システムにおける発見の選択を支援するための発見メディアであるとともに、言語として心的システムと社会システムを構造的カップリングさせる機能をもつ。本論文では、このように、近代的思考の感覚からすると理解しがたい「無我の創造」について、システム理論で捉え直すという新しい道を拓いた。

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