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2005年05月25日

吉川弘之、富山哲男、『設計学-ものづくりの理論』、放送大学教材、2000 / Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987.

吉川弘之、富山哲男、『設計学-ものづくりの理論』、放送大学教材、2000
【概要】
第1章
設計とは、さまざまな工業製品の生産活動において製品のあるべき姿を定義する人間の創造行為である。設計学とは、この設計を理解するための学問であり、人工物を生産するための工学において中心的な位置を占めるが、心理学・社会学・経営学的な要素も含む学問である。
人間の創造能力により作り出した(元々は自然には存在しない)ものを人工物と呼ぶ。この人間の創造の過程は、製造と設計に分かれる。工業製品の場合、この設計・製造を合わせて生産と呼ぶ。
人工物の設計には、CAD、CAE、CAMなどのシステムを活用した建築設計、機械設計、ソフトウェア設計、電子機器設計などがある。この中でソフトウェア設計は他の設計に比べて、設計と製造に明確な区別がないことが特徴である。
設計のプロセスは二つの意味がある。第一は、生産者と人工物の使用者をつなぐ役割であり、要求に基づいて「概念設計」、「基本設計」、「詳細設計」、「生産設計」を経て、設計解が生み出される。第二は、これから製造する人工物を実際に製造するために必要不可欠な情報を生成する過程であり、「設計」、「製造」、「使用」、「保全」、「回収」、「再利用」というライフサイクルを規定する。
設計に関する学問体系は、「設計方法」、「設計システム」、「設計方法論」、「最適化設計方法」、「設計原理」、「設計学」などに分類される。

第二章
科学と技術の間には、科学が技術にとってのシーズとなってプッシュする場合と、ある技術を開発する社会的要請がニーズとなって研究室での科学の研究をプルする場合がある。この両者が直線的に組み合わさって科学技術が進展し、これをプッシュ・プルモデルと呼ぶ。しかしこれで全ての現象を説明することはできない。
サークルモデルとは、「基盤技術」、「前競争的技術」、「競争的技術」、「後競争的技術」がサイクルになり、科学技術が発展するモデルである。
「蒸気機関」をケースに、発明は時代背景、社会的要請、工作技術などの技術インフラ、特許制度など発明者の権利保護などの要因が複雑に絡み合っていることを示す。
「自動車」をケースに、設計は社会的・経済的影響が大きく、社会や経済あるいは文化から影響を受けることを示す。
工業製品の設計の歴史は、必ず時代背景や時代の要請が色濃く反映されている。

(牧 兼充)


Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987.【概要】
“The Social Construction of Facts and Artifacts: Or How the Sociology of Science and the Sociology of Technology Might Benefit Each Other”
 本章は、科学と技術の社会学的研究を、技術が社会を規定する「技術決定論」ではなく、技術と社会が相互インタラクションを行いながら発展する「社会構築主義」の観点から論じたものである。現状では科学と技術に関する研究はそれぞれ独立のものとして扱われており、相互のインタラクションが有益である。
 はじめに、科学と技術の研究について3つの先行研究を紹介する。「科学社会学」は、科学的アイディア、理論、実験などをデータとした分析を行う。「科学と技術の関係」は区別されており、科学が真実の発見であるのに対し、技術は真実の応用である、と考えられている。技術論は、イノベーション論、技術史、技術社会学により構成されている。
 次にEPOR (The Empirical Programme of Relativism)とSCOT (The Social Construction of Technology)を論じる。EPORは、科学的知見による社会構築主義をハードサイエンスに適応させたものである。科学社会学から発展しており、研究手法も確立している。SCOTは、技術的人工物の開発プロセスを他方向モデルとして説明する。このプロセスについて、自転車の設計をケース・スタディとして検証する。ただし研究手法は未だ十分に確立していない。

“The Evolution of Large Technological Systems”
大規模な技術システムの成長や進化のモデルを提示している。大規模な技術システムは、複雑な課題を内包しており、その解決方法は社会的に構築され形成される。技術システムは物理的な人工物に限らず制度、政治、経済などの非物理的な社会的システムなどを含めた相互のインタラクションにより形成される。従って、各人工物は、全体システムの影響を受けてその特性が決まる。例えば、発電システムは、投資銀行の政策などに影響を受けて形成される。また大学の工学部から教育体系の重点をDCからACに切り替えるだけで、人工物の生成にも影響を与える。
大規模な技術システムは、「発明」、「開発」、「イノベーション」、「技術移転」、「成長」、「競争」、「合併」のプロセスで発展するが必ずしも連続的ではない。発展のプロセスにおいて、システムは、スタイルとモメンタム(勢い)を獲得する。また、各プロセスにおいて中心となる人物が、発明家型アントレプレナー、管理者型アントレプレナー、財務型アントレプレナーと変化する。

【コメント】
 大学をベースとしたインキュベーションは、「技術決定論」的アプローチと「社会構築主義」的アプローチという整理が可能であることが分かった。この理論をフレームワークとすることにより、TLOを中心とした「技術決定論的インキュベーション・モデル」の特性と限界を示し、SIVが構築する「社会構築主義的インキュベーション・モデル」の有効性を示せる。この二つのモデルは、博士論文におけるフレームワークとして、ケース・スタディによる比較検証が可能なため、今後深く掘り下げていく。 (牧 兼充)

投稿者 student : 2005年05月25日 19:17

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