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2005年05月18日

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386. / Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-4

Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386.

【要約】
本稿は、IS研究におけるケース研究の定性的な技法について論じたものである。ケース研究は特に研究者が、1)ISの現象の中から現状を学び、理論を導き出す場合 2)複雑な現象を理解する際に、「なぜ」もしくは「どのように」という問いに答えたい場合 3)研究や理論化の初期段階の分野を扱おうとする場合、に有効である。
ケース研究とは、ある現象を理解するために、複数のデータ収集手法を用いて、1つ以上の構成要素(人、グループ、組織)からの情報をまとめあげることである。その際には、現象の境界は曖昧であり、また研究者による実験・操作は行われない。
ケースリサーチを行う際には、「分析単位」「シングルケース or マルチケース」、「分析対象」、「データ収集方法」の決定を行い、最後の分析が必要となる。
「Markus: IS Implementation」論文は、研究対象がユニークであるため、我々に有益な知見を提供している。しかし、データ収集手法が全く述べられていない、その他の三角的測量法・妥当性の検証につながる情報があるかどうかが明らかになっていないなどの課題がある。
「Dutton: Adoption of a Fiscal Impact Model」論文は、ISの実装プロセスにおける重要な要素を探索的に提供している。しかし、この研究の目的は何か、なぜこの対象を選んだのか、この現象を回顧的に分析する前にアウトカムについて理解していのか、などの点が明らかになっていないことが課題である。
「Pyburn: Strategic IS Planning」論文は、他の事例にも応用可能なMISの計画の分類スキームを提示した探索的研究の良い手本である。しかし、具体的な事例が詳しく述べられていないことがこの研究の欠点である(論文の長さの制限があったのであろうが、その場合には本などの他の発表手段を検討すべきである)。
「Olson: Centralization of the System Development Function」論文は、現象の違いを示すための適切なサンプルの選択、複数のデータ収集法、回顧的なデータ収集を避けるために最近の事例の活用などを含めて、ケースに基づいたアウトカムについての説明が適切になされていることが強みである。しかし、サンプルの具体的な内容が少なく、ケース数も2つであるため、基礎的な探索的研究の域を脱しないところが欠点である。
ケース・スタディを評価するためには、「研究テーマ」、「研究目的」、「分析単位とサンプルの選択」、「データ収集」、の観点が重要である。


Markus, M.L. "Power, Politics and MIS Implementation," Communications of the ACM, 26, 1983, pp. 430-444.
【要約】
 本稿は、「ISの組織における導入がなぜうまくいかないか」の理由をケース・スタディ法により分析したものである。
 先行研究では、「トップマネジメントのサポート」、「ユーザフレンドリーなシステムを作ること」などの知見が提供されているが本質的な解決になっていない。
Klingは、IS導入への抵抗要因として、合理主義的、構造的、人間関係的、相互作用的、組織政治的、階級政治的の6つの視点を提供している。本稿ではこの視点を整理し、抵抗要因として「People-Determined」、「System-Determined」、「Interaction Theory」の3仮説を立てた。People-Determinedとは、「ユーザは新しいものへの変化を拒む」などの人的要因による抵抗である。System-Determinedとは、「システムがユーザフレンドリーではないため拒む」などのシステム的要因による抵抗である。Interaction Theoryとは、「Sociotechnical」と「Political」に2分されるが、本稿で取り上げる「Political」とは、「IS導入により、新たな力を得る者は導入し、力を失う者は導入を拒む」などの、組織政治による抵抗である。
この3仮説の有効性を検証するために、Golden Triangle Corporation (GTC)におけるFinancial Information System (FIS) の導入をケース・スタディとして分析を行った。
このケースでは、社内のある部門はFISの内容を評価し導入、ある部門は内容を評価せず導入を拒否するということが発生した。同じシステムを使っているにもかかわらず部門間の格差であったため、People-Determined及びSystem-Determinedではその説明をすることはできない。
詳細な調査の結果、部門間の政治的な要因が背後にあることが明らかになった。FISを導入した本社会計担当は、このFIS導入により個別の事業部を含めた全社の会計情報をリアルタイムに得ることが可能になる。一方FISの導入を拒否した事業部会計担当は、このFIS導入により、全ての情報が本社会計担当に筒抜けになってしまう。
上記のケースに見られるような、部門間の政治的な力学の変化が、部門により導入の可否を分けた。以上の分析により、Interaction Theoryは、ISの導入における要因を説明するための理論として適切であることが証明された。
本稿にて得られたIS導入におけるInteraction Theoryの重要性は、様々な知見を提供する。システムそれ自体は、組織変革には貢献しない。IS導入におけるデザインと戦略は、システムを活用する組織に根ざしているのである。

【コメント】
 Benbasat論文は、論文の評価を具体的に行っているところが有益であった。Markus論文は、ケース・スタディ論文としては課題があるものの、モデルケースとして多くのことを学んだ。Markus論文をベースに、SIVコンテスト運営の「誘因と貢献のメカニズム」に関するケース・スタディ論文の執筆を進めていこうと考えている。
(牧 兼充)

投稿者 student : 2005年05月18日 20:01

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