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2005年06月30日

新しいシステムアプローチ

 世界は一定の規則性と連続性により秩序を保っているが、複雑性が一定レベル以上になると創発的性質が生じ、部分の集合では説明がつかなくなる。システム研究はは科学による手法の限界を動機として生じた新しいパラダイムであり、主題として“組織化された複雑性”と表現され、全体性に加え、その性質である階層構造に言及する。一方でが、経験的に得た発見に合理性を与えようとする科学的土台に則っている。
システムは以下の4つに分類できる:自然システム、人工的物理システム、人工的抽象システム、人間活動システム。システム適性質の学習対象となる自然システム、利用の対象となる人工的システムに対し、常に設計、修正、改善(つまり工学)を望む人間活動システムの概念は、意味が固定されないことにおいてかなり特殊である。人間行為者の知覚の結果であるため、意味づけは自由であり、可能な解釈の集合で、単一ではあり得ない。
現実世界問題の状況をシステムアプローチで解決しようと試みたとき、システム思考の原点である複雑ではあるが制御可能な機器を設計し実現するという問題をとく技術的システムからひじまった。システム工学(分析)は意思決定者が代替案の選択を論理的に行うための道具で、問題は、機知の目的を実現するために代替手段間の選択を行う問題として定式化できるという仮定のもとに現実社会を定式化できる信念に立脚しているが、社会システムへのこの手法の転用は成功しなかった。人間活動システムは可変性があり、構造化されておらず目的設定自体が問題であり、目的が存在しないためハードシステム思考自体が適用できない。
 研究の蓄積による方法論の提唱と修正により、普遍的な人間活動システムの概念自体の性質についての説明が蓄積された。その手法は端的に示せば問題がおかれている状況を “構造”概念と“過程”概念、双方の関係により“表現”し、改善の“関連システム”の候補の集合から関連システムをあるシステムの“根底定義”として表現し、対応した人間活動システムのモデルが作り、現実世界の問題状況で比較し、行為者との論争によって優位性を決定するというものである。
 数多くの方法論の実践からシステムの普遍的な性質として(1)根底定義の定式化にCATWOE(システム需要者、システム行為者、システムの変換過程、システムに意味づけを与える世界観、システムの生殺権を持つ所有者、システムの環境上の制約)の考察要因が必要(2)根底定義により組織体の“基本課業”、問題の表現が可能(3)システム思考の首尾一貫性には分析レベルの明確化(WhatとHowの明確な区別)が必要(4)社会システムは役割の集合、役割を判断するための価値観の集合の二種で成立し“構造”要素、“過程”要素の中身がわかる(5)方法論として、奉仕のモデルの対象者のモデルが必要、動詞は行為者が直接実行できるものに限る(6) “問題解決システム”(=問題解決者であろうとする人の役割を含む)と“問題内容システム”(=問題所有者)という二つのシステムを含むシステムを操作するものとしてモデル化
 ソフトシステム方法論はつまり学習システムであり、行為決定に至るが、この決定は問題が解決されるのではなく、行為により状況に変化が生じ新たな学習が始まることを示す。人間活動に意味づけを行い、それが有意味であるかは世界をどう見るか(世界観)によるという人間活動システムの性質から直接出てくる結果であり、定義のはっきりしない問題の取り組みの方法論として有効である。
■コメント
認知科学によってソフトなシステムとハードなシステムをわける新しい視点を得た。モデルを実践と行為者の主観によって検証することに関して興味ぶかかった。(小池由理)

投稿者 koyuri : 2005年06月30日 09:46

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