2005年07月07日

The Discovery of Grounded Theory

データ対話型理論(grounded theory)は分析者があくまで現象に関わることがらをデータとして読みとり変換し、そのデータとの相互作用から理論を生み出すことである。 理論は、調査が行なわれている状況に適合し、かつ実際に利用される場合にも有効性を発揮するものでなければならない。 この理論は研究対象に密着した領域密着理論とそれよりも抽象度が高くそのため説明範囲もより拡大されるフォーマル理論と分けられる。 相対的には領域密着理論に比重をおきつつ、より抽象度の高いフォーマル理論もしくはそれをめざす理論を産出するための方法的な道筋を示している。 理論を産出するための道具としては、①「カテゴリー」と「諸特性」、②カテゴリーと諸特性から関連づけられる「仮説」、③収集されるデータの質と量の多様性を示す「データの切片」、④必要なデータ収集の程度と方向を示す「理論的サンプリング」、⑤一貫して理論産出すすめる動因となる「絶えざる比較法」などである。 
データの利用においては質的データと量的データがあげられるが、この本の著者らは質的データに根ざした領域密着理論の産出に重みをおいてある。 質的データの確保としてはフィールドワークと図書館での文書資料の類似点および図書館利用の限界を示している。 量的データの場合データ間の違いによる検証は大変容易に行われるものであって、データ間の違いによる事実の検証と説明は理論産出のプロセスに包摂される可能性がある。 理論産出という目的からみた場合、量的手法による調査の成果ではないのである。 また、理論を産出するための手法である絶えざる比較法と理論的サンプリングは、できごとを比較する際、研究対象であるカテゴリーについてそれ自体の内的な展開や他のカテゴリーとの変化していく関係という観点から理解できる。 比較分析にはいくつかの比較集団の体系的な選択、比較することで、その目的としては①正確な証拠、②経験的一般化、③概念の特定化、④理論の検証、⑤理論の産出である。 
最後に、データ対話型理論が実践的に適用されるためには次のような4つがあげられる。 理論が活用される特定の対象領域に金身乙に適合してもの(理論の適合性)、その特定の対象領域の一般の人々にも平易に理解できるもの(理論の理解)、その特定対象領域内のある特定のタイプの状況にだけではなくさまざまな幅広い日常生活状況に対して十分適用可能な一般性を持ち合わせるもの(理論の一般性)、その理論が変化していく状況の構造と展開を部分的にでもコントロールできるようなもの(状況のコントロール)の4つが相互に深い関連をもつことである。
<コメント>
データ対話型理論が質的データに根ざした領域密着理論の産出に比重をおいていることが分かった。 その領域密着理論をまたフォーマル理論へと展開していく可能性は十分であろう。 私はある理論と理論の現実適応性に差が生じているのではないかということで、その理論には理論性は十分あるかもしれないが、現実的な適応性は低いため理論の適応性がないと断言したことがある。 しかし、今考えると領域密着理論からフォーマル理論への展開した理論であり、私が指摘したことはフォーマル理論でよく見かけられる誤解にされる一部分であったことがわかった。 <池 銀貞>

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2005年06月29日

Glaser, Barney G. and Anselm L. Strauss, "The Discovery of Grounded Theory: Strategies for Qualitative Research," Aldine Publishing Company, 1967. (邦訳: 後藤隆・大手春江・水野節夫、『データ対話型理論の発見-調査からいかに理論をうみだすか-』、新曜社、1996年

Glaser, Barney G. and Anselm L. Strauss, "The Discovery of Grounded Theory: Strategies for Qualitative Research," Aldine Publishing Company, 1967. (邦訳: 後藤隆・大手春江・水野節夫、『データ対話型理論の発見-調査からいかに理論をうみだすか-』、新曜社、1996年

【要約】
社会科学的方法に関する研究の多くは、どのようにして正確な事実を手に入れられるか、そしてどうしたら理論(Ground Theory)がより厳密にテストできるかに関心がよせられてきた。それに対して本書では、社会調査において体系的に獲得され分析されたデータからの理論の発見をどのように進めることができるかに取り組む。このデータとの相互作用により創出する理論を「データ対話型理論」(Grounded Theory)と呼ぶ。データ対話型理論は、現実によく合い使える理論であること、つまり研究対象を説明・解釈・予測できるということを理論としての判断基準におく。
 第2章では、比較分析を利用する目的について、理論の検証と産出等を比較し論じる。データ対話型理論は、現実の特定領域あるいは経験的な領域に密着される形で展開させる領域密着理論と、より抽象度を高め他の領域にも応用可能な一般性を備えたフォーマル理論に分類される。フォーマル理論は、抽象度の高さでいえば、論理演繹的に導き出された誇大理論と類似しているが、具体的な現象を説明できる領域密着理論を積み上げて構築していく点で大きく異なる。
第3章では、理論を生み出すように設計された比較分析のためのデータ収集プロセスである理論的サンプリングについて論じる。形式的には、理論産出という観点からみて適合的な標本抽出を行うことをさす。より具体的には、研究対象となる現象に関わるデータの断片との対話を続ける中から現象把握に必要とされるカテゴリーとその諸特性を発見し、それらの相互関係を仮説として提示し理論を作りあげていくものである。データの断片とは、あるカテゴリーに関連するさまざまな種類のデータをさす。カテゴリーとは、考察の対象となる現象を概念レベルで把握するために現象もしくはその一部に名前をつけたものを指す。特性とは、カテゴリーを構成する概念的諸要素をさし、あるカテゴリーが指し示す内容をその強度や頻度あるいは特定の性質などといったレベルで説明するもの。仮説とは、カテゴリー間やその下位要素である諸特性を関連づけたものをいう。
第5章では、質的データの比較分析のための方法である絶えざる比較法を提示する。これはデータ対話型理論の中心的な方法とされており、各カテゴリーに適用可能なできごとの比較、カテゴリーとその諸特性の統合、理論の限界設定、理論の定式化の四段階からなる。理論的飽和(あるカテゴリーに関連するデータにいろいろあたってみても、そのカテゴリーの諸特性をそれ以上発展させることができない状態)を目指して、対象・集団・できごと・カテゴリー・諸特性を対象に絶えず比較を繰り返す。明示的なコード化と分析手続きを用いることによって、理論産出を体系的に行う。
その他、第4章では領域密着理論からフォーマル理論への移行について取り上げ、第6章では、従来のいくつかの比較研究について具体的な事例に基づいた評価を行う。
 第二部「データの柔軟な利用」では、質的データ(第7章)と量的データ(第8章)からの理論算出について詳細に考察する。第三部「データ対話型理論の含意」では、データ対話理論の信頼性(第9章)やその実践的含意(第10章)を考察し、最後に、洞察、理論発展とリアリティ(第11章)について論じる。

【コメント】
私の博士論文では、前半はインキュベーションを「技術決定論と社会構築主義」というGround Theoryに基づいた演繹的な検証を行い、後半ではGrounded Theoryに基づいた理論の産出を行う。インキュベーション・プラットフォームにおける「誘因と貢献のメカニズム」には、グローバル性とローカル性があることが仮説として考えられるが、厳密な検証は不可能である。このような分野の研究手法としてGrounded Theoryは適していると感じた。 (牧 兼充)

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