« The Social Construction of Facts and Artifacts | メイン | Simon, Herbert A., “The Science of the Artificial,3 rd ed.,” The MIT Press,1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹(訳)、『システムの科学 第3版』、1999年.) »

2005年06月01日

Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年).

Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年).

【要約】
 本書は、人間によってつくられた「人工物」の体系を論じたものである。人工物は、人工物それ自体の中身と組織である「内部」環境と、人工物がその中で機能する環境である「外部」環境に区分けすることができて、その両者の接合点を「接面」(interface)と呼ぶ。この接面から機能的記述を行うことにより、人工物を捉えることが可能である。具体的には、システムの目標と外部環境の知識があれば、内部環境に関する最小限の仮定をおくだけで、そのシステムの行動予測が可能となる。外部環境の知識とは、進化論的生物学では自然淘汰であり、人間行動科学では合理性である。コンピュータを含めた多くの人工物は、記号システムの発展系であり、人間はこの記号システムを介して認知を行う。
 社会システムにおける人工物として市場と組織がある。このメカニズム分析を行うと、外部環境における前提である合理性のみでは説明できないことが多数ある。これは、人間が合理性を追求する場合に、現実的に全ての選択肢を選ぶことができない場合には「十分良好な」代替案を選択するからである。このことは人間の認知限界が人工物のデザインにおいて制約となることを示す。
 人間を1つの行動システムとして捉えると極めて単純である。行動における複雑性は、内部環境ではなく外部環境に起因する。人間の認知システムは基本的に直列に働き、記憶は連想的に組み立てられている。短期記憶は7チャンクに限られており、チャンクが定着するまでに8秒かかる。人間の長期記憶には限界がない。直感とは、長期記憶の検索結果による判断である。学習とは、環境適応能力に多少なりとも永久的な変化を生み出すような、システムにおける変化のことである。
 専門家活動の多くは科学であり工学ではないため、「望ましい性質をもった人工物をいかにつくり、またそれをいかにデザインするか」、という「デザインの体系」を構築していく必要がある。具体的には、1)デザインの評価のための「評価理論」、「評価方法」、「デザインの形式論理」 2)代替案の探索のための「発見的探索」、「探索のための資源配分」、「構造の理論およびデザイン組織化の理論 (階層システム)」、「デザイン問題の表現」、などである。
 社会計画におけるデザインは、通常のデザインの科学に比べて、「限定された合理性」、「計画設定のためのデータ」、「顧客の識別」、「社会計画における組織」、「時間的・空間的視界」、「究極目的のないデザイン活動」などの視点を加えなくてはならない。
 複雑性は、システムの主要な特徴であり、その諸理論は人工物のデザインに有益な場合がある。具体的には、カオス、遺伝的アルゴリズム、セルラーオートマトン、カタストロフィ、階層システムなどである。
 複雑なシステムにおいては、階層構造という共通性が見られる。複雑性が単純性から発展していく過程においては、複雑なシステムは階層的になりやすい。階層はその行動を単純化する特性「準分解可能性」を持ち、複雑なシステムの記述を単純化し、システムの発達や再生産に必要な情報を提供する。

【コメント】
 SIVというインキュベーション・プラットフォームのアーキテクチャ・デザインのための有益な知見が多数含まれていた。SIVは階層構造ではなく「準分解可能性」が低いため、人間の認知能力の限界への対応が不十分である。また内部と外部の特性の定義も不明瞭である。本書に基づいて、全体の再設計を行う必要がある。
 なお、私は文献を読むときは、エッセンスとその相互関係(外部環境)のみを理解し、そのエッセンスの説明(内部環境)は必要に応じて理解するようにしている。本書は、章ごとの「準分解可能性」は高かったが、章内の「準分解可能性」は低く、理解が困難な部分が多数あり、認知限界を超えた。「システムの科学」という文献自体を人工物と捉えた場合には、デザインに失敗しているように感じた。 (牧 兼充)

投稿者 student : 2005年06月01日 19:33

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://web.sfc.keio.ac.jp/~jkokuryo/MT3/mt-tb.cgi/59

このリストは、次のエントリーを参照しています: Simon, Herbert A., "The Sciences of the Artificial", 3rd ed., MIT Press, 1996.(邦訳:稲葉元吉・吉原英樹、『新版システムの科学』、パーソナル・メディア、1999年).: