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Benbasat,Zmud, "The Identity Crisis within the IS Discipline: Defining and Communicating the Discipline's core properies," »

2005年07月13日

Hevner, Alan R., Salvatore T. March, Jinsoo Park and Sudha Ram, “Design Science in Information Systems Research,” MIS Quarterly, Vol. 28, No. 1, 2004, pp.75-106. / Benbasat, Izak and Robert W. Zmud, "The Identity Crisis within the IS Discipline: Defining

Hevner, Alan R., Salvatore T. March, Jinsoo Park and Sudha Ram, “Design Science in Information Systems Research,” MIS Quarterly, Vol. 28, No. 1, 2004, pp.75-106.

【要約】
情報システム研究は、大きく分けて”behavioral science”と”design science”の二つに分けられる。behavioral scienceは、人や組織の行動に関する理論の探索・構築を行うものである。design scienceとは一方で、新たなイノベーティブな人工物を創出することにより、人や組織の境界の拡大を目指すものである。このどちらの手法も情報システム研究においては、方法論の土台となっており、両者とも重要である。behavioral scienceは、認識されたビジネスのニーズに関連する理論構築や現象の予測を目的とし、真実の発見をゴールとする。design scienceとは、認識されたビジネスのニーズに関連する人工物のデザインに関する構築と評価を行うことを目的とし、実用性をゴールとする。
本稿では、特にdesign scienceに着目し、概念的なフレームワークと理解・実行・評価のためのガイドラインを示すことを目的とする。design scienceにおいては、知識やある課題とその解決方法を人工物のデザインにより解決する。
ガイドラインは以下の7項目により構成される。1)design science型の研究では、実行可能な人工物を構成、モデル、手法により創出しなくてはならない。 2)design scienceの目的は、重要かつ実質的な価値のあるビジネス上の課題について、技術的な解決策を開発し提示することである。3)デザインした人工物に関する有効性、質、影響力は、着実に実行することが可能な評価手法によって厳密に示さなくてはならない。評価手法については、「観察」、「分析」、「実験」、「検証」、「記述」などの方法がある。4)効果的なdesign scienceによる研究は、人工物のデザイン、デザインの土台、デザインの方法論などの領域に対して、明確かつ確証的な貢献を提供しなくてはならない。5)design science研究は、人工物のデザインに関する構成と評価に関する厳密な手法に基づいていなくてはならない。 6)効果的な人工物は、環境による法則を満たしながら、求められる結果を出すための探索に基づいていなくてはならない。特にデザインと評価の繰り返しのプロセスが重要である。 7)design science研究は、技術指向、経営指向の両方の読者にとって効果的な説明を示さなくてはならない。
このガイドラインを具体的な事例として示すために、Gravish and Gerdes(1998)、Aalst and Kumar (2003)、Markus, Majchrzak, and Gasser (2002)による論文について、「問題との適合性」、「研究の厳密性」、「探索プロセスによるデザイン」、「人工物としてのデザイン」、「デザインの評価」、「研究の貢献」、「研究によるコミュニケーション」の観点から評価を行った。

Benbasat, Izak and Robert W. Zmud, "The Identity Crisis within the IS Discipline: Defining and Communicating the Discipline's core properties," MIS Quarterly, Vol. 27, No. 2, 2003, pp. 183-194.

【要約】
 情報システム研究のdisciplineについて、情報システムに関する現象のみを見た情報システムと関連性の深い研究と、情報システム及びその周辺環境の現象まで含めた情報システムと関連性の薄い研究など多義的になっており、アイデンティティ・クライシスが発生している。本稿では、なぜ情報システム研究におけるアイデンティティの確立が重要であるかを示し、その構築を試みる。アイデンティティの確立のためには、領域と知識的核の定義が重要である。つまり、情報システム研究のアイデンティティの確立は、情報システム研究におけるコンセプトと現象という研究領域の核となる資産を定義することである。
新しい研究領域の開拓においては、learning issueとlegitimacy issueが必要である。情報システム研究においては、learning issueは成立しつつあるが、legitimacy issueは、課題として残されたままである。legitimacy issueは、認知的なものと社会政治的なものがあり、社会政治的なものについては進展が見られる。情報システム研究のような学際的領域においては、特に認知的なlegitimacyの構築が重要となる。
多くの情報システム研究は、error of exclusionとerrors of inclusionの二つの課題がある。error of exclusionとは、人工物をめぐる研究が他の分野の理論に基づいており、研究領域が曖昧になっているということである。Errors of inclusionは、情報システム研究が他の理論を活用しながらも、情報システムと周辺とのインタラクションの関係が明らかにされていないということである。
上記の問題を解決するために、以下の3点を考慮することにより、error of exclusionとerror of inclusionの解決が可能である。
1)情報システムそのものの構造のみならず、Nomological Net(ITマネジメントの方法論、利用法、インパクト、運用上のプラクティスなどの情報システムによる影響)まで対象としているか。
2)情報システムにおけるNomological Netの外部の分析を行っているか。
3)情報システムにおけるNomological Netの関係性の分析を行っているか。

【コメント】
研究手法として、分析アプローチとデザインアプローチがあり、私の研究はデザインアプローチであるが、その方法論について知見がなかったため、Henver他[2004]のガイドランを有効活用していく。
私の博士の研究は、厳密に言うと「情報システム」の研究ではないが、インキュベーション・プラットフォームも学際的研究であり、本質的にはerrors of exclusionとerrors of inclusionに関する課題が含まれており、Benbasat他[2003]も示唆に富んでいた。博士論文の推進にあたり、インキュベーション・プラットフォームの領域とフレームワークの定義を行うことをまず検討していきたい。 (牧 兼充)

投稿者 student : 2005年07月13日 16:41

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