素顔なんてないの
 


専業主婦は、女の自立のメッセージのなかでは、はっきりと拒否されます。それは 専業主婦の社会的な評価が主婦自身の行動によっていないからです。専業主婦は主人 の仕事上の評価つまり『どの企業に勤めてどのいらいの地位にあって、年俸はいくら か』によって彼女の値打ちを決定されてしまう、という点が問題なのです。つまり専 業主婦は専業主人とセットになり、しかも主人(組織)の主婦(家庭)にたいする優 位な関係によって、主婦の社会的な地位はすべて決定されてしまうので、女の自立を 求める人々は異義を申し立てるのです。

父さんは外で働き、母さんは内で働く。家の経済的安定と社会的地位は父が運び、 母はそのなかで家族みんなの精神と身体の安定と成長に気をくばる。このような状況 にあって、母は、父と共有できる価値観を維持しうるかぎり、すなわち『私は、夫の 妻です』によって自己証明を確認しえるかぎり、彼女は幸せに子供の世話に専念し、 夫の面倒を喜んでみる。彼女は子供の寝顔にそっとキスをし、夫のワイシャツのアイ ロンかけにさわやかな汗を流す。これが彼女の生甲斐である。毎日、毎日、彼女は同 じようなことを繰り返す。たとえ『夫の妻であること』によってしか社会的に承認さ れなくとも、家族のみんなが彼女を必要としているかぎり、彼女の自信は揺らぐこと なく、その繰り返しを続ける。