素顔なんてないの
 


愛の絆は、もう幻想です。

夫婦の愛、親子の愛、きょうだいの愛なんて、疑いはじ めたら泥沼に入ってでられません。だから、みんな、愛してる、とだけ口裏をあわせ ます。でも綻びがでます。かつての金妻のような不倫の流行は、破綻の前兆です。誰 も愛を信じません。嘘です。もっとも、その嘘が、愛を支えるものなのでしょうが。 生活の絆も、もう不必要ありません。専業主婦が嘲笑の対象になり、外に出ること が女性のあるべき姿とされたとき、生活を共にする絆が崩壊します。ダブル・インカ ムは、Wの悲劇です。なぜ男たちは外でせっせと汗をながしているのか、分からなく なります。かれらの家庭へのアイデンティティも脆くも崩れます。

金属バットの事件は、血の絆のはかなさを教えてくれました。血縁も切れないこと ではありません。簡単に切れそうな気もします。親と顔つきが似ている程度で安心し てはいけません。「それがなんだっていうんだ」と言われたら、『そうですね』とし か応えられません。親も弱いもんです。せっかく苦労して、自分の子供を大切に育て たのに。

家族は、つながりの最後の砦になれるのだろうか。そんな夢は忘れたほうがよさそ うです。きずなの嘘を知ったところから関係をつくるしかないようです。家族だっ て、いつも壊れる方向に進む漂流船なんです。たまたま難破しなかっただけです、昔 は。