ジップカーに乗る
ボストンはここ数日天気が悪かった。暖かくはなってきているが、しとしと雨が降った。私は寝違えた首が痛く、やり残してきた二つの仕事をやっているがなかなか進まない。

ところで、日本から車の無事故・無違反証明(英文)が届いた。早速、ジップカー(Zipcar)の申し込みをした。数年前にハーバードにいたKさんからも聞いていたし、こちらに来てからも何人かに言われていた。毎日車を使うわけではなければ、ジップカーで良いのではということだ。車を購入すると、代金の他に、車の登録料、保険料、毎月の駐車場代、ガソリン代がかかってくる。中古車市場が発達しているので、車はまた売ればいいのだが、維持費はけっこうかかる。
ジップカーというのは、簡単に言うと、車を会員で共有するシステムで、ボストンから始まったらしい(MITかハーバードの学生が始めたとも聞いた)。車はボストンだけでなく、東海岸と西海岸の大都市を中心にたくさんあり、ボストンにはうじゃうじゃある(ここでボストンをクリックすると見える)。ウェブで予約をすれば、置いてある車を勝手に乗り回していいのだ。料金は利用時間に応じてクレジット・カードから引き落とされる。レンタカーと同じくらいの料金設定だが、1時間単位で借りられ、ガソリン代はかからない。ガソリン・スタンドで無料給油できるカードが車内にあり、足りなければ勝手に足し、十分残っていれば、そのまま乗り捨てていける。

ジップカーに申し込むには無事故証明が必要なので、それが届くのを待っていた。届いてから、オンラインでクレジット・カードを使って登録し、無事故証明をファックスした。すると、その日のうちに承認の連絡が来て、3日から1週間でジップカードが届くという。ところが、地元ボストンのためか、翌日にはカードが届いてしまった。何のことはないただのプラスティック・カードなのだが、おそらくICチップが埋め込まれている。このカードに書かれている番号をウェブでアクティベートして私の情報とひも付けすれば、準備完了である。


車のメンテナンスはジップカー社がやってくれることになっているので、普通に使う分には問題ない。中もほどほどにきれいで問題ない。普通のレンタカーレベルだ。車の調子はというと、ブレーキが軽くてふわふわしている一方、アクセルが重たいのが気になったが、それでも許容範囲だ。4時間、あちこちの店を回って食料品その他を買い込んだ。時間までにもどさないといけないのが大変と言えば大変だ。次の人が予約を入れて待っているかもしれない(遅れるとどうなるのだろう)。十分たくさん車があり、好きなときに乗れるのなら、ジップカーは良いシステムだと思う。
何かを皆で共有するという発想はアメリカ資本主義的には何となくおかしいような気もする。希少な資源を共有するというのは何となく共産主義っぽい。しかし、エコフレンドリーであることをアメリカ人が気にするようになってきているのはとても良いことだ。スーパーでもレジ袋をなくす傾向にあるようだ。エコフレンドリーで頑張っているホールフーズマーケットではレジ袋をプラスティックではなく紙に一本化し、マイバック持参を推奨している。ホールフーズマーケットの書籍コーナーにはアル・ゴアのInconvenient Truth他、エコ関係の本が揃えてある。リサイクル可能なボトルを使った商品などは高いけど、ちゃんとたくさん棚に並んでいる。ジップカーも、やたらと車を乗り回すのではなく、必要なときだけ乗ればいいじゃないという発想なのだろう。
ここでもウェブとインターネットが重要な役割を果たしている。拙著『ネットワーク・パワー』(NTT出版、2007年)では、海運・空運という輸送システムと、情報通信ネットワークの組み合わせがパワーを生み出す(経済学的には生産性の向上か)と指摘した。陸運は視野に入っていなかったが、アメリカという広大な国では、陸運は重要だろう。ヨーロッパでもかつてモルトケが鉄道の戦略的重要性を指摘している。どこに車があるか、いつ使えるかがすぐ分かり、思い立ったらすぐに予約ができるシステムがなければ、ジップカーは成立しなかっただろう。レンタカー屋に行って、面倒な保険の説明を聞いて、高い料金を払い、ガソリンを満タンにして返すのは面倒だ。いつも同じ車が同じ場所に置いてあり、ガソリンのことを気にせず乗れるのは気分が良い。少し離れた別の場所に行くと、違う車に乗れるのもうれしい。トヨタ、ニッサン、ホンダ、マツダ、スバルなどの代表的な車が揃っているし、ピックアップトラックにも乗れる。
ジップカーがどこまで大きくなるか、そもそもビジネスを継続できるか、注目していきたい。しばらくは乗り続けてみよう。
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