ウォーミングアップ
先週はかなり研究をした。東京にいるときは一つのことに3時間まとまって使えれば良いほうだったが、こちらでは用事がないので、集中すると一日中ずっとできる。平日はいくつかの仕事をがっちりやって、土曜日の夜、奇跡的にとれたレッド・ソックスの試合を見に行った。松坂が前日に投げてしまっていたのが残念だが、ほぼ完全に売り切れているレッド・ソックスのホーム・ゲームなのだから贅沢は言えない。試合は最後に逆転ホームランで勝つという劇的な展開だった。あいにく岡島の出番もなかったが、ブルペンで調整する姿を間近で見られたのは良かった。
試合そっちのけで岡島を見ていて興味深かったのは、他のピッチャーはいきなり投球練習を始めるのに対し、彼はゴムを使って手首の運動から始め、少しずつ体をほごし、負荷をかけていく。丁寧に体を作っていくのが印象的だった。良い仕事をするには準備が重要だと思う。ところが翌日曜日、私の体はがちがちに固まり、特に左肩に痛みが走り、寝返りがうてなくなった。平日に無制限に仕事し続け、ナイターが寒かったせいだろう。さらにはベッドが柔らかいせいも大きい。年明け以降の疲れが出てきたのかもしれない。とにかくひどい痛みだ。床のカーペットにシーツを敷き、日曜日は休むものの、痛みはとれない。日曜日の夜はほどんど眠れなかった。
月曜日、マサチューセッツ州はパトリオット・デーで休日である。この日はあのボストン・マラソンが開かれる。沿道で観戦するのを楽しみにしていたのだが、外出できる状態ではない。テレビで観戦。しかし、中継方法が原始的であまりおもしろくない。日本のマラソンや駅伝中継はよくできていると気づく。
痛みが引かないので、医者に診てもらおうと、ウェブを使ってアポの申し込みをする。アメリカではアポがないと基本的に医者には診てもらえない。月曜日は休日なので診てもらえないとは思っていたが、月曜日と火曜日のできるだけ早い時間に診てもらいたいと申し込む。意外にもアポの返事はすぐに来た。しかし、設定日は来週の月曜日である。月曜と火曜が良いと書いたので、水曜日以降の日程は無視されたのだろう。でも来週じゃないんだけどなあ。
そして、整形外科の申し込みをしたのに、まずは主治医の内科医に会えという。整形外科はこの主治医の紹介がないと会ってもらえないのだ。一週間先に内科医に会って、それから整形外科に行けというのはのんびりしたものだ。整形外科のアポはさらに先になるのだろう。もちろん、救急患者は診てもらえるのだが、どうやら高く付くのだそうだ。
聞いてはいたけれども、アメリカの医療制度はやはりおかしい。日本であれば好きな病院にすぐに行って、どんなに遅くてもその日のうちには診てもらえるだろう。しかし、アメリカでは保険の適用範囲が決まっているので、勝手にかかりつけ以外の病院に行くと法外な診察料をとられる。その上、保険料が高いから、多くの人が健康保険に入れない。外国人研究者は国務省の規定で入らなくてはいけないから私はカバーされているが、アメリカ人で入れない一般の人はかなりいる。仮に入っていても、これでは痛いときにすぐには診てもらえないだろう。
日本の医療制度が完璧だとは思わない。不必要な薬が出たり、病院が社交場のようになっていたりするかもしれない。しかし、選択の自由があり、すぐに診てもらえる医療制度はやはり優れていると思う。もちろんそれはただではなくて、給与天引きですごい額が徴収されているからできることも確かだ。
大統領選挙で医療制度(健康保険制度)が重要な政策イシューになることも実感できる。自分でリスクをとり、カバーするのがアメリカらしさなのかもしれないが、もうちょっとどうにかなるだろうという気がする。
研究者の体も自己管理しなくてはならない。同僚のO先生がやはり1年間の在外研究に出たとき、「自分が疲れていることに気づくのに半年かかった」と言っていた。本当にそうかもしれない。毎日、岡島のような入念なウォーミングアップが必要なのだ。
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