リバプール (Liverpool)

 リバプールと言えば、あの泣く子も黙るビートルズの出身地です。実は、私はもうビートルズを生で知らない世代なのですが、私より10歳ぐらい上の世代の人には堪らないようです。リバプールは、産業革命の申し子というような都市で、そういった意味ではマンチェスターと同じようなものなのですが、ビートルズのおかげで知名度はマンチェスターと比べものになりません。世界で初めて鉄道が走ったのは、リバプールーマンチェスター間だったし、景気が悪くなってからの都市の荒れ放題も同じようなものなのに、リバプールにはいつも日本人の観光客がいますが、マンチェスターでは滅多に見ません。リバプールは、今度世界遺産に指定されるそうですが、それはアメリカへ移住したヨーロッパの人々の出立地だったからだそうです。アメリカに渡ったすべてのヨーロッパ系移民は、リバプールから出航したそうです。でも、そんなことはどうでも良くなってしまうぐらい(もちろんどうでもいいことではありませんけど)、やっぱりビートルズの知名度なのです。

 リバプールには、私の大学時代の友人である相澤氏が留学しています。彼女は私より半年ぐらい前にリバプールに来て、2年間の予定で滞在しています。以下のリバプールの市内は、彼女の案内によって回りました。ちなみに、聖地であるマシューストリートの画像がありません。相澤氏が案内してくれなかったわけではなく、なぜにかマシューストリートに行く直前に私のデジカメが動かなくなってしまったからです。その後家に帰ったら突然動きました。私のデジカメはビートルズが嫌いだったのだろうか。せっかくビートルズが有名になる前に歌っていたパブまで連れて行ってもらったのに・・・。

 リバプールには、イギリス最大級の教会が2つもあります。これはその一つで、カトリック系の教会です。イギリスは、英国国教会(新教系)ですので、カトリックの教会は本当に少ないのですが、リバプールは新大陸に向けて開かれた港いうことで、あらゆる宗教・宗派に寛容だったそうです。余談ですが、イギリスでは激しいキリスト教の新教と旧教の対立の歴史があるので、今でもその後遺症が残っています。例えば、カトリック教徒は議員になれないなど。カトリック教徒と結婚するために、王様をやめた人までいますし。でも、不思議なぐらいモダンなカトリック教会です。
 もやで少しかすんでいますが、こちらが英国国教会の教会です。イギリス最大の規模だそうです。イタリアの教会ほどではありませんが、その規模は訪れるものを圧倒します。しかし、イギリスの教会はどこでもそうですが、内部はあっさりしたものです。内部に教会のカフェがあって、軽食までできるのは驚きです。ちなみに、この教会はそれほど古いものではないそうですが、教会の設計はコンペで行われ、当時弱冠20歳そこそこの若者の案が採用されたそうです。
 順番が前後しますが、リバプールの地図です。赤いラインが、2つの大聖堂を巡るルートです。赤いラインの上の方にあるのが、カトリック教会、下の方にあるのが、英国国教会です。三色のルートがあるところにリバプールの見所は集中しています。
 旧市庁舎のファサードです。現在でも公式の行事に使われているそうです。内部はかなり豪華だそうで、平日でしたら見学もできるそうです。ビートルズ通でしたら、この2階のバルコニーでビートルズのメンバーが手を振っている写真をご存じでは。どれかのアルバムのジャケットになっていたでしょうか。私も見た覚えがあります。リバプールには、この旧市庁舎に代表されるように、旧市街地の中心部には、石造りの新古典主義の建築物がたくさんあります。これは19世紀後期にリバプールが大きな力を誇っていたことを象徴しています。同じ頃栄えていたはずのマンチェスターには少ないので、やはり力の差ですね。
 奥に見える塔が2つあるようなビルは、当時栄えた海運会社のビルだったそうです。塔の上にあるのは鳳凰で、手前側は陸に残った船員の家族を、奥側は海に乗り出していった船員を守っているのだそうです。こんなうんちくは、自分で調べたわけではなくて、リバプール在住の相澤氏から教えて頂きました。普通だったら、だいたい鳳凰がビルの上に付いていることに気がつかないし・・・。
 マージー川の河口まで出てきましたが、ここが最近のリバプールの名所であるアルバートドックです。景気が後退してからは使われなくなり廃墟になっていたのですが、再開発で見事にリバプール観光の中心地の一つに甦りました。マージーサイド海洋博物館などがあります。ロンドンのテート・モダンと兄弟関係であるテート・ギャラリーもここにあります。
 アルバートドックから先ほどの海運会社側を見ています。この日は天気が悪く、寒かったのですが、天気の良い日はこの一帯のそぞろ歩きはなかなか楽しいです。マージー川の反対側にフェリーも出ています。また、海洋博物館の一番上の階には、カフェがあるのですが、ここは値段が安いにもかかわらず、眺めも良くお勧めです。
 リバプールの名所も全然押さえられていないのに、リバプールの裏側を少しご紹介します。リバプールは、その他のイングランド北部の街と同様に産業の衰退に並行して街の衰退に苦しんでいます。街の衰退は、人口の流出、犯罪の増加などの悪循環を引き起こします。もう10数年前になりますが、全英を震撼させた少年による幼児殺害事件もリバプールで起こりました。
 これは、リバプール郊外の典型的な労働者階級の住宅地を裏道から撮ったところです。一番右手前の塀が黒いところに、友人の相澤氏の下宿があります。その隣の隣など、よく見るとガラスが割られていたり、窓があったところに板がはめ込まれているのが見られます。空き家ができると、すぐに石で窓を割られたりするのです。
 こちらは、小さな道路をはさんで隣ですが、つい最近放火されたそうです。煉瓦造りの家なので、外見は何ともありませんが、中は真っ黒です。雨が降ると、家の中で雨の滴がぽたぽた落ちる音がしていて、何とも不気味です。こういった空き家に、若者が勝手に入り込み、火遊びをするそうです。イギリスでは、家に限らず、盗まれた車もよく燃やされます。放火とガラスを割るという行為が典型的な破壊活動のようです。イギリスでは、こういった若者の破壊活動をヴァンダリズムと呼んでいるそうです。こんな荒れた街を何とかしようと、活動がなされるのが、グランドワークです。
 リバプールに限らず、北イングランドのほとんどの産業都市では、治安の悪化と古い街並みの再開発が、大きな問題です。私たち日本人にはほとんど目に触れることのないイギリスの一面ですが、現実のイギリスが抱えている最も大きな問題の一つです。そんなイギリスの実際をかいま見ることができる映画があります。「フルモンティ」という映画なのですが、マンチェスターの隣にあるシェフィールドの失業者たちの悪戦苦闘を描いた映画です。といっても、暗い話では全然無くて、ミュージカルにもなって大ヒット(特に女性に?)している話で、大いに笑えると思います。フルモンティという辞書にも載っていないような言葉の意味も、見ればよくわかります。是非、ご覧ください。