研究プロジェクトT
研究プロジェクトB(1) (古石 篤子)
「バイリンガリズムと言語教育政策 V−4」

    2006年度春学期

目的・内容

     バイリンガリズムとは2つ(以上)の言語の共存する社会空間、あるいは2つ(以上)の言語能力をもった個人のあり方のことをさします。21世紀に入り、そのどちらもがますます身近な存在として迫ってきています。もしかしたらあなた自身が「バイリンギャル」かもしれませんし、近所に南米からの移住者がおおぜい住んでいるかもしれません。朝鮮語やスペイン語などの外国語を習っているあなただって、ある意味ではバイリンガルといえます。実際のところ、モノリンガル社会や個人はこれまでの世界の中でも少数派でしたし、またこれからもますますその割合が減っていくにちがいありません。

      ところが未来社会の設計では、言語や教育についての分野はつねに政治・経済分野の後回しにされてきました。あたかも時がたてば自然に問題は解決するとでもいうように。けれども個人のアイデンティティや文化、つまり価値観に密着した言語の問題の解決は、それほどなまやさしいものではありません。きちんとした理念と教育政策があってはじめてことばの壁は乗り越えることができます。

      この研究プロジェクトでは、人はどうやってバイリンガルになるのか、あるいはならないのか、ということを考えつつ、現在までの言語政策のありかたを批判的に検討することを通じて、多言語・多文化社会でのあるべき言語教育政策モデル・文化教育政策モデルといったものを提案することを目標にします。

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       この研究プロジェクトで扱うテーマには主に次のようなものがあります。

    <第二言語習得理論の観点から>
    ・母語獲得/第二言語習得   ・言語学習と年齢   
    ・第二言語/外国語とは    ・バイリンガルとは 
    ・言語と思考、言語と文化
    ・ろう者と手話  
    <言語教育の観点から>
    ・バイリンガル教育とは ・様々なバイリンガル教育の形態、その意味  
    ・外国語教育: 方法論の変遷、早期外国語教育の是非、等  
    ・マイノリティの言語と教育:「地域」言語、移住者の言語、帰国子女、等
    <言語政策の観点から>
    ・バイリンガル社会とは  
    ・世界の多言語社会と教育政策:欧州諸国、EU、北米、アフリカ、アジア、等  
    ・国民国家と言語政策(標準語と方言、「地域」言語)、植民地と言語政策

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      この研究プロジェクトは1〜4でセットになっています。1〜4のどれから履修してもかまいませんが、理想的にはすべてを取ると問題の全容が見えてくることと思います。2006年度春学期は「バイリンガリズムと言語教育政策」の第Vサイクルの4を行います。(2005年秋学期は教員がサバティカルでしたので、V−3とV−4の間が1学期空いてしまいました。ごめんなさい!)

      1.ことばと思考、ことばと認知、ことばと文化(2004年春学期)   
      2.第一言語獲得、第二言語習得とバイリンガル教育(2004年秋学期)  
      3.第一言語教育、第二言語教育、外国語教育(2005年度春学期)
      4.多文化主義・多言語主義と教育(2006年春学期)   

      日本の未来を担ってゆく皆さんにより多く参加していただいて、文化・言語の異なる人々とどのように共存してゆくかということを考えていけたら幸いです。
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    <2005年春学期のテーマ>
      日本をはじめ様々な国で行われている母語教育と異言語教育(第一言語教育、第二言語教育、外国語教育)について批判的に検討しました。

    <2006年春学期のテーマ>
      異なる言語や文化の人々との共生の原理である多文化主義・多言語主義について学び、それらを実現するための教育(言語教育も含む)はどのようなものであるべきかを検討します。リサーチは個人あるいはグループ単位で行います。

授業形式・形態

    ディスカッション・演習

授業スケジュール

      全体は以下のように設計したいと思います。最初のオリエンテーションのあと、先   全体は以下のように設計したいと思います。最初のオリエンテーションのあと、1〜3の概説を経て本論に入ります。文献の輪読・討論と平行して、各自興味のある国とテーマを選択してリサーチを行います。全体テーマ「多文化主義と多言語主義」のもと、日本を含めた様々な国の教育機関で行われている国際理解教育や多文化教育、あるいは外国語教育等々が実際にどのような考え方のものでどのように行われているのかを批判的に検討していきたいと思います。
      タームペーパーではリサーチの内容をまとめるか、あるいは独自のテーマもよしとします。皆の予定が合えば恒例の江ノ島での夏合宿も行いたいと思います。

      第1回 オリエンテーション 
        全体テーマの解説、共通の問題意識の確認。文献リスト配布・説明。
      第2回〜11回  輪読 + 討論 + リサーチ中間発表
        (この間に1回、ゲストをお招きしてお話を聞く会を催します。)
      第12回  タームペーパーひとくち発表
      第13,14回 プレゼンテーション

評価方法

     授業での読書報告(ミニレポート)、リサーチに関してのプレゼンテーション、そして学期末のペーパーによって行います。もちろん研究会全体への積極的な参加も大きく評価の対象となります。

履修条件

    テーマに強い関心をもっていること。また、日本語以外に自由に使える言語があればより望ましい。

受入予定人数

    15名

最低受入人数を超えた場合の選考方法

      履修希望者は必ず1月31日までに、メールで担当教員までその旨通知してください。15名を越えた場合には、各自がどのようなことに興味や問題意識を持っているか、春学期に研究会活動を通じてどのようなことを期待しているのかについて、1000語程度の志望理由書を提出していただきます。また場合によっては面接も行います。選考結果は2月末までにメールで連絡します。

参考文献

     詳しい文献リストは第1回目に配布しますが、春休みの間に次の本などに目を通してはいかがでしょうか。
      江原武一(編著)(2000):『多文化教育の国際比較−エスニシティへの教育の対応』玉川大学出版部.
      関根政美(2000):『多文化主義社会の到来』朝日新聞社.
      初瀬龍平(編著)(1996):『エスニシティと多文化主義』同文舘.
      三浦信孝(編著)(1997):『多言語主義とは何か』藤原書店.

研究室ホームページ

関連プロジェクト

    平高研究会、太田研究会、今井研究会

来期の研究プロジェクトのテーマ予定

    バイリンガリズムと言語教育政策W−1(また最初に戻って、言語と認知、文化の関係について模索してみたいと思います。)

その他・留意事項

    この研究プロジェクトは火曜日第4時限に行います。(以前は火曜日5時限でしたが、今学期から試験的に4時限に移行してみたいと思います。)