第三者機関を作る目的は上で述べたとおりだが、ではなぜ第三者機関という形 を取るべきなのであろうか。
その理由は、国民の救済機関であるからには、強い権限を持ち、どこからも 圧力を加えられない独立した立場であることが望まれるからだ。先に述べたよ うに、原子力発電に関わる政府、電力会社、電力中央研究所の間には癒着関係 が存在し、国民の声を反映させにくい状態ができあがっている。その状態を打 破し、国民が原子力政策に参加できるようにするためにも、強い権限が必要と なる。政府がその意見を無視したりできないほどの存在感を持たねばならない。 また、強い権限を持つからには、その機関が政府と癒着してしまうことを絶対 に防がなければならない。強い権限を持つ機関と政府が、今までのような癒着 関係を作ってしまうと、国民の意見が反映されないどころか、政府は一層、国 民無視の独りよがりな情報の公開のみを行うようになるだろう。そうなれば、 原子力政策の全てが、国民の目の届かないところで行われてしまう危険が生じ る。今までよりも悪い状態になってしまうこともあり得る。したがって、その機関 は完全に独立して、中立的な立場をとらねばならない。
そういった条件を満たすためには、第三者機関という形を取って、そこに救 済機関としての役割を持たせるのが一番良いという結論に達したが、第三者機 関という案のほかにも、いくつかの意見がでた。
例えば、原子力安全委員会という、原子力の安全確保のための規制にかかるも のに関することを企画、審議、決定する委員会がある。この委員会は、原発推 進派であり原子力政策の事実上の最高意志決定機関である、原子力委員会から 独立してできたものだ。委員は5人で、国会の衆参両議院の承認を得て、内閣 総理大臣が任命する。一応、委員は、中立的な立場を取っているとされている が、原子力資料情報室に行って聞いた話によると、原子力安全委員になるのは 原子力発電の推進に興味のある学者などで、規制する人と、推進する人が同じ という状態になっているらしい。また、現行法上も、推進派である原子力委員 会から独立していない。さらに、十分な調査能力も持たず、情報公開に関して は、基準を定めるというような権限は持っていない。つまり、現状では国民の 期待に答えるというような機関では、全くない。当初、この原子力安全委員会 を改善して、救済機関としての役割を負わせようかという意見があった。しか し、これを改善して救済機関とするためには、この委員会のほとんどを改めな ければならない。ちょっと考えただけでも、まず原子力委員会から完全に独立 させ、もしくは、委員会を政府外の組織として、委員会の性質を真に中立的な ものにする必要がある。また、情報公開に関する権限を与え、国民の不満に対 応するという姿勢を作らなければならない。さらに、大きな問題として、こう いった作業を誰がやるのかということがある。政府が自分の首を絞めるような ことを、わざわざやるはずがない。しかし、この原子力安全委員会のおおもと である原子力委員会は総理府の下にある内閣総理大臣の諮問機関であり、委員 には、科学技術庁の長官も含まれている。つまり、立場的に政府よりである事 は間違いない。これでは、国民の救済機関としての役割を与えたくても、難し いのではないだろうか。そう結論づけた我々は、原子力安全委員会を改善して 救済機関とすることをあきらめざるをえなかった。
また、司法による救済という事も考えられた。事実、現在でも自治体の情報公 開制度のもとで、非公開または一部非公開になった情報の公開を求める裁判が 起こされている。しかし、裁判所が一度に裁ける件数には限界があり、時間も お金もかかってしまう。それでは、国民が気軽に自分たちの意見を政策に反映 する事ができない。したがって、裁判を唯一の救済処置とするよりは、よっぽ ど状況がこじれた時には司法の判断に委ねる、というような位置づけにしてお いた方が良いのではないかと考え、司法による救済を全面に押し出すことはあ えてしなかった。
このように、国民の意見を原子力政策により反映させるようにするためには、 癒着関係を持たない独立した立場で、強い権限を持ち、さらに国民の身近な機 関として存在する第三者機関を設けることが必要であり、情報公開法のよりよ い運用にも役立つと考える。なお、第三者機関のさらに具体的な内容は後の項 で説明することにする。