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提言 (完全版)

我々はここで原発に関する第三者機関を作ることを提案する。この第三者機関 の目的は、国民の原発に関する情報公開への不満や苦情に対応し、国民が原発 行政に参加できるように国民の声を汲み取ることにある。

そして、やや議論の先取りとなってしまうが、具体的な働きとは、国民からの 要求に応じて、国民の安全に関わる情報の全面公開を政府に勧告し、情報が公 開されない場合にも国民の不安が少しでも解消されるように、政府から何らか のリスポンスがえられるようにすることだ。

それでは、順を追ってこの機関の働きをみていこう。
まずはじめに、
(1)第三者機関は国民の苦情を受けて、非公開にされたその件に関するすべての情報を知る。
次に、
(2)その情報が、国民の安全に関わるものかを審査する。

(2.a)その情報が国民の安全に関わると判断した場合、第三者機関は その情報の公開を政府に勧告する。

これを受けて、政府が情報の公開を決定をすれば、国民は情報を知ることがで きる。逆に、政府は企業秘密や核防護の観点から、情報の非公開を決定するこ ともできる。つまり、情報を公開するかするか否かの最終判断は、政府にゆだ ねられている。しかし、政府が情報を非公開することに決定した場合には、情 報公開の代わりとして、その非公開の決定に関する「明確な理由」を国民に対 して提示しなければならない。第三者機関の勧告を退けるに十分「明確」「合 理的」な理由がなければ、国民の疑問・不安は一向に解消されない。これでは、 これまでと何ら変わりがなく、第一、第三者機関が勧告をしている意味が失わ れてしまう。

(2.b)一方、非公開にされた情報が国民の安全に関わらないと判断した場合 には、第三者機関は、その情報が国民の安全に関わらないという旨、およ び政府に勧告しなかった理由を明確、かつ合理的に、国民に発表する。

このような過程を経ることで、第三者機関が国民の苦情をきちんと受けている のか、また、政府が第三者機関に適切に対応しているのか、ということが国民 に対して明確にされる。我々の提案する第三者機関の機能の中で、この働きは 非常に重要だ。情報公開という政策の決定権を握る政府と、その政策における チェック機関である第三者機関との間のやり取りを公開することにより、情報 公開の内情というものが透明化され、ついには国民の不安、不信感の払拭に繋 がる。このような第三者機関こそ、国民の声を反映するものだといえる。

それでは、第三者機関はすべての情報を知っているにもかかわらず、なぜ自ら 情報公開を行わずに政府にその権限を委譲するのかという疑問が残るかもしれ ない。

その主たる理由は、第三者機関の構成員が選良ではないということに起因する。 選良、それは即ち、国民に選ばれたということを指す。国民から選出されたと いうのは国民の代表として権限を委譲されたという事に等しい。政府は国会議 員という選良から成り立っており、それなりの権限を持って然るべきだ。なぜ なら、国民達が、政府に対し批判的、否定的判断を下したならば、国民は選挙 によりその責任を問えるからだ。このような、選良から構成される政府に対し 、第三者機関のメンバーは、後に詳記するように選良ではない。選良でもない 者が、情報公開という国の一政策に於いて決定権を握って良いわけがない。こ の問題は、民主主義においての道義的問題に根ざしているのだ。ましてや、原 発の情報公開というのは、原発そのものの安全性のいかんや、核ジャック、核 防護という、非常にセンシティブな問題に関わっており、極めて高度で難解な判 断となるであろうことは、容易に想像できる。政府でさえ、この判断を下すの は、荷が重いことであろう。

上述のような理由から我々は、情報公開を行なうかどうかの高度な判断は政府 が下すものとし、第三者機関の役割は、非公開にされた情報が国民の安全に関 わるか否かの審査と、政府への勧告の二点のみとした。その方が、現実 性、社会的安定性からの観点から望ましいといえる。

他の観点からも、第三者機関と、政府の役割を分けるメリットは存在する。そ れは、情報の審査・勧告と、実際の情報公開の権限を分けることで、第三者機 関が構成メンバーによって働きを左右されることなく、安定的な活動を行なう ことが可能になるということだ。

もし、第三者機関が原発情報を公開する権限そのもののまで持つとした場合、 それは原発の情報公開という極めて難しい問題が、第三者機関を構成するメン バーの判断に委ねられる比率が高くなるということを意味する。しかしながら これは、望ましい状態だとはいえない。極端な話しでいえば、もし仮に盲目的 に情報公開を推進するような人物が第三者機関のメンバーに選ばれたとすれば、 情報が非公開であったが故に保たれてきた社会的安定さえも崩されかねないと いう危険性をはらんでいるのだ。

したがって、第三者機関はその働きを国民の安全に関わる情報であるかの審査・ 政府への勧告にとどめることによって、むしろそのような役割だけに集中する ことができるようになるのだ。権限を身軽なものにしたぶん、第三者機関は国 民の安全に関わるかどうかの判断に焦点を絞った活動をマシーンのように機械 的にこなすことが期待され、またそれが可能となるのだ。

さて、これまでは第三者機関の働きについて論じてきたが、それではこのよう なことを行なっていくためには、第三者機関は具体的にどのようなものであれ ばよいのであろうか。

まず、一つめは、構成員の問題となる。第三者機関の構成員は、原発に関わる 情報の判断を下すという職務上、専門知識を備えた人物であることが求められ る。原発の情報というのは、前述にもあるように我々のような一般の特別な知 識を持っていない人間では到底判断できない。従って、このことは絶対条件で ある。知識を持っている人間であれば、つまり情報の判断がつく人間であれば 例え、原発推進派であろうが原発反対派であろうが構わない。というのも、この 機関においては判断の基準が明確にされており、機関に属すものは「国民の安 全に関わるか否か」という基準に従い判断を下さなければならないため、己の 私情を挟めない。従って、構成員には公務員的、裁判官的な判断が要求される と言って良い。また、この機関の構成メンバーの人選に当たっては、最も公平な手段 を選び、司法がその人選に当たることとした。

二つめは、第三者機関の構成員は守秘義務を負う。構成員は、国家や企業の秘 密を持つことになるので、情報が外部へと洩れないようにするため、この義務 は非常に重要だ。基本的に構成員は現状で非公開となっている情報を手に入れ ることができるため、万が一にも、秘密裏に情報を漏らすようなことがあるこ とを考え、その行為について罰則規定を設けることも必要であろう。

最後に、この機関の活動範囲について。非公開にされたある情報が国民の安全 に関わる情報かどうか判断すること、このことに第三者機関の活動範囲を限定 することが重要となる。範囲の基準をもうけることで、逆に情報公開が行き過 ぎて、国民の安全確保に直接関係のない企業秘密までも公開されるのを抑える ことになるからだ。また、機能をこの一点に絞ることにより、作業においての 照準を単一にし、この機関をより公正で、正常な作業をこなすマシーンのよう にすることができる。またそのことにより、他の権力からの恣意性から身を守 り、形骸化を防ぐことにもなる。

以上が、3カ月に及ぶ我々の調査と思考と議論によって、最も望ましいと結論 された第三者機関の働きと、その構成内容だ。現状の国民不在の原発行政が一 刻も早く改善されることを願って、我々は以上のような第三者機関を創設、設 置することを提言する。


Atsushi Kusano
Thu May 8 15:35:48 JST 1997