拡散するハビトゥス
with Fumika Sato
 
1. おんなじノリから、にげる
2. ノリとしてのハビトゥス、その生成する/される拡散プロセス
3. メディアの変化とハビトゥスの生成プロセス
1.おんなじノリから、にげる

葉美ちゃんは都内の私立女子高に通う17歳。パパはちょっと大きめのフツーの会社の課長で、ゴルフが趣味。ママはスポーツジムに通うフツーの主婦で、しょっちゅう外出ぎみ。みんな自分の趣味を楽しみながら、明るくふるまうのが上手な家族なのだ。葉美の趣味はカラオケとお昼寝。高校は友達に会いに行くところで、放課後は塾で友達になった男の子と遊ぶのが大好き。別にそんなにおもしろい日常ではないけれど、特につまらないわけでもない。まあフツーなのだ。

ある日、父親が近くのパソコンショップでMacintoshを買って、これからは自宅でも仕事だと、帰ってきた。しかし、その後1週間で、使わなくなった。そんなとき、葉美が、「インターネットがオシャレ!」という記事を雑誌でみつけて、ちょっとパソコンにふれてみた。なぜだか、わくわくした。そしてそれから、学校から帰ると、インターネットで遊ぶようになっていった。

ある夜、彼女はちょっと「いい感じ」のページを見つけた。モノクロで撮った海の写真が数枚載っているだけだけど、シンプルでとてもかっこよかった。プロフィール紹介のところに同じ17歳という年齢と「メイル待ってます」のメッセージををみつけた。葉美は初めてメイルを送ってみた。彼女は沖縄の子だった。

このことがあってから、葉美はいろいろなホームページを探し回りはじめた。メイル友達もどんどん増えた。同じ年の子だけじゃなくて、企業のおじさんや中学生の男の子、美容師をしているおねえさん、いろんな人と友達になれて、とてもうれしかった。

「ねえ、なんか葉美最近つきあいわるくなーい」。ある日、学校帰りに友達にいきなり言われた。「そんなことないよ」「じゃ、今日ケンタ行く?」「うーん・・・」。別に何をするわけでもないんだもんな。てきとーな話、てきとーな会話、それで時間がどんどんすぎちゃっう。なんか・・もったいない。おんなじよーな家で育って、おんなじよーな学校にいて、おんなじよーな靴下はいて、おんなじよーなおしゃれをして・・・なんか、そうじゃなくて、もっと違う、いろんな人といろんな話がしたい。もう同じノリは飽きた。「ごめん、今日はパス」。家に帰ったら、つくりかけのホームページをまた考えよう、と葉美は思った。