建築や都市における(オランダ)構造主義
一般に構造主義といえばクロード・レヴィ・ストロースによって有名になった概念であり、その後にギー・ドゥボールに流れてゆくような現代思想のイデオロギーとして捉えられることもある。
先のエントリーで丹下健三氏が構造主義ということばを使っているが、イデオロギーではなく方法論としての構造主義であると言っていいだろう。
● Wikipediaより転載
構造主義(こうぞうしゅぎ)とは、あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解し、場合によっては制御するための方法論である(構造主義という名称から、イデオロギーの一種と誤解されがちであるが、あくまで方法論である)。数学、言語学、精神分析学、文芸批評、生物学、文化人類学などの分野で構造主義が応用されている。
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建築で構造主義といえば、アルド・ファン・アイクらによるオランダ構造主義がある。アイクはチームXのメンバーであり、建築や都市を要求される機能に従って機械的に構成した(コルビュジェらによる)CIAMを乗り越え、変化や成長のプロセスを許容しうるダイナミックな構造を模索しようとした。
スミッソン夫妻は、木の幹(変わらないもの:空中街路網)と枝葉(変わるもの:建築群)の関係に例えられる複合的な骨格を提案し、既存市街地の上部・空中街路網(歩行者用歩廊)を重ねてアクセスを多層化することで建築群の活性化を図ろうとした。
アルド・ファン・エイクは、プエブロ・インディアンの集落などを範例に基本と成る構成単位を設定し、それを積み重ねることで複合的かつ秩序だった全体性をつくり出そうとした。
以下、矢代真己, 浜崎良実, 田所辰之助 マトリクスで読む20世紀の空間デザイン 彰国社 を抜粋。
・機能主義という一元的な論理からこぼれ落ちてしまった、あいまいで多義的な空間の性格の回復を図る作業が、さまざまに模索される
・そのひとつが、文化人類学の成果を取入れた「構造主義」
・アルド・ファン・エイクが提唱し、ヘルツベルハーやブロムによりオランダを中心に展開される
・「部分から全体へ」という微視的な視点が重要視される
・場所(部分)に応じた機能の相互的な関係を、造形・構造体・利用形態・スケールなどさまざまなレベルから複合的に関係づける
・「閾」「両義的空間」:あいまいに重ねあわせていくこと
・「カスバ」:非均質的な空間、非合理に見えながらも有機的で組織的
・「迷宮的透明性」:こうした環境のあり方を言い換えた言葉
・ユーザが設計者の思惑を超えてさまざまに使いこなしていく手がかり=解釈の多様性を与えようとした
・コンピテンス(内発的学習意欲)を誘発する仕組み=ユーザが環境と相互作用する能力を発動させる仕掛けづくり(文化人類学の発見した「感性的表現による世界の組織化と活用」に基づく「具体の科学」を誘う環境を導く)
こうした動向に呼応するようにメタボリズムが生命の新陳代謝をメタファーとした建築や都市のデザインを提案した。ベルナルド・チュミはポスト構造主義の作家であるとも言われ、調和や全体性を拒否した脱構築の建築家であるが、シチュアシオニストに影響を受けている。その弟子でもあるレム・コールハースはシークエンスとしてのシナリオを重ね合わせる方法論を用いており、オランダ構造主義の影響は少なくないだろう。
ファン・アイクは、技術の優位を承認する発展主義的ではなく、フィールドワークをつうじた人間の初源的要求から出発しようとする立場だったようだ。シチュアシオニストである彫刻家のコンスタントの活動が大きな示唆を与えたとも(http://www.isolationunit.info/squatter/item/05/index.html)。
その思想を引き継いだヘルツベルハーは、オフィスの設計でも著名であり、その著書は今もって輝きを失っていない。
思想としての構造主義と建築・都市における構造主義の関連については、
五十嵐太郎,一九六八年 - パリの五月革命をめぐる思想と建築,pp.149-185, 都市・建築の現在,東京大学出版(2006)
が詳しい。