ディベートを学ぶ際に重要な第一段階は、スピーチを担当するディベーターの義務と責任をよく理解してゆくことである。それは、ディベートの試合とルールの青写真(原図)である。立論のスピーチが行われている間に、いくつかの主張が示され、発展し、批評される。このあとに、半分の時間の反駁スピーチが続く。これらのスピーチの目的は、主張を展開し、肯定側・否定側の立場を手短に述べることである。
ディベートは肯定側第一立論から始まる。肯定側のディベーターは改革の支持を訴え、それに続いて、否定側第一立論は肯定側が示した主張(論旨)に反駁する。肯定側第二立論は肯定側の立論を再構築する(より発展させる)ことを試みる。否定側第二立論は肯定側のプラン(肯定側が示した解決法)に異議を持ちかける。
ディベーターの立場は、反駁でいくぶん変わってくる。反駁は、否定側第一反駁で始まり、肯定側第二立論が終わった時点でスピーチの順序が入れ替わる。否定側第一反駁は、肯定側が第二立論で再構築した返答に対して反論する。肯定側で最初の反駁を担当する人は、否定側の全ての主張(否定側が第二立論で主張した論点と反駁で拡張された論点)に応えなければならず、時間にして否定側のスピーチ時間とほぼ同じである。この肯定側第一反駁は、ディベートの試合全体を通じて、最も難しいスピーチであると多くの人は見ている。
(訳者注:
=肯定側が論題の語句をきちんと支持しているかどうかということ。この論点(issue)を落とすと、それだけで肯定側は負けとなる。)
最後の2つの反駁スピーチに最終的な立場が集約されている。否定側第二反駁では、展開された反論はいくつかの重要なものに限られなければならない。なぜなら、全てを主張し、展開する時間はないから、選択が必要なのだ。肯定側第二反駁でスピーチを担当する人は、否定側第二反駁で展開された反論に応え、肯定側の立論を再構築する義務を持つ。
- Questions for discussion-
-First Affirmative Constructive Speech-
には、全てが含まれるのが普通である。哲学、プラン、メリットが含まれるわけだ。このように、肯定側が示す変革の理由が全てディベートの最初にセット・アップされる。これによって、議論がより発展し、問題点の明確な定義がなされ、肯定側・否定側双方に議論を分析し、展開する機会が与えられる。
上のの順序は、議論される肯定側立論の型によって決まる。(損失回避ケース-need case-ではの順序であろうし、比較利点議論-comparative advantage case-ではの順序になるだろう。第7章参照。)
-Questions for discussion-
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-First Negative Constructive Speech-
では、肯定側第一立論に直に反応する。この時点で、肯定側の用語の定義、問題領域の選択に賛成するか否か、否定側は決めなければならない。つまり、肯定側の立論のどこに反論する立場をとるのか、を決めなければならない重要な局面なのである。
否定側第一立論で上にあげた7つの段階全てを踏む必要はないが、否定側の戦略が肯定側の用語の定義と論題充当性を攻撃することにあるなら、それらは、第一立論で行うべきである。
否定側の主張を構成し、それを分かりやすくすることは、重要なことである。もしも議論が肯定側と識別し難いものである場合は、後々ディベートに負けてしまうだろう。自分達の主張の構成を分かりやすくするためには、番号付けをしたり、アルファベットを使うのがよい。
-Questions for discussion-
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-Second Affirmative Constructive Speech-
には、3つの主要な目的がある。:(1) ディベートでの肯定側の立場を立て直すこと。 (2) 否定側第一立論で述べられた主な主張に反駁すること。 (3) 肯定側の議論を展開し、まだ残っている肯定側の立論資料をすべて示すこと。
第二立論でスピーチを担当するディベーターは、否定側第一立論で否定側が持ち出したすべての議論に反駁する準備をしておくべきである。可能な場合は、否定側の議論を肯定側の立論の枠組みの中に取り入れてスピーチするべきである。また、肯定側が示すメリットを加えることもあろう。しかし、これは肯定側の立論を守ることを犠牲にしてまで行うべきことではない。
肯定側第二立論を担当するディベーターが、もしも新たなメリットを紹介するとしたら、それは前置きのすぐあとか、あるいは、否定側の攻撃のすべてに答えてから最終的に要約をする前に紹介するのがよいであろう。第二立論でメリットを付け加えることは有効ではあるが、否定側が挙げた論点に充分に答えることを犠牲にしてまで行うことでは、決してない。充分に応えることが出来なかったために内因性を失ってしまうようでは、付け加えたメリットで試合に勝つことにほとんど価値がなくなってしまう。
-Questions for discussion-
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-Second Negative Constructive Speech-
伝統的に、
では肯定側のプランを扱う。立論(変革の正当化)についての新しい議論の展開が必要なときもあろう。しかしこれは、非常に稀なときのみに行われるべきだ。否定側第二立論の主要な目的は次の3つの問題を扱うことである:(1) プランの実行可能性、(2) プランの問題解決性、(3) プランのデメリット、この3つである。
議論の
あるいは
は、否定側第一反駁でスピーチを担当するディベーターの手に委ねられるべきだが、否定側第二立論は否定側にとって、まず最初の地固めであると常に心得ておかねばならない。なぜなら、すぐそのあとに否定側第一反駁が続くからだ。問題解決性と実行可能性の議論は、ある場合には、説明を加えることによって立証した方がよいであろう。しかし、このふたつの議論は大抵、ロジックの議論である。それとは反対に、デメリットの議論にはエヴィデンスが必要とされる。デメリットの議論の展開には、肯定側が害や哲学、メリットを主張するときと同じくらいに、慎重さが要求される。
-Questions for discussion-
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-First Negative Rebuttal Speech-
は、最初の反駁スピーチであり、否定側第二立論のすぐ後に行われる。否定側第二立論と第一反駁は、
であるとよく言われるが、注意深く構成すれば、肯定側立論に重要なインパクトを与えることができる。否定側第一反駁で反駁を担当するディベーターは、肯定側第二立論で示された立論に対して反駁し、それを拡張し発展させたいと思うであろう。なぜなら、このスピーチは時間にして第一立論の半分だが、これからどの議論を存続させるか入念に選択する必要がこのスピーチ担当者にあるからだ。肯定側第二立論で初めて肯定側が取り上げた議論は無視してはならない。肯定側第二立論の論点に初めて応えるには、第一反駁では遅すぎると、多くのジャッジが考えているからだ。
否定側第一反駁の結果、肯定側立論(変革の正当化)に関する否定側の立場が、今述べたばかりであるプランへの反論と関連づけられていなければならない。ここで役に立つのは、「万が一」という言葉で議論を展開することだ。例えばこうする。「必要性は存在しない。しかし、
存在したとしても、そのプランは必要性を満たさないし、そのプランを拒否してしまうようなデメリットを生んでしまうだろう。」この否定側第一反駁によって、否定側の立場が完全にまとまったものとなる。
-Questions for discussion-
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-First Affirmative Rebuttal Speech-
はディベートにおいて最も難しいスピーチの一つである。その理由は、ここで反駁を担当するディベーターは否定側の2つのスピーチ(第二立論、第一反駁)に応えなければならず、そのために押さえなければならない範囲が広くなるからである。4分か5分のスピーチ(フォーマットによる)で、連続して行われた12分から15分の否定側の議論に応えなければならない。このスピーチの難しさは、系統的にうまくまとめ、より簡潔な言葉を使うことによって、優しくすることも出来ることにある。ここで反駁を担当するディベーターは、否定側第二立論で提示された新たなエヴィデンス資料の全てに応える義務を負う。多くの場合、この議論は肯定側のプランを扱っているが、否定側第一反駁で示された最も重要な議論にも時間を残しておくことも忘れてはならない。
多くの範囲が取り上げられなければならないし、時間制限内で収まるように迅速にカバーしなければならないが、ディベートにインパクトを与えるような返答は完全になされなければならない。5分の反駁スピーチ時間では、プラン攻撃の反駁に3分、立論の建て直しに2分かけるとしばしば言われる。4分の反駁スピーチでは、2分から2分半がプランの攻撃の反駁に費やされ、残りを立論の建て直しに使うと言われる。だが結局は、与えられた時間内で如何に効率よく時間配分を行うか、自分自身で決定しなければならない。時間に注意しながら、賢明に割り振り、スピーチしながら言葉の一つ一つに考慮することを忘れてはならない。
-Questions for discussion-
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-Second Negative Rebuttal Speech-
このスピーチはディベートの試合でスピーチする最後の機会であるから、否定側は展開する議論を慎重に選ばなければならない。否定側の2人は一緒に行動して、投票の分かれ目になっている論点-voting issues-(肯定側と否定側のどちらに投票するか、その決定理由)は何なのかを判断しなければならない。否定側第二反駁が終わった時点で、ジャッジの人たちが、「この反駁で示された議論が試合を通じて最も重要な議論であった」と見てくれるよう、否定側はスピーチしたいと思うだろう。だが、時間は短いし、取り上げられるべき範囲は広い。反駁時間を5分と仮定した場合、立論に関する議論に2分、プランに関する議論に3分費やすのが、従うべき最も良い原則とされる。なぜなら、プランに関する議論はディベートでは最後の方に行われるから、その議論には、それを取り上げ展開する時間が最も長くなるからである。
忘れてはならないのは、否定側第二反駁でスピーチを担当するディベーターは、否定側の立場に関する最後の言葉を述べるということだ。否定側2人の間のコミュニケーションは不可欠である。おそらく、一方のディベーターが述べた論点よりも、もう一方のディベーターが述べた論点の方が投票の決定理由になることもあるだろう。と同時に、その逆の場合も有り得る。否定側第二反駁で反駁を担当するディベーターが立論とプランのどちらを押さえるかは、その人個人にかかっている。ディベーターの中には、個々の試合に応じて決定を下し、投票上最も重要な論点で否定側第二反駁を締めくくるディベーターもいるが、その論点は”立論”にある試合もあるし、”プラン”にある試合もある。また、最初に立論を押さえ最後にプランの攻撃を加えるディベーターもいるが、これは、否定側の守りの立場であると考えられよう。もしも、必要十分な時間があると考えられるなら、投票上最も重要な論点の指摘で終わるよりも、その論点の反駁から始めようとするだろう。それから、最後まできて何かが抜け落ちているとしても、それは投票上重要な論点に比べれば取るに足らないものである。否定側は、それらの論点の全てにおいて優ることによってその試合に勝つことが出来るのであるから、勝利の鍵は、思考、連携、系統的な構成にある。
-Questions for discussion-
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-Second Affirmative Rebuttal Speech-
最後の否定側の反駁に続いて、
が行われる。試合では、この主張が結びとなる。ほかの全ての反駁と同様、このスピーチは新しい論点(new arguments)を含んではならない。新しい論点とは、ディベートで最初に取り上げられた一連の推論と強調のことである。
肯定側第二反駁で反駁を担当するディベーターは独特の立場にある。ジャッジためにそのディベートをまとめる最後の機会を持つからだ。これまでの議論が混乱したまとまりのない議論となってしまっている場合は、それらをまとめる最後の機会である。このスピーチで反駁を担当するディベーターがやらなければならないのは、そのディベートの試合の一連の流れにおいて、自分達の主張が如何なる意味を持っていたのかを説明することである。例えば、自分達のメリットと問題解決性は、なぜ否定側が主張したデメリットよりも優っているかを論証することが挙げられよう。ディベーターは正直であるべきであって、この試合で提示されなかった論点を意図的に示したりしてはならない。
-Questions for discussion-