論題の型-Types of Propositions-



next up previous contents
Next: リサーチ技術の向上-Developing Research Skills- Up: 論題の検証-An Examination of Previous: 論題(命題)-Propositions-

論題の型-Types of Propositions-

論題には、3つの型がある。それは、

(Proposition of Fact)

(Proposition of Value)

(Proposition of Policy)の3つである。その一つ一つに、独自の支持、説明、展開、証明が要求される。

-Proposition of Fact-

は、ある存在する事柄について、それに反対するステートメントである。ある既成事実に対して、定説以外の別の解釈も可能な状況もある、と主張するのだ。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった五感から直に体験することが出来る、ある物体や出来事が事実命題の候補である。「人参はオレンジ色の栄養価の高い野菜である。」は、実際に存在する物体についての事実の記述である。この既成事実に対して違った解釈を五感から得られるとすれば、「野菜は栄養価が高い」という点からの記述が一般的であろうが、しかし、この記述の真実は科学的に決定されるが為に、まだ事実命題である。

一般的に、事実命題は論題の3つのタイプの中で最もシンプルで議論充当性を満たし難いと考えられているが、これは議論が出来ないということを意味するのではない。事実に関する論題をめぐっての見解の不一致は存在する。例を挙げれば、刑事裁判はすべて、少なくとも議論可能な事実命題の一つだ。検察側は被告人は罪を犯していると主張し、それに弁護側が異議を唱える。要するに、裁判の間は検察側の事実命題がディベートされるわけである。事実命題が価値命題と政策命題に比べてあまり議論が発展しないのは、事実命題はたいてい別の事実を参照することによって、客観的に実証することが出来るからだ。その事件に関係する事実に眼を向けることによって、法廷において、訴訟に関与しているか否かを決定することが出来る。

事実の関する記述は、現在についてと同様に、過去のことについての記述であることもある。新聞の記事も、歴史からの物語も事実命題となる資格がある。事実に関する記述は、ある事実の証言以外にも、ある人物によって主張された記述であることもある。しかし、その記述は客観的かつ実証的でなければならないから、ある事実(それが存在するか否か)の立証化では、その信憑性やその主張をした人の経験に頼りきりにならない。最低限、実証の方法の独立を必要とする。

事実命題がディベートの大会で使用されていないのに対して、アカデミックな場、例えば、社会学習や、英語、哲学、政治、市民活動、経済学の授業などにおいて、事実命題は価値がある命題である。クラブ活動やサークル活動もまた、他の2つの論題よりもより頻繁に使うと考えている。一般的に、それらの組織は、彼らの興味範囲、構成員や社会全体の関心事を選ぶであろう。事実命題は、ほかの2つの論題に比べて視野を狭める傾向がある。だから、聴衆を前にしてディベートするには、かなりうまくいく論題なのである。

事実命題に本来備わっている論点は比較的少ないが、学生は次の3点を決定する必要がある。(1) 何が起こったか、(2) その出来事を実証するためには、どんな情報が要求されるか、(3) どんな情報が使用可能か、この3点である。これらの論点を考察することによって、結果的に事実命題を正確に分析することになる。以下にいくつか示すのは、事実命題の例である。

論題:

論題:

論題:

論題:

論題:

論題:

-Questions for discussion-

  1. 事実命題と何か?
  2. 時間は事実命題とどんな関係があるか?
  3. 事実命題を取り巻く論点には、どんなものがあるか?

-Activity-

  1. 次に示す論題は、事実命題とされてきた。本当に事実命題であるのもあるが、中にはそうでないものもある。事実命題でないものを挙げ、それぞれ、事実命題に書き直しなさい。
    論題:

    論題:

    論題:

    論題:

    論題:

-Propositions of Value-

は、ある人物、場所、事柄、概念、出来事の質(qualities)についての判断を表している。価値についての記述は意見や態度に関わっている。”アメリカの子供の半分以上が、現在、片親の家庭で育っている。”と言うときは事実即した言説であるが、”片親と暮らしている子供は、そうでない子供に比べて貧しい。”と言ったときは、その家庭環境の質についてある意見を述べているわけである。つまり、価値判断を加えているわけだ。

ある与えられた状況について事実を知っているのはすばらしいことだが、それはある状況にどれだけの人々が反応するか決定する価値である。事実は、私たちの言う時期が早ければ早いほど、真と偽の両面を持つが、事実の真偽は立証することが出来る。しかし価値は真も偽もない。せいぜい、ある特定の価値を持っていることの立証化が可能なのであって、その価値を持つべきか否かを立証することは出来ない。「フットボールは退屈だ」とある人が言えば、それはその人のフットボールへの態度について言っているのであって、フットボールそのものへの発言ではない。他の人には、「フットボールは最もエキサイティングなスポーツだ」と言うこともあろう。価値の立証化は不可能であるのにもかかわらず、価値が重要なのは、私たちが価値を持つことが出来、そして、あらゆることについて·ひ·い·き·目を持つことが許されているからだ。

価値命題は判断の言明であり、ある特定の事柄それ自体よりもむしろ、その事柄の質を問題にする。判断は、事実や出来事についての意見や態度を表現するが故に、重要である。好きか嫌いか、善いか悪いか、行動に移すべきか否か、もし行動するならどんな行動をとるべきなのか、などの見解を表現するわけである。次に示すのは、価値命題の例である。:

論題:

論題:

論題:

論題:

論題:

ある問題が重要であり、実害があると判断したとき、人は価値判断をしている。あるプランが、結果的にメリットあるいはデメリットを持つ可能性があると言えば、価値判断が行われている。突き詰めて見た場合、政策の変更において行動を推奨し、採用されるべき政府の行動とそうでない行動の形式を明言することは、価値判断を行うことである。ディベートにおいて説得力のあるアピールはすべて、聴衆に支持される価値を必ず引き出している。ディベートの試合に勝つには、”価値の本質”を理解することによって、強化することが必要だ。ここで言う価値の本質とは、スピーチを行っているときに、その価値を如何にこちら側が出した論点への道しるべとなるように機能させるか、そして、聴衆が如何にこちら側の価値を使ってくれるか、ということに他ならない。

多くの重要な価値がある間は、完全に確立された価値は存在しない。相対する価値が衝突するとき、価値のプライオリティーは確立されねばならない。その価値の衝突の良い例は、自動車へのエア・バッグの義務づけをめぐる公開の論争において最近見られた。すべての自動車にエア・バッグを装着すれば、多くの人命を救うであろうという事実に疑問を抱いた人はほとんどいなかったが、政府は自動車の生産者側にエア・バッグの装着を要求しないことを決めた。なぜなら、オプションとしてのエア・バッグを買うか否かの選択は、政府よりはむしろ、市民にあると思われたからだ。この例では、選択の自由という価値が、生命という価値よりも重要だと評価されたのである。これと反対の例として、シートベルトの例がある。最近数年間で、多くの州が、フロント・シートには必ずシートベルトを装着することを義務づけし始めている。この場合、生命という価値が選択の自由という価値よりも重要であると判断されたわけだ。

多くの人が、価値命題をめぐるディベートを楽しんでいる。テレビのトーク番組を見る人は、きっと、価値命題についてのディベートを見ていると思っているだろう。「あのチームは、いいチームだ。」とか、「ロック・ビデオはモラルの退廃だ。」というような判断を個人的に反映させて見ているから、面白みを感じるのである。価値判断を正当化することは不可能であるにしても、価値命題に基づくディベートの目的は、興味を生み、観点を明確にすることにあるのであって、結論を導き出すことにあるのではない。

-Questions for discussion-

  1. 価値命題とはなにか?
  2. 価値命題の真偽を正当化することは出来るか?その理由を述べよ。
  3. 価値命題は何に関しての言明か?

-Activity-

  1. これから述べる論題は価値命題であるとされてきた。しかし、それらのすべてが価値命題の基準を充たしているわけではない。価値命題ではない論題を識別し、それを価値命題に書き直しなさい。もし、価値命題にすることが出来ないと思うのなら、その理由を説明しなさい。
    論題:

    論題:

    論題:

    論題:

    論題:

-Propositions of Policy-

は、採用されると考えられている一連の行動についての言明である。採用される場合は、現在または将来の政府、私的な機関の決定を導くよう意図されている。例えば、会社において、社の政策は雇用関係を統率する。学区では、学校の建物が外部の集団によって、いかに使われるかを統率する政策が決められるであろう。郡、州、連邦の立法担当者は政府の監督機関が執行したいと考えている政策を、議会で通す。

私たちが気に留めるにつれて、ある命題は一考に値する言明となる。政策命題は、行動あるいは決定を求めるのであるから、出来事やものを観察することによって証明される題材でもないし、その政策に従い法の力によって強制されるすべての人々の合意によって証明されるのではないという点で、事実命題や価値命題と異なる。なぜなら、政策は、その政策の影響を受ける人々の合意によって、究極的には、作られ維持されるのであり、正当なプロセスを経た変革に従うと考えられているからである。普通、政策は交渉の余地を残したものであると考えられている。大まかにいえば、政策についての言明はすべて、政策命題といえるだろう。しかしながら、ディベートにおいては、考慮するに値する政策の論題に焦点が当てられる。つまり、それは、私たちが受け入れを求めている命題であるといえよう。

政策命題には、一般的に、3つのカテゴリーが存在する。

まず第一に、政策がない場合における、決定や行動を導くための新しい政策の提案である。これは、すべての政策にとってのスタート地点である。前に出てきた”制服の規制問題”を思い出してみよう。1950年代や60年代の初めには、生徒達はかなりフォーマルな服装をしていた。60年代に、ヒッピー・ルックとして知られている長髪の青年やミニ・スカートが出現したとき、学校の管理者側は、生徒達が学校にとって適切な服装をしているか否かを恣意的に決定することが出来ず、その問題を家庭に回した。そのような混乱した状況に秩序を設けるために、管理者側と学生団体(場合によっては、父兄)が一緒に動いて制服の規則を作り上げ、生徒側に規則違反が見られたときは、学校の管理者側がその生徒を家に送り返した。これらの一連の新しい政策は、それ以前に何もなかったところに置かれたわけである。

第二に、現在存在しているが、ある理由によりもはや満足のいくものでなくなった政策を変更するための、修正案の提出である。当初の状況が大きく変わって、その政策が時代遅れになってしまうことがある。修正された政策の良い例が、州内高速道路のスピード制限の格下げである。1973年のオイル・ショックのとき、石油の国内消費を減らすために、時速70マイルから55マイルにされた。オイル・ショックが治まるにつれて、州の中にはこの政策を再び変えることを考え始めた州もある。将来は、スピード制限は再び時速70マイルに格上げされることだろう。

第三に、現状の政策の廃止の提案である。かつては、すべての高校で、ラテン語は必修であったが、いまは、いくつかの大学でのみ、この政策は維持されている。ある時点で、教育の権威者たちは、英語以外の言語の学習は必要であるとする政策を断念する決定を下したのである。また産業界ではかつて、65歳定年制を強制していたが、今では、(いくつかの例外はあるものの)求められた仕事を出来る年齢まで、労働者はその職場に留まることが出来る。強制的な政策を、退職や早期退職の推奨のプログラムに置き換えてきたわけである。

ディベートの試合の最中は、両チームとも論題に対する賛否の議論を公平なるジャッジに向けて行うわけだが、ジャッジはその論題を受け入れるのか拒否するか最終決定する責任を負っている。判断基準は、ディベートの試合の中で示された議論の善し悪しに基づいて行われる。ディベーターに期待されているのは、試合の中で結論に至ることではなく、ジャッジに対して彼らの立論を示すことである。次に示すのは、政策命題のいくつかの例である。:

論題:

論題:

論題:

論題:

論題:

論題:

論題:

これらの論題はそれぞれ、意図した問題領域内での決定を統率するために、規則(rule)、規定(regulation)、法律(law) を提出している。これらの論題は·あ·り·ふ·れ·たものだが、権力をもつ機関(”連邦政府”、”アメリカ合衆国”など)と専門分野における行動(”プログラムを実施する”、”包括的政策を確立する”など)について述べられているところに特徴があるといえよう。

-Questions for discussion-

  1. とはなにか?

  2. 政策命題は、事実命題や価値命題とどのように違うのか?
  3. 政策命題の3つのカテゴリーとは何か、述べなさい。

-Activity-

  1. 次に示す論題は、政策命題とされてきた論題である。この中で、政策命題ではない論題を識別し、政策命題に書き直しなさい。
    論題:

    論題:

    論題:

    論題:

    論題:

  2. 次に示す3つの論題を見て、その中の一つを選び、以下の質問に答えなさい。
    論題:

    論題:

    論題:

    1. 論題はディベータブルか? 理由も述べよ。
    2. 論題は、議論充当性を持っているか? 理由も述べよ。
    3. 論題は、単一領域を扱っているか? 理由も述べよ。
    4. この問題の一般的な経緯(歴史)を述べなさい。
    5. この問題に関係する法律、規定、規則は存在するか? それらは、強化する必要があるか? それらは不適切か? 充分か? それぞれ理由を述べなさい。
    6. この問題に対して、どのような解決が考えられ得るか?
    7. 肯定側が開拓すべき基本的な領域はどこか?

-The Wording of a Proposition-

分析という目的にとって、ディベートの論題で使う言葉は、それぞれきちんと定義する必要がある。1986年から87年にかけて高校で行われたディベートの論題を検証してみたいと思う。

という論題では、重要な用語を識別し、それらを定義することによって、分析を始める。この論題では、鍵となる用語は、

連邦政府
-誰が変革を扇動するべきかを確認している。
実施する
-政策の実行の方向性を確認している。
包括的な
-政策の性質を限定している。
長期的
-政策の性質を限定している。
農業
-論題が望む対象を示している。
政策
-論題が望む対象を示している。

きちんとした言葉遣いで書かれた論題は、誰が行動し、何をなすべきかが、はっきりと確認できる。ときに、言葉遣いが曖昧なこともあるが、その訂正にはいくつかの有用な情報源がある。

まず初めに、辞書、教科書、百科事典を参照することである。これらは、一般的な用法についてのヒント、つまり、特定の専門分野における用語の定義がなされているから、チェックした方がよい。特に、テーマが法律や社会政策の分野にあるときは、特有の術語が多いから大いに役立つであろう。また、これは、公的分野、政治、経済、歴史の領域でも同じである。リサーチを進めてゆくに従って、その分野の専門家が術語をどのように使っているかをメモしたいと思うようになるだろう。

たいていの論題には、価値を含む用語が含まれているものである。先の農業分野では、「包括的」という言葉が、それに当たる。他の論題で見られるものに、「公正な」「新しい」「重要な」「最も」「制御する」「排他的な」「保証する」「利益を生む」などがある。これらの用語がなぜ価値を含むのかといえば、その意味が決まっておらず、曖昧であるが故に、その解釈に従うからである。問題の解決に至る前に、聴衆が、使われる単語を自分なりに納得させてしまう。

という論題でディベートされるときは、「大幅に変革する」とはどういうことかを完全に理解しなければならない。

-Questions for discussion-

  1. 論題を分析するとき、まず初めにしなければならないことはなにか?
  2. 用語の定義を調べるときはまず辞書を調べるが、その言葉がどのように使われているかを調べるには、他にどんなところを調べれば良いか?
  3. とは何か?

-Activity-

  1. 辞書の他に、用語の定義が載っている文献を図書館で調べ、そのリストを作りなさい。
  2. 次に述べる論題を使って、論題の用語の確認と定義をしなさい。辞書だけでなく一般書も必ずチェックしなさい。
    論題:

-The Audience-

次に考えなければならないのは、ディベートにおける

である。話した内容、テーマに即して集めた情報は、話しかける聴衆によって、ある程度、影響される。見定めておかねばならないのは、目の前の聴衆がどんな論点に最も興味を持つのか、である。先に挙げた農業問題を例にとってみよう。聴衆が農家の人たちの場合は、「農家の存続問題など大きな害はない」と直に主張したくはないだろうし、「農家の”ただ乗り”の時代は終わった」とも主張したくないだろう。「価格保護制度は廃止すべきだ」と主張すれば、聴衆はそのような議論を聞きたくもないだろう。

聴衆を分析することによって、自分達の主張を支持してくれる集団を勝ち取ることができる論点を選ぶことができる。議論することができる論点をザッと見て、聴衆のことも考えて、それから何を議論し、どのように議論してゆくかを決定するべきである。

例えば、「農家の存続問題はさほど大きな害はない」という論題を保守しなければならない場合は、農家の人たちという·聴·衆をそのような結論に

ゆかなければならない。では、どうすればいいのか? まず、農家の数に対する破産した農家の数を示した統計を示す。次に、その数字を他の職種の数と比べる。第三段階として、有効な農家救済計画-国、州、郡、それぞれに-の概略を示す。最後に、破産した後、農家にどのようなことが起こるのか図示する。

農家の人たちは、そんなことを聞きたくもないと思うだろうが、このアプローチによって、農家の人たちを無関心でいられなくすることができる。アカデミックなディベートでは、聴衆を説得することを目的としているから、政策は結果的に最大多数の人々にとって最大の幸福をもたらすことを示す。よって、特定の集団にとって利益となる政策を示す必要はまったくないのだ。

ディベートの試合で必要なのは、聴衆がいかに受け入れるかである。問題領域に関する分析を加えて、情報を明快に伝達し、マナーを守る。これは不可欠だ。論点は興味を引き、かつ、慎重に選ばれたものでなければならない。ディベーターは、説得の義務を課された、最初の、最良の導唱者なのだから。

-Questions for discussion-

  1. 論点の選択と提示方法を決定するときに、なぜ、聴衆を分析することが重要なのか?

-Activity-

  1. 次に示す論題を使って、論題を頑なに支持する聴衆、反対する聴衆を、5つ挙げなさい。その理由も説明しなさい。
    論題:



Mineichiro Yamakoshi
Sat Dec 16 12:20:50 JST 1995