国内消費
トルコ話が進んでいるとき、「ネットワーク政策」という授業のゲストとして渡辺智暁さんに来てもらった。渡辺さんと知り合ったのは2000年ぐらいではないかと思う。最初は金正勲さんが始めたメーリング・リストであった。情報通信政策を議論しようということで、声がかかったのだが、その時点では渡辺さんのことも金さんのことも知らなかった。二人はインディアナ大学の大学院でともに勉強しており、彼らの先輩にあたる金サンベさん(今は韓国のソウル国立大学の教授になっている)と私が友人だったので、彼が紹介したようだ。
その後、金正勲さんは日本にやってきて研究者としての頭角を現していくが、渡辺さんはその後もインディアナ大学に拠点を置いていた。私がワシントンDCに滞在していた2002年の正月、インディアナ大学まで妻と一緒に訪ねていったことがある。それが初めての対面だった。
さらに月日が流れて2006年、渡辺さんは博士論文執筆の最終段階に入っていたが、その時ちょうど、彼のお父さんが病に倒れるという事態になった。渡辺さんは論文執筆を一時中断して東京に戻り、お母さんと交代でお父さんの看病をするという生活になった。
渡辺さんはあまり自慢して回っているわけではないのだが、ウィキペディアの日本語版を発足当時から手伝っている。その関係でクリエイティブ・コモンズなどにも詳しく、私がクリエイティブ・コモンズ・ジャパンの活動に携わっていたときは、アメリカからたくさん手伝ってくれた。そうした知恵を拝借しようと授業のゲストに読んだというわけである。授業では80分の濃密な話と、10分の質疑応答をこなしてくださった。私にとっても勉強になった話だった。
この授業の前、少し二人で雑談をしたのだが、アメリカでの研究の国内消費(domestic consumpition)の話になった。私はそれをどうやって避けるべきか悩んでいたのだが、アメリカでの研究生活の長い渡辺さんのアドバイスをもらいたかったからである。授業が終わった後、その日の夜に渡辺さんからはアドバイスのメールをもらった。基本的には今までの私のスタイルでいいのではないか、あるいはそれを発展させる形でいいのではないかというものである。これには大いに勇気づけられた。渡辺さんは私が書いたものを熱心に読んでくださり、そして、おそらくその行間をも読み取ることができるまれな読者である。
その翌々日の土曜日、先述の通り、藤沢市民講座があったのだが、その日の午前中は、三田キャンパスで韓国の延世大学および中国の復旦大学から教員と学生が集まってワークショップを開催していた。それを午前中だけ聞いたのだが、そこから大いに刺激を受けた。あるグループが、豆満江開発にはアメリカの関与が必要だと主張していたからだ。
こんなところでもアメリカは求められている。アメリカという帝国の磁力が働いているのだ。私はひらめいた。やはり世界のいろいろなところからアメリカを見てみるとおもしろい。世界の人たちがアメリカをどう考えているのかを知りたい。帝国の磁力がどうやって働いているのか、なぜそんな磁力が存在するのかを考えたいと思ったのだ。この研究を可能にするためのプロポーザルを書き、ある財団に申請してみようと思い立った。
そして、これが書ければ、アメリカの人たちもおそらく知りたいに違いない。これをテストするためのケースとして2008年米国大統領選挙はまたとない機会だ。これで私は国内消費問題をクリアできるかもしれないと思い始めた。
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