マドリード

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 スペインのマドリードは、イベリア半島の中心部に位置する。全く海へのアクセスがない。かつてスペインが無敵艦隊を誇る海洋大国だったことを考えると、この陸封された首都は不思議である。
 マドリード空港に着くと、先に着いていたNさんと合流し、タクシーに乗ってホテルへ向かった。マドリード空港から市内へはタクシーで30分ほどである。マドリードの前にいたミラノとの違いは、まず車が大きいことである。ミラノでは細い石畳の道路を走り抜け、狭い駐車スペースに収まるように小さな車が多い。しかし、マドリードでは日本で見るようなサイズの車が多く、アメリカで流行っているようなSUVも走っている。
 おもしろいのは、道路の脇の立ち並ぶアパート(マンション)群である。ワシントンDC近郊のバージニア州で見慣れたアパート群によく似ている。バージニア州には確かにヒスパニック人口が多いから、スペインの伝統をバージニアに持ち込んだのかもしれない。
 マドリードの天気は真冬だというのに快適である。コートは無くても大丈夫であろう。しかし逆に、真冬でこの暖かさということは、真夏には灼熱の暑さということになるのだろうか。シエスタが必要になるのも分かる。
 空港からのタクシーの中でFさんの機嫌が悪くなった。どうやらプロジェクトのお金で観光しようとしているNさんの態度が気に入らないらしい。Fさんは必死の思いでアポを確保しようと頑張ってきたのだが、Nさんはそれを無視して、フラメンコが見たいとか、美術館に行きたいとか、挙げ句には無理してアポを入れる必要はないと言ってしまったのだ。
 仕方ないのでフラメンコの予約は私がホテルのフロントでした。レストランがオープンするのは何と夜の8時である。そしてショーが始まるのは10時15分と遅い。ホテルからタクシーに乗り、レストランへ向かうが、ここでさらにFさんの機嫌が悪くなる。旧市街を走るうちに、観光したいと行ったのが気に障ったらしい。そして、レストランに入り、食事を始めると、なにやら携帯に連絡が入り、様子がおかしくなる。そして、メインの料理が出てきたら帰ってしまう。病気のお母さんの面倒を見てくれているおばさんの具合が悪くなったと連絡が入ったそうだ。
 フラメンコのショーでは、ギターを弾く男性が二人、歌を歌う男性が二人、そして踊る女性が四人である。計八人がステージに上がり、パフォーマンスを披露する。とてもおもしろいリズムだ。何だかまねできない。女性も男性も、いわゆるヨーロッパ系とは少し違う。紙は黒く、いわゆるジプシーと呼ばれる人たちに似ている。女性が踊りながら踏みならす音は、タップダンスの起源なのだろうか。1時間ほど見て、ショーが一区切り着いたところでホテルへ戻る。
 翌朝、さすがに食べ過ぎなので、朝食をカロリーメイトで済ませ、8時15分にロビー待ち合わせる。富士通サービシーズという会社のルイースさんだ。Fさんの機嫌は悪いままだ。しかし、ええかげんにせいと私も腹が立ってくる。社会人らしくないのはどっちもどっちである。
 一つめのアポが終わり、カフェで休憩。ここぞと思ってルイースさんにいろいろと質問をする。スペインでもアメリカ大統領選挙のニュースは大きくカバーされているらしい。文化的な影響力としてもアメリカは大きい。しかし、誰もがアメリカにあこがれているというわけでもない。街を歩いていると巨大なビルが並び、帝国の首府としての威厳が感じられる。スペインがかつて築いた帝国は中南米を中心にいまだ健在であり、帝国の首府へ人々を引きつけている。温暖(あるいは灼熱?)の気候は、強いエネルギーを生み出している。北ヨーロッパの都市と比べて、格段に街路樹が大きいのも気候が良い証拠であろう。
 もう一つ、ルイースさんに、EUは新しい帝国になるのだろうかと聞いてみる。しかし、ルイースさんの答えはネガティブだ。というのも、ヨーロッパなるものがいまだないからだという。本当にヨーロッパとして統一されているのは通貨のユーロぐらいで、他にはそれぞれの国の文化が生きている。あと50年経てば分からないが、ヨーロッパとしてのアイデンティティの確立はまだまだ先になるだろうとのこと。内部からの視点は興味深い。
 二つめのアポが終わった時点でルイースさんとはお別れ。三人でホテルに戻るが、Fさんは相変わらずの機嫌なのでもう相手にしないことにする。本人が落ち着くまでメールにも返事をしないでおこう。この性格が災いしてこの人はここまでの人生を誤ってきたのだろう。私も副査としてこの人の面倒を見るのがイヤになってきた。しばらくは事務的につき合うだけにしよう。とにもかくにもこんな人を抱えているK先生は気の毒だ。
 Nさんと二人でホテルの近所で食事。チキンを焼いたもので、たっぷりニンニク入りのソースがかかっている。ホテルに戻って着替え、Nさんと二人で地下鉄に乗り、ソフィア美術館へ。ここにはピカソのゲルニカもある。
 ピカソやダリの初期の作品も置いてあり、普通の絵も描いていたのだなあと妙に感心する。1時間後にNさんと待ち合わせするが、1時間では見切れないことに気付き、スピード・アップ。一気にピカソの展示に行くが、ここは別館になっていて、四つも展示室があることが分かり、ますますスピード・アップ。気に入ったのはPaulo as Pierro(ピエロの格好をしたパウロ)だ。かわいい。ピカソらしくない。
 最大の見せ物はピカソのゲルニカ。大きな絵だ。反戦思想が込められているという。別のところに展示されていた。作成途中の写真やデッサンも興味深い。芸術家は突然として政治活動に飛び込むことがあるが、ピカソを動かしたのはどんな気持ちだったのだろうか。
 ソフィア美術館を出て、近くのプラド美術館まで歩く。ここに何があるのかよく分からないまま歩いたのだが、着いてみると長蛇の列になっている。とても待っていられるような長さではない。あきらめて、地下鉄に乗り、二つめの駅で降りて旧市街へ。良い雰囲気の町並みになっている。少し歩いて、早めに夕食をとろうということになり、オープンカフェに座るが、全然注文を取りに来ない。これも一種の人種差別なのかなあと感じる。
 ばかばかしいので別の居酒屋風のところに飛び込む。ここは英語のメニューがない。スペインのビールをくれと頼み、料理も肉と魚を一品ずつと頼んでみる。出てきたのはポテトの上にタコを乗せてオーブンで焼いたものと、豚肉の煮込みのようなもの。実においしい。Nさんと二人で政策をどう実現するかなどを議論する。私も酒は控えていたが、ここは飲んだほうが気分が盛り上がると思い、ビールの次には赤ワインを二人で飲み続ける。
 一番の成果は、スタンフォード日本センターの研究部門を私が受け継いでも良いという話だった。スタンフォード側で担当してくれる教員を見つけ、その人に支払うお金と、日本側で事務を担当する人の経費を確保できれば良いそうだ。MITも良いけど、スタンフォードとのコネクションは効くよと教えてもらって、かなりその気になってきた。
 8時にはホテルに戻り、シャワーを浴びて、10時には眠ってしまう。明日のフライトは昼過ぎなので余裕がある。
 翌朝、6時前に目が覚めた。8時間も眠れば当然か。これから一人旅だ。メトロで空港に行こうと考えていたが、2回も乗り換えしなくてはならないし、ユーロも余っていたので(ネット代を現金で払おうと思っていたが、カードでしか払えなかったのだ)。タクシーで行くことにする。
 9時にチェックアウトして、タクシーを簡単に捕まえて空港へ。22.5ユーロだ。USエアウェイズでチェックインしようとするが、係委員に捕まり、ここでいきなり仮の入国審査が始まった。パスポートのビザを確認すると、書類を出せといわれ、その後はコンピュータで登録し、質問攻めである。スペイン語なまりの質問がよく聞き取れない。ホテルの領収書を出せとか、名刺を見せろとか、かなりしつこい。できればビザなしで入国したいと思っていたが、それは無理のようだ。そういわれれば、出国時点で情報を取得し、アメリカに送るという話があった。その一環なのだろう。年末に成田からアメリカに行ったときは実にイージーだったが、こういう変なところから日本人の私がビザを持って入国しようとするのはおかしいのだろう。
 ようやくチェックインが終わり、セキュリティを通り抜ける。このとき係員のおばさんが、グッドバイと言ってくれた。気持ちがよい。
 ラウンジに入ろうとするが、結局できなかった。チェックインの時にも聞いたのだが、USエアウェイズは自分のラウンジを持っておらず、spanairのラウンジに行けといわれた。ところが、行ってみると、別のラウンジに行けという。そっちに行ってみると、USエアウェイズのインビテーションがないと入れないという。まったく弱い航空会社はこれだから困る。またパスポート・コントロールをくぐって交渉するのはばからしいのであきらめる。
 カフェテリアで飲みのを買い、テーブルでこの日記をまとめて書く。まあ、ラウンジじゃなくても良いか。ここまで書き終わったところで搭乗まで1時間。バッテリーは40分しかない。無線LANもつながらないことだし、ゆっくりガイドブックでも読もう。

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このページは、taiyoが2008年2月10日 11:45に書いたブログ記事です。

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