エサが良ければどんな魚でも食いつく
ワシントンから戻って数日で、またアーカンソー州のリトルロックへ。前回カバーできなかった分の資料を探す。旅に出るといろいろな刺激を受けるし、考える時間が取れるのが良い。空港での待ち時間や機内での時間は無駄と言えば無駄だが、なかなか手が付けられない仕事や本に手を出すにはとても良い機会だ。それしか時間をつぶす方法がないようにしておくと、意外に効率的に進む。
今回はジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』(上下)を持参。往路で上巻を読み終える。『銃・病原菌・鉄』のほうがおもしろかったが、この本もおもしろい。グローバリゼーションの負の側面は無視できないとしても、交易がなかったとしたらわれわれの生活はもっと貧しく、悲惨なものであっただろう。そして、環境変化というのも実にくせものだ。石油以前から人類は環境破壊を繰り返し、文明を崩壊させて来ている。ついでに、モンタナに是非とも行きたくなった。モンタナで何か仕事はないものか。
クリントン・ライブラリーで何とか欲しい資料のコピーをとり終えた。前回もそうだったけど、他に誰も閲覧者がいないので、アーキビストとマンツーマンになってしまう。閲覧室は教室のようになっていて、教壇に当たる位置にアーキビストが座り、学生の位置に閲覧者が座る。閲覧者が変なことをしないようにアーキビストが見張っているわけだ。資料を抜き取るなんてことを考える人はいないと思うが、持ち込んだ後に持ち出す白い紙はすべて点検され、スタンプが押される。コピーはとれるが、すべて青い紙にコピーされるので、オリジナルと区別される。
クリントン・ライブラリー
閲覧室
ライブラリーの近くにリバー・マーケットという場所がある。こぢんまりとした飲食店街なのだが、一応「マーケット」なので、夕方には閉まってしまう。この裏手には、リトルロックの地名発祥となった小さな岩があるはずなのだが、前回は見つからなかった。今回はと思って駐車場の管理人に聞いてようやく分かった(気がする)。たぶん、この落書きされている寂しげな石のことらしい。しかし、本当かな……。
写真手前にある小さな角張った石がリトルロック?
木曜日、早めの夕食を取り、ホテルで午後8時(中部時間)から副大統領候補討論会を見る。二人のカメラ目線が気になった。前回はオバマが最初のステートメントでカメラ目線を使い、その後は司会者に向けて話をすることが多かった。マケインはほとんどカメラ目線を使わなかったように思う。今回は、ペイリン(どちらかというと「ペイラン」と私には聞こえる)がほぼずっとカメラ目線だったのに対し、バイデンは最初はカメラ目線を使わなかった。どうしたのかなと思っていたら、バイデンはここぞと言うときにカメラ目線を使って訴えていた。意識的に使い分けていたのだろうか。
バイデンは顔が怖いけれども、人が良いみたいで、ペイリンが言うことに頷いたり、笑ったりしてしまって、どうなのかなあと思ったが、CNNの画面の下に出ていた印象度のプラス=マイナスのグラフでは、ペイリンよりプラスに触れる幅が大きかったように思う。バイデンは得意の外交になってからは特に説得力が上がった。それに対してペイリンはやはり外交ではあまり説得力がない。国際経験が不足しているのか。答えに詰まっているように見えることも何度かあった。司会者に問い詰められた同性愛結婚でも、(マケインが認めているため)ペイリンが同意してしまったのはどうなのだろうか。彼女は強硬な保守派を引き込むためのカードだったのだから、少し含みを持たせた方が良かったのではないかと思う。
ペイリンも「変化はやってくる」と、マケインと同じ言い回しをしているが、「変化」が争点だということを認めてしまったのも疑問だ。相手に引きずられてしまっている。すかさずバイデンは、「根本的な違い」、「根本的な変化」という言葉を使って差を付けようとする。ペイリンも「ミドルクラスのために戦う」というけれども、あれだけバイデンに金持ち優遇だと非難された後だと説得力が弱い。
今回食べておいしかったのはステーキとナマズ。ステーキはクリントン大統領が通ったというDOE'Sという店。ライブラリーからは一本道だが歩くと遠くて疲れた。店内には大統領はじめいろいろな人の写真が飾ってある。写真はランチメニューのTボーンステーキ。ボリュームがすごい。肉は最初からカットされて出てくる。これにサラダが付く。焼き加減はミディアムにしたので表面は焦げているが中はちょうど良い。肉が大きいのでレアやミディアムレアでは中がほとんど生肉に近くなる。アメリカでステーキを食べるときはミディアムがちょうど良いと思うようになった。
DOE'SのTボーンステーキ
これも割とよく知られているFlying Fishという店のナマズのフライ。あっさりしていておいしい。この店の店内はお客さんが持ち込んだ釣りの写真でいっぱい。ウェイターはいなくて、ファーストフード感覚で好きな席に座って食べられるのも良い。
ナマズとエビのフライのコンボ・セット
店の入り口には、「エサが良ければどんな魚でも食いつく」と書いてある。なるほどねえ。意味深だ。
帰りは朝4時に起きて6時の飛行機に乗る。US Airwaysは機内の飲み物が有料になった。カンのソフトドリンクが2ドル、コーヒーが1ドル、アルコールが7ドル。乗る前に買った方が安い。機内で『文明崩壊』の下巻を読む。意外にも徳川時代の育林政策が成功例として紹介してあった。日本は国土の75%が森で覆われており、先進国の中では最も高い。しかし、それは原生林ではなく、一度枯渇しかかった森林資源を徳川幕府のトップダウン政策で回復したものだという。徳川時代を見直す機運が最近高まっているが、こんなところでも紹介されているとは。ただし、現在の日本はアジアやオーストラリアから木材を輸入していて、国内の高い森林資源を持て余している。何かおかしい。
その後の章で中国の話も出てくるのだが、中国は徳川時代の政策をもっと研究すると良いのではないかと思う。今の日本やアメリカを見ても中国の参考にはあまりならない。日本のお上意識は徳川時代に端を発している。その前は下克上の戦国時代もあった。中国が求める秩序ある社会のモデルは徳川時代ではないだろうか。これを研究したいという留学生がいたら大歓迎だ(最近、留学したいという外国人からのコンタクトが多いのはなぜなんだろう。このエサに食いつく留学生はいるかな)。
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