「そばの会」とは?  ■「そばの会」の歩み ■7年間続いたわけ ■「目標」と「成果」 ■ネット、リアル



毎月1回、東京拘置所の側で「死刑について考えてみませんか?」というビラを配ることを活動の中心としたグループである。基本的に現在は、第三土曜日にJR綾瀬駅前で夕方の1〜2時間ほど道行く人にビラを配ることがこの会としてはメインの活動である(筆者が取材に行った日は、試みとして北千住駅前で実施)。

 

当初はビラ配りのほかにミニ集会などもあったが、後述するようにメンバーの多くは「死刑廃止フォーラム」に参加しており、そこでの交流機会もあるため、またEメールの普及によりビラの事前チェックがWEBを介して可能になったため、集会は最近は開いていないという。

ただ、死刑フォーラム主催の会合やデモなどにそばの会として参加することもある。たとえば12月5日に行われるアムネスティーの呼びかけによる人権パレード2004にはそばの会として参加する予定だという。そのほかの活動として定例になっていることに、ビラ配りのあとの打ち上げがある。筆者が取材した日も、加須に住むメンバーの家での地ビールパーティーに、会の方々は繰り出していった。

 


実際の風景(2004.11 北千住駅前、筆者撮影)

メンバーは「10人から16人程度」であり、実際のビラまきに訪れるのは毎回(メンバーは一致せずとも)10人弱だという。筆者が取材に行った日も、参加者は11人であった。固定メンバーは、ビラを主に製作する1名(ビラの製作は固定性ではないが、スキルの関係でほぼ発起人の方が担当)と印刷を担当する1名の2名ということになる。年齢層は30代から60代、定年後の一部の方を除きほぼ全員が社会人である。会の方の所在地も、綾瀬まで来られる範囲であるが東京、東京都下、埼玉をはじめ首都圏に広く分布している。

メンバーは死刑廃止フォーラムなど、様々な監獄における人権に関する団体(統一獄中組合など)経由で増えることが多いという。たとえば「次はそばの会でお花見があるよ」という交流の延長として、そばの会に参加するという具合にだ。他にも、そばの会が解説するウェブサイト経由で参加する人、ビラ配り中に話を聞いてそれ以降興味を持って参加する人などもいる。

1997年に5月に綾瀬駅前で最初のビラまきをはじめた。具体的なきっかけは1996年度末の数人の同時死刑執行だという。発起人となる数名はそれまでも死刑廃止フォーラム等で活動をしていた。しかし、死刑廃止フォーラムは議員への働きかけなどもする大規模団体であり、集会などにも受動的に参加するかたちであった。そこで「草の根的に自分たちで何か出来ることをしたい」という想いで会は発足したという。実際に死刑が執行される東京拘置所の近くで、ということで綾瀬駅が選ばれた。

同年には住民も参加しての東京拘置所一周デモ、翌年からは足立区の福祉会館等を利用してのミニ集会で死刑に関係のあるビデオ上映会を地域住民向けに行っている。以降、ミニ集会は不定期だが、駅前におけるビラ配りは毎月行われ、今年で7年目を迎えた。

授業中での囚人のジレンマを応用した解説でもあったが、NGOなどの市民団体の問題点のひとつとして「つながりを維持することの困難さ」が挙げられていた。ではなぜ、そばの会は7年間も続いているのだろうか。

まず立場の明瞭性が指摘できる。会の人々の基本的なベクトルは「死刑廃止」という目的に向かっている。内部での、死刑制度廃止へ向けた終身刑導入の是非など意見の対立が皆無ではないが、プロトコルの不一致は起こりにくい状況である。「死刑廃止」という共通の目的があり、それは参加者に物理的な利害が伴う問題ではないからである(もちろん、死刑が執行されてゆくことに対する精神的な問題はあるだろうが)。また単純に、嫌な人や面倒になった人はは会に来なくなって終わりだということが多いという。

また活動が月一回という回数も7年続いた理由のひとつだと会の方は取材に答えていた。現在、死刑の執行は年に平均2回行われ、そのたびに死刑廃止フォーラムでの集会がもたれるが、その時だけ集まるとなると自然解散してしまいかねない。「土曜の午後に月一回、その後打ち上げ」というペースは普段社会人をしている会の方にとっても負担となるものではない。

そもそも明確な会費などないゆるやかな「会」である。その参加理由も、もちろん「死刑について広く考えてもらいたい」というベクトルはあるが、様々である。毎回ビラ配りの終わる直前にやってきてその後の打ち上げにだけ参加する方も少なくないらしい。さらに、取材してみての実感なのだが、メンバー同士がとても仲が良いという印象を持った。「ビラ配り」、「集会」という単語から勝手にある種の70年代の学生運動的なイメージを想像していたのだが、それよりも「サークル」という形容詞が相応しいと思った。

冒頭にも記したように、そばの会の主な目的は「死刑問題について多くの人に関心を持ってもらう」ことである。(その後の方向性としては「日本における死刑制度の廃止」を目指しているが)

正式名称も「東京拘置所のそばで死刑について考える会」である。現在日本のマジョリティーは死刑制度存続を支持していることを鑑みて、廃止を掲げるわけではなくまずは関心を持ってもらうという意味で「考える会」としている。では、その目標はどれほど達成されたのだろうか。当然、定性的な判定しか出来ないが、会の方の印象によると、毎月配っている綾瀬駅周辺である程度認知はされるまでにはなったという。一度に配るビラはおよそ500枚とのことで、単純計算で約17万枚(500枚×約50週×7年)のビラが受け取られたということになる。だが枚数としては膨大だが、実際にその中から興味を持つ人は非常にわずかであるという現実がある。

また死刑制度廃止という最終目標は当然、そばの会だけに帰結するものではない。アムネスティや死刑廃止フォーラムをはじめとする運動、政治によって決定されていく問題である。ただ、現実として日本には現在も死刑制度が存続しており、年2回のペースで執行は続いている。ただし、終身刑の導入の議論がここ一年で盛り上がるなど、大きな視点で考えたときに少しずつ事態は動いているのかも知れない。(この点に関しては補足事項のページを参照)

ビラをもらってくれる人はそれほど多くない。ときにはその場で破られてしまうこともあるという。

そばの会は数年前からウェブサイトを開設している。今までで約14000件のアクセスだ。発起人である方が一人で運営している。次回のビラを配る日程、今までのビラのテキスト、リンク、連絡先(住所、メールアドレス)だけを載せたシンプルなページである。ただし、今以上のサイトの拡充は考えていないという。それは「リアルな感覚を大切にしたいから」だという。「確かに大規模な認知という点で考えたときに、インターネットを使うことの有益性はわかっているが、ホームページだけの交流にはためらいを感じる、実際に駅前であんな活動をしている人がいる」という場所感を大事にしたいと語っていた。

またBBSなどを設置することにも否定的だ。「様々な同様のサイトが荒らされてきたのを見たから」だという。事実、こうしたイデオロギーが絡んでくる問題を扱ったサイトではBBSを設置しない、もしくは閉鎖されてしまったものが多い。

ただし、メールアドレスや住所については載せ続けるつもりだという。「ケンカ腰のメールも多く、また部分だけを見ての批判や中傷的な言葉が並んでいるメールなど返信に疲れる」というが、無視をしないで必ず返信をするようにしているという。またメールの返信には必ず自分の名前を入れることにしている。そのせいか、再返信をしてくる人は、はじめケンカ腰だった人でも丁寧な口調になっていることが多いという。(とても素朴な例だがインターネットと匿名性の問題を考えることも出来る)

メールは平均して月に2から3通。宅間元死刑囚の執行時にYahoo!にリンクが張られた際は、アクセス数の急増と共に毎日数件のメールが届くようになったが、それも一ヶ月をまたず収束した。

そばの会の他のネットワークの利用方法はメンバー同士のメールのやりとりである。全員がアドレスを持っているため、次のビラまきについてや、そばの会として参加するイベントの連絡はすべてこれを介して行われるという。

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