このレポートは死刑制度の是非を問うものではないが、当該団体がおかれた状況把握のために、補足として簡単な死刑制度がおかれた状況について記しておく。

2004年現在、世界で死刑を廃止・もしくは事実上廃止している国は117カ国(60%)、存続国は78カ国である。国連では1989年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第二選択議定書(一般に「死刑廃止条約」と呼ばれる)をはじめ、死刑廃止を推進する流れを打ち出しており、死刑に他の刑罰と比べた犯罪抑止力はないという調査を発表している(1989年、1998年)。

その中で日本の死刑は3年の中断をはさみ1993年以降例年行われている。主に「犯罪抑止力」「世論の支持」「被害者感情からの必要性」という点が存続の論拠となっているようである。南野知恵子法相の就任会見時に「大半の国民が賛同している」と死刑制度の存続の意向を示している。



日本の死刑廃止運動は1970年代に他の社会運動の中の一つとしてはじまったという。1989年の死刑廃止条約の採択を機に翌年、「死刑廃止条約の批准を訴える集い」に1700人が集まった。これが今回取材したそばの会のメンバーの多くも関わっている「死刑廃止フォーラム」のもととなっている。

日本弁護士連合会は1991年に死刑制度問題調査会を設置し、死刑執行のたびに抗議声明を出している。1994年には超党派議員による「死刑廃止を推進する議員連盟」を結成,現在は120名が名を連ねている。段階的に死刑廃止を企図する立場で、とりあえずの終身刑採用を目指している。



死刑存続論の理由の一つに被害者感情が挙げられる。被害者や社会の傷つけられた立場を回復するには重罰に頼らざるを得ないという感情回復論だ。それとは逆に犯罪の解決を司法という国家的な制裁に頼らずに当事者間の話し合いなどにより広い意味での事件解決を目指す修復的司法という試みがある。

それを実践している例にアメリカのNPOアミティが挙げられる。犯罪者やアルコール依存者などの社会的復帰を支援する団体である。精神分析家などの協力により、「治療共同体」として様々な公正プログラムを実施している。再犯率の高さが問題となっているアメリカで、重罪によってではなくて被害者・加害者のコミュニケーションによって問題を解決していこうという姿勢である。

他にもMurderVictims' Families for Reconcilation (MVFR)など犯罪被害者が集まり、修復的司法を目指す団体がアメリカには存在している。さらに死刑制度について反対するという立場をとっている。「死刑は私たちを癒すわけではない」と、対話や情報公開による被害者感情の回復を目指している。

日本には被害者をケアする団体がほとんどないという実情がある。また犯罪被害者補償についても犯罪被害者法が成立して20年になるが、補償額を見てもたとえば自動車損害被害賠償と比べても約10分の1であるなど、制度的に充分でないと指摘されている。



「Q&A 死刑問題の基礎知識」 菊田幸一 明石書店(2004)
「日本の死刑」 アムネスティー・インターナショナル 辻本義男訳 成文堂(1995)
「脱社会化と少年犯罪」 藤井誠二・宮台真司 創出版(2001)

死刑廃止info! アムネスティーインターナショナル日本 死刑廃止ネットワークセンター
死刑廃止フォーラム90  死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90
アミティを学ぶ会Web-site アミティを学ぶ会
Amity Foundation Amity Foundation
MurderVictims' Families for Reconcilation MVFR

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