パターン・ランゲージのライターズ・ワークショップ
PLoP(International Conference on Pattern Languages of Programs)など、ソフトウェア分野のパターン・コミュニティでは、「ライターズ・ワークショップ」という集まりで、パターンのブラッシュアップが行われている。
ライターズワークショップは、「発表者がプレゼンテーションをして質疑応答をする」といういわゆる学会発表スライルとは全く異なる形式で進められる。詩や小説の作家たちが行っていたこの方法を、リチャード・ガブリエルがソフトウェア・パターンの分野に導入したと言われている。
以前、論文のなかでライターズ・ワークショップについて書いたことがあるので、そこから抜粋して紹介することにしたい。
ライターズ・ワークショップには、そのワークショップで取り上げられる論文の著者と、有志の参加者が参加し、1 ワークショップあたりだいたい10 人前後になる。カンファレンス開催中は、原則として同一のワークショップに参加する。論文では、大抵1~10 個のパターンが提案されている。その論文を、1論文あたり約1 時間半かけて、具体的な改善に向けての話し合いを行う。そこでは、批判的なコメントではなく、その論文をよりよくするためのポジティブで具体的な改善案を提示することが求められる。
このワークショップがユニークなのは、そのとき取り上げられている論文の著者は "fly on the wall"(壁にとまった蠅)ということで、黙っていなければならない、という点である。つまり、通常の学会発表のような口頭発表と質疑応答という形式ではなく、あくまでも「記述されたもの」を重視し、それについての話し合いが行われるのである。このようなプロセスによって、著者は本来意図していたことがうまく記述できているかを知ることができる。知識を「言語化」する手法だからこそ、言語化されて「記述されたもの」を重視するというのは納得がいく話である。
また、ワークショップにおける著者の扱いも興味深い。ワークショップ中は、著者の名前は呼ばず、"the author" という言葉を使い、著者が誰であるかということは取り上げられない。ただし、論文査読のような目隠しがなされているのではなく、実際にはその部屋に著者がおり、それが誰なのかは十分わかっているのであるが、その人がいない「振り」をして話すのである。著者の方も、論文で言いたかったことの防衛(defend) はしないことになっている。
洗練のためのコメントも、著者に対してするのではなく、ワークショップ参加者に対して表明して、話し合うというスタイルをとる。これは、パターンが、発明するものではなく、発見するものであるということと関係している。パターンの論文の著者は、世界や人びとに埋め込まれた実践知を掘り起こし、記述したという人だと捉えることができる。
久保淳人, 鷲崎弘宜, 吉岡信和, 井庭崇, 大久保隆夫, 第15回プログラムのパターンランゲージ会議(PLoP2008)参加報告, 情報処理学会ソフトウェア工学研究会第163回研究集会, 2008. より井庭担当部分抜粋
最後に、以前僕が参加したPLoP2007のライターズワークショップの写真を載せておきたい。最近のPLoPは他の学会と連動して開催されるので、ホテルでの開催になってしまっているが、以前は雰囲気抜群のAllerton Houseで行われていた。これが僕のライターズ・ワークショップの原点。
Writers' Workshop, PLoP 2007, Allerton House, IL, USA. hotograph taken by Takashi Iba, 2007.
ライターズワークショップは、「発表者がプレゼンテーションをして質疑応答をする」といういわゆる学会発表スライルとは全く異なる形式で進められる。詩や小説の作家たちが行っていたこの方法を、リチャード・ガブリエルがソフトウェア・パターンの分野に導入したと言われている。
以前、論文のなかでライターズ・ワークショップについて書いたことがあるので、そこから抜粋して紹介することにしたい。
ライターズ・ワークショップには、そのワークショップで取り上げられる論文の著者と、有志の参加者が参加し、1 ワークショップあたりだいたい10 人前後になる。カンファレンス開催中は、原則として同一のワークショップに参加する。論文では、大抵1~10 個のパターンが提案されている。その論文を、1論文あたり約1 時間半かけて、具体的な改善に向けての話し合いを行う。そこでは、批判的なコメントではなく、その論文をよりよくするためのポジティブで具体的な改善案を提示することが求められる。
このワークショップがユニークなのは、そのとき取り上げられている論文の著者は "fly on the wall"(壁にとまった蠅)ということで、黙っていなければならない、という点である。つまり、通常の学会発表のような口頭発表と質疑応答という形式ではなく、あくまでも「記述されたもの」を重視し、それについての話し合いが行われるのである。このようなプロセスによって、著者は本来意図していたことがうまく記述できているかを知ることができる。知識を「言語化」する手法だからこそ、言語化されて「記述されたもの」を重視するというのは納得がいく話である。
また、ワークショップにおける著者の扱いも興味深い。ワークショップ中は、著者の名前は呼ばず、"the author" という言葉を使い、著者が誰であるかということは取り上げられない。ただし、論文査読のような目隠しがなされているのではなく、実際にはその部屋に著者がおり、それが誰なのかは十分わかっているのであるが、その人がいない「振り」をして話すのである。著者の方も、論文で言いたかったことの防衛(defend) はしないことになっている。
洗練のためのコメントも、著者に対してするのではなく、ワークショップ参加者に対して表明して、話し合うというスタイルをとる。これは、パターンが、発明するものではなく、発見するものであるということと関係している。パターンの論文の著者は、世界や人びとに埋め込まれた実践知を掘り起こし、記述したという人だと捉えることができる。
久保淳人, 鷲崎弘宜, 吉岡信和, 井庭崇, 大久保隆夫, 第15回プログラムのパターンランゲージ会議(PLoP2008)参加報告, 情報処理学会ソフトウェア工学研究会第163回研究集会, 2008. より井庭担当部分抜粋
最後に、以前僕が参加したPLoP2007のライターズワークショップの写真を載せておきたい。最近のPLoPは他の学会と連動して開催されるので、ホテルでの開催になってしまっているが、以前は雰囲気抜群のAllerton Houseで行われていた。これが僕のライターズ・ワークショップの原点。
Writers' Workshop, PLoP 2007, Allerton House, IL, USA. hotograph taken by Takashi Iba, 2007.
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