学会発表「商品ネットワークの成長モデル:市場の秩序形成の探究に向けて」
5月17日に行われた情報処理学会MPS(数理モデル化と問題解決)研究会で発表した3つめは、「商品ネットワークの成長モデル:市場の秩序形成の探究に向けて」という研究だ。
この研究のポイントは、「商品のネットワーク」(Products Network)として市場を捉えようという部分だ。ある消費者1が商品Aと商品Bを購入したとすると、この商品Aと商品Bにリンクを結ぶ。このようにして商品の間にリンクを結んでいくと、全体として商品のネットワークができあがるだろう。このように、商品の購買をネットワークとして捉えることで、市場の新しい捉え方ができると僕らは考えている。
市場をネットワークとして捉えるというとき、消費者のネットワークを考えるのが普通である。でも、ここでは、商品をノードとし、消費者をリンクとして捉えるという点に新しさがある。
なぜこのようなことを考えたのかを説明するには、もうひとつの研究との関係に触れておく必要がある。すでに書いたように、書籍の販売冊数と順位の関係はべき乗分布になっている。そこで今度は、そのべき乗分布はいかにして生成されるのか、ということの理解が課題となってくる。まったくオリジナルにそのメカニズムを考えてみるのもよいが、まずは、他の分野で提案されている生成メカニズムを参考にしてみようと考えた。そこで、まず最初にネットワーク科学におけるべき乗分布の形成モデルに着目したというわけだ。
今回取り上げたのは、「一般化BAモデル」というもの。一般化BAモデルとは、大雑把にいうと、ネットワークの成長とリンクの張替えを繰り返すと、各ノードのリンク数と順位の関係がべき乗分布になるというモデルだ。アルバート・ラズロ・バラバシ(Barabasi, A.-L.)とレカ・アルバート(Albert, L.)の二人によって提唱されたので、「BA」モデルと言われている(「一般化」とついているのは、このモデルが提案される前に、この二人によってもっと特殊なモデルが提案されていたからだ)。
一般化BAモデルでは、それぞれのノードに集るリンク数に着目する。商品のネットワークの場合には、リンクというのは、ある商品が消費者によって選ばれたということを指している。なので、リンク数というは、販売量ということになる。一般化BAモデルでは各ノードがもつリンク数とその順位の分布がべき乗分布になるが、同様に、商品ネットワークでも各商品(各ノード)の販売量(リンク数)とその順位の分布がべき乗分布になる。ほら、同じことでしょ。(^_^)
こういうふうに考えると、ネットワークの構造についての知見が、そのまま商品間の関係性に適用できるというメリットがでてくる。例えば、クラスタリング係数や平均経路長、コミュニティ抽出などの考え方を、商品の関係性の理解に使えるようになるのだ。
今回発表した論文は一見地味だが、結構面白い視点を提供していると僕は思うが、どうだろうか。
●伊藤 諭志, 井庭 崇, 「商品ネットワークの成長モデル:市場の秩序形成の探究に向けて」, 情報処理学会 第64回数理モデル化と問題解決研究会, 大阪, 2007年
論文(PDF)
この研究のポイントは、「商品のネットワーク」(Products Network)として市場を捉えようという部分だ。ある消費者1が商品Aと商品Bを購入したとすると、この商品Aと商品Bにリンクを結ぶ。このようにして商品の間にリンクを結んでいくと、全体として商品のネットワークができあがるだろう。このように、商品の購買をネットワークとして捉えることで、市場の新しい捉え方ができると僕らは考えている。
市場をネットワークとして捉えるというとき、消費者のネットワークを考えるのが普通である。でも、ここでは、商品をノードとし、消費者をリンクとして捉えるという点に新しさがある。
なぜこのようなことを考えたのかを説明するには、もうひとつの研究との関係に触れておく必要がある。すでに書いたように、書籍の販売冊数と順位の関係はべき乗分布になっている。そこで今度は、そのべき乗分布はいかにして生成されるのか、ということの理解が課題となってくる。まったくオリジナルにそのメカニズムを考えてみるのもよいが、まずは、他の分野で提案されている生成メカニズムを参考にしてみようと考えた。そこで、まず最初にネットワーク科学におけるべき乗分布の形成モデルに着目したというわけだ。
今回取り上げたのは、「一般化BAモデル」というもの。一般化BAモデルとは、大雑把にいうと、ネットワークの成長とリンクの張替えを繰り返すと、各ノードのリンク数と順位の関係がべき乗分布になるというモデルだ。アルバート・ラズロ・バラバシ(Barabasi, A.-L.)とレカ・アルバート(Albert, L.)の二人によって提唱されたので、「BA」モデルと言われている(「一般化」とついているのは、このモデルが提案される前に、この二人によってもっと特殊なモデルが提案されていたからだ)。
一般化BAモデルでは、それぞれのノードに集るリンク数に着目する。商品のネットワークの場合には、リンクというのは、ある商品が消費者によって選ばれたということを指している。なので、リンク数というは、販売量ということになる。一般化BAモデルでは各ノードがもつリンク数とその順位の分布がべき乗分布になるが、同様に、商品ネットワークでも各商品(各ノード)の販売量(リンク数)とその順位の分布がべき乗分布になる。ほら、同じことでしょ。(^_^)
こういうふうに考えると、ネットワークの構造についての知見が、そのまま商品間の関係性に適用できるというメリットがでてくる。例えば、クラスタリング係数や平均経路長、コミュニティ抽出などの考え方を、商品の関係性の理解に使えるようになるのだ。
今回発表した論文は一見地味だが、結構面白い視点を提供していると僕は思うが、どうだろうか。
●伊藤 諭志, 井庭 崇, 「商品ネットワークの成長モデル:市場の秩序形成の探究に向けて」, 情報処理学会 第64回数理モデル化と問題解決研究会, 大阪, 2007年
論文(PDF)