井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

日本語のパターンにおける内言的な書き方へのこだわり

僕がパターン・ランゲージのパターンを仕上げるときに、こだわって意図的にしていることがある。それは、主語(人称代名詞)をうまく抜いて、内言(inner speech)的に読めるようにするということである。

これは日本語だから成し得ることであり、日本のなかでもそのことにこだわってパターンを書いている人にはこれまでに会ったことはない。

例えば、僕らがつくったパターン・ランゲージ『旅のことば』の「なじみの居場所」のSolutionは、次のものである。

自分ひとりで行けて、家族も知っている行きつけの場所をつくります。すでにそのようなお気に入りの場所があれば、そこを自分の《なじみの居場所》だと家族に伝えておきます。まだない場合には、家の近くの喫茶店や小さな美術館など、居心地のよさそうな場所を探すことからはじめます。家族や友人と一緒に探すと安心です。よさそうな場所が見つかったら、その場にいる店員さんや常連さんたちに、ひとこと挨拶をしておくと早くなじむことができるでしょう。


「あなた」「私」というような言葉は使われていないのがわかるだろう。「自分ひとりで行けて、家族も知っている行きつけの場所をつくります。」というのが、「誰が」なのかは、意図的に書いていないのである。そうすることで、「うまく実践している人は」と読むこともできるし、「自分は(これから)」と読むこともできる。こう書いてあることで、自分の内言(心のなかの言葉)のように、ここに書かれた言葉を内側から読むことができるようになる。

ちなみに、このパターンの英語版のSolutionは、次のようになる。

Find a place where you can go by yourself without any trouble, and make sure your family knows about the place too. If you already have such a place, tell your family that it is your “Favorite Place.” If not, find a place such as a coffee shop or art museum near your home that you like, where you feel comfortable. You can ask a friend or a family member to help you find this place. Once you find your place, it would be nice to say hello to the people there so you can get on well early.


このパターンのように、パターン・ランゲージのパターンのSolutionは、英語では命令形で書かれる。「Find 〜」というように、完全にアドバイスの文章として書かれており、実際そう読むことになる。そして、その後の文章には「you」という言葉が出てくる。つまり、誰かが自分に対して語りかけている、という文章なのである。

もちろん、これを「Find 〜」と(ほんの少し未来の)自分に向かって言っていると捉えることはできる。未来の自分を「you」として、未来の自分に命令しているということもできるかもしれない。しかし、それでも、今の自分とは分離された対象に向かって働きかけている文章であることに間違いはない。


井庭研でも、メンバーがSolutionを「〜しましょう」と書いてくときがしばしばあるが、それを見つけると、直すように言っている。英語が命令形なのだから、それが丁寧になっていてよいと思うかもしれないが、「〜しましょう」と言うパターンをいくつも読むことになると、「もう結構です」(うざい)という気持ちが生まれるのは想像に難くない。

だから僕が書く日本語のSolutionの文章はそうなってはいない、というか、そうならないように意識して書いている。『旅のことば』について、「読み手に寄り添うように書かれている」という感想をもらうことがあるが、それは、こういった文章の書き方も影響していると思われる。本人が自分の気持ちや、自分が考えていることが書いてあると感じやすい文章なのだと思う。

人称代名詞を省略できる言語は、他にもある。しかし、スペイン語やイタリア語などは、動詞の形が一人称と二人称、三人称で変わるために、主語を省略しても意味が取れるので、省略が可能になっている。日本語の場合には、それとは異なる原理で人称代名詞を入れずに文章を書くことができる。

このように、パターン・ランゲージは、アメリカで英語で書かれるものとして出発したが、僕らが日本でつくるようになってから、パターンの文章の書き方は、ひとつ新しい展開をみせたと考えている。

そこで、このことを海外の方にも知ってもらうために、今年のPLoP(パターン・ランゲージの国際学会)に、そのことを書いた論文を出している。そもそも英語にできないことを英語で書くのだから、少しややこしいのだけれども、そのようなことも伝えなければ知ってもらえないので、なんとか論文にした。学会での反応が楽しみである。

Takashi Iba, Ayaka Yoshikawa, “Understanding the Functions of Pattern Language with Vygotsky’s Psychology: Signs, The Zone of Proximal Development, and Predicate in Inner Speech,” 23rd Conference on Pattern Languages of Programs, Oct, 2016


  • 『旅のことば 認知症とともによりよく生きるためのヒント』(井庭 崇, 岡田 誠(編著), 慶應義塾大学 井庭崇研究室, 認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ, 丸善出版, 2015)
  • 『Words for a Journey: the Art of Being with Dementia』(Takashi Iba, Makoto Okada (eds), Iba Laboratory, Dementia Friendly Japan Initiative, CreativeShift Lab, 2015
  • パターン・ランゲージ | - | -
    CATEGORIES
    NEW ENTRIES
    RECOMMEND
    ARCHIVES
    PROFILE
    OTHER