井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

未来へのお守りになるような希望を書く:『こころ揺さぶる、あのひと言』を読んで

本屋で見つけた『こころ揺さぶる、あのひと言』という本、いろんな方が、ずっと心に残り人生を支えてくれている言葉について書いているエッセイ集。

どれも素敵なのだが、なかでも僕が一番共感したのは、角田光代さんの「希望を書かなければだめだ」という話。

「私より三四歳年上の編集者に、『あなたは希望を書かなければだめだ』と、言われた」(p.28)という。

「『なあ、世の中に残っている小説は、ぜんぶ希望を書いているんだ。残る小説にするには、希望を書かなければだめだ』と。」(p.28)

「けれど私は世のなかにはそうかんたんに救いなんかないと思っていた。そう思うのだから嘘は書けないと思っていた。言葉に懐疑的だからこそ、空々しくうつくしいことなんて書けないのだった。けれどそうして書いている小説は、何か決定的に足りないことも自覚していた。」(p.28)

しばらくして、その言葉の意味がわかったという。

「救いはないと断じるのなんてかんたんなことだ。そこからなんとかして信じられる救いをつかみ出す、そういう小説こそ力を持ち得るのではないか。」(p.29)

僕も、パターン・ランゲージを書いているときは、希望の星となって、自分のよい未来へと導いてくれるような言葉をつくり、そのための文章を書いている。宮崎駿も、昔同様のことを言っていた。現実のだめなところを書くために苦労して映画をつくってるんじゃない。希望を描くんだ、というようなことを。

僕らがつくるパターン・ランゲージは、ポジティブで明るいものしかないと言われることがある。それは、僕が希望の言葉をつくりたいと思っているからだ。そうでなくても、過酷な現実は目の前に広がっているわけだし、マスメディアやネット上には、暗い話やひどい言葉にあふれている。そういう状況に、新たになぜ、絶望の言葉を加えなければならないのだろうか。いま世界に不足しているのは、明るく進む道を照らしてくれる希望の言葉ではないだろうか。

僕は、そう考えて、ポジティブなランゲージを日々つくっている。人によっては、その言葉が、お守りのように、自分の人生を支えてくれているという人がいう。そこまでいかなくても、ちょっと勇気がいることも、実践への背中を押してくれるような言葉だという声も聞く。なんとかして、希望が持てる言葉を編み上げて行く。僕らがつくっているのは、そういうランゲージであろり、僕らが取り組んでいるのは、そういう研究なのである。

『こころ揺さぶる、あのひと言』の本の話に戻ると、この本には、なんと、我らが同僚の村井純も書いていた。彼の心に残っっている言葉は、「世界のために働け」(p.36)というキルナム・チョン先生の言葉だという。他にも、夏樹静子さんの「筆をおかずに、ひたすら描き続けてください。続けていれば、必ずまたいいものができるでしょう」(p.88)という言葉、他にも、内山章子さんが姉・鶴見和子さんから言われた言葉「あのね、易しいことはつまんないの。すぐ出来ちゃうから。難しいことはね、ああかな、こうかなって考えて、いろいろ工夫してやるから、すごく面白いの。難しいことに出あったら、面白いと思ってすることね」という言葉など、僕の心にも新たに残るような言葉がたくさん紹介されている。素敵な言葉の宝石箱みたいな本だった。

いつか僕も、誰かの心に残るような素敵なひと言が言えるような人になりたいなぁ、と思った。いつの日にか。

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「いい人に会う」編集部 編, 『こころ揺さぶる、あのひと言』, 岩波書店, 2012
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