藤沢2020ヴィジョン
 
1. 2020年の藤沢市ヴィジョン
2. 山本市長ヴィジョン
3. 2020年の社会システム
4. 2020年の藤沢市ヴィジョンの試案
1.2020年の藤沢市ヴィジョン

2020年に向けて、藤沢市はどのような都市づくりのヴィジョンをもつことが 望ましいのであろうか。今回のヴィジョンづくり委員会は、そのための試案を提 示するものである。

山本市長は、すでに『市民が一生安心してくらせるまち』という都市ヴィジョ ンをもって、現在の市政にあたっている。このヴィジョンは、2020年までを射 程にいれた場合、どのような長期ヴィジョンとして再創造されるのであろうか。

今回の委員会は、この山本市長のヴィジョンと、現在藤沢市の2010年ヴィジョ ンとして、藤沢市第二次新総合計画で公式化されている『みどりと太陽と潮風の まち藤沢、市民による人間都市藤沢』を踏まえ、どのような都市ヴィジョンが 2020年において望ましいか、を考える。

(1)2010年の藤沢ヴィジョンの検討
(2)山本市長ヴィジョンの検討
(3)2020年の社会システムにかんする想定
(4)2020年の藤沢市ヴィジョンの試案
4-1)都市像
4-2)基本理念 価値探索と生活支援
4-3)基本指針 5つの構想(1)2010年の藤沢ヴィジョンの検討

(1)2010年の藤沢ヴィジョンの検討

1991年から2000年を実施年度にして策定された2010年ヴィジョンにかんし て、その基本理念と基本指針について、2020年を想定しながら評価すると、つ ぎのようなことが指摘できよう。まず、2010年を想定した都市像は、つぎのものである。

◆「みどりと太陽と潮風のまち藤沢、市民による人間都市藤沢」

この基本理念は、上記の都市像を実現するための理念であり、つぎの3つから 構成される。

(1)共に生きるまち(共生)
(2)活力あるまち(活力)
(3)創造するまち(創造)

つまり、「共生・活力・創造」という理念の追求によって、新しい21世紀初頭 の藤沢市の都市イメージは実現される、という論理である。さらに、この3つの 理念は、つぎの6つの指針に変換されることによって、より具体的に都市イメー ジが実現される方策の方向性が明示される仕組みになっている。

そして、基本指針は、つぎの6点である。

(1)健やかで、生きがいのある地域社会をつくる
(2)うるおいのある快適な環境をつくる
(3)ひらかれた都市の機能を高める
(4)いきいきとしたくらしと産業を育てる
(5)個性豊かな湘南の文化を生み出す
(6)あすにつなぐ自治と平和のまちをきづく

これら6つの基本指針は、つぎのような方向性を示したものである。

(1)健やかで、生きがいのある地域社会をつくる

これは、地域福祉の指針であり、社会的弱者にたいして、従来の福祉の観点から援助をすることで、地域社会のメンバー(市民)として自立できるような仕組みをつくろう、ということである。とくに、高齢社会が現実になるので、それに対応して、高齢者の生活支援を重視した地域社会つくりをめざしたものになっている。

(2)うるおいのある快適な環境をつくる

これは、環境整備の指針であり、自然環境と生活環境を、うるおいと快適なものにしよう、というものである。ここでは、豊かな自然環境を保全形成し、都市の緑化を推進させよう、という自然環境への指針と、生活環境については、公園・道路・都市景観といった「見える生活環境」の整備と、下水・廃棄物・公害などの「見えない生活環境」の整備にかんする指針が明示されている。

(3)ひらかれた都市の機能を高める

これは、都市機能の指針であり、3つの都市拠点(藤沢・辻堂・湘南台)と都市軸(産業軸と生活軸)の形成のために、交通と情報のネットワーク化を推進し、また都市機能を阻害する災害要因を防止することを明示したものである。開かれた交通体系の充実とCATVを核にした情報化の推進が重視されている。

(4)いきいきとしたくらしと産業を育てる

これは、地域経済の指針であり、産業育成については、新しい都市型産業の創出に期待がかけられ、さらに商業・観光などの既存の中小企業の活性化が重視されている。他方、消費生活にかんしては、消費者保護の観点から、消費生活の見直しが検討されている。ここでは、消費社会を前提にして、地域経済の方向性が描かれている。

(5)個性豊かな湘南の文化を生み出す

これは、教育・文化の指針であり、充実した生涯学習の観点から、教育・文化・スポーツのあり方が検討されている。

(6)あすにつなぐ自治と平和のまちをきづく

これは、行政機能の指針であり、行政機構を効率的でかつ市民参加型の開かれたものにしなければならない、という方向性を明示したものである。それによって、市民が、男女の差なく共同でき、世界に平和のメッセージを発信できる、まったく新しい都市自治になっていきたい、とアピールするものである。

ここにみられる論理は、活力が創造を誘発し、その余剰が共生を可能にする、というものである。つまり、情報化を基盤にして産業の高度化を実現し、その余剰で、豊かな消費生活と高齢・福祉社会を維持していこう、という論理である。

しかしこの論理は、2020年を想定する場合、いくつかの点で疑問が残る。そ れは、以下の点に集約されよう。

1)情報化について

情報化にかんしては、CATVがメインになって、ネットワーク化が想定されて おり、ネットワーク化の基本的なコンセプトが明らかに時代遅れになっている。 インターネットなどの新しいネットワークを前提にして、情報インフラの構想が 必要であり、そこから、まったく新しい社会システムの展開が予想されるはずで ある。その意味では、情報化にかんする新しいコンセプトが構想されなければな らない。

2)都市型産業について

産業構造にかんしては、都市型産業の創出への期待が表明されているが、ここ での都市型産業は新しい情報化を前提にしていないので、高度産業化と消費化を 前提にした都市型の産業創出のコンセプトになっている。やはりこれからの地域 経済は、既存の中小企業の活性化をも含めて、ネットワーク化を前提にした、新 しい産業の創出が不可欠であり、それは都市型というカテゴリーではない、新し いタイプの産業構造を求めるはずである。

3)消費生活について

地域社会は消費の場である、という観点から、消費生活が構想されており、生 活は基本的には仕事場から隔離された消費空間として位置づけられている。しか しネットワークの社会では、生活は単純に消費の空間であるばかりか、それ以上 に、仕事をも含んで、さまざまな生活機能が融合する場である。つまり消費社会 を前提にして、生活のヴィジョンを描くことにたいして、すでに時代が脱消費社 会への傾向を示していることを考慮すると、生活のヴィジョンを再構成する必要 があろう。

4)高齢化について  

高齢社会が到来することは自明であるが、高齢者を単に福祉の対象するので は、高齢社会を維持・存続することは不可能である。高齢者は、新しい社会のな かで、どのような役割をもつことが望ましいのか、を再検討しなければならな い。高齢者が25%に接近する状況では、新しい社会システムの構築が急務であ り、それは、弱者としての高齢者のコンセプトを超えた構想が必要である。

5)教育について

生涯教育の重要性がアピールされており、そのかぎりでは、教育システムを再 検討することが課題にはなっている。しかしさらに、根本的なレベルでの教育シ ステムの検討が必要であろう。それは、単に生涯教育ということで、中高年のた めのカルチャー講座を設置するといった程度の変更ではなく、義務教育から高等 教育そして成人教育にいたるまで、もっと多様な教育のプログラムが期待される はずである。21世紀を担う世代を育てる教育は、戦後の教育システムを一新す ることから開始しなければならない。

6)地域社会について

最後に、地域社会が問題である。産業化と都市化によって、55年以降、藤沢 市においても、かつての地域社会はあきらかに形骸化し、地域社会は、単に社会 的弱者を救済する場として機能するだけであった。老人会とPTAはその典型で ある。しかし新しい情報社会では、いままでの産業社会や消費社会とは違って、 実質的な生活レベルで地域社会を求めるはずである。企業も、家庭も、その境界 に自閉するのではなく、その境界をオープンにしないかぎり、新しい地平が開け ないことが自覚されるならば、その受け皿として、再度、地域社会の存立が重要 な意味をもってくるはずである。つまり情報社会にこそ、コミュニティは不可欠 になるのである。とすれば、地域社会のありかたは、いままでとは全く異なった ものになるはずである。既存の村落共同体的な閉鎖的な地域社会でもなく、また 機能だけで統合される地域社会でもない、新しい地域社会のヴィジョンが期待さ れるはずである。そこが、新しい藤沢市の都市ヴィジョン構想においてもっとも 重要な点である。

以上6点に共通していえる問題は、ネットワークのインフラに支えられた新し い情報社会のヴィジョンが欠落しているということである。このヴィジョンを前 提して、いままでの高度産業社会と消費社会を構造化していたさまざまな要因を 再構築することが、2020年の藤沢市の都市ヴィジョンを策定するためには重要 な視点である。