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新しい社会の捉え方を探して。井庭 崇のblogです。

【英語で読む!講座】 Thing Knowledge (物のかたちをした知識) その2

引き続き、Thing Knowledge; A Philosophy of Scientific Instruments(Davis Baird, University of California Press, 2004)、邦訳『物のかたちをした知識:実験機器の哲学』(デービス・ベアード, 松浦 俊輔 (訳), 青土社, 2005) を取り上げたい。

この本では、"Thing Knowledge" (物のかたちをした知識) について論じられているが、その事例として、この本で最初に取り上げられているのが、マイケル・ファラデーの器具である。

"On September 3 and 4, 1821, Michael Faraday, then aged thirty, performed a series of experiments that ultimately produced what were called "electromagnetic rotations." Faraday showed how an appropriately organized combination of electric and magnetic elements would produce rotary motion. He invented the first electromagnetic motor."(p.1)
「1821年9月3日と4日、当時30歳のマイケル・ファラデーがいくつかの実験を行ない、これは最終的に、「電磁回転 (エレクトロマグネティック・ローテーション)」と呼ばれたものを生み出した。ファラデーが示したことは、電気と磁気の要素をしかるべく配置すれば、回転運動を生み出すことだった。初の電磁石によるモーターを発明したのである。」(邦訳 p.23)

この部分でまず驚くのが、ファラデーが電磁回転を考え出したのが30歳だということ! 発見や発明って、結構このくらいの歳のときに起きていることって多いよね。本筋とは関係ないけど、ちょっと衝撃。

"Faraday's work resulted in several "products." He published several papers describing his discovery. He wrote letters to many scientific colleagues. He built, or had build, several copies of an apparatus that, requiring no experimental knowledge or dexterity on the part of its user, would display the notable rotations, and he shipped these to his scientific colleagues."(p.1)
「ファラデーの研究はいくつかの「産物 (プロダクト)」に結実した。その発見のことを述べる論文を何本か発表している。科学界の多くの仲間に手紙も書いた。ファラデーが組み立てたのは、実験に関する知識も手先の器用さも必要とせず、はっきりとした回転運動を示す何台かの器具 (アパレイタス) で、それを同じ分野の人々に送った。」(邦訳 p.24)

"The apparatus produces a striking phenomenon: when an electric current is run through the wire, via the magnet and the mercury bath, the wire spins around the magnet. The observed behavior of Faraday's apparatus requires no interpretation. While there was considerable disagreement over the explanation for this phenomenon, no one contested what the apparatus did: it exhibited (still does) rotary motion as a consequence of a suitable combination of electric and magnetic elements."(p.2)
「この器具は目を引く現象を生む。電流が導体から水銀だめを通ってワイヤに流れると、ワイヤは磁石のまわりを回転する。ファラデーの器具で観察されるふるまいには、解釈の余地はない。この現象の説明をめぐっては相当の異論があったものの、器具がしていることについてはほとんど一致していた。それは、電気と磁気の要素をしかるべく組み合わせた結果として、回転運動を示した (今でも示す) ということだ。」(邦訳 p.24)

"Faraday's work resulted in several products."という言い回しは、結構使えそう。プロジェクトが、いくつかの成果を生み出すことはよくある話だろう。

"apparatus" は、「器具」、「道具」、「装置」という意味だが、「一組の器具」や「装置一式」というニュアンスをもっている。"dexterity" は、「器用さ」、「腕前」、「うまさ」。
二文目の"striking"は、「目立つ」、「人目をひく」、「印象的な」。"current" は、ここでは「現行の」という意味ではなく、「電流」。

"The observed behavior of Faraday's apparatus requires no interpretation." と "While there was considerable disagreement over the explanation for this phenomenon, no one contested what the apparatus did" の部分は、"Thing Knowledge"を理解する上で重要な部分。実際に目の前で、回転運動をしているという事実は、解釈や理論を介さずとも事実なのだ。それがどのように可能となっているのかという「理論」の知識とは別に、そこに回転運動を体現している「物のかたち」をしている知識がある。これが、まさに Bairdの言う"Thing Knowledge"というわけだ。このことをBairdは、次のように象徴的な言葉で書き表している。

"we learn by interacting with bits of the world even when our words for how these bits work are inadequate."(p.3)
「この動きを言葉にして表したことが間違っていてさえ、われわれは世界のある断片をやりとりすることで、何かを学んでいる。」(邦訳 p.26)

訳文ではわからないが、"world"、"words"、"work"あたりの重ね具合がうまいところ。

そしてBairdは、この装置がもつ知識のことをわかっていたからこそ、ファラデーは手紙だけでなく装置も送ったのだ、という。

"Why Faraday think it necessary to ship ready-made versions of this motor to his colleagues?"(p.3)
「なぜファラデーは、この組み立てずみのモーターを、同業の人々に発送する必要があると思ったのだろう。」(邦訳 p.26)

"When Faraday built it, this phenomenon was striking and proved to be very important for the future development of science and technology."(p.3)
「ファラデーがこれを組み立てたとき、この現象は目を引き、科学と技術の将来の展開にとって非常に重要だということもわかった。」(邦訳 p.26)

"it is significant that Faraday did not depend on the imaginations of his readers. He made and shipped "pocket editions" of his newly created phenomenon to his colleagues. He knew from his own experience how difficult it is to interpret descriptions of experimental discoveries. He also knew how difficult it is to fashion even a simple device like his motor and have it work reliably."(p.3)
「ファラデーは、その読者の想像力に頼らなかった。そこが重要だ。ファラデーは、自分が新しく生み出した現象の「ポケット版」を作って、同じ分野の人々に送った。ファラデーは自身の経験から、実験による発見の記述を解釈することが、いかに難しいかを知っていた。ファラデーのモーターのような単純な装置でさえ、それをこしらえ、信頼できるように動かすのは難しいことも知っていた。」(邦訳 p.26)

"The material product Faraday sent his colleagues encapsulated his considerable manipulative skill ------ his "fingertip knowledge" ------ in such a way that someone without the requisite skill could still experience the new phenomenon firsthand. He did not have to depend either on the skills of his colleagues or on their ability to interpret a verbal description of his device. He could depend on the ability of the device itself to communicate the fact of the phenomenon it exhibited."(p.3)
「ファラデーが送った実物は、ファラデーの相当の操作の腕------ファラデーの「手についた (フィンガーチップ)」知------も具現していた。そのため、作るのに必要な技能がない人でも、新しい現象を直接体験できた。送った相手の技能にも、言葉による説明を解釈する能力にも頼る必要がなかった。装置そのものが、それが示す現象という事実を伝える力をあてにすることができた。」(邦訳 p.26)

"ready-made"は、「既製の」という意味よりは、「すぐ使える」の意味。
"the future development of science and technology"という表現、かっこいいねぇ。今後、どこかで使えそう。
"fingertip"は、「指先」や「すぐ利用できる」の意味。"fingertip knowledge"は、ファラデーであればすぐに出来てしまう身体知のことだろう。

ということで、今回は、"Thing Knowledge"の具体例として、ファラデーのモーターを取り上げた。次回は、ファラデーの装置のようなものと理論の間にある「モデル」について取り上げることにしたい。
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