井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング(5)

2010年11月27日に行なった特別対談 “政策のパターンランゲージに向けて”の最後に触れた「政策言語によって教育がどう変わるか」という話を補足したい。


政策言語教育

「政策言語」という名称は、実は5年ほど前にすでに考えついていた。それは、慶應義塾大学SFCの現行カリキュラム(2007年から実施)の改定作業を行なっている最中のことであった。学部設立の経緯を踏まえ、さらにこれからのことを考えてみた結果、「政策言語」というものが総合政策学部の教育の重要な要素になるだろう、と考えるようになった。

総合政策学部と環境情報学部では、1990年の設立当初から、「自然言語」と「人工言語」について、独自の“言語教育”を行なっていた。理論を教えた後に実践・応用するという従来のスタイルではなく、ワークショプなどでの実践を通じて感覚的に体得させるインテンシブな“言語教育”が売りであった。

その後十年ほど経ってから、環境情報学部では「デザイン言語」という第三の “言語教育” を開始した。デザイン言語でも、それまでの自然言語・人工言語と同様に、ワークショップでの実践とインテンシブな“言語教育”を行なったのだ。さまざまな領域からトップデザイナーたちを講師に迎え、非常に魅力的な科目が揃っていた。そして、その教育を受け、素晴らしい学生たちが育ち始めていた(デザイン言語については、「『デザイン言語』という実験:慶応藤沢キャンパスの新たなフェーズ」(後藤武) および 「デザイン言語とは何であろうか?」(脇田玲) にその趣旨の説明がある)。

そのとき僕が考えたのは、総合政策学部でもこのようなワークショップでの実践を通じたインテンシブな教育ができないだろうか、ということだった。デザイン言語に倣って、「それは、総合政策学部なのだから『政策言語』 と呼ぶべきものだろう」と考えた。政策の“言語教育”というわけである。当時の学部長であった、故・小島朋之先生にお話したところ、「ほう、いいですね。どんどんやっちゃってください。」と、いつものにこやかな笑顔で背中を押していただいた(小島先生はいつもそうであった)。

ところが実際に案を詰めていくと、デザイン言語のときのようにはうまく実現できそうにないことがわかってきた。まず、政策を実際につくっているプロを講師として迎えることが難しい。これは、日本においては誰が政策デザインのプロなのかがよくわからないという問題でもある。そして、デザインの分野に比べて、その政策をつくることに関する根本原理・定石などがほとんど研究されていないという問題もあった。つまり、ルールやパターンとして、言語化がまったくされていないのである。こうして、カリキュラム改定にはとうてい盛り込むことができない、と判断せざるを得なかった。

それでも、その熱い思いは、現行カリキュラムにも一部実装されてはいる。創造実践科目群にある政策デザインワークショップ、外交政策ワークショップ、未来構想ワークショップなどである。これらのワークショップによって、「ワークショップの実践による学び」の部分は実現できたといえる。

しかし、もう一つの大切なポイントである「政策の言語」教育については実現できなかった。それが僕には「宿題」として残ってしまったといえる。早いもので、それからすでに5年が過ぎた。(時が経つのは本当に早い!)

そんな経緯もあり、今回、「政策言語」をつくるという第一歩が踏み出せたのは、本当によかったと感じてる。これは、まだほんの始まりに過ぎないが、ここから同僚の教員や学生たちと政策言語をつくっていくきっかけとなればと思う。

今回おつきあいいただいた竹中先生だけでなく、SFCには社会的実践があちこちのプロジェクトでなされている。それらの実践知を記述していけば、様々なレベル/ドメインの政策言語がつくれるはずである。そして、学外の賛同者や協力者とともに洗練し、導入実験し、整備していく。研究と教育と実践が一体となっているSFCらしいアプローチだと僕は思うが、どうだろうか?


「竹中平蔵×井庭崇 対談:「政策言語」の提案とプロトタイピング」連載 完
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