井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

パターン・ランゲージ3.0とは (新バージョンの説明)

僕は、パターン・ランゲージの進化を、「3つの波」で捉えている。ここで「波」と呼ぶのは、このパターン・ランゲージの進化が断絶的な移行を意味するのではなく、段階が進むごとに新しい特徴が加わっていく加算的な発展であるためである。

そして、これらの波それぞれに、便宜上の名前をつけている。アレグザンダーによって提案された建築分野でのパターン・ランゲージが「パターン・ランゲージ 1.0」、その後ソフトウェアの領域に輸入・展開されたときのものが「パターン・ランゲージ 2.0」、そして、人間活動のパターン・ランゲージが「パターン・ランゲージ 3.0」である。

この3つの波は、「デザインの対象」「デザインの特徴」「ランゲージの使い方」という3つの視点で比較することで、それぞれの特徴が明らかになる。

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1. デザインの対象

3つの波を捉える第一の視点は、「デザインの対象」である。まず、パターン・ランゲージ 1.0では、建築という「物理的なもの」がデザインの対象であった。

そして、パターン・ランゲージ 2.0では、ソフトウェアや組織という「非物理的なもの」が対象として加わった。

パターン・ランゲージ 3.0では、人間活動がその対象になっている。具体的には、学び、教育、プレゼンテーション、コラボレーション、組織変革、社会変革などである。

パターン・ランゲージ 3.0における最大の特徴は、デザインする対象(客体)がデザインする主体自身であるということである。パターン・ランゲージ 1.0やパターン・ランゲージ 2.0では、そのデザイン対象はあくまでもデザイン主体とは別のものであった。しかし、パターン・ランゲージ 3.0では、デザインの主体自身がデザインの対象となる。このことが「デザインの特徴」と「ランゲージの使い方」にも大きな影響を及ぼすことになる。


2. デザインの特徴

第二の視点は、「デザインの特徴」である。パターン・ランゲージ 1.0のデザインでは、建物や街をデザインする段階と、そこに住人が住むという段階を明確に区別することができる。つまり、デザインの事前と事後がはっきりしているのである。

もちろん、パターン・ランゲージを考案したクリストファー・アレグザンダーは、住人が建物や街を漸進的に育てる重要性を強調してはいた。しかし、建物や街という「物理的なもの」は、一度つくられてしまうと、それらを全面的につくりなおすことは極めて困難であるため、デザインの事前と事後には「切断」があると考えられる。

パターン・ランゲージ 2.0のデザインでは、デザインは断続的に繰り返される。ソフトウェアという「非物理的なもの」を、全面的につくりなおすことは、物理的なものと比較すれば、はるかに容易である。そのため、「バージョン・アップ」と「リリース」というかたちで何度もデザインのやり直しが発生する。このように、デザインは断続的に繰り返されることになる。

パターン・ランゲージ 3.0のデザインでは、継続的にデザインが行われる可能性がある。人間活動のデザインでは、1ヶ月毎でも、1週間毎でも、1日毎でも、デザインをして実践することができる。人間活動のデザインの場合には、自分で自分の行動をデザインすることになるので、デザインと実践はかなり密接につながり、その境界も曖昧になる。こうして、パターン・ランゲージ3.0では、継続的なデザインが可能となるのである。

このように、ひとえに「デザイン」といっても、パターン・ランゲージのそれぞれの波によって、時間のなかでの特徴はまったく異なるのである。


3. ランゲージの使い方

3つの波を捉える第三の視点は、「ランゲージの使い方」である。あまり認識されていないことだが、実はパターン・ランゲージ 1.0から 2.0に移るときに、パターン・ランゲージの使い方は大きく変わった。

アレグザンダーは、デザインする人(建築家)とその結果を享受するユーザー(住人)の橋渡しをするために、パターン・ランゲージを考案した。

しかし、パターン・ランゲージ 2.0になると、デザインする人(エンジニア)のなかで熟達者と非熟達者の差を埋めるために、パターン・ランゲージが使われるようになった。熟達者の技を学ぶために、パターン・ランゲージを読んで学ぶということが行われるようになったのである。そこには、デザイナーとユーザーのコラボレーションという視点はない。

このように、パターン・ランゲージ 1.0とパターン・ランゲージ 2.0は、使い方において大きな違いがあるのである。しかしながら、どちらの場合も、実践知の伝達がパターンによって目指されているという点では一致している。

これに対し、パターン・ランゲージ 3.0では、人々が暗黙的に持っている経験に光を当て、それを捉え直し、語ることを支援する「語りのメディア」もしくは「対話のメディア」として、パターン・ランゲージが使用される。

興味深いことに、この「語りのメディア」・「対話のメディア」としてのパターン・ランゲージは、熟達の度合いや経験の多少にかかわらず機能する。それぞれ経験しているパターンが異なるため、パターンを介してお互いの経験について語る機会が生じるのである。抽象的に書かれたパターンの具体的な経験談を集めることで、そのパターンの内容を深く理解し、今後自分が実践するときのことを想像することが容易になる。

このように、パターン・ランゲージ 3.0では、それぞれ異なる経験を持つ多様な人々(行為者)をつなぐために、パターン・ランゲージが使用される。なお、ここで「行為者」という言葉を用いたのは、パターン・ランゲージ3.0では、デザインの主体と客体が不可分になり、デザインする人と使う人という区分自体が曖昧になるためである。


井庭研では、これまで8年ほど、「パターン・ランゲージ3.0」(Pattern Language 3.0: PL3.0)にあたるパターン・ランゲージを何種類もつくってきた。それらが、建築やソフトウェアのパターン・ランゲージと共通する特徴を持ちながら、新しい側面ももっているのは、上記のような理由からだと考えている。
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