慶應義塾大学SFC大学院AP「ラディカル・スクール・デザイン」2019シラバス
「ラディカル・スクール・デザイン」(Radical School Design)
慶應義塾大学SFC大学院 政策・メディア研究科 ACADEMIC PROJECT
担当教員:井庭崇, 神保謙, 鈴木寛, 田中浩也, 玉村雅敏, 脇田玲, 矢作尚久, 藤井進也, (仲谷正史)
開講:2019年度秋学期 特定期間集中
単位:プロジェクト科目 1単位
【科目概要:主題と目標/授業の手法など】
「教育者は他のどのような職業人よりも、遠い将来を見定めることにかかわっている」- かつて、実践的な教育哲学者ジョン・デューイは、このように述べた。SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)は創設時から、未来を見据えたラディカルな教育改革を創造実践してきた。正しくも「実験キャンパス」と位置づけられたこのキャンパスで生まれた新しい仕組みは、他の大学を始めとする教育機関に広がってきた。
創立30周年を前に、私たちは再び、未来を見据えたラディカル(根源的かつ革新的)な学校・教育のあり方を構想し、先導的に進んでいくべきであると考える。このような問題意識のもと、本アカデミックプロジェクトでは、いわゆる教育研究ではなく、多様な視点でこれからの未来を想像し、それを見据えた大胆な発想の学校・教育のあり方・仕組みを模索・創造する。教員と学生のコラボレーションにより、これまでのSFCの延長でもなく、どこか海外にあるものの真似でもない、本当に新しいこれからの学校・教育のあり方を空想し、デザインし、実験し、表現することに取り組む。
* * *
今から30数年前、新しい学部をつくることを構想した石川 忠雄は、これからの教育について次のように考えていた。
「過去に経験のあることが起こるのならば、過去の経験によって処理をすればよろしいのですが、過去に経験のないようなことが起こってきますと、過去の経験だけで問題を処理することはできません。したがって、当然そこではものを考えることによって、その問題を処理し、打開していくという方策をとらざるを得なくなります。……… 知識は非常に大切ですが、それだけでは間に合いません。どうしても豊かな発想で問題を発見し、分析し、推理し、判断して、実行をすることが必要になります。……… 人間が経験のない新しい現象に対応する時に使う最も重要な能力であります、『ものを考える力』を強くするという教育をどうしてもしなければならないと思います」(石川 忠雄, 『未来を創るこころ』, 1998)
また、別のインタビューではSFCの意義について、次のように語っている。
「藤沢みたいなところのもともとの考え方は、従来の考え方とは違うんだよね。古い学問やるんなら三田に来てやったらいい。だけど、あそこでは新しいメソドロジーで学問を展開しようという野心があったんだな。」(石川 忠雄, 相田研究会制作「SFCキャンパス革命」, 2000)
総合政策学部初代学部長の加藤寛は、SFCのミッションを「知の再編成」とし、次のように述べている。
「藤沢キャンパスでは …… 近代西欧が生み出した、『観照の知』、『分析の知』にあえて挑戦し、主体と客体が互いに変化する中で、問題を発見し、解決し、デザインする、『行動の知』を追求するのである。」(加藤 寛, 『慶應湘南藤沢キャンパスの挑戦』, 1992)
2002年に書かれた「SFC21世紀グランドデザイン素案」においても、SFCの特徴として先端性と実験する精神が再確認されている。
「SFCは、そこで実践されることが研究であれ教育であれ、つねに『先端性』にいさぎよく徹することこそ、SFCの使命であると確信しています。『実験する精神』で未知の領域に果敢に挑戦することにこそ、SFCの使命があると思います。またかつてのように、あらゆる意味で境界が明確であった二〇世紀的社会では、学問的なディシプリンに典型的にみられるように、分化と統合という方法が妥当有効であったのでしょう。しかし、今すでに展開されつつあるすべての境界が曖昧なネットワーク環境にあっては、新しい方法への模索が開始されなければならないはずです。ここでは先端性と表裏の関係として、融合という方法が価値あるものだと思います。」(小島 朋之, 熊坂 賢次, 徳田 英幸,『未来を創る大学』, 2004 所収)
政策・メディア研究科の創設時(1994年)には、次のような目標も掲げられていたという。
「新大学院構想委員会に期待された基本的な目標は、『今後の変化する社会において、「社会変革と自己変革を連動させることのできる競争力のある個人」を生み出す』ことは、いかにして可能なのか、そしてそれを保証する制度としての新大学院とは何かを追求することだった。」(孫福 弘, 小島 朋之, 熊坂 賢次 編著, 『未来を創る大学』, 2004 所収)
そして、SFCについての本『未来を創る大学』では、次のような宣言が刻まれている。
「SFCはこれからも、『未来を創る大学』として挑戦し続ける。」(孫福 弘, 小島 朋之, 熊坂 賢次 編著,『未来を創る大学』, 2004)
* * *
それでは、このような先端性と実験する精神にもとづく、これからの教育とはどのようなものになるのだろうか?
本アカデミック・プロジェクトでは、これからの大学・学校・教育のあり方と仕組みについて、SFCを具体的ケースとして、大胆に構想し、実験しながら、実行可能な具体案としてつくり込むことに取り組む。
【本年度の詳細 研究項目・スケジュール】
学期中に何度か全体で集まる(いまのところ水曜日の夜を想定している)ほか、教員を含む小さなチームで活動をしていく。また、土曜日などに集中して発表・議論する場も設ける予定である。本アカデミック・プロジェクトは今学期からのスタートなので、ミーティングやプロジェクトのあり方・進め方・仕組みも、柔軟に創造的にアレンジしながら進めていきたい。
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
チームでのプロジェクト活動のプロセスおよび成果、他のチームへのフィードバックや議論などにより総合的に判断する。
【履修条件】
与えられるものから学ぶのではなく、小さなチームで活動して成果を生み出していくなかで学んでいくスタイルをとる。各自の積極的な参加・貢献が求められるので、そのことを理解した上で履修してほしい。
【履修上の注意】
初回ミーティングの時間・場所については、SFC-SFS経由で連絡するので、この科目を登録しておくこと。
【関連科目】
スチューデントビルドキャンパス(SBC)入門
スチューデントビルドキャンパス(SBC)実践
SFCスピリッツの創造
創造社会論
【教材・参考文献】
『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』(井庭 崇 編著, 鈴木 寛, 岩瀬 直樹, 今井 むつみ, 市川 力, 慶應義塾大学出版会, 2019)
『未来を創る大学:慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)挑戦の軌跡』(孫福 弘, 小島 朋之, 熊坂 賢次, 慶應義塾大学出版会, 2004)
『未来を創るこころ』(石川 忠雄, 慶應義塾大学出版会, 1998)
『慶應湘南藤沢キャンパスの挑戦:きみたちは未来からの留学生』(加藤 寛, 東洋経済新報社, 1992)
『教育改革論』(加藤 寛, 丸善, 1996)
「ディジタル・メディア時代における「知の原理」を探る: 知のStrategic Obscurantism」(井関 利明, 『メディアが変わる知が変わる:ネットワーク環境と知のコラボレーション』, 井上輝夫, 梅垣理郎 編, 有斐閣, 1998, p.3~40)
『社会科学をひらく』(イマニュエル・ウォーラーステイン+グルベンキアン委員会, 藤原書店, 1996)
『KEIO SFC REVIEW No.32-33合併号、特集:未来を創造せよ!- SFC新カリキュラムの全貌』(湘南藤沢学会, 2007)
『x‐DESIGN:未来をプロトタイピングするために』(山中 俊治, 脇田 玲, 田中 浩也 編著, 慶應義塾大学出版会, 2013)
「SFC Culture Language:SFC らしさを表す言葉たち」(井庭崇研究室, 2015) https://culture.sfc.keio.ac.jp
『教育の未来』(ジャン・ピアジェ, 法政大学出版局, 1982)
『経験と教育』(ジョン・デューイ, 講談社, 2004)
『民主主義と教育』(J・デューイ, 人間の科学新社, 2017)
『探求の共同体:考えるための教室』(マシュー・リップマン, 玉川大学出版部, 2014)
『川喜田二郎著作集 (第8巻) 移動大学の実験』(川喜田 二郎, 中央公論社, 1997)
『社会システム理論:不透明な社会を捉える知の技法』(井庭 崇 編著, 宮台 真司, 熊坂 賢次, 公文 俊平, 慶應義塾大学出版会, 2011)
『パターン・ランゲージ: 創造的な未来をつくるための言語』(井庭 崇 編著, 中埜 博, 江渡 浩一郎, 中西 泰人, 竹中 平蔵, 羽生田 栄一, 慶應義塾大学出版会, 2013)
『プロジェクト・デザイン・パターン:企画・プロデュース・新規事業に携わる人のための企画のコツ32』 (井庭 崇 , 梶原 文生, 翔泳社, 2016)
『創造性とは何か』(川喜田二郎, 詳伝社新書, 詳伝社, 2010)
『ハイ・コンセプト:「新しいこと」を考え出す人の時代』(ダニエル・ピンク, 三笠書房, 2006)
『独立国家のつくりかた』(坂口 恭平, 講談社現代新書, 講談社, 2012)
『民主主義のつくり方』(宇野 重規, 筑摩書房, 2013)
【連絡先】
rsd [at] sfc.keio.ac.jp ( [at] を@に置き換えてください)
慶應義塾大学SFC大学院 政策・メディア研究科 ACADEMIC PROJECT
担当教員:井庭崇, 神保謙, 鈴木寛, 田中浩也, 玉村雅敏, 脇田玲, 矢作尚久, 藤井進也, (仲谷正史)
開講:2019年度秋学期 特定期間集中
単位:プロジェクト科目 1単位
【科目概要:主題と目標/授業の手法など】
「教育者は他のどのような職業人よりも、遠い将来を見定めることにかかわっている」- かつて、実践的な教育哲学者ジョン・デューイは、このように述べた。SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)は創設時から、未来を見据えたラディカルな教育改革を創造実践してきた。正しくも「実験キャンパス」と位置づけられたこのキャンパスで生まれた新しい仕組みは、他の大学を始めとする教育機関に広がってきた。
創立30周年を前に、私たちは再び、未来を見据えたラディカル(根源的かつ革新的)な学校・教育のあり方を構想し、先導的に進んでいくべきであると考える。このような問題意識のもと、本アカデミックプロジェクトでは、いわゆる教育研究ではなく、多様な視点でこれからの未来を想像し、それを見据えた大胆な発想の学校・教育のあり方・仕組みを模索・創造する。教員と学生のコラボレーションにより、これまでのSFCの延長でもなく、どこか海外にあるものの真似でもない、本当に新しいこれからの学校・教育のあり方を空想し、デザインし、実験し、表現することに取り組む。
今から30数年前、新しい学部をつくることを構想した石川 忠雄は、これからの教育について次のように考えていた。
「過去に経験のあることが起こるのならば、過去の経験によって処理をすればよろしいのですが、過去に経験のないようなことが起こってきますと、過去の経験だけで問題を処理することはできません。したがって、当然そこではものを考えることによって、その問題を処理し、打開していくという方策をとらざるを得なくなります。……… 知識は非常に大切ですが、それだけでは間に合いません。どうしても豊かな発想で問題を発見し、分析し、推理し、判断して、実行をすることが必要になります。……… 人間が経験のない新しい現象に対応する時に使う最も重要な能力であります、『ものを考える力』を強くするという教育をどうしてもしなければならないと思います」(石川 忠雄, 『未来を創るこころ』, 1998)
また、別のインタビューではSFCの意義について、次のように語っている。
「藤沢みたいなところのもともとの考え方は、従来の考え方とは違うんだよね。古い学問やるんなら三田に来てやったらいい。だけど、あそこでは新しいメソドロジーで学問を展開しようという野心があったんだな。」(石川 忠雄, 相田研究会制作「SFCキャンパス革命」, 2000)
総合政策学部初代学部長の加藤寛は、SFCのミッションを「知の再編成」とし、次のように述べている。
「藤沢キャンパスでは …… 近代西欧が生み出した、『観照の知』、『分析の知』にあえて挑戦し、主体と客体が互いに変化する中で、問題を発見し、解決し、デザインする、『行動の知』を追求するのである。」(加藤 寛, 『慶應湘南藤沢キャンパスの挑戦』, 1992)
2002年に書かれた「SFC21世紀グランドデザイン素案」においても、SFCの特徴として先端性と実験する精神が再確認されている。
「SFCは、そこで実践されることが研究であれ教育であれ、つねに『先端性』にいさぎよく徹することこそ、SFCの使命であると確信しています。『実験する精神』で未知の領域に果敢に挑戦することにこそ、SFCの使命があると思います。またかつてのように、あらゆる意味で境界が明確であった二〇世紀的社会では、学問的なディシプリンに典型的にみられるように、分化と統合という方法が妥当有効であったのでしょう。しかし、今すでに展開されつつあるすべての境界が曖昧なネットワーク環境にあっては、新しい方法への模索が開始されなければならないはずです。ここでは先端性と表裏の関係として、融合という方法が価値あるものだと思います。」(小島 朋之, 熊坂 賢次, 徳田 英幸,『未来を創る大学』, 2004 所収)
政策・メディア研究科の創設時(1994年)には、次のような目標も掲げられていたという。
「新大学院構想委員会に期待された基本的な目標は、『今後の変化する社会において、「社会変革と自己変革を連動させることのできる競争力のある個人」を生み出す』ことは、いかにして可能なのか、そしてそれを保証する制度としての新大学院とは何かを追求することだった。」(孫福 弘, 小島 朋之, 熊坂 賢次 編著, 『未来を創る大学』, 2004 所収)
そして、SFCについての本『未来を創る大学』では、次のような宣言が刻まれている。
「SFCはこれからも、『未来を創る大学』として挑戦し続ける。」(孫福 弘, 小島 朋之, 熊坂 賢次 編著,『未来を創る大学』, 2004)
それでは、このような先端性と実験する精神にもとづく、これからの教育とはどのようなものになるのだろうか?
本アカデミック・プロジェクトでは、これからの大学・学校・教育のあり方と仕組みについて、SFCを具体的ケースとして、大胆に構想し、実験しながら、実行可能な具体案としてつくり込むことに取り組む。
【本年度の詳細 研究項目・スケジュール】
学期中に何度か全体で集まる(いまのところ水曜日の夜を想定している)ほか、教員を含む小さなチームで活動をしていく。また、土曜日などに集中して発表・議論する場も設ける予定である。本アカデミック・プロジェクトは今学期からのスタートなので、ミーティングやプロジェクトのあり方・進め方・仕組みも、柔軟に創造的にアレンジしながら進めていきたい。
【提出課題・試験・成績評価の方法など】
チームでのプロジェクト活動のプロセスおよび成果、他のチームへのフィードバックや議論などにより総合的に判断する。
【履修条件】
与えられるものから学ぶのではなく、小さなチームで活動して成果を生み出していくなかで学んでいくスタイルをとる。各自の積極的な参加・貢献が求められるので、そのことを理解した上で履修してほしい。
【履修上の注意】
【関連科目】
【教材・参考文献】
【連絡先】
rsd [at] sfc.keio.ac.jp ( [at] を@に置き換えてください)
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