井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

井庭研 新規メンバー募集「創造実践学研究:ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ」

iIbaLab2022fall.jpg

井庭研シラバス(2022年度秋学期)
「創造実践学研究:ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ」


井庭研究室では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」創造社会へのシフトを目指して、いろいろな領域でのよい実践の本質を捉えて言語化し、これから実践をしようとしている人々の支援をする研究に取り組んでいます。その研究活動に一緒に取り組む仲間を募集します。

現在、井庭研では、学部生15人、修士4人、博士7人で研究活動に取り組んでいます。日頃の井庭研の様子は、現役メンバーがつくってくれたこの映像(5分)"「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを研究している井庭研の日々はこんな感じ!" (https://youtu.be/jQKgVGrUvS8)を見てみてください。

ilab_movie.jpg

2022年度秋学期には、以下のプロジェクトが動く予定です。本シラバスに書いてある井庭研で目指していることや大切にしていることをよく理解した上で、エントリーしてください。

(1) 中学校でのクリエイティブ・ラーニングとパターン・ランゲージ実践研究
(2) 魅力的な組織の「よさ」「らしさ」の言語化と継承の実践研究
(3) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究(フィリピン)
(4) 創造を巻き起こす「ジェネレーター」のパターン・ランゲージの作成研究
(5) 成果を上げる組織におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(6) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケア研修の実践研究


■ 重要な日程
  • 井庭研説明会:7月20日(水)3・4限 @ τ12
    エントリーを考えている人は、できる限り参加してください。井庭研の概要説明のほか、現役メンバーと話す時間を設けます。
  • エントリー〆切:7月23日(土)23:59
  • 面接:7月25日(月)(キャンパスで対面で実施)
  • 春学期末発表会:7月28日(木) (キャンパスで対面で実施)
    秋にも続くプロジェクトの発表があるのと、井庭研でやっていることについて学ぶことができるので、都合をつけて、ぜひ参加してください。

8〜9月には、夏の特別研究プロジェクトを実施します。面接後、合格した新規メンバーも、夏の特別研究プロジェクトに履修参加することができます。特別研究プロジェクトのシラバス「実践の本質学:パターン・ランゲージのための現象学探究」http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid604.html )を見てみてください。


■ 未来ヴィジョン - ナチュラルにクリエイティブに生きる「創造社会」

井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについて、実践的に探究しています。暮らしや人生、仕事、教育、社会などの様々な領域における「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの本質を捉え、パターン・ランゲージのかたちで表現し、それを用いて人々の実践支援をする研究に取り組んでいます。見据えている未来は、一人ひとりがもつ自然な創造性(ナチュラル・クリエイティビティ)を活かして暮らし生きていく「創造社会」(Creative Society)です。

僕(井庭)は、ここ100年の変化を、「消費社会」から「情報社会」、そして「創造社会」という流れで見ています。消費社会においては、人々は家電や車など、物やサービスを購入し享受することが生活・人生の豊かさだとされていました。情報社会に入って、コミュニケーションに関心の重心がシフトし、よいコミュニケーションや関係性を持つことが生活・人生の豊かさを象徴するようになりました。そして、現在すでに一部で始まりつつある創造社会では、人々が自分たちで自分たちの使う物や考え、方法、仕組み、社会、あり方・生き方をつくり、どのくらい自分たちで「つくる」ことに関わっているのかが生活・人生の豊かさになっていくと考えられます。

自分たちで自分たちの物事をつくっていくということは、可能性に満ちた素敵なことですが、単にそれは素敵なことだから重要になるのではなく、社会の切実な面もあります。多様性と自由がますます認められるようになった社会においては、人々のニーズや課題を画一的なアプローチでは満たせなくなってきます。あちこちで生じている多様な問題は、どこかからヒーローがやってきてすべて解決してくれる、というようなことは起こり得なくなってしまいました。それゆえ、それぞれの人がそれぞれの立ち位置において、問題を解決し、よりよい未来をつくっていくことが不可欠になっているのです。しかも、地球温暖化のような人類・地球規模の難題もあり、世界中の人たちがそれぞれに工夫し、知恵を出し合い、創造的に取り組んでいく必要があります。「創造社会」というとき、そのような時代背景とスコープで捉えています。

「創造社会」を生きるというとき、テクノロジーにますますがんじがらめになり人工的な生を生きるという方向ではなく、よりナチュラルに人間的に生きていくという方向を、僕らは目指しています。そして、そのための道具立てとして実践の言語パターン・ランゲージ」をつくり、活かすことで、人々が「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを下支えする「ソフトな社会インフラ」をつくりたいと思っています。

情報社会において、コミュニケーションによる Social(人間関係的)な面が色濃く強化されてきました。そこでは、さまざまなメディア(SNSなど)を介して、いろいろな人とつながり、やりとりがされています。人は一人で生きているわけではなく、社会のなかで他者と協力・連携しながらともに生きていくことが不可欠なので、Socialな側面は必要ではあります。しかし現状では、社会的な役割や関係のなかで息苦しさを感じたり、コミュニケーションが過剰で疲弊したり傷つきやすくなったりしているように思います。これからの未来では、Socialな面ばかりでなく、NaturalやCreativeな面の重要性も上がり、Natural、Social、Creativeがバランスよく重なるような暮らし方・生き方が大切だと、僕らは考えています。

CreativeSociety.jpg

Natuarl-Social-Creative-diagram_blackboard.jpg


■ 自然な深い創造(natural deep creation)

井庭研では、何かを「つくる」という「創造」(creation)について、その本質を探究するとともに、各実践領域における実現方法について研究しています。

昨今、国内外で創造性(クリエイティビティ)の重要性が叫ばれ、「こうすればより創造的に考えることができる」というプロセスやテクニックが話題になっています。このような状況のなか、井庭研は、もっと深いレベルでの創造 --- 「自然な深い創造」(natural deep creation) --- にフォーカスしています。それは、人間が根源的に持っている力を活かした創造です。それは、ああする・こうするという「行為」というよりも、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で生起することに人間が関わる、というような創造です(このことを専門的に言うと、「中動態」で表されるべき創造だということになります。市川・井庭著の『ジェネレーター 』という本の第5章で論じているので、興味がある人は読んでみてください)。

それはまるで植物を育てるときのように、創造という出来事の成長に関わる・参加するというようなものです。そのとき、創造に関わる人(の潜在意識)は、植物が育つための「」のような役割をします。土があることで安定して成長することができるとともに、その土から得た栄養が成長を可能にします。このように、植物が育つように、つくっているものが「育つ」というのが、「自然な深い創造」(natural deep creation)の感覚です。そして、そういう創造が起きるとき、そこに関わる人たちの力んだ力は抜け、とても「自然(ナチュラル)」な状態になります。つくり手は、自分がつくっているものをコントロールしなければならないという意図や作為から解放され、いきいきとして、実感(フィーリング)を持ちながら参加することになります。これは、とても人間的な状態とも言えます。この意味での「自然な深い創造」に注目しています。

IbaLabKeyImage.002.jpeg
IbaLabKeyImage.007.jpeg

他方、自然環境の意味での「自然(ネイチャー)」の観点も大切にしています。上記のような「自然(ナチュラル)」な生成の状態は、人工的な環境よりも、自然環境に触れているようなときの方が発動されやすくなるためです。都市や人工物はすべて人の手による産物であり、その背後には、それをつくった人がいます。これに対し、自然環境は、まさに、人の手の範囲を超えて、「自然(ナチュラル)な」生成によって生まれ育ってきたものなのです。身近な「小さな自然」に触れたり、「大いなる自然」のなかに浸ったりすることで、人間はより「自然(ナチュラル)な」状態になりやすくなるのです。

以上見てきたように、井庭研でいう「自然(ナチュラル、ネイチャー)」には、「内なる自然」(inner nature)と言える生成的な面と、「外なる自然」(outer nature)と言える自然環境という(本来は表裏一体の)両方の意味が含まれている。そのような意味での「自然な深い創造」(natural deep creation)であり、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(natural & creative living)なのです。


■ 「自然な深い創造」の力を高めるための3つの領域

「自然な深い創造」の力を高めるためには、(1) 思考の概念装置(2) 想像の微生物(3) 生成の型という3つの領域のことが大切になります。

IbaLabKeyImage.002.jpeg

まず、(1) 思考の概念装置は、思考レベルでの認識や推論に関わるもので、いくつもの概念で構成される学説や理論というような「思考の道具」を揃え、使いこなせるようになることです。そのための典型的な方法は本を読むことで、そこで紹介されている概念装置を自分に取り込み、自分のなかで組み立て、うまく作動するように調整して体得することです。

かつて社会科学者の内田義彦は、思考の概念装置について、「組み立てながら、たえず自分の眼をはたらかせてその効果のほどを験してみながら、組み立て方・使い方を体得する」ことの重要性を強調しました。そうすることで、単に受け売りで振りかざすようなことではなく、さまざまな物事について深く認識し、自分でしっかりと考えることができるようになるのです。これは、意識(consciousness)上での出来事で、土のメタファーでは地表の上での装置の作用だと言えます。

次に、自分という土の中では、(2) 想像の微生物が、想像力(imagination)を豊かにするものとして働きます。私たちは日々暮らすなかで、いろいろな経験をし、感じます。それらのごく一部は記憶として取り出せるように保存されますが、ほとんどのものは、記憶の奥底に、つまり、「潜在意識」や「無意識」と言われる領域(subconsciousness)に溜まっていきます。そして、それらは小さな断片に解体され、熟成されます。土の中で微生物があらゆるものを分解・発酵させ土に変えていくように、あらゆる経験は分解・発酵され潜在意識の土に取り込まれていきます。そして、そうやって分解・発酵されたものは、将来何かを想像するときの素材・養分になります。

ファンタジー作家のミヒャエル・エンデは、「たいていのものは無意識の深みで、すっかり変形し、変容」すると言い、「そのように変容されたものは、とつぜんファンタジーや、アイディアや、イメージになって、私の前に現れます。言いかえれば、忘れて変容した記憶が多ければ多いだけ人格が豊かになる、ということです」と語っています。心理学者レフ・ヴィゴツキーも、「想像はいつも現実から与えられた素材によって成り立っています」と言い、「人間の過去経験が豊かであればあるほど、その人の想像に資する素材も多くなります」と述べています。そして、芸術的な創造でも、科学的な創造でも、技術的な創造でも、「想像力による創造活動は、人間の過去経験がどれだけ豊富で多様であるかに直接依存している」のだと述べました。このように、いろいろな経験が分解・発酵され、潜在意識の領域を豊かにするほど、想像力が豊かになり、創造への力となるのです。これが土の中で起きる微生物の働きによる作用です。

こうして、地上と地下のそれぞれの作用について見てきました。それぞれ異なる働きをしていて、どちらも創造的な実践(思考・行為)をするためには不可欠です。しかし、これらがバラバラにあるだけでは、その力はフルには発揮されません。地下で生み出される内なる力が、地上での動作にうまく連結されなければなりません。その要(かなめ)になるのが、(3) 生成の型です。

生成の型は、その種の実践における「押さえどころ」のことです。生成の型を身につけることで、地下の内発的な力を地上のパフォーマンスにうまく接続することができるようになります。ここで言う「型」というのは、武道や芸道で身につける「型」の意味での「型」です。それは、多様な生み出し方に共通する(いつも踏まえるべき)不変の押さえどころの意味です。実践者は自由に振る舞っているにもかかわらず、その生成の「型」を押さえているので、質の高いパフォーマンスが可能になります。これが、武道や芸道の「型」の意味です。

“型”という言葉には、もう一つ、別の意味があり、日常的にはそちらの方が想起されやすいでしょう。型のもう一つの意味とは、複製のための「鋳型」(いがた)のことです。たい焼きのプレートのようなものです。それは、同じ形のものをいくつも複製するために用いられます。「型抜きをする」「型にはめる」「型にはまる」という言い方で言われるときの“型”は、こちらの意味です。それは、テンプレートであり、鋳型のことです。これは、武道や芸道で言われる「型」とは、別物です。武道や芸道で言われる「型」には、同じものを複製するという意味やニュアンスはありません。生み出し方も結果も多様になるようになるからです。そこで、ここでは、「複製の鋳型」に対して、「生成の型」という言葉で表現しました。自然な深い創造を可能とする3つ目のポイントは、「生成の型」を踏まえるということです。

IbaLabKeyImage.003.jpeg
IbaLabKeyImage.006.jpeg

■ 生成の型を言語化して共有を促す「パターン・ランゲージ」

いま、「自然な深い創造」の力を高める3つの領域について見てきましたが、最初の(1)思考の概念装置は、深い読書によって手に入れ、自分で実際に試してみることで、身につけていくことができます。そして、(2)想像の微生物については、日々いろいろな経験を大切にし、感受性を研ぎ澄まし、感じることで豊かにしていくことができます。

これら2つに対し、(3) 生成の型は、少し工夫が必要です。その工夫として井庭研が取り組んでいるのは、生成の「型」を言語化して共有するというアプローチです。生成の「型」(パターン)を言語(ランゲージ)化するので、「パターン・ランゲージ」(pattern language)と呼ばれます。

パターン・ランゲージは、各領域における実践の「型」を言語化し、共有することで、他の人たちが身につけやすくします。すでに述べたとおり、生成の「型」は、多様な生み出し方に共通する(いつも踏まえるべき)不変の押さえどころです。それを文章で記述・説明するとともに、それを表す新しい言葉をつくります

この実践の「」を別の言い方で表すならば、実践の「コツ」と言えます。「コツ」の語源は「骨」(こつ)です。つまり、それは実践の軸のようなものであり、その実践がぐにゃぐにゃにならずに、実践がしっかりと「成り立つ」ための「骨」なのです。パターン・ランゲージでは、「コツ」(その実践を成り立たせる骨)を明文化し、それに名前をつけることで、「コツ」の共有・継承を支援するのです。

IbaLabKeyImage.008.jpeg

「型」や「コツ」の場合と同様に、パターン・ランゲージの記述では、ほどよい抽象化がなされている(「中空の言葉」になっている)ので、それぞれの実践者の状況に合わせて具体的なところをアレンジしたり、その人らしいやり方で行ったりすることができるようになっています(そのようにつくります)。

このように、井庭研では、生成の型を言語化して共有するパターン・ランゲージをいろいろな分野で作成し、その領域での実践者の支援をするということに取り組んでいます。ある分野のパターン・ランゲージがあることで、その分野での自然な深い創造を実現する実践を支えるのです。

参考までに、一昨年から昨年にかけて作成した、オンライン授業づくりについてのパターン・ランゲージ「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」を紹介しておきます。

note「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージの紹介」
https://note.com/iba/n/nf20418530d60

このパターン・ランゲージは、EdTechZineというWebマガジンで記事になっているので、そちらもよければ、見てみてください。

「最高のオンライン授業のつくり方」とは? 離れた世界をつなぐコツ【慶應義塾大学 井庭崇教授によるパターン・ランゲージ】前編
https://edtechzine.jp/article/detail/5392

新しい学びのかたちと学生の居場所をつくり、最高のオンライン授業を!【慶應義塾大学 井庭崇教授によるパターン・ランゲージ】後編
https://edtechzine.jp/article/detail/5423

Ojipat.png

パターン・ランゲージをつくるときには、すでによい質を生み出している人から、その実践において大切なことを聞き出し、その経験則(型)から、抽象化、体系化、言語化してつくっていきます。このようにつくられたパターン・ランゲージを用いると、うまく実践できていない人を助けたり、これから始める人の参考になったり、実践について語るための語彙・共通言語としてコミュニケーションの支援になったりします。このように、パターン・ランゲージは、社会の多くの人々を支えるメディアになるのです。

PL.jpg

■ パターン・ランゲージをつくるプロセスと方法論

井庭研では、これまで十数年間、パターン・ランゲージのつくり方をつくり、そのプロセスと方法論を洗練させてきました。実践に潜む「型」を捉えて、パターン・ランゲージとしてまとめるときには、その実践の本質を捉えて「抽象化」し、パターン間の関係性をつかんで「体系化」し、その本質と体系を踏まえて「言語化」します。具体事例をベースにパターンを捉え、その本質をつかむというときには、現象学における「本質観取」と同様のことを行っているということが、最近わかってきました。つまり、哲学と同様の深い思考・探究が必要だということです(そのため、2022年の夏に、現象学の本質観取についてしっかり学ぼうということになりました)。

また、パターン・ランゲージは、数十のパターンが相互に関係する体系(システム)をなしているのですが、その関係性を見定め、ひとつの体系として編み上げるときには、背後にある関係・構造を捉える構造主義的思考や、抽象的に捉えるシステム思考モデリングのセンスが求められます。そして、パターンを記述するときには、現象学の「本質記述」をするとともに、パターンの名前をつくるときには、本質を捉え、かつ魅力的な言葉になるようにつくり込んでいく必要があります。このように、パターン・ランゲージをつくるということは、高度な知性と豊かな感性を総動員してつくるということなのです。

PLCreationProcess.jpg


■ パターン・ランゲージは、歌の歌詞に似ている

パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論的記述なのではなく、読み手が「自分の状況に当てはまる」と思うこと、そして、そこで推奨されていることを魅力的だと思い、実際にやってみようと思うものになっている必要があります。物事の本質を捉えるとともに、心が動き、身体が動くような表現になっていることが求められるのです。僕は、これは、J-POPのようなポピュラー音楽の歌詞をつくることに似ていると思っています。

聴き手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで歌われていることを魅力的だと思い、自分の歌として口ずさんだり、カラオケで歌う、そういう歌の歌詞のようなものだと思うのです。実際、作詞を手掛けている人たちが、歌づくりで語っていることは、パターン・ランゲージの作成と共通すると感じることが多々あります。AメロやBメロでその状況における悩みや迷いが歌われ、それをどう捉えるかや乗り越えていくようなポジティブなメッセージがサビで提示されます。聴き手は、その歌を聴き、歌詞を受け取るなかで、元気をもらったり、勇気づけられたり、世界をポジティブに捉えることができるようになります。

パターン・ランゲージも、ある状況における問題から始まり、それを乗り越えていく方法が示されます。それは読み手の内側から「自分のことだ」「自分の近未来だ」と思うように書いていきます。読み手が実感をともなって、ありありとその内容をイメージできるようにつくるのです。歌とは異なり、音楽が持つ力を借りることはできません。しかしながら、うまくつくれば、読み手のペースで、自分のものとして内側からその人を温めるようなものになります。

実際、僕らがつくったパターン・ランゲージの読み手から、「背中を押してくれました」「元気をもらっています」「心の支えになっています」「お守りのような存在です」「これがあったから、なんとかやってこれました」という声をもらいます。そういう声を聴くたびに、まるで心から共感する大好きな「歌」のような存在だな、と思うのです。僕は、歌のつくり手たちの言うことにとても共感するのですが、僕らは実践者の話からパターン・ランゲージをつくるので、特に、小説などの原作を歌にするYOASOBIのAyaseさんの言うことはとても近く、通じるものがあると感じています。

YOASOBI.jpeg


パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、それを受け取る人のなかで流れ、内側から温める「歌」のような存在なのです。


■ 井庭研で「自然な深い創造」の力を身につける

井庭研では、(1)思考の概念装置(2)想像の微生物(3)生成の型について研究・発信するだけでなく、自分たちでも、それらを大切にし、実践しています。

(1) 思考の概念装置を獲得して使いこなせるようにする読書
井庭研では、たくさんの本を徹底的に読み込みます。創造やパターン・ランゲージに関する本はもちろん、哲学、文章術、研究方法論、教育や学習に関する本なども読みます。他には、プロジェクトごとに研究テーマにまつわる文献も読んでいきます。読んできてみんなで話し合う機会もつくりますが、多くは各自が自分で読み進めていきます。2022年度の夏休み期間も、特別研究プロジェクトで、エトムント・フッサールの現象学の本をみんなで読んでいきます(特別研究プロジェクトのシラバス「実践の本質学:パターン・ランゲージのための現象学探究」:http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid604.html )。

SummerBooks.jpg booktalk.jpg

(2) ナチュラルにクリエイティブな経験を積み、想像の微生物を豊かにする
井庭研では、研究室でのプロジェクト活動や話し合いのほかに、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの実践を積むことを大切にしています。例えば、研究テーマに関連する場に出かけて行き体験したり、美術館や展示会に足を運び、感性を豊かにしたりしています。また、井庭研の畑スペースを借りていて、「小さな農」として、畑で野菜を育てるという体験もしています。

Eishin1.jpg Eishin2.jpg
Hatake2.jpg Hatake4.jpg

また、Creativeの面では、プロジェクトで本格的な創造実践の経験を積み、自己成長し、創造の道を極めていきます。1年に1つのプロジェクトに参加し、それぞれの得意を持ち寄るコラボレーションによって個人の限界を超えることができるほか、学び合いや高め合いが起きます。このようにして、今の自分からアップグレードし続け、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」力を高めていくのです。

井庭研では、大学時代の数年間だけでなく、大学院へと進み、さらに井庭研での創造実践の経験を積んでいくことを推奨しています。実際、修士課程と博士課程まで続けて、自分を豊かにして力を養いながら、魅力的な研究・活動をしている人たちがいます。本当に力をつけ、その力を活かして生きていくためには、2、3年という修行時間では短すぎるのです。自分の人生をワクワクするものに育てていくためにも、井庭研で腰を据えて取り組み、力を蓄え、発揮できるようになっていくことをおすすめします。入る前からそこまで決める必要はありませんが(実際にやってみないとその面白さもわからないですし)、そのようなワクワクする未来もあり得るのだ、ということは知っておいてください。

project2021_r3.jpg Marketing-1.jpg
project2021_r2.jpg clustering.jpg


井庭研では、大学院生だけでなく学部生も、世界で初めての付加価値を生む、学術的な知のフロンティアを開拓する「研究」を行っているため、プロジェクトの研究成果は、英語で論文を書き、国際カンファレンスで発表します。北米やヨーロッパ、アジアで開催されるカンファレンスに参加し、海外の研究者や実務家たちと交流したり、井庭研の方法論や成果を用いたワークショップを実施したりします。このような点も、井庭研の特徴と言えるでしょう。

academicresearch.png

onlineedu_paper.jpg
PLoP_Canada.jpg EuroPLoP2021_gather.jpg
EuroPLoP2022_1.jpg EuroPLoP2022_2.jpg


(3) これまでつくってきたパターン・ランゲージを活かして生成の型を身につける
井庭研では、自分たちの実践をよりよいものにするように、これまでにつくったパターン・ランゲージを自分たちも徹底的に活用しています。創造的な学びのラーニング・パターン、探究・研究のための探究パターン、創造的読書の「Life with Reading」、チームワークのコラボレーション・パターン、創造的プレゼンテーションのプレゼンテーション・パターンなど、自分たちの活動や学びに直結するものをすでにつくっているので、それらを用いた対話によって、成長への道をひらきます。

patterncards1.jpg patterncards2.jpg
patterncards3.jpg patterncards4.jpg


■ 井庭研で取り組んでいる「新しい学問」

学問的に見たときに、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」や「自然な深い創造」、「創造社会」ということを考えるときに直球で答えてくれる学問分野は、現在ありません。そのため、既存の学問的枠組みや方法論を超えた「新しい学問」を構築しながら取り組むことが必要となります。井庭研では、新しい学問の土台をつくりながら、その上で具体的な研究を進め、そのことによってさらに土台が固まっていくというような、大胆で実験的なやり方で研究に取り組んでいます。その「新しい学問」を、僕は「創造実践学」「創造の哲学」「未来社会学」と名付けています。
IbaLabKeyImage.007.jpeg

創造実践学」(Studies on Creative Practice)は、私たちの暮らしや仕事・活動におけるさまざまな創造的な実践の本質を明らかにし、共有可能なかたちにしていく学問として構想されています。各領域の創造実践の本質を明らかにし、パターン・ランゲージとして表現して活用することが、その主力の研究方法となります。

創造の哲学」(Philosophy of Creation)は、創造とは何か、についての哲学的探究を行うものです。現象学の方法によって創造の本質を観取するとともに、プラグマティズムの哲学や東洋哲学などとの関係についても深めていきます。

未来社会学」(Future Sociology)は、ナチュラルでクリエイティブに生きる未来の社会のヴィジョンを描き、その内実を研究する未来志向の学問です。創造社会では社会の一つの機能システムとして「共創システム」というものが作動し、そこではパターン・ランゲージのメディアや、「ジェネレーター」という役割が重要になるというような、未来ヴィジョンの社会像を明らかにしていきます。

これらの三つの学問を構築するにあたり、僕たちはゼロからスタートするのではありません。これまでの人類のさまざまな知見・学問成果を踏まえながら、大胆に組み替え、読み替えながら、取り組んでいきます。哲学、社会学、人類学、認知科学、心理学、教育学、建築学、デザイン論、芸術論、美学、数学、文学、経営学、思想史などを必要に応じて縦横無尽に学び、取り入れていきます。その意味で、いろいろな学問領域を横断し、それらを超越して研究するという「超領域的」(トランス・ディシプリナリー:trans-disciplinary)な営みとなります。しかも、西洋の学問だけでなく、東洋哲学・思想とも積極的に関わり、西洋と東洋の知を融合させたこれからの学問をつくっていこうとしています。とてもSFCらしい、ユニークな学問のアプローチだと思います。

academicfieldmap.jpg


■ 現役メンバーからのひとことメッセージ

いま井庭研にいる学部生と大学院生(の一部)から、その人から見た井庭研や関わりについて、また、興味をもってくれているみなさんにひとことメッセージをもらいました。

「井庭研はかなり忙しい研究会ですが、その代わりに社会の役に立つことを本気で研究できます何かを「つくる」ことは本当に苦しく、ずーっと悩んでしまうような時間もありますが、必ず発見は起こるし、自分自身の成長もあります!一緒に井庭研で研究しませんか?」(4年生)

「私は、創造性を研究したいと考え、先生の考え方に共感して井庭研に入りました。先輩後輩で活発に意見交換が交わされるような場は、なかなか出会えない経験です。自分のしたいことがここにある人は、必ず実りある楽しい時間を過ごせることと思います!」(2年生)

SFCに入ってよかった! 井庭研に入ってそう思いました。」(4年生)

「私は1年秋学期にとった井庭先生の授業がきっかけで、2年春学期に井庭研に入りました。井庭研は、何に対しても目を輝かせながら楽しそうに取り組む人が多いとても暖かい場所です。「つくる」ことにとことん向き合える井庭研で、一緒に充実した時間を過ごしませんか?」(2年生)

「私は、授業を通して井庭研を知り、入りました学びの領域に広がりがあるところが大好きです。」(3年生)

「別の研究会、SFC外での活動を経て、3年生の夏の特別研究プロジェクトから井庭研究室に入りました。入った当初は、議論されている内容のレベルの高さと量に圧倒されましたが、先生や先輩たち、同期、後輩に支えられながら、学んでいくことの楽しさにどんどんとはまっていきました井庭研が楽しすぎて、現在は修士に進学し、研究活動に没頭しております。入って2年が経ちますが、たくさんの本に触れ、みんなで議論をして、研究活動に取り組み、知的に楽しい時間を過ごすなかで身につけた様々な概念は、かけがえのないものとなっております。」(修士1年)

「私は他の研究会の雰囲気などもある程度知った上で、井庭研を選びました。そんな自分から見ても、研究やどんなことであっても面白がる人が多い、そんな気がします。研究熱心であり、学びも共有する。驚くくらいに自分自身もこの数ヶ月ですが、変わってきました。目の前に自分にできる事があったら積極的に取りに行くと、沢山ものにできると思います!!」(3年生)

「私は体育会のテニス部に所属しながら井庭研での活動に取り組んでいます。高校時代までは勉強よりもスポーツを好んでいましたが、井庭研に入り、学ぶことの楽しさを知ることができました。これは一生の財産であると感じています。課外活動との両立は大変なこともありますが、モチベーションの高い仲間に支えられ、楽しく続けられています。」(4年生)

「2年生のころ、サークルとの両立が不安だな...と思いながら入った井庭研でした。正直大変だと感じることもありましたが、先生や他の井庭研メンバーに支えられながら、今も研究活動を続けて来られています。プロジェクトでは膝を突き合わせて、どんな未来をこの研究からつくっていけるのかをみんなで話したり、一つひとつのイベントを全力で設計したり、時には研究会後にみんなでご飯に行ってお互いにお疲れ様って言い合ったり、卒業単位が取れればいいや、ではなく、本気でここで創造していきたいと思わせてくれるような研究会だと感じています。まだやりたいことが明確じゃないとか両立が不安...という人も、「いいな」と心動く瞬間があったなら、ぜひ一緒に研究してみませんか?」(4年生)

「井庭研に入って、約3年。井庭研に出会えたおかげで、私は大きく変わりました。例えば、本に対する姿勢。読書感想文の時に読む本以外で、自分から本に手を伸ばしたことがなかった私が、今では、時間があれば本を読むレベルに読みたい本がありすぎて追いついていないくらいのレベルになっています。また、高校の時に行った「課題研究」によって「研究」に対して毛嫌いがありましたが、井庭研のメンバーがつら楽しそうに「研究」に向き合っている姿を近くで感じていたら、気付いたら自分も「研究」に面白さを感じ、修士という道を決めたほどに魅了されていました。さらに、大学に入りたての頃は、「自然」からかけ離れた暮らしをしており、「自然が好き!」とあまり思ったこともなかったが、井庭先生や井庭研にジェネレートされてしまったおかげで、今では、周りの友達から、「私=自然が好きな人」ということになっています。ここに書いたのはほんの一部ですが、私にとって井庭研は、新しい世界を見せてくれる場所であり、今まで逃げてきたものから向き合い直してくれる場所であり、そういえば昔から好きだったなあと潜在的な部分に気づくきっかけを与えてくれる場所です!」(4年生)

「私は、3年生の春学期に井庭研に入り、もともとそんなつもりはなかったけれど、気づいたら修士に進学して、井庭研で研究しています。それでも全然飽きないどころか知的好奇心は高まるばかりです。それくらい、いろんなテーマの研究をしています。プロジェクト活動(研究)も学期末発表会もそのほかのイベントも、全力で一からつくります一人ではできないような、たどり着けないようなところまでいける面白さがあります!」(修士1年)

「私は3年生の春に井庭研に入り1年半。なんでこの場にもっと早く出会えなかったのかと後悔する日々です。井庭研は、日々知的好奇心にワクワクしながら本気で研究に向き合える場であり、私という一人の人間を一切否定することなく真正面から向き合ってくれるメンバーと研究することでまだ見ぬ私に出会えたり、成長できるきっかけを与えてくれる場です。このシラバスを読んで少しでも私たちの考えへの関心・この場所が素敵だと思っていただけると嬉しいです、そしてそんな方は私のように「この場にもっと早く出会いたかった」と後悔ないようぜひ一緒に研究をしましょう!」(4年生)

「僕は、この研究会に入らなくても、それはそれで毎日を楽しく過ごせていたと思います。ですが、井庭研に入ったことで「こんな楽しさもあるんだ!」といろんなことに気づき、世界がこれまでの何百倍も面白くなりました。井庭研には、井庭研にしかない面白い取り組み本気で「つくる」機会自分が成長できるチャンスがいくらでもあります。あなたも、今より世界を楽しむために井庭研に入りませんか?」(3年生)

「井庭研は比較的忙しい研究会と言われています。でも、あたたかくて面白くて、高めあえる仲間がいます。先輩、後輩、同期、そして先生。一緒にたくさんの時間をともに過ごし、笑ったり泣いたりしながら、一人ではたどりつくこともできなかったであろう世界を知り、広げていく経験は、すごく貴重で、ワクワクするものです。井庭研で扱うこと(内容)の知識はゼロから始まる人がほとんどですが、最高のコラボレーションをしてみたい人、そのために貢献しようと動いてくれる人、ウェルカムです!ぜひ一度遊びに来てみてください!」(修士1年)


■ 2022年秋学期のプロジェクト

井庭研では、日々どっぷりと浸かって一緒に活動に取り組むことを大切にしています。

全員で集まる時間は、 水曜の3限から夜までのプロジェクト活動の時間と、木曜の4限から夜までの全体ミーティング(ゼミ)の時間です。その時間は、全員での《まとまった時間》としているので、この時間は、授業や他の予定を入れないようにしてください。

2022年度秋学期には、以下のプロジェクトが動く予定です。井庭研のメンバーは、どれかひとつのプロジェクトに参加し、研究に取り組みます。 各プロジェクトは、複数人で構成され、成果を生み出すためのチームとして、ともに助け合い、高め合い、学び合いながら、研究に取り組みます。どのプロジェクトも若干名の募集となりますが、新規メンバーを募集します。

(1) 中学校でのクリエイティブ・ラーニングとパターン・ランゲージ実践研究
(2) 魅力的な組織の「よさ」「らしさ」の言語化と継承の実践研究
(3) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究(フィリピン)
(4) 創造を巻き起こす「ジェネレーター」のパターン・ランゲージの作成研究
(5) 成果を上げる組織におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(6) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケア研修の実践研究

以下、各プロジェクトの概要です。

(1) 中学校でのクリエイティブ・ラーニングとパターン・ランゲージ実践研究【新規プロジェクト】
本プロジェクトでは、実際に中学生と関わるような活動もしながら、中学校での学びにおけるクリエイティブ・ラーニングとはどのようなものなのかについて考えていきます。具体的には、中学生のクラスをフィールドとし、「彼らの将来の可能性を拡げる」ことや、「楽しみながらいきいきと探究する学習」を、パターン・ランゲージを使ってどのように本質的に、実現できるかを、文献などもあたりながら探究し、模索していくプロジェクトです。例えば、「自分が知りたいことを探究する支援」のひとつとして、中学生とのパターン・ランゲージ作成なども視野に入れています。

(2)魅力的な組織の「よさ」「らしさ」の言語化と継承の実践研究【新規プロジェクト】
研究会やサークルなど数十人規模の組織において、メンバーが卒業したり新しく入ってきたりしていっても、その組織らしさが続いていくためには、どうしたらよいでしょうか? 本プロジェクトでは、井庭研とアカペラシンガーズK.O.E.(SFCにあるアカペラサークル)を対象に、よい仕組みや実践について、パターン・ランゲージの形式で言語化していきます。具体的には、OB・OGや現役メンバーと対話しながら、その組織で大切にされていることとその意義を、事例を踏まえながら言語化していきます。また、そうした「らしさ」がこれまでどのように継承されてきたのかを、メンバーの語りから分析していきます。

(3) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究【春学期からの継続】
本プロジェクトでは、これまで井庭研でつくってきた、仕事、教育、暮らし、生き方などのさまざまな分野のパターン・ランゲージを、国内外の諸地域の人々のエンパワーに活かしていくことを試みます。例えば、フィリピンの若者の支援として、現地の関係者や支援者と協力し合いながら、これまで井庭研でつくってきたパターンのなかから重要なパターンのセットをつくり、現地語で提供し、活用するための伴走を行います(パターン・ランゲージ・リミックスと伴走型支援)。また、現地でのロールモデルとなるような人たちの実践からパターン・ランゲージを作成し、現地の人たちの暮らしや生き方の参考になるものを作成します。このような研究・実践のなかで、人々のケイパビリティ(潜在能力)を高める、新しい開発援助(発達・発展の支援)のかたちを構築していきます。

(4) 創造を巻き起こす「ジェネレーター」のパターン・ランゲージの作成研究【春学期からの継続】
ジェネレーターは、ともにつくり、発見とコミュニケーションの生成・連鎖を誘発する存在です。これからの創造社会では、知識・スキルを教えたり、話し合いを促すという役割だけでなく、一緒につくることに参加して創造を巻きおこすジェネレーターが重要になります。しかし、ジェネレーターは、単なるスキルではなく、あり方であり生き方でもあります。そのため、他のジェネレーターがやっている振る舞いを単に真似るだけでは、ジェネレーターにはなれません。それでは、ジェネレーターにおいては何が大切なのでしょうか。本プロジェクトは、そのようなジェネレーターの秘密に迫る研究に取り組んでいます。本プロジェクトは、一般社団法人みつかる+わかる の「We are Generators!」との共同研究です。

(5) 成果を上げる組織におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究【春学期からの継続】
本プロジェクトでは、しっかりと成果を追求する企業組織において、Well-doing(よい成果を上げる)とともに、Well-being(幸福、健康)な状態をどうしたら維持できるのかについて研究しています。企業の社員へのインタビューからパターン・ランゲージを作成し、組織におけるWell-beingの向上を目指します。本プロジェクトは、楽天グループ株式会社との共同研究です。

(6) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究【春学期からの継続】
すでにある競争のなかで、いかにパイを取るかということではなく、新しい商品・サービスで新しい市場を生み出すときのマーケティングはいかに行えばよいのか。本研究では、広告業界での経験が豊かな共同研究者とともに、市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成に取り組んでいます。

このほか、井庭研では、(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケア研修の実践研究にも取り組んでいます。今年出版した『ともに生きることば:高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』等を活用し、実際に介護施設等で、対話や実践支援による新しいアプローチの研修を実施していきます。この領域に特に強い関心をもっている人向けのプロジェクトです。


【履修条件】

  • 井庭研をファースト・プライオリティにおいて活動できること。
  • じっくり取り組む時間の調整・確保を自らでき、研究・活動・勉強に徹底的に取り組むことができること。
  • 「知的・創造的なコミュニティ」としての研究会を、与えられたものとしてではなく、一緒につくっていく意志があること。


    【その他・留意事項】

  • 現1年生のエントリーを歓迎します。長く一緒に研究・活動して経験を積み重ねることで、理解が深まり力がつくので、その後、より活躍できるようになります。そのため、井庭研では早い時期からの履修・参加を推奨しています(逆に、3年生後半や4年生からは、大学院進学を前提としている場合などを除き、原則として受け入れていません)。

  • GIGA生や海外経験のある人、留学生を歓迎しています。井庭研では、日本語での成果をつくるとともに、英語で論文を書いて国際学会で発表したり、海外の大学やカンファレンスでワークショップを実施したりしています。日本語以外の言語を扱えることは、活躍・貢献のチャンスが大きく高まります。ぜひ、力を貸してください。


    【評価方法】

    研究会の成績評価は、日頃の研究・実践活動への貢献度や成長の観点から総合的に評価します。


    【エントリー課題】

    このシラバスをよく読んだ上で、期日までに、[1] エントリーシート[2] 文献課題[3] パターン課題 の3つを、それぞれ別々のPDFファイルで提出してください(ファイル名に自分の名前を入れるようにしてください)。

  • エントリー〆切:7月23日(土)23:59

    エントリー課題の提出先:https://forms.gle/BxERHgZDfaXXrzLW7

    なお、7月20日(水)3・4限 τ12(大学院棟タウ12)教室で、井庭研説明会を行うので、できる限り参加してください。井庭研の概要説明のほか、現役メンバーと話す時間を設けます。

    [1] エントリーシート
    タイトル:井庭研(2022秋)履修エントリー

    1. 名前(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名, 顔写真 (写真はスナップ写真等で構いません)
    2. 自己紹介と日頃の興味・関心(イメージしやすいように、適宜、写真などを入れてください)
    3. 井庭研への志望理由
    4. この研究会シラバスを読んで、強く惹かれたところや共感・共鳴したところと、その理由・考えたこと
    5. 参加したいプロジェクト(複数ある場合は、第一希望など、明示してください)
    6. 持っているスキル/得意なこと(グラフィックス・デザイン, 映像編集, 外国語, プログラミング, 音楽, その他)
    7. これまでに履修した井庭担当の授業(あれば)
    8. これまでに履修した授業のなかでお気に入りのもの、所属した研究会など(複数可)
    9. 日々の生活のなかで取り組んでいるサークル、学内外での活動・仕事・アルバイトなど

    [2] 文献課題
    井庭研での創造・研究に直球で関係がある以下の本のうち、1冊以上読んでみて、自分にとって面白いと感じたところについて、それがどこかということと、どのように面白いと感じたのかを書いてください(A4で1〜3ページ程度)。僕の授業で読んだ人も、改めてざっと読み直してみてください。


    [3] パターン課題
    井庭研に入ったら自分もつくることになる「パターン・ランゲージ」が実際どのようなもので、どのような質感を持つものなのかを実感してもらうために、パターンの記述に触れてもらいたいと思います。次の2冊のうちのどちらかのパターン・ランゲージ本を読み、感じたことを書いてください。その上で、どれか一つ、気に入ったパターンの文章とイラストをノート等に手書きで書き写しながら、その内容・表現の質感を、つくり手の内側の立ち位置で感じてください。その手書きを写真に撮ったものを掲載し、さらに、パターンを書き写したときの気づきや感想も書いてください(この[3]の全部でA4で2〜3ページ程度:パターンの書き写し部分のみ写真に撮り、それ以外の部分はパソコンでテキスト入力で作成してください)。


    handcopy1.jpg handcopy2.jpg

    エントリーや井庭研でのことについて、何か質問があれば、ilab-entry[at]sfc.keio.ac.jp([at]を@に変えてください)まで、メールをください。

    7月25日(月)に面接(キャンパスで対面で実施)を行う予定です。詳細の日時については、エントリー〆切後にメールで連絡します。面接には、現役メンバーも同席します(そのため、エントリー課題は担当教員以外も閲覧します)。


    【教材・参考文献】

    井庭研でやっていること・目指していることを知るための本として、わかりやすいのは次の7冊です。最初の3冊は考え方について語っていて、次の3冊はパターン・ランゲージの実例です。そして、最後の1冊は、創造社会とはどういうことかが、自分たちの暮らし方を自分たちでつくるという事例で感じられるものです。



    Juku2012Summer_IbaLab.png
    慶應義塾の広報誌「塾」第311号(2021年夏号)「半学半教」
  • 井庭研だより | - | -
    CATEGORIES
    NEW ENTRIES
    RECOMMEND
    ARCHIVES
    PROFILE
    OTHER