井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

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井庭研 新規メンバー募集「創造実践学研究:ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ」

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井庭研シラバス(2022年度秋学期)
「創造実践学研究:ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ」


井庭研究室では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」創造社会へのシフトを目指して、いろいろな領域でのよい実践の本質を捉えて言語化し、これから実践をしようとしている人々の支援をする研究に取り組んでいます。その研究活動に一緒に取り組む仲間を募集します。

現在、井庭研では、学部生15人、修士4人、博士7人で研究活動に取り組んでいます。日頃の井庭研の様子は、現役メンバーがつくってくれたこの映像(5分)"「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを研究している井庭研の日々はこんな感じ!" (https://youtu.be/jQKgVGrUvS8)を見てみてください。

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2022年度秋学期には、以下のプロジェクトが動く予定です。本シラバスに書いてある井庭研で目指していることや大切にしていることをよく理解した上で、エントリーしてください。

(1) 中学校でのクリエイティブ・ラーニングとパターン・ランゲージ実践研究
(2) 魅力的な組織の「よさ」「らしさ」の言語化と継承の実践研究
(3) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究(フィリピン)
(4) 創造を巻き起こす「ジェネレーター」のパターン・ランゲージの作成研究
(5) 成果を上げる組織におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(6) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケア研修の実践研究


■ 重要な日程
  • 井庭研説明会:7月20日(水)3・4限 @ τ12
    エントリーを考えている人は、できる限り参加してください。井庭研の概要説明のほか、現役メンバーと話す時間を設けます。
  • エントリー〆切:7月23日(土)23:59
  • 面接:7月25日(月)(キャンパスで対面で実施)
  • 春学期末発表会:7月28日(木) (キャンパスで対面で実施)
    秋にも続くプロジェクトの発表があるのと、井庭研でやっていることについて学ぶことができるので、都合をつけて、ぜひ参加してください。

8〜9月には、夏の特別研究プロジェクトを実施します。面接後、合格した新規メンバーも、夏の特別研究プロジェクトに履修参加することができます。特別研究プロジェクトのシラバス「実践の本質学:パターン・ランゲージのための現象学探究」http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid604.html )を見てみてください。


■ 未来ヴィジョン - ナチュラルにクリエイティブに生きる「創造社会」

井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについて、実践的に探究しています。暮らしや人生、仕事、教育、社会などの様々な領域における「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの本質を捉え、パターン・ランゲージのかたちで表現し、それを用いて人々の実践支援をする研究に取り組んでいます。見据えている未来は、一人ひとりがもつ自然な創造性(ナチュラル・クリエイティビティ)を活かして暮らし生きていく「創造社会」(Creative Society)です。

僕(井庭)は、ここ100年の変化を、「消費社会」から「情報社会」、そして「創造社会」という流れで見ています。消費社会においては、人々は家電や車など、物やサービスを購入し享受することが生活・人生の豊かさだとされていました。情報社会に入って、コミュニケーションに関心の重心がシフトし、よいコミュニケーションや関係性を持つことが生活・人生の豊かさを象徴するようになりました。そして、現在すでに一部で始まりつつある創造社会では、人々が自分たちで自分たちの使う物や考え、方法、仕組み、社会、あり方・生き方をつくり、どのくらい自分たちで「つくる」ことに関わっているのかが生活・人生の豊かさになっていくと考えられます。

自分たちで自分たちの物事をつくっていくということは、可能性に満ちた素敵なことですが、単にそれは素敵なことだから重要になるのではなく、社会の切実な面もあります。多様性と自由がますます認められるようになった社会においては、人々のニーズや課題を画一的なアプローチでは満たせなくなってきます。あちこちで生じている多様な問題は、どこかからヒーローがやってきてすべて解決してくれる、というようなことは起こり得なくなってしまいました。それゆえ、それぞれの人がそれぞれの立ち位置において、問題を解決し、よりよい未来をつくっていくことが不可欠になっているのです。しかも、地球温暖化のような人類・地球規模の難題もあり、世界中の人たちがそれぞれに工夫し、知恵を出し合い、創造的に取り組んでいく必要があります。「創造社会」というとき、そのような時代背景とスコープで捉えています。

「創造社会」を生きるというとき、テクノロジーにますますがんじがらめになり人工的な生を生きるという方向ではなく、よりナチュラルに人間的に生きていくという方向を、僕らは目指しています。そして、そのための道具立てとして実践の言語パターン・ランゲージ」をつくり、活かすことで、人々が「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを下支えする「ソフトな社会インフラ」をつくりたいと思っています。

情報社会において、コミュニケーションによる Social(人間関係的)な面が色濃く強化されてきました。そこでは、さまざまなメディア(SNSなど)を介して、いろいろな人とつながり、やりとりがされています。人は一人で生きているわけではなく、社会のなかで他者と協力・連携しながらともに生きていくことが不可欠なので、Socialな側面は必要ではあります。しかし現状では、社会的な役割や関係のなかで息苦しさを感じたり、コミュニケーションが過剰で疲弊したり傷つきやすくなったりしているように思います。これからの未来では、Socialな面ばかりでなく、NaturalやCreativeな面の重要性も上がり、Natural、Social、Creativeがバランスよく重なるような暮らし方・生き方が大切だと、僕らは考えています。

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■ 自然な深い創造(natural deep creation)

井庭研では、何かを「つくる」という「創造」(creation)について、その本質を探究するとともに、各実践領域における実現方法について研究しています。

昨今、国内外で創造性(クリエイティビティ)の重要性が叫ばれ、「こうすればより創造的に考えることができる」というプロセスやテクニックが話題になっています。このような状況のなか、井庭研は、もっと深いレベルでの創造 --- 「自然な深い創造」(natural deep creation) --- にフォーカスしています。それは、人間が根源的に持っている力を活かした創造です。それは、ああする・こうするという「行為」というよりも、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で生起することに人間が関わる、というような創造です(このことを専門的に言うと、「中動態」で表されるべき創造だということになります。市川・井庭著の『ジェネレーター 』という本の第5章で論じているので、興味がある人は読んでみてください)。

それはまるで植物を育てるときのように、創造という出来事の成長に関わる・参加するというようなものです。そのとき、創造に関わる人(の潜在意識)は、植物が育つための「」のような役割をします。土があることで安定して成長することができるとともに、その土から得た栄養が成長を可能にします。このように、植物が育つように、つくっているものが「育つ」というのが、「自然な深い創造」(natural deep creation)の感覚です。そして、そういう創造が起きるとき、そこに関わる人たちの力んだ力は抜け、とても「自然(ナチュラル)」な状態になります。つくり手は、自分がつくっているものをコントロールしなければならないという意図や作為から解放され、いきいきとして、実感(フィーリング)を持ちながら参加することになります。これは、とても人間的な状態とも言えます。この意味での「自然な深い創造」に注目しています。

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他方、自然環境の意味での「自然(ネイチャー)」の観点も大切にしています。上記のような「自然(ナチュラル)」な生成の状態は、人工的な環境よりも、自然環境に触れているようなときの方が発動されやすくなるためです。都市や人工物はすべて人の手による産物であり、その背後には、それをつくった人がいます。これに対し、自然環境は、まさに、人の手の範囲を超えて、「自然(ナチュラル)な」生成によって生まれ育ってきたものなのです。身近な「小さな自然」に触れたり、「大いなる自然」のなかに浸ったりすることで、人間はより「自然(ナチュラル)な」状態になりやすくなるのです。

以上見てきたように、井庭研でいう「自然(ナチュラル、ネイチャー)」には、「内なる自然」(inner nature)と言える生成的な面と、「外なる自然」(outer nature)と言える自然環境という(本来は表裏一体の)両方の意味が含まれている。そのような意味での「自然な深い創造」(natural deep creation)であり、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(natural & creative living)なのです。


■ 「自然な深い創造」の力を高めるための3つの領域

「自然な深い創造」の力を高めるためには、(1) 思考の概念装置(2) 想像の微生物(3) 生成の型という3つの領域のことが大切になります。

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まず、(1) 思考の概念装置は、思考レベルでの認識や推論に関わるもので、いくつもの概念で構成される学説や理論というような「思考の道具」を揃え、使いこなせるようになることです。そのための典型的な方法は本を読むことで、そこで紹介されている概念装置を自分に取り込み、自分のなかで組み立て、うまく作動するように調整して体得することです。

かつて社会科学者の内田義彦は、思考の概念装置について、「組み立てながら、たえず自分の眼をはたらかせてその効果のほどを験してみながら、組み立て方・使い方を体得する」ことの重要性を強調しました。そうすることで、単に受け売りで振りかざすようなことではなく、さまざまな物事について深く認識し、自分でしっかりと考えることができるようになるのです。これは、意識(consciousness)上での出来事で、土のメタファーでは地表の上での装置の作用だと言えます。

次に、自分という土の中では、(2) 想像の微生物が、想像力(imagination)を豊かにするものとして働きます。私たちは日々暮らすなかで、いろいろな経験をし、感じます。それらのごく一部は記憶として取り出せるように保存されますが、ほとんどのものは、記憶の奥底に、つまり、「潜在意識」や「無意識」と言われる領域(subconsciousness)に溜まっていきます。そして、それらは小さな断片に解体され、熟成されます。土の中で微生物があらゆるものを分解・発酵させ土に変えていくように、あらゆる経験は分解・発酵され潜在意識の土に取り込まれていきます。そして、そうやって分解・発酵されたものは、将来何かを想像するときの素材・養分になります。

ファンタジー作家のミヒャエル・エンデは、「たいていのものは無意識の深みで、すっかり変形し、変容」すると言い、「そのように変容されたものは、とつぜんファンタジーや、アイディアや、イメージになって、私の前に現れます。言いかえれば、忘れて変容した記憶が多ければ多いだけ人格が豊かになる、ということです」と語っています。心理学者レフ・ヴィゴツキーも、「想像はいつも現実から与えられた素材によって成り立っています」と言い、「人間の過去経験が豊かであればあるほど、その人の想像に資する素材も多くなります」と述べています。そして、芸術的な創造でも、科学的な創造でも、技術的な創造でも、「想像力による創造活動は、人間の過去経験がどれだけ豊富で多様であるかに直接依存している」のだと述べました。このように、いろいろな経験が分解・発酵され、潜在意識の領域を豊かにするほど、想像力が豊かになり、創造への力となるのです。これが土の中で起きる微生物の働きによる作用です。

こうして、地上と地下のそれぞれの作用について見てきました。それぞれ異なる働きをしていて、どちらも創造的な実践(思考・行為)をするためには不可欠です。しかし、これらがバラバラにあるだけでは、その力はフルには発揮されません。地下で生み出される内なる力が、地上での動作にうまく連結されなければなりません。その要(かなめ)になるのが、(3) 生成の型です。

生成の型は、その種の実践における「押さえどころ」のことです。生成の型を身につけることで、地下の内発的な力を地上のパフォーマンスにうまく接続することができるようになります。ここで言う「型」というのは、武道や芸道で身につける「型」の意味での「型」です。それは、多様な生み出し方に共通する(いつも踏まえるべき)不変の押さえどころの意味です。実践者は自由に振る舞っているにもかかわらず、その生成の「型」を押さえているので、質の高いパフォーマンスが可能になります。これが、武道や芸道の「型」の意味です。

“型”という言葉には、もう一つ、別の意味があり、日常的にはそちらの方が想起されやすいでしょう。型のもう一つの意味とは、複製のための「鋳型」(いがた)のことです。たい焼きのプレートのようなものです。それは、同じ形のものをいくつも複製するために用いられます。「型抜きをする」「型にはめる」「型にはまる」という言い方で言われるときの“型”は、こちらの意味です。それは、テンプレートであり、鋳型のことです。これは、武道や芸道で言われる「型」とは、別物です。武道や芸道で言われる「型」には、同じものを複製するという意味やニュアンスはありません。生み出し方も結果も多様になるようになるからです。そこで、ここでは、「複製の鋳型」に対して、「生成の型」という言葉で表現しました。自然な深い創造を可能とする3つ目のポイントは、「生成の型」を踏まえるということです。

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■ 生成の型を言語化して共有を促す「パターン・ランゲージ」

いま、「自然な深い創造」の力を高める3つの領域について見てきましたが、最初の(1)思考の概念装置は、深い読書によって手に入れ、自分で実際に試してみることで、身につけていくことができます。そして、(2)想像の微生物については、日々いろいろな経験を大切にし、感受性を研ぎ澄まし、感じることで豊かにしていくことができます。

これら2つに対し、(3) 生成の型は、少し工夫が必要です。その工夫として井庭研が取り組んでいるのは、生成の「型」を言語化して共有するというアプローチです。生成の「型」(パターン)を言語(ランゲージ)化するので、「パターン・ランゲージ」(pattern language)と呼ばれます。

パターン・ランゲージは、各領域における実践の「型」を言語化し、共有することで、他の人たちが身につけやすくします。すでに述べたとおり、生成の「型」は、多様な生み出し方に共通する(いつも踏まえるべき)不変の押さえどころです。それを文章で記述・説明するとともに、それを表す新しい言葉をつくります

この実践の「」を別の言い方で表すならば、実践の「コツ」と言えます。「コツ」の語源は「骨」(こつ)です。つまり、それは実践の軸のようなものであり、その実践がぐにゃぐにゃにならずに、実践がしっかりと「成り立つ」ための「骨」なのです。パターン・ランゲージでは、「コツ」(その実践を成り立たせる骨)を明文化し、それに名前をつけることで、「コツ」の共有・継承を支援するのです。

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「型」や「コツ」の場合と同様に、パターン・ランゲージの記述では、ほどよい抽象化がなされている(「中空の言葉」になっている)ので、それぞれの実践者の状況に合わせて具体的なところをアレンジしたり、その人らしいやり方で行ったりすることができるようになっています(そのようにつくります)。

このように、井庭研では、生成の型を言語化して共有するパターン・ランゲージをいろいろな分野で作成し、その領域での実践者の支援をするということに取り組んでいます。ある分野のパターン・ランゲージがあることで、その分野での自然な深い創造を実現する実践を支えるのです。

参考までに、一昨年から昨年にかけて作成した、オンライン授業づくりについてのパターン・ランゲージ「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」を紹介しておきます。

note「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージの紹介」
https://note.com/iba/n/nf20418530d60

このパターン・ランゲージは、EdTechZineというWebマガジンで記事になっているので、そちらもよければ、見てみてください。

「最高のオンライン授業のつくり方」とは? 離れた世界をつなぐコツ【慶應義塾大学 井庭崇教授によるパターン・ランゲージ】前編
https://edtechzine.jp/article/detail/5392

新しい学びのかたちと学生の居場所をつくり、最高のオンライン授業を!【慶應義塾大学 井庭崇教授によるパターン・ランゲージ】後編
https://edtechzine.jp/article/detail/5423

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パターン・ランゲージをつくるときには、すでによい質を生み出している人から、その実践において大切なことを聞き出し、その経験則(型)から、抽象化、体系化、言語化してつくっていきます。このようにつくられたパターン・ランゲージを用いると、うまく実践できていない人を助けたり、これから始める人の参考になったり、実践について語るための語彙・共通言語としてコミュニケーションの支援になったりします。このように、パターン・ランゲージは、社会の多くの人々を支えるメディアになるのです。

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■ パターン・ランゲージをつくるプロセスと方法論

井庭研では、これまで十数年間、パターン・ランゲージのつくり方をつくり、そのプロセスと方法論を洗練させてきました。実践に潜む「型」を捉えて、パターン・ランゲージとしてまとめるときには、その実践の本質を捉えて「抽象化」し、パターン間の関係性をつかんで「体系化」し、その本質と体系を踏まえて「言語化」します。具体事例をベースにパターンを捉え、その本質をつかむというときには、現象学における「本質観取」と同様のことを行っているということが、最近わかってきました。つまり、哲学と同様の深い思考・探究が必要だということです(そのため、2022年の夏に、現象学の本質観取についてしっかり学ぼうということになりました)。

また、パターン・ランゲージは、数十のパターンが相互に関係する体系(システム)をなしているのですが、その関係性を見定め、ひとつの体系として編み上げるときには、背後にある関係・構造を捉える構造主義的思考や、抽象的に捉えるシステム思考モデリングのセンスが求められます。そして、パターンを記述するときには、現象学の「本質記述」をするとともに、パターンの名前をつくるときには、本質を捉え、かつ魅力的な言葉になるようにつくり込んでいく必要があります。このように、パターン・ランゲージをつくるということは、高度な知性と豊かな感性を総動員してつくるということなのです。

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■ パターン・ランゲージは、歌の歌詞に似ている

パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論的記述なのではなく、読み手が「自分の状況に当てはまる」と思うこと、そして、そこで推奨されていることを魅力的だと思い、実際にやってみようと思うものになっている必要があります。物事の本質を捉えるとともに、心が動き、身体が動くような表現になっていることが求められるのです。僕は、これは、J-POPのようなポピュラー音楽の歌詞をつくることに似ていると思っています。

聴き手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで歌われていることを魅力的だと思い、自分の歌として口ずさんだり、カラオケで歌う、そういう歌の歌詞のようなものだと思うのです。実際、作詞を手掛けている人たちが、歌づくりで語っていることは、パターン・ランゲージの作成と共通すると感じることが多々あります。AメロやBメロでその状況における悩みや迷いが歌われ、それをどう捉えるかや乗り越えていくようなポジティブなメッセージがサビで提示されます。聴き手は、その歌を聴き、歌詞を受け取るなかで、元気をもらったり、勇気づけられたり、世界をポジティブに捉えることができるようになります。

パターン・ランゲージも、ある状況における問題から始まり、それを乗り越えていく方法が示されます。それは読み手の内側から「自分のことだ」「自分の近未来だ」と思うように書いていきます。読み手が実感をともなって、ありありとその内容をイメージできるようにつくるのです。歌とは異なり、音楽が持つ力を借りることはできません。しかしながら、うまくつくれば、読み手のペースで、自分のものとして内側からその人を温めるようなものになります。

実際、僕らがつくったパターン・ランゲージの読み手から、「背中を押してくれました」「元気をもらっています」「心の支えになっています」「お守りのような存在です」「これがあったから、なんとかやってこれました」という声をもらいます。そういう声を聴くたびに、まるで心から共感する大好きな「歌」のような存在だな、と思うのです。僕は、歌のつくり手たちの言うことにとても共感するのですが、僕らは実践者の話からパターン・ランゲージをつくるので、特に、小説などの原作を歌にするYOASOBIのAyaseさんの言うことはとても近く、通じるものがあると感じています。

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パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、それを受け取る人のなかで流れ、内側から温める「歌」のような存在なのです。


■ 井庭研で「自然な深い創造」の力を身につける

井庭研では、(1)思考の概念装置(2)想像の微生物(3)生成の型について研究・発信するだけでなく、自分たちでも、それらを大切にし、実践しています。

(1) 思考の概念装置を獲得して使いこなせるようにする読書
井庭研では、たくさんの本を徹底的に読み込みます。創造やパターン・ランゲージに関する本はもちろん、哲学、文章術、研究方法論、教育や学習に関する本なども読みます。他には、プロジェクトごとに研究テーマにまつわる文献も読んでいきます。読んできてみんなで話し合う機会もつくりますが、多くは各自が自分で読み進めていきます。2022年度の夏休み期間も、特別研究プロジェクトで、エトムント・フッサールの現象学の本をみんなで読んでいきます(特別研究プロジェクトのシラバス「実践の本質学:パターン・ランゲージのための現象学探究」:http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/sb/log/eid604.html )。

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(2) ナチュラルにクリエイティブな経験を積み、想像の微生物を豊かにする
井庭研では、研究室でのプロジェクト活動や話し合いのほかに、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの実践を積むことを大切にしています。例えば、研究テーマに関連する場に出かけて行き体験したり、美術館や展示会に足を運び、感性を豊かにしたりしています。また、井庭研の畑スペースを借りていて、「小さな農」として、畑で野菜を育てるという体験もしています。

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また、Creativeの面では、プロジェクトで本格的な創造実践の経験を積み、自己成長し、創造の道を極めていきます。1年に1つのプロジェクトに参加し、それぞれの得意を持ち寄るコラボレーションによって個人の限界を超えることができるほか、学び合いや高め合いが起きます。このようにして、今の自分からアップグレードし続け、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」力を高めていくのです。

井庭研では、大学時代の数年間だけでなく、大学院へと進み、さらに井庭研での創造実践の経験を積んでいくことを推奨しています。実際、修士課程と博士課程まで続けて、自分を豊かにして力を養いながら、魅力的な研究・活動をしている人たちがいます。本当に力をつけ、その力を活かして生きていくためには、2、3年という修行時間では短すぎるのです。自分の人生をワクワクするものに育てていくためにも、井庭研で腰を据えて取り組み、力を蓄え、発揮できるようになっていくことをおすすめします。入る前からそこまで決める必要はありませんが(実際にやってみないとその面白さもわからないですし)、そのようなワクワクする未来もあり得るのだ、ということは知っておいてください。

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井庭研では、大学院生だけでなく学部生も、世界で初めての付加価値を生む、学術的な知のフロンティアを開拓する「研究」を行っているため、プロジェクトの研究成果は、英語で論文を書き、国際カンファレンスで発表します。北米やヨーロッパ、アジアで開催されるカンファレンスに参加し、海外の研究者や実務家たちと交流したり、井庭研の方法論や成果を用いたワークショップを実施したりします。このような点も、井庭研の特徴と言えるでしょう。

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(3) これまでつくってきたパターン・ランゲージを活かして生成の型を身につける
井庭研では、自分たちの実践をよりよいものにするように、これまでにつくったパターン・ランゲージを自分たちも徹底的に活用しています。創造的な学びのラーニング・パターン、探究・研究のための探究パターン、創造的読書の「Life with Reading」、チームワークのコラボレーション・パターン、創造的プレゼンテーションのプレゼンテーション・パターンなど、自分たちの活動や学びに直結するものをすでにつくっているので、それらを用いた対話によって、成長への道をひらきます。

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■ 井庭研で取り組んでいる「新しい学問」

学問的に見たときに、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」や「自然な深い創造」、「創造社会」ということを考えるときに直球で答えてくれる学問分野は、現在ありません。そのため、既存の学問的枠組みや方法論を超えた「新しい学問」を構築しながら取り組むことが必要となります。井庭研では、新しい学問の土台をつくりながら、その上で具体的な研究を進め、そのことによってさらに土台が固まっていくというような、大胆で実験的なやり方で研究に取り組んでいます。その「新しい学問」を、僕は「創造実践学」「創造の哲学」「未来社会学」と名付けています。
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創造実践学」(Studies on Creative Practice)は、私たちの暮らしや仕事・活動におけるさまざまな創造的な実践の本質を明らかにし、共有可能なかたちにしていく学問として構想されています。各領域の創造実践の本質を明らかにし、パターン・ランゲージとして表現して活用することが、その主力の研究方法となります。

創造の哲学」(Philosophy of Creation)は、創造とは何か、についての哲学的探究を行うものです。現象学の方法によって創造の本質を観取するとともに、プラグマティズムの哲学や東洋哲学などとの関係についても深めていきます。

未来社会学」(Future Sociology)は、ナチュラルでクリエイティブに生きる未来の社会のヴィジョンを描き、その内実を研究する未来志向の学問です。創造社会では社会の一つの機能システムとして「共創システム」というものが作動し、そこではパターン・ランゲージのメディアや、「ジェネレーター」という役割が重要になるというような、未来ヴィジョンの社会像を明らかにしていきます。

これらの三つの学問を構築するにあたり、僕たちはゼロからスタートするのではありません。これまでの人類のさまざまな知見・学問成果を踏まえながら、大胆に組み替え、読み替えながら、取り組んでいきます。哲学、社会学、人類学、認知科学、心理学、教育学、建築学、デザイン論、芸術論、美学、数学、文学、経営学、思想史などを必要に応じて縦横無尽に学び、取り入れていきます。その意味で、いろいろな学問領域を横断し、それらを超越して研究するという「超領域的」(トランス・ディシプリナリー:trans-disciplinary)な営みとなります。しかも、西洋の学問だけでなく、東洋哲学・思想とも積極的に関わり、西洋と東洋の知を融合させたこれからの学問をつくっていこうとしています。とてもSFCらしい、ユニークな学問のアプローチだと思います。

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■ 現役メンバーからのひとことメッセージ

いま井庭研にいる学部生と大学院生(の一部)から、その人から見た井庭研や関わりについて、また、興味をもってくれているみなさんにひとことメッセージをもらいました。

「井庭研はかなり忙しい研究会ですが、その代わりに社会の役に立つことを本気で研究できます何かを「つくる」ことは本当に苦しく、ずーっと悩んでしまうような時間もありますが、必ず発見は起こるし、自分自身の成長もあります!一緒に井庭研で研究しませんか?」(4年生)

「私は、創造性を研究したいと考え、先生の考え方に共感して井庭研に入りました。先輩後輩で活発に意見交換が交わされるような場は、なかなか出会えない経験です。自分のしたいことがここにある人は、必ず実りある楽しい時間を過ごせることと思います!」(2年生)

SFCに入ってよかった! 井庭研に入ってそう思いました。」(4年生)

「私は1年秋学期にとった井庭先生の授業がきっかけで、2年春学期に井庭研に入りました。井庭研は、何に対しても目を輝かせながら楽しそうに取り組む人が多いとても暖かい場所です。「つくる」ことにとことん向き合える井庭研で、一緒に充実した時間を過ごしませんか?」(2年生)

「私は、授業を通して井庭研を知り、入りました学びの領域に広がりがあるところが大好きです。」(3年生)

「別の研究会、SFC外での活動を経て、3年生の夏の特別研究プロジェクトから井庭研究室に入りました。入った当初は、議論されている内容のレベルの高さと量に圧倒されましたが、先生や先輩たち、同期、後輩に支えられながら、学んでいくことの楽しさにどんどんとはまっていきました井庭研が楽しすぎて、現在は修士に進学し、研究活動に没頭しております。入って2年が経ちますが、たくさんの本に触れ、みんなで議論をして、研究活動に取り組み、知的に楽しい時間を過ごすなかで身につけた様々な概念は、かけがえのないものとなっております。」(修士1年)

「私は他の研究会の雰囲気などもある程度知った上で、井庭研を選びました。そんな自分から見ても、研究やどんなことであっても面白がる人が多い、そんな気がします。研究熱心であり、学びも共有する。驚くくらいに自分自身もこの数ヶ月ですが、変わってきました。目の前に自分にできる事があったら積極的に取りに行くと、沢山ものにできると思います!!」(3年生)

「私は体育会のテニス部に所属しながら井庭研での活動に取り組んでいます。高校時代までは勉強よりもスポーツを好んでいましたが、井庭研に入り、学ぶことの楽しさを知ることができました。これは一生の財産であると感じています。課外活動との両立は大変なこともありますが、モチベーションの高い仲間に支えられ、楽しく続けられています。」(4年生)

「2年生のころ、サークルとの両立が不安だな...と思いながら入った井庭研でした。正直大変だと感じることもありましたが、先生や他の井庭研メンバーに支えられながら、今も研究活動を続けて来られています。プロジェクトでは膝を突き合わせて、どんな未来をこの研究からつくっていけるのかをみんなで話したり、一つひとつのイベントを全力で設計したり、時には研究会後にみんなでご飯に行ってお互いにお疲れ様って言い合ったり、卒業単位が取れればいいや、ではなく、本気でここで創造していきたいと思わせてくれるような研究会だと感じています。まだやりたいことが明確じゃないとか両立が不安...という人も、「いいな」と心動く瞬間があったなら、ぜひ一緒に研究してみませんか?」(4年生)

「井庭研に入って、約3年。井庭研に出会えたおかげで、私は大きく変わりました。例えば、本に対する姿勢。読書感想文の時に読む本以外で、自分から本に手を伸ばしたことがなかった私が、今では、時間があれば本を読むレベルに読みたい本がありすぎて追いついていないくらいのレベルになっています。また、高校の時に行った「課題研究」によって「研究」に対して毛嫌いがありましたが、井庭研のメンバーがつら楽しそうに「研究」に向き合っている姿を近くで感じていたら、気付いたら自分も「研究」に面白さを感じ、修士という道を決めたほどに魅了されていました。さらに、大学に入りたての頃は、「自然」からかけ離れた暮らしをしており、「自然が好き!」とあまり思ったこともなかったが、井庭先生や井庭研にジェネレートされてしまったおかげで、今では、周りの友達から、「私=自然が好きな人」ということになっています。ここに書いたのはほんの一部ですが、私にとって井庭研は、新しい世界を見せてくれる場所であり、今まで逃げてきたものから向き合い直してくれる場所であり、そういえば昔から好きだったなあと潜在的な部分に気づくきっかけを与えてくれる場所です!」(4年生)

「私は、3年生の春学期に井庭研に入り、もともとそんなつもりはなかったけれど、気づいたら修士に進学して、井庭研で研究しています。それでも全然飽きないどころか知的好奇心は高まるばかりです。それくらい、いろんなテーマの研究をしています。プロジェクト活動(研究)も学期末発表会もそのほかのイベントも、全力で一からつくります一人ではできないような、たどり着けないようなところまでいける面白さがあります!」(修士1年)

「私は3年生の春に井庭研に入り1年半。なんでこの場にもっと早く出会えなかったのかと後悔する日々です。井庭研は、日々知的好奇心にワクワクしながら本気で研究に向き合える場であり、私という一人の人間を一切否定することなく真正面から向き合ってくれるメンバーと研究することでまだ見ぬ私に出会えたり、成長できるきっかけを与えてくれる場です。このシラバスを読んで少しでも私たちの考えへの関心・この場所が素敵だと思っていただけると嬉しいです、そしてそんな方は私のように「この場にもっと早く出会いたかった」と後悔ないようぜひ一緒に研究をしましょう!」(4年生)

「僕は、この研究会に入らなくても、それはそれで毎日を楽しく過ごせていたと思います。ですが、井庭研に入ったことで「こんな楽しさもあるんだ!」といろんなことに気づき、世界がこれまでの何百倍も面白くなりました。井庭研には、井庭研にしかない面白い取り組み本気で「つくる」機会自分が成長できるチャンスがいくらでもあります。あなたも、今より世界を楽しむために井庭研に入りませんか?」(3年生)

「井庭研は比較的忙しい研究会と言われています。でも、あたたかくて面白くて、高めあえる仲間がいます。先輩、後輩、同期、そして先生。一緒にたくさんの時間をともに過ごし、笑ったり泣いたりしながら、一人ではたどりつくこともできなかったであろう世界を知り、広げていく経験は、すごく貴重で、ワクワクするものです。井庭研で扱うこと(内容)の知識はゼロから始まる人がほとんどですが、最高のコラボレーションをしてみたい人、そのために貢献しようと動いてくれる人、ウェルカムです!ぜひ一度遊びに来てみてください!」(修士1年)


■ 2022年秋学期のプロジェクト

井庭研では、日々どっぷりと浸かって一緒に活動に取り組むことを大切にしています。

全員で集まる時間は、 水曜の3限から夜までのプロジェクト活動の時間と、木曜の4限から夜までの全体ミーティング(ゼミ)の時間です。その時間は、全員での《まとまった時間》としているので、この時間は、授業や他の予定を入れないようにしてください。

2022年度秋学期には、以下のプロジェクトが動く予定です。井庭研のメンバーは、どれかひとつのプロジェクトに参加し、研究に取り組みます。 各プロジェクトは、複数人で構成され、成果を生み出すためのチームとして、ともに助け合い、高め合い、学び合いながら、研究に取り組みます。どのプロジェクトも若干名の募集となりますが、新規メンバーを募集します。

(1) 中学校でのクリエイティブ・ラーニングとパターン・ランゲージ実践研究
(2) 魅力的な組織の「よさ」「らしさ」の言語化と継承の実践研究
(3) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究(フィリピン)
(4) 創造を巻き起こす「ジェネレーター」のパターン・ランゲージの作成研究
(5) 成果を上げる組織におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
(6) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケア研修の実践研究

以下、各プロジェクトの概要です。

(1) 中学校でのクリエイティブ・ラーニングとパターン・ランゲージ実践研究【新規プロジェクト】
本プロジェクトでは、実際に中学生と関わるような活動もしながら、中学校での学びにおけるクリエイティブ・ラーニングとはどのようなものなのかについて考えていきます。具体的には、中学生のクラスをフィールドとし、「彼らの将来の可能性を拡げる」ことや、「楽しみながらいきいきと探究する学習」を、パターン・ランゲージを使ってどのように本質的に、実現できるかを、文献などもあたりながら探究し、模索していくプロジェクトです。例えば、「自分が知りたいことを探究する支援」のひとつとして、中学生とのパターン・ランゲージ作成なども視野に入れています。

(2)魅力的な組織の「よさ」「らしさ」の言語化と継承の実践研究【新規プロジェクト】
研究会やサークルなど数十人規模の組織において、メンバーが卒業したり新しく入ってきたりしていっても、その組織らしさが続いていくためには、どうしたらよいでしょうか? 本プロジェクトでは、井庭研とアカペラシンガーズK.O.E.(SFCにあるアカペラサークル)を対象に、よい仕組みや実践について、パターン・ランゲージの形式で言語化していきます。具体的には、OB・OGや現役メンバーと対話しながら、その組織で大切にされていることとその意義を、事例を踏まえながら言語化していきます。また、そうした「らしさ」がこれまでどのように継承されてきたのかを、メンバーの語りから分析していきます。

(3) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究【春学期からの継続】
本プロジェクトでは、これまで井庭研でつくってきた、仕事、教育、暮らし、生き方などのさまざまな分野のパターン・ランゲージを、国内外の諸地域の人々のエンパワーに活かしていくことを試みます。例えば、フィリピンの若者の支援として、現地の関係者や支援者と協力し合いながら、これまで井庭研でつくってきたパターンのなかから重要なパターンのセットをつくり、現地語で提供し、活用するための伴走を行います(パターン・ランゲージ・リミックスと伴走型支援)。また、現地でのロールモデルとなるような人たちの実践からパターン・ランゲージを作成し、現地の人たちの暮らしや生き方の参考になるものを作成します。このような研究・実践のなかで、人々のケイパビリティ(潜在能力)を高める、新しい開発援助(発達・発展の支援)のかたちを構築していきます。

(4) 創造を巻き起こす「ジェネレーター」のパターン・ランゲージの作成研究【春学期からの継続】
ジェネレーターは、ともにつくり、発見とコミュニケーションの生成・連鎖を誘発する存在です。これからの創造社会では、知識・スキルを教えたり、話し合いを促すという役割だけでなく、一緒につくることに参加して創造を巻きおこすジェネレーターが重要になります。しかし、ジェネレーターは、単なるスキルではなく、あり方であり生き方でもあります。そのため、他のジェネレーターがやっている振る舞いを単に真似るだけでは、ジェネレーターにはなれません。それでは、ジェネレーターにおいては何が大切なのでしょうか。本プロジェクトは、そのようなジェネレーターの秘密に迫る研究に取り組んでいます。本プロジェクトは、一般社団法人みつかる+わかる の「We are Generators!」との共同研究です。

(5) 成果を上げる組織におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究【春学期からの継続】
本プロジェクトでは、しっかりと成果を追求する企業組織において、Well-doing(よい成果を上げる)とともに、Well-being(幸福、健康)な状態をどうしたら維持できるのかについて研究しています。企業の社員へのインタビューからパターン・ランゲージを作成し、組織におけるWell-beingの向上を目指します。本プロジェクトは、楽天グループ株式会社との共同研究です。

(6) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究【春学期からの継続】
すでにある競争のなかで、いかにパイを取るかということではなく、新しい商品・サービスで新しい市場を生み出すときのマーケティングはいかに行えばよいのか。本研究では、広告業界での経験が豊かな共同研究者とともに、市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成に取り組んでいます。

このほか、井庭研では、(7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケア研修の実践研究にも取り組んでいます。今年出版した『ともに生きることば:高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』等を活用し、実際に介護施設等で、対話や実践支援による新しいアプローチの研修を実施していきます。この領域に特に強い関心をもっている人向けのプロジェクトです。


【履修条件】

  • 井庭研をファースト・プライオリティにおいて活動できること。
  • じっくり取り組む時間の調整・確保を自らでき、研究・活動・勉強に徹底的に取り組むことができること。
  • 「知的・創造的なコミュニティ」としての研究会を、与えられたものとしてではなく、一緒につくっていく意志があること。


    【その他・留意事項】

  • 現1年生のエントリーを歓迎します。長く一緒に研究・活動して経験を積み重ねることで、理解が深まり力がつくので、その後、より活躍できるようになります。そのため、井庭研では早い時期からの履修・参加を推奨しています(逆に、3年生後半や4年生からは、大学院進学を前提としている場合などを除き、原則として受け入れていません)。

  • GIGA生や海外経験のある人、留学生を歓迎しています。井庭研では、日本語での成果をつくるとともに、英語で論文を書いて国際学会で発表したり、海外の大学やカンファレンスでワークショップを実施したりしています。日本語以外の言語を扱えることは、活躍・貢献のチャンスが大きく高まります。ぜひ、力を貸してください。


    【評価方法】

    研究会の成績評価は、日頃の研究・実践活動への貢献度や成長の観点から総合的に評価します。


    【エントリー課題】

    このシラバスをよく読んだ上で、期日までに、[1] エントリーシート[2] 文献課題[3] パターン課題 の3つを、それぞれ別々のPDFファイルで提出してください(ファイル名に自分の名前を入れるようにしてください)。

  • エントリー〆切:7月23日(土)23:59

    エントリー課題の提出先:https://forms.gle/BxERHgZDfaXXrzLW7

    なお、7月20日(水)3・4限 τ12(大学院棟タウ12)教室で、井庭研説明会を行うので、できる限り参加してください。井庭研の概要説明のほか、現役メンバーと話す時間を設けます。

    [1] エントリーシート
    タイトル:井庭研(2022秋)履修エントリー

    1. 名前(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名, 顔写真 (写真はスナップ写真等で構いません)
    2. 自己紹介と日頃の興味・関心(イメージしやすいように、適宜、写真などを入れてください)
    3. 井庭研への志望理由
    4. この研究会シラバスを読んで、強く惹かれたところや共感・共鳴したところと、その理由・考えたこと
    5. 参加したいプロジェクト(複数ある場合は、第一希望など、明示してください)
    6. 持っているスキル/得意なこと(グラフィックス・デザイン, 映像編集, 外国語, プログラミング, 音楽, その他)
    7. これまでに履修した井庭担当の授業(あれば)
    8. これまでに履修した授業のなかでお気に入りのもの、所属した研究会など(複数可)
    9. 日々の生活のなかで取り組んでいるサークル、学内外での活動・仕事・アルバイトなど

    [2] 文献課題
    井庭研での創造・研究に直球で関係がある以下の本のうち、1冊以上読んでみて、自分にとって面白いと感じたところについて、それがどこかということと、どのように面白いと感じたのかを書いてください(A4で1〜3ページ程度)。僕の授業で読んだ人も、改めてざっと読み直してみてください。


    [3] パターン課題
    井庭研に入ったら自分もつくることになる「パターン・ランゲージ」が実際どのようなもので、どのような質感を持つものなのかを実感してもらうために、パターンの記述に触れてもらいたいと思います。次の2冊のうちのどちらかのパターン・ランゲージ本を読み、感じたことを書いてください。その上で、どれか一つ、気に入ったパターンの文章とイラストをノート等に手書きで書き写しながら、その内容・表現の質感を、つくり手の内側の立ち位置で感じてください。その手書きを写真に撮ったものを掲載し、さらに、パターンを書き写したときの気づきや感想も書いてください(この[3]の全部でA4で2〜3ページ程度:パターンの書き写し部分のみ写真に撮り、それ以外の部分はパソコンでテキスト入力で作成してください)。


    handcopy1.jpg handcopy2.jpg

    エントリーや井庭研でのことについて、何か質問があれば、ilab-entry[at]sfc.keio.ac.jp([at]を@に変えてください)まで、メールをください。

    7月25日(月)に面接(キャンパスで対面で実施)を行う予定です。詳細の日時については、エントリー〆切後にメールで連絡します。面接には、現役メンバーも同席します(そのため、エントリー課題は担当教員以外も閲覧します)。


    【教材・参考文献】

    井庭研でやっていること・目指していることを知るための本として、わかりやすいのは次の7冊です。最初の3冊は考え方について語っていて、次の3冊はパターン・ランゲージの実例です。そして、最後の1冊は、創造社会とはどういうことかが、自分たちの暮らし方を自分たちでつくるという事例で感じられるものです。



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    慶應義塾の広報誌「塾」第311号(2021年夏号)「半学半教」
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    2022夏プロ「実践の本質学:パターン・ランゲージのための現象学探究」

    井庭研2022夏の特別研究プロジェクト
    「実践の本質学:パターン・ランゲージのための現象学探究」

    担当:井庭 崇(総合政策学部教授)
    タイプ:特別研究プロジェクトA(4単位:2022年秋学期に履修申告)
    実施形態:対面(オンラインも活用)

    【概要】
    かつて哲学者エトムント・フッサールは、自然科学のような「事実学」に対して、「本質学」としての現象学を提唱しました。その言葉を借りるのであれば、よい実践とは何かの本質を追究するパターン・ランゲージの研究は、「実践の本質学」と呼び得るでしょう。本特別研究プロジェクトでは、現象学の重要概念の理解を深めることで、よりよいパターン・ランゲージ作成の実践感覚についてつかんでいきます。また、そのあり方や方法論について自分の言葉でしっかりと説明できることを目指します。

    全体の進め方としては、三部構成になっています。まず最初に、私たちの目的に適した入門的な文献を読むことで、現象学の基本的な考え方を理解します。そこから、フッサールの著作を、現象学的還元間主観的還元本質観取(形相的還元)の三点の理解を軸として、該当箇所を読み込んでいきます。最後に、それらで得られた理解をもとに、パターン・ランゲージ作成における実践のポイントを明らかにするとともに、その方法論について考察し、レポートにまとめます。

    各回では、初回に決める担当者(複数の履修者)に、重要な箇所を引用してまとめた資料を作成し発表してもらいます。他の参加者は、その日の文献に目を通してくることは求められますが、文献メモ(自分にとって重要な箇所について書き出したもの)の提出は任意とします。当日は、発表担当者とプロジェクト担当教員を中心に、その文献の重要箇所を一つひとつ確認し、理解を深めていきます。

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    【本プロジェクトで取り上げる文献】

    ■現象学の入門的な文献


    ■今回読むフッサールの著作


    ■今回全員での読解対象ではないが、とても参考になる文献

    ■パターン・ランゲージについて理解するための文献


    【参加条件】
    2022年度春学期に井庭研究会を履修していた人もしくは、2022年度秋学期に井庭研究会を履修予定の人

    担当教員と相談の上、履修志望理由を7月31日までに担当教員に提出。

    【必要経費】
    各自、文献購入に約4万円ほどの費用がかかる予定です。


    【評価方法】
    文献読解、出席、発表、話し合いでの貢献、最終レポートから総合的に判断します。


    【授業スケジュール】

    8/3(水)10:00〜18:00 イントロダクション(オンラインのみ)
    特別研究プロジェクトの目的と進め方を確認し、今後の各回の文献について発表する担当者を決めます。『人間科学におけるエヴィデンスとは何か』と『現象学とは何か』の内容について重要箇所の理解を深めるための話し合いをします。


    8/16(火)10:00〜18:00 『現象学の理念』(対面)
    『現象学の理念』の内容について、担当者のレジュメ発表のあと、重要箇所の理解を深めるための話し合いをします。終了後、夜、懇親会を行います。

    8/17(水)10:00〜18:00 『ブリタニカ草稿』(対面+オンライン)
    『ブリタニカ草稿』の内容について、担当者のレジュメ発表のあと、重要箇所の理解を深めるための話し合いをします。


    8/31(水)10:00〜18:00 『デカルト的省察』(対面+オンライン)
    『デカルト的省察』の内容について、担当者のレジュメ発表のあと、重要箇所の理解を深めるための話し合いをします。

    9/1(木)10:00〜18:00 『経験と判断』(対面+オンライン)
    『経験と判断』の内容について、担当者のレジュメ発表のあと、重要箇所の理解を深めるための話し合いをします。


    9/26(月)10:00〜18:00 『イデーン I-I』+『イデーン I-II』(対面+オンライン)
    『イデーン I-I』と『イデーン I-II』の内容について、担当者のレジュメ発表のあと、重要箇所の理解を深めるための話し合いをします。

    9/27(火)10:00〜18:00 イデーン II-I』+『イデーン II-II』(対面+オンライン)
    『イデーン II-I』と『イデーン II-II』の内容について、担当者のレジュメ発表のあと、重要箇所の理解を深めるための話し合いをします。

    9/29(木)13:00〜17:00 ふりかえり(対面)
    これまで読んできた文献をふりかえって、まとめの話し合いをします。終了後、夜、懇親会を行います。

    最終レポート(現象学からみたパターン・ランゲージについて)
    井庭研だより | - | -

    2022年春学期 井庭研シラバス:「自然な深い創造」の探究・実践・支援

    井庭研シラバス(2022年度春学期)

    「自然な深い創造」の探究・実践・支援
    - ナチュラルにクリエイティブに生きる未来へ


    [ 創造の場づくり / 企業におけるWell-being / 市場創造マーケティング / 価値観・世界観が変わる大人の学び / 新しい開発援助 / 自然のなかの子育て / 高齢者ケア / クリエイティブ・ラーニング・コミュニティ実践 ]

    井庭研究室では、日々「自然な深い創造」が生じる「ナチュラルにクリエイティブに生きる」社会へのシフトを目指して一緒に研究・実践に取り組む仲間を募集します。2022年度は、以下のプロジェクトが動く予定です(現時点のプランであり変更になる可能性があります)。本シラバスに書いてある井庭研で目指していることや大切にしていることをよく理解した上で、エントリーしてください。

    (1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
    (2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
    (3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
    (4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
    (5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
    (6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
    (7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
    (8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究

    IbaLab2021.jpg


    ■これからの創造社会

    井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについて、実践的に探究しています。暮らしや人生、仕事、教育、社会などの様々な領域における「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの本質を捉え、パターン・ランゲージのかたちで表現し、それを用いて人々の実践支援をする研究に取り組んでいます。見据えている未来は、一人ひとりがもつ創造性を活かして暮らし生きていく「創造社会」(Creative Society)です。

    僕は、ここ100年、消費社会から情報社会へと歩んできて、すでに始まっている次の時代は、創造社会だと考えています。消費社会においては、人々は家電や車など、物やサービスを購入し享受することが生活・人生の豊かさだとされていました。情報社会に入って、コミュニケーションに関心の重心がシフトし、よいコミュニケーションや関係性を持つことが生活・人生の豊かさを象徴するようになりました。創造社会では、人々が自分たちで自分たちの使う物や考え、方法、仕組み、社会、あり方・生き方をつくり、どのくらい自分たちで「つくる」ことに関わっているのかが生活・人生の豊かさになっていくと考えられます。

    自分たちで自分たちの物事をつくっていくということは、可能性に満ちた素敵なことですが、単にそれは素敵なことだから重要になるのではなく、社会の切実な面もあります。多様性と自由がますます認められるようになった社会においては、人々のニーズや課題を画一的なアプローチでは満たせなくなってきます。あちこちで生じている多様な問題は、どこかからヒーローがやってきてすべて解決してくれる、というようなことは起こり得なくなってしまいました。それゆえ、それぞれの人がそれぞれの立ち位置において、問題を解決し、よりよい未来をつくっていくことが不可欠になっているのです。しかも、地球温暖化のような人類・地球規模の難題もあり、世界中の人たちがそれぞれに工夫し、知恵を出し合い、創造的に取り組んでいく必要があります。「創造社会」というとき、そのような時代背景とスコープで捉えています。

    「創造社会」を生きるというとき、僕らは、テクノロジーにますますがんじがらめになり人工的な生を生きるのではなく、よりナチュラルで人間的に生きていくという方向性を目指しています。そして、そのための道具立てとして実践の言語パターン・ランゲージ」をつくり・活かし、人々が「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを可能とし、社会を共通基盤として下支えする「ソフトな社会的インフラ」をつくっています。

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    ■自然な深い創造

    井庭研では、何かを「つくる」という「創造」(creation)について、深いレベルでその本質と、各実践領域における実現方法について研究しています。

    現在国内外で創造性(クリエイティビティ)の重要性が言われ、こうすればより創造的に考えることができるというプロセスやテクニックが話題になっています。このような状況のなか、井庭研では、そのようなアプローチの重要性・必要性を認めながらも、もっと深いレベルでの創造 --- 「深い創造」(deep creation) --- にフォーカスしています。それは、人間が根源的に持っている力を活かした創造です。それは、ああする・こうするという「行為」というよりも、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で生起するということに、人間が関わるというような創造です(このことを専門的に言うと、「中動態」で表されるべき創造だということになります)。

    それはまるで、植物を育てるときのように、人間は環境の重要な一部となり、それに関わる・参加するというようなものです。そのとき、創造に関わる人は、植物が育つための「土」のような役割をします。土があることで安定して成長することができるとともに、その土から得た栄養が成長を可能にします。このように、植物が育つように、つくっているものが「育つ」というのが、「自然な創造」(natural creation)です。そして、そういう創造が起きるとき、そこに関わる人たちの力んだ力は抜け、とても「自然(ナチュラル)」な状態になります。つくり手は、自分がつくっているものをコントロールしなければならないという意図や作為から解放され、いきいきとして、実感(フィーリング)を感じながら参加することになります。これは、とても人間的で生命的な状態とも言えます。この意味での「自然な創造」に注目しています。

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    他方、自然環境の意味での「自然(ネイチャー)」の観点も大切にしています。上記のような「自然(ナチュラル)」な生成の状態は、人工的な環境よりも、自然環境に触れているようなときの方が発動されやすくなるためです。都市や人工物はすべて人の手による産物であり、その背後には、それをつくった人がいます。これに対し、自然環境は、まさに、人の手の範囲を超えて、「自然(ナチュラル)な」生成によって生まれ育ってきたものなのです。身近な「小さな自然」に触れたり、「大いなる自然」のなかに浸ったりすることで、人間はより「自然(ナチュラル)な」状態になりやすくなるのです。

    このように、井庭研でいう「自然(ナチュラル、ネイチャー)」には、「内なる自然」(inner nature)と言える生成的な面と、「外なる自然」(outer nature)と言える自然環境という(本来は表裏一体の)両方の意味が含まれている。そのような意味での「自然な深い創造」(natural deep creation)であり、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(natural & creative living)なのです。

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    ■「自然な深い創造」を実現する実践言語「パターン・ランゲージ」

    意識的な意図や作為によるコントロールから解放され、「創造」という「出来事」が自ずから生じるようなあり方で実現される「自然な深い創造」は、そう簡単には起きません。なぜなら、人はすぐ「自分が考えないと、何も起きない」と思ってしまうからです。実践の言語である「パターン・ランゲージ」はその問題を解決します。

    パターン・ランゲージは、その実践において押さえるべきポイントごとに「何をすることが大切か」とそれは「どうやるのか」が特定されているので、それに「身を委ねる」ことで、無心で自然とその実践をしていくことができるようになります。パターン・ランゲージを構成する「パターン」には、その実践で大切な「」が定められているとともに、それらの「型」の関係が体系として編まれているので、意識的に「こうしよう」「ああしよう」とコントロールしなくても、自然と勘所・ポイントを押さえた実践が可能になるのです。

    しかも、パターンは、適度に抽象化されていて、具体的な行動指示とは異なるので、状況に合わせて実践の具体的なところをアレンジしたり、その人らしいやり方で行ったりすることができるという特徴があります。このように、実践領域ごとにパターン・ランゲージがあることで、それぞれの人の実践を支援することになります。

    このような理由から、井庭研では、「自然な深い創造」に身を委ねて「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことを可能にするための有力な方法として、「パターン・ランゲージ」の作成・研究に徹底的に取り組んでいます。

    パターン・ランゲージをつくるときには、すでによい質を生み出している人から、その実践において大切なことを聞き、その経験則(型)から、抽象化、体系化、言語化して、パターン・ランゲージをつくります。このパターン・ランゲージがあることで、うまく実践できていない人を助けたり、これから始める人の参考になったり、実践について語るための語彙・共通言語としてコミュニケーションの支援が可能となります。このように、パターン・ランゲージは、社会の多くの人々を支えるメディアになるのです。

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    ■パターン・ランゲージをつくるときの深い創造

    実践に潜む「型」を捉えて、パターン・ランゲージとしてまとめるときには、その実践の本質を捉えて「抽象化」し、パターン間の関係性をつかんで「体系化」し、その本質と体系を踏まえて「言語化」します。具体事例をベースにパターンを捉え、その本質をつかむというときには、現象学における「本質観取」と同様のことを行っているということが、最近わかってきました。つまり、哲学と同様の深い思考・探究が必要だということです。また、パターン・ランゲージは、数十のパターンが相互に関係する体系(システム)をなしているのですが、その関係性を見定め、ひとつの体系として編み上げるときには、背後にある関係・構造を捉える構造主義的思考や、抽象的に捉えるシステム思考モデリングのセンスが求められます。そして、パターンを記述するときには、現象学の「本質記述」をするとともに、パターンの名前をつくるときには、本質を捉え、かつ魅力的な言葉になるようにつくり込んでいく必要があります。このように、パターン・ランゲージをつくるということは、高度な知性と豊かな感性を総動員してつくるということなのです。

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    ■パターン・ランゲージは歌の詞に似ている

    パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、読み手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで推奨されていることを魅力的だと思い、実際にやってみようと思ってもらえるようなものになっている必要があります。物事の本質を捉えるとともに、心が動き、身体が動くような表現になっていることが求められるのです。僕は、これは、J-POPのようなポピュラー音楽の歌詞をつくることに似ていると思っています。

    聴き手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで歌われていることを魅力的だと思い、自分の歌として口ずさんだり、カラオケで歌う、そういう歌の歌詞のようなものだと思うのです。実際、作詞を手掛けている人たちが、歌づくりで語っていることは、パターン・ランゲージの作成と共通すると感じることが多々あります。AメロやBメロでその状況における悩みや迷いが歌われ、それをどう捉えるかや乗り越えていくようなポジティブなメッセージがサビで提示されます。聴き手は、その歌を聴き、歌詞を受け取るなかで、元気をもらったり、勇気づけられたり、世界をポジティブに捉えることができるようになります。

    パターン・ランゲージも、ある状況における問題から始まり、それを乗り越えていく方法が示されます。それは読み手の内側から「自分のことだ」「自分の近未来だ」と思うように書いていきます。読み手が実感をともなって、ありありとその内容をイメージできるようにつくるのです。歌とは異なり、音楽が持つ力を借りることはできません。しかしながら、うまくつくれば、読み手のペースで、自分のものとして内側からその人を温めるようなものになります。

    実際、僕らがつくったパターン・ランゲージの読み手から、「元気をもらっています」「心の支えになっています」「お守りのような存在です」「これがあったから、なんとかやってこれました」という声をもらいます。そういう声を聴くたびに、それはまるで、心から共感する大好きな「歌」のようだな、と思うのです。僕は、歌のつくり手たちの言うことにとても共感するのですが、僕らは実践者の話からパターン・ランゲージをつくるので、特に、小説などの原作を歌にするYOASOBIのAyaseさんの言うことはとても近く、通じるものがあると感じています。

    パターン・ランゲージは、単に現象を説明する理論なのではなく、それを受け取る人のなかで流れ、内側から温める「歌」のような存在なのです。

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    ■「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの道を極める

    井庭研では、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことについての研究をするなかで、自らがナチュラルにクリエイティブに生きる「」を極めていきます。単に研究テーマや対象とするのではなく、自分自身が実践しそれを生きるということを通じて深め、探究していくのです。そのような事情のため、おそらく多くの人がイメージしている「研究会(ゼミ)」とは大きく異なるスタイルで、井庭研に入るということを捉えてもらう必要があります。

    まず、生活における「地」と「図」が逆転します。週の何時間かで井庭研の活動を行う、というようなものではないのです。365日24時間 ナチュラルにクリエイティブに生きる、ということになります。つまりは、「自分の様々な生活」(地)のなかに「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(図)があるのではなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」(地)なかに「自分の様々な生活」(図)が重なる、というようなかたちになるのです。

    したがって、井庭研に入るとは、「授業」を取るというようなものではなく、茶道や合気道などのような「〇〇道の師匠につく・道場に入る」というようなイメージに近いものになります。創造の道です。その世界(「ナチュラルにクリエイティブに生きる」)を常に実践し、深めながら、それを極めていくというようなことなのです。そのようなこともあり、井庭研では、大学院までを含む長期的なスパンでの成長を理想としています。

    どの分野でもそうですが、「道を極める」ということは、2年や3年の短期間では為し得ず、何年もの徹底した修練の結果によって到るものなのです。そのため、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」についての見よう見まねの学部時代から、修士課程で実践の感覚をつかみ博士課程でそれを自在に行えるようになっていく、という成長の機会を設けています。その意味で、「〇〇道の師匠につく・道場に入る」というニュアンスがよく合うのです。

    最終的には、独り立ちして、自らが「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人生を送りながら、それぞれの分野で「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人が増えるように先導していく存在になることを目指しています。

    そのための場と機会は用意されていますが、ここは自己成長の場であることは忘れないでください。この場と機会を活かし、自分から挑戦し、工夫し、努力して、自分の経験を高めていくことが各自に求められます。そのような意味でも、道を極めるにあたり、精神的な成熟し、よりよい未来に向けて貢献していくことができる人になっていくことも、井庭研で学ぶことの意義になります。

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    ■自分の「自然な深い創造」の力を磨くためには

    「自然な深い創造」が自分を場にして起きるためには、自分という創造の「土壌」を豊かにしていく必要があります。その場の発想法のようなテクニックによってアイデアを出すのではなく、自分の深いところにある養分をどんどん吸って、つくるものは「育って」(つくられて)いくのです。そのため、土の状態が自然(ナチュラル)で、豊かであることが不可欠なのです。井庭研では、自分という創造の土壌を豊かにするために、次の3つのことを重視しています。

    (1) 創造のための読書

    井庭研では、創造に活かせるようにたくさんの本を徹底的に読み込みます。良質の本からは、その著者が考えた結果としての内容だけでなく、「独特の視点」や、「発想の型」、そして体系的な「概念装置」を学ぶことができます。そこで得られたものは、別の分野の別の文脈のことを考えるときにも、役立てることができます。これが自分を創造的にさせるのです。

    第一の「独特の視点」は、その著者なりの(つまり、これまでの自分とは異なる)視点で物事を見ることです。いくつかの視点を持っていると、物事を常識的な角度からだけでなく、異なる角度から見ることができるようになります。第二の「発想の型」は、新しい考え方を生み出すときのやり方のことです。発想のしかたの型をいくつも持っていると、アイデアや新しい考えを生み出すときに用いることができます。第三の体系的な「概念装置」は、いくつかの概念が体系的に紐づいた理論を用いて、物事の複雑さを生け捕って捉えることができるようになるということです。これは、高度な把握や推論が可能となり、創造を高いレベルに引き上げます。

    このように、たくさんの本を徹底的に読み込んでいくことで、自分という創造の土壌を豊かにし、創造力が飛躍的に上がっていきます。井庭研での経験を通じて、「本の読み方が変わった」「本を読むことが、とても面白いということであることに気づけた」という声があり、研究のためだけでなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」人生を豊かにしてくれるということがわかります。

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    (2) 井庭研内の創造実践から学ぶ機会

    井庭研では、日々、たくさんのプロジェクトが研究・活動を展開しています。そのため、創造実践の取り組みを現在進行形で目の当たりにし、また、ものすごい勢いで創造実践の事例や知恵が貯まっていきます。また、担当教員の井庭や先輩たちが、口頭でもテキストベースでも映像でも、最先端の思考やアイデアを次々と披露し、じゃぶじゃぶに共有しています。これらのリソースを「生きた教材」として活かし、創造実践について学び取りにいくことができます。創造に関する面白い情報が圧倒的な量、毎日飛び交っている場はまずないでしょう(2021年の1年間に、僕は約3万投稿、メンバーも数千から1万超えの投稿をしています)。

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    (3) プロジェクトでの自分たちの実践経験

    井庭研では、1年間に1つのプロジェクトにどっぷり浸かり、複数人で研究に取り組みます。そこでは、それぞれの得意を持ち寄り、個人の限界を超えることができます。しかも、その小さなチームのなかで、学び合いや高め合いが起きます。各自が成長するための挑戦(チャレンジ)もこのプロジェクトでします。こうして、今の自分からアップグレードし続け、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」力を高めていくのです。

    井庭研は、以上のような機会を活かして創造実践の経験を積み、自己成長し、創造の道を極めていくための場なのです。

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    ■「新しい学問」をつくりながら実践する

    学問的に見たときに、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」や「自然な深い創造」、「創造社会」ということを考えるときに直球で答えてくれる学問分野は、現在ありません。そのため、既存の学問的枠組みや方法論を超えた「新しい学問」を構築しながら取り組むことが必要となります。井庭研では、新しい学問の土台をつくりながら、その上で具体的な研究を進め、そのことによってさらに土台が固まっていくというような、大胆で実験的なやり方で研究に取り組んでいます。その「新しい学問」を、僕は「創造実践学」「創造の哲学」「未来社会学」と名付けています。

    創造実践学」(Studies on Creative Practice)は、私たちの暮らしや仕事、社会におけるさまざまな領域の実践を、より創造的なものにするためにはどうしたらよいかを研究する学問として構想されています。各領域の創造実践の本質を明らかにし、パターン・ランゲージとして表現して活用することが、その主力の研究方法となります。「創造の哲学」(Philosophy of Creation)は、創造とは何か、についての哲学的探究を行うものです。現象学の方法によって創造の本質を観取するとともに、プラグマティズムの哲学や東洋哲学などとの関係についても深めていきます。「未来社会学」(Future Sociology)は、ナチュラルでクリエイティブに生きる未来の社会のヴィジョンを描き、その内実を研究する未来志向の学問です。創造社会では社会の一つの機能システムとして「共創システム」というものが作動し、そこではパターン・ランゲージのメディアや、ジェネレーターという役割が重要になるというような、未来ヴィジョンの社会像を明らかにしていきます。

    これらの三つの学問を構築するにあたり、僕たちはゼロからスタートするのではありません。これまでの人類のさまざまな知見・学問成果を踏まえながら、大胆に組み替え、読み替えながら、取り組んでいきます。哲学、社会学、人類学、認知科学、心理学、教育学、建築学、デザイン論、芸術論、美学、数学、文学、経営学、思想史などを必要に応じて縦横無尽に学び、取り入れていきます。その意味で、いろいろな学問領域を横断し、それらを超越して研究するという「超領域的」(トランス・ディシプリナリー:trans-disciplinary)な営みとなります。しかも、西洋の学問だけでなく、東洋哲学・思想とも積極的に関わり、西洋と東洋の知を融合させたこれからの学問をつくっていこうとしています。とてもSFCらしい、ユニークな学問のアプローチだと思います。

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    ■Project - 2022年度春学期のプロジェクト

    2022年度春学期は、以下の8のプロジェクトを予定しています。井庭研のメンバーは、どれかひとつのプロジェクトに参加し、研究に取り組みます。 各プロジェクトは、複数人で構成され、成果を生み出すためのチームとして、ともに助け合い、高め合い、学び合いながら、研究に取り組みます。

    (1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
    (2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
    (3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
    (4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
    (5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
    (6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
    (7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
    (8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究



    各プロジェクトの概要は、以下のとおりです。

    (1) 創造を巻き起こすジェネレーターのパターン・ランゲージの作成研究
    ジェネレーターは、ともにつくり、発見とコミュニケーションの生成・連鎖を誘発する存在です。これからの創造的な教育の場では、ティーチャーやファシリテーターという役割だけでなく、ジェネレーターが重要になります。しかし、ジェネレーターは、単なるスキルではなく、あり方であり生き方でもあります。そのため、他のジェネレーターがやっている振る舞いを単に真似るだけでは、ジェネレーターにはなれません。それでは、ジェネレーターにおいては何が大切なのでしょうか。本プロジェクトは、そのようなジェネレーターの秘密に迫ります。本プロジェクトは、一般社団法人みつかる+わかる の「We are Generators!」との共同研究です。

    (2) 成果を生み出す企業におけるWell-beingのパターン・ランゲージの作成研究
    本プロジェクトでは、しっかりと成果を追求する企業組織において、Well-doingとともに、「幸福」な状態を指す「ウェルビーイング」(Well-being)をどうしたら高めることができるのかについて研究します。本プロジェクトは、企業との共同研究として行い、その企業を中心に、複数の企業の事例とインタビューから、パターン・ランゲージを作成し、広く、企業におけるWell-beingの向上を目指します。

    (3) 市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成研究
    すでにある競争のなかで、いかにパイを取るかということではなく、新しい商品・サービスで新しい市場を生み出すときのマーケティングはいかに行えばよいのか。本研究では、広告業界での経験が豊かな共同研究者とともに、市場創造マーケティングのパターン・ランゲージの作成を行います。

    (4) パターン・ランゲージによる新しい開発援助の実践研究
    本プロジェクトでは、これまで井庭研でつくってきた、仕事、教育、暮らし、生き方などのさまざまな分野のパターン・ランゲージを、国内外の諸地域の人々のエンパワーに活かしていくことを試みます。例えば、フィリピンの若者の支援として、現地の関係者や支援者と協力し合いながら、これまで井庭研でつくってきたパターンのなかから重要なパターンのセットをつくり、現地語で提供し、活用するための伴走を行います(パターン・ランゲージ・リミックスと伴走型支援)。その実践のなかで、人々のケイパビリティ(潜在能力)を高める、新しい開発援助(発達・発展の支援)のかたちを構築していきます(本プロジェクトでは、海外だけでなく、日本の地方の高校生のエンパワーメントにも取り組んでいます)。

    (5) 価値観から変わる「創造的な学びの共同体」のナラティブ研究
    このプロジェクトでは、「価値観・世界観から変化してしまう学び」のプロセスと、それを可能にする「創造的な学びの共同体」の仕組みを研究します。具体的には、小阪裕司さんが主宰する商人たちの実践共同体ーーワクワク系マーケティング実践会ーーの会員たちへのインタビューを行い、そこで生まれる語り(ナラティブ)の分析に取り組みます。その際に注目するのは、個別のスキルを身に着けたり成果が出せるようになったりすること以上に、生活や仕事の思想・哲学までが変化してしまうような、新たな価値観を学ぶプロセスとそのための実践共同体のメカニズムです。プロジェクトの活動は、約50人の会員たち(その誰もが魅力的な実践をされている商人たち)との対話に取り組むことと、その語りの書き起こしと分析を載せたメディア(冊子を予定)を制作することを、同時平行で進めていきます。具体的な語りと抽象的な分析を縦横無尽に行き来することで、単に現存する共同体の研究にとどまらず、新たに立ち上がる「創造的な学びの共同体」にとって意義のある知見を得ることを目指します。本研究は、小阪裕司さんのオラクルひと・しくみ研究所との共同研究です。

    (6) 自然のなかの子育てのパターン・ランゲージの作成研究(深化・仕上げフェーズ)
    現代社会では、人間は自然との関わりの多くを失い、人工的な環境・制度のなかで育ち・暮らしています。その「人間関係」「人工的な環境・制度」のなかで息苦しさや窮屈さ、閉塞感を感じている人は多く、心身への悪影響も少なからずあるようです。そこで、本プロジェクトでは、自然に子どもが育つとともに親も育ちながら、身の回りの自然環境を支え、地球・宇宙を感じる暮らし方・生き方の実現のためのパターン・ランゲージの作成に取り組みます。2022年度は、2021年度に取り組んだ作成・研究で明らかになってきたことをさらに深め、いろいろな事例と結びつけながら、自然のなかの子育てのパターン・ランゲージを仕上げます。

    (7) 『ともに生きることば』を用いた高齢者ケアの研修・ワークショップの実践研究
    高齢者ケアの分野では、現場での実践のなかで多くのことが学ばれていますが、そのような現場での学びにおいて、どのようによりよいケア・介護について意識・経験を豊かにしていくことができるでしょうか? 本研究プロジェクトでは、パターン・ランゲージを用いた対話や実践支援による新しいアプローチを開発し、実践導入していきます。具体的には、井庭研で作成し、2022年1月末に出版された『ともに生きることば:高齢者向けホームのケアと場づくりのヒント』等を活用し、実際に介護施設等で研修を実施していきます。支援する側/支援される側という区分を超えて、自分たちの「ともに生きる」スタイルを育てていくことを促すことを目指します。本研究は、社会福祉法人いきいき福祉会との共同研究です。

    (8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティを実現する実践研究
    このプロジェクトでは、クリエイティブ・ラーニング・コミュニティ(創造的な学びのコミュニティ)を、いろいろな仕組み・方法、パターン・ランゲージを用いて(必要に応じてつくって)実現する研究・活動に取り組みます。具体的には、井庭研をフィールドとし、「メンバーが自分たちで自分たちの創造的な場をつくる」ことや、「先端的な研究で創造的な活動を行い、そのなかで学んでいく」ということが実際に効果的に実現することを目指します。井庭研では、学部生でも、自分たちの生み出した研究成果を国際学術会議に論文を書いているのですが、その学術論文執筆に焦点を当て、アカデミック・ライティング・パターンを作成し、井庭研内での支援に活かしています。また、井庭研がクリエイティブ・ラーニング・コミュニティとしてまわっていくための組織バリューの編み上げ構築にも取り組んでいきます。


    【履修条件】

  • 知的な好奇心と、創造への情熱を持っていること。
  • じっくり取り組む時間の調整・確保を自らでき、研究・活動・勉強に徹底的に取り組むことができること。
  • 「知的・創造的なコミュニティ」としての井庭研を、与えられたものとしてではなく、一緒につくっていく意志があること。


    【その他・留意事項】

  • 現1年生のエントリーを歓迎します。長く一緒に研究・活動して経験を積み重ねることで、理解が深まり力がつくので、その後、より活躍できるようになります。そのため、井庭研では早い時期からの履修・参加を推奨しています。(そのことから、3年生後半や4年生からは、大学院進学を前提としている場合を除き、原則として受け入れていません。)

  • GIGA生や海外経験のある人、留学生を歓迎しています。井庭研では、日本語での成果をつくるとともに、英語で論文を書いて国際学会で発表したり、海外の大学やカンファレンスでワークショップを実施したりしています。日本語以外の言語を扱えることは、活躍・貢献のチャンスが大きく高まります。ぜひ、力を貸してください。

  • エントリーを考えている人は、「井庭研に興味があるSFC生の連絡先登録(2021年12月〜2022年2月用)」に登録してください。最新情報があれば送ります。


    【授業スケジュール】

    井庭研では、どっぷりと浸かって日々一緒に活動に取り組むことが大切だと考えています。

    全員で集まる時間は、 水曜の3限から夜までのプロジェクト活動の時間と、木曜の4限から夜までの全体ミーティング(ゼミ)の時間です。その時間は、全員での《まとまった時間》としているので、この時間は、授業や他の予定を入れないようにしてください。

    それ以外の日も、365日いつでも、各自で本を読んで知識をつけたり、考えたり、プロジェクトの研究の個人作業を進めたり、必要に応じて集まって話し合ったりします。また、担当教員(井庭)や井庭研が登壇する講演・ワークショップや学会等には、原則としてすべて参加して学びます。さらに、コミュニケーション・プラットフォームとして用いているslack上で、毎日情報共有ややりとりが行われています。「井庭研の活動が増える」という感覚ではなく、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」生活にシフトするのだと捉えてください。


    【評価方法】

    研究・実践活動への貢献度、および研究室に関する諸活動から総合的に評価します。


    【エントリー課題】

    このシラバスをよく読んだ上で、2月28日(月)までに、[1] エントリーシート[2] 文献課題[3] パターン課題 の3つを提出してください。

    エントリー課題の提出先:https://forms.gle/XU4vcAwXn7tBC4dXA


    [1] エントリーシート

    タイトル:井庭研(2022春)履修エントリー

    1. 名前(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名, 顔写真 (写真はスナップ写真等で構いません)
    2. 自己紹介と日頃の興味・関心(イメージしやすいように、適宜、写真などを入れてください)
    3. 井庭研への志望理由
    4. この研究会シラバスを読んで、強く惹かれたところや共感・共鳴したところと、その理由・考えたこと
    5. 参加したいプロジェクト(複数ある場合は、第一希望など、明示してください)
    6. 持っているスキル/得意なこと(グラフィックス・デザイン, 映像編集, 外国語, プログラミング, 音楽, その他)
    7. これまでに履修した井庭担当の授業(あれば)
    8. これまでに履修した授業のなかでお気に入りのもの、所属した研究会など(複数可)
    9. 日々の生活のなかで取り組んでいるサークル、学内外での活動・仕事・アルバイトなど


    [2] 文献課題

    井庭研での創造・研究に関係がある以下の本のうち1冊(できるなら2冊)を読み、自分にとって面白いと感じたところについて、それがどこかということと、どのように面白いと感じたのかを書いてください(A4で1〜3ページ程度)。



    [3] パターン課題

    以下のパターン・ランゲージ本を読み、感じたことを書いてください。その上で、どれか一つのパターンの文章とラストをノートなどに手書きで書き写し、その内容・表現の質感を、つくり手の内側の立ち位置で感じてください。その写真を掲載し、さらに、パターンを書き写したときの気づきや感想も書いてください(この[3]の全部でA4で2〜3ページ程度:パターンの書き写し部分のみ手書きのものを写真に撮り、それ以外の部分はパソコンでテキスト入力で作成してください)。



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    エントリーや井庭研でのことについて、何か質問があれば、ilab-entry[at]sfc.keio.ac.jp([at]を@に変えてください)まで、メールをください。

    3⽉7日(月)に面接@オンラインを行う予定です。詳細の日時については、エントリー〆切後に個別に連絡します。


    【教材・参考文献】

    井庭研でやっていること・目指していることを知るための本として、わかりやすいのは次の6冊です。最初の2冊は考え方について語っていて、次の3冊はパターン・ランゲージの実例です。そして、最後の1冊は、創造社会とはどういうことかが、自分たちの暮らし方を自分たちでつくるという事例で感じられるものです。



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    慶應義塾の広報誌「塾」第311号(2021年夏号)「半学半教」
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    2021年秋学期 井庭研 各プロジェクトにまつわる文献リスト

    2021年度秋学期の井庭研「ナチュラルにクリエイティブに生きる未来をつくる:創造実践学、創造の哲学、未来社会学の構築と実践」各プロジェクトにまつわる文献リストは、以下の通りです(井庭研共通の重要文献については、シラバスの【教材・参考文献】と、「井庭研 重要文献リスト120冊(2021年7月バージョン)」をご覧ください)。


    (1) 「アドホックなプロジェクト型組織のつくりかた」のパターン・ランゲージの作成



    (2) 「コロナ禍におけるゲストハウスのレジリエントな適応のしかた」のパターン・ランゲージの作成



    (3) パターン・ランゲージによる新しい開発援助 & 地方の高校生のエンパワーメント



    (4) パターン・ランゲージを活用した「ともに生きる」高齢者ケアの実践支援の研修デザインと実施



    (5) 「自然のなかの子育て・暮らし」のパターン・ランゲージの作成



    (6) 「ワクワクする人生の育て方」のパターン・ランゲージの作成



    (7) 「道を極める」ことのパターン・ランゲージの作成とボードゲームの開発

  • 風姿花伝・三道 現代語訳付き』(世阿弥, 竹本 幹夫 注訳, 角川学芸出版, 2009)
  • 風姿花伝:創造とイノベーション』(世阿弥, 道添 進 編訳, 日本能率協会マネジメントセンター, 2019)
  • NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝』(土屋 惠一郎, NHK出版, 2015)
  • 能:650年続いた仕掛けとは』(安田 登, 新潮社, 2017)
  • 異界を旅する能:ワキという存在』(安田 登, 筑摩書房, 2011)
  • 道を極める:日本人の心の歴史』(魚住 孝至, 放送大学教育振興会, 2016)
  • 新訳 弓と禅』(オイゲン・ヘリゲル, 角川学芸出版, 2015)
  • 世阿弥の稽古哲学』(西平 直, 増補新装版, 東京大学出版会, 2020)


    (8) クリエイティブ・ラーニング・コミュニティの実現を支えるパターン・ランゲージの作成と導入



    (9) 商いの実践コミュニティの研究



    (10) 組織の理念を具体的実践につなげるためのパターン・ランゲージの作成

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    井庭研 重要文献リスト120冊(2021年7月バージョン)

    井庭研では、たくさん本を読みます。難しいものも読みます。重要なものは、何度も読み直し、読み込みます。

    本を読むのは、単にそこに書いてあることを知るということではありません。本を読むのは、考え方の型を知り、考える力をつけるためであり、それを自分の創造の道具・基盤とするためです。概念・知識は単体ではあまり役に立ってはくれませんが、他の概念・知識とつながって豊かなネットワークに育っていくと、ものを考える力、創造的に発想する力の源泉となります。

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    そのためには、ある程度の量を一気に読むことが重要となります。《量は質を生む》のです。ある程度の分量の本を短期間にどんどん読むことで、概念・知識のつながりがよく見え、また、化学反応のようなものが起きて、思考力と創造力が豊かになり強化され、自分の概念装置として使いこなせるようになっていきます。

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    本を読むことに慣れないうちは、「坂道を登る」ような少しきつい感覚があるかもしれませんが、大丈夫。だんだん力がついて、読みこなせるようになっていきます(実際、そうなった人たちがたくさんいます)。しかも、坂を登って行き、高いレベルに上がると、視座が上がり視野が広がるので、麓(ふもと)にいるときには見ることも想像することもできなかったような素晴らしい景色を見ることができるようになります。それは、とても爽快で、喜びにあふれる感覚です。そうなれば、どんどん自分で読んでいけるようになり、本を読むごとに、これまでに読んだいろいろな話へのつながりをたくさん発見し、ますますワクワクを味えるようになります。こうして、自分の力を高め、人生が豊かになっていく。ぜひその感覚を味わってもらいたいと思います。

    さらに、自分たちの研究・思想に重要な文献を各自読んでいると、それが井庭研の他のメンバーとの共通認識を持つことになり、それを共通言語として話すことができるようになります。これは、創造的なコラボレーションに参加するための、とても重要な前提条件となります。

    とはいえ、何を読めばいいのか、自分で考えるのは難しいものです。そこで、最初の学期に何を読めばよいのか、重要文献をまとめました。このあたりを押さえておくと、先輩たちの話を理解したり、「井庭研らしい」思考・発想の勘所をつかむことができ、話し合いや創造に貢献することができる入口に立つことができます。各自、本を入手し、どんどん読み進めていってください。

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    【最初の半年で読んでおくべき本】15冊

    ■井庭研でやっていることの考えの基本を理解する


    ■クリストファー・アレグザンダーの思想と取り組みについて直に学ぶ


    ■人間行為のパターン・ランゲージを実際に読んでみる


    ■思考と創造の本質について捉え直す


    ■ナチュラルな生き方・社会へのシフトの重要性を感じる


    その他、研究会で紹介する重要論文(初級編)

    *   *    *


    【最初の半年から手元に置いて、必要に応じて適宜読む本】10冊

    
■人間行為のパターン・ランゲージをいろいろ読んで、分野・表現の多様性と共通点を感じる



    ■パターン・ランゲージの原点を知り、その質感に触れる


    ■研究と論文執筆のための考え方の手引き


    *   *    *


    【入ってから1年以内に読んでおくべき本】25冊

    ■人間行為のパターン・ランゲージを具体的に知り、日常に活かす


    ■アレグザンダーの思想とパターン・ランゲージの展開をさらに深く理解する


    ■創造的な思考と学びについて深く考え直す


    ■個から普遍へと至る道を理解する


    ■ナチュラル・クリエイティビティの豊かなイメージを持つ


    ■創造社会のヴィジョンを実感する


    その他、研究会で紹介する重要論文(中級編)


    *   *    *


    【入ってから1年半までに読んでおくべき本】30冊

    ■現象学について理解を深める


    ■相手を内側から理解するとはどういうことか


    ■ナチュラルでクリエイティブな豊かさについて味わう


    ■これからの生き方について考える


    ■つくる人生についてイメージを持つ


    ■ナチュラルでクリエイティブなコミュニティについて考える


    ■中動態について理解する


    ■東洋の思想・哲学を知る


    ■学問の営みと潮流を知り、新しい学問をつくることの意識を高める


    その他、研究会で紹介する重要論文(上級編)


    【より深い理解・思考・創造のためのおすすめ文献】40冊

    ■まだ邦訳されていないアレグザンダーの最新の考えを知る


    ■社会システム理論と社会を分析するということ


    ■複雑系とオートポイエーシスのシステム理論を知る


    ■つくる人生についてイメージをさらに深める


    ■言葉の可能性を感じる


    ■創造の考えについて深める


    ●学びと成長についての原典にあたる


    ■思考と実践の哲学、プラグマティズムについて理解する


    ■井庭研に関係するいろいろな思想・哲学を知る


    ■論文執筆の力の向上
    井庭研だより | - | -

    2021夏プロ「新しい世界観の概念装置を組み立てる:ホワイトヘッド哲学を学び、アレグザンダー思想の理解を深める」

    井庭研2021夏の特別研究プロジェクト
    「新しい世界観の概念装置を組み立てる:ホワイトヘッド哲学を学び、アレグザンダー思想の理解を深める」

    担当:井庭 崇(総合政策学部教授)
    タイプ:特別研究プロジェクトA(4単位:2021秋学期に履修申告)
    実施形態:オンラインですべて実施
    2021年8月5日〜9月30日の間の15回

    【概要】
    本プロジェクトでは、クリストファー・アレグザンダーがしばしば参照する哲学者アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学について、文献読解を通じて理解を深めます。単にホワイトヘッドの哲学を理解するだけでなく、全体性、有機的秩序など、アレグザンダーに通じる概念を改めて深く理解する機会としたい。

    アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド(1861-1947)の哲学がどういうものかは、『ホワイトヘッドの哲学』(中村昇, 講談社, 2007)の次の紹介がわかりやすい。

    「われわれの世界は、つねに流動している。動いていないものは、なにひとつない。・・・生物、無生物のべつなく、つねに活発に変化していく。これが、わが宇宙の実相だ。ここを起点にしてホワイトヘッドは、すべてを説明していく。したがって、かれの宇宙には、生きていないものは存在しない。すべてが、一様に「生きて」活動している。だが、われわれも巻きこんでいる、このはてしない流動状態は、つかみどころがまったくないから、とりあえず、どこかに切れ目をいれなければならないだろう。
     まず、これらは、闇雲に動いているわけではない。あるパターンが見てとれる。それぞれのスケールで、おなじようなパターンが繰りかえされているとホワイトヘッドは考えた。そして、つぎに、そうしたパターンをなす流動状態のそのつどの瞬間は、唯一無二のあり方で出現する。この世界では、ただの一度も、まったくおなじ状態など生じたことはない。つまり、一回だけの比類のない出来事が、おなじパターンで何度も反復されているというのが、わたしたちの住む、この宇宙のあり方なのだ。繰りかえされる間断なきパターンと、そのときどきのかけがえのない断面とによって、世界は成りたっているといえるだろう。この切り口からホワイトヘッドは出発する。
     また、ホワイトヘッドの哲学には、堅固な個体は登場しない。部分的な個別の状態を最初に想定することは決してない。一番基底にあるのは、あくまでも創造活動なのだ。この世界は、たえず、あらたに創りつづけられている。だからといって、その背後に、創造する主体がいるわけではない。豊饒な創造の坩堝のなかに、あらゆる存在は、つねにすでに投げこまれている。「過程」(process)こそ、「実在」(reality)なのだ。
     独立した個は存在しないのだから、この創造されつづけている世界は、べつべつの部分にはわかれない。すべての側面が密接に関係しあう。その関係の複雑で膨大な網は、もちろん、固定されたものではなく、たえまない流動状態のなかで、それ自体をダイナミックに変容させていく。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)

    以上の説明を読むだけでも、クリストファー・アレグザンダーとの接点が感じられるだろう。実際、アレグザンダーは、彼の著書『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)で、何度もホワイトヘッドに言及し、自説との関係について語っている。

    例えば、“全体性」と「センター」の理論”の章で、「全体性」の考え方の多くの文献のなかで「おそらく最も際立った議論」であるとして、ホワイトヘッドの『過程と実在』を紹介している。さらに、『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』の重要な概念である「センター」も、ホワイトヘッドの哲学に通じるという。

    「すべての空間が「センター」を張り巡らしたようなシステムであるという考え方を最初に提唱したのは、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドであり、・・・ホワイトヘッドは、彼が「有機体」と呼んでいる連結した存在で構成されるシステムを提案しました。彼の考えでは、実在するすべてのものは空間的に存在する入れ子状で重なり合った「有機体」のシステムとして理解されるものだということです。-----私が思うに、このホワイトヘッドの有機体は、私がこの本で「センター」として説明している実態とまさしく同様のものではないかと思うのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)

    また、『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』では、「生命」が重要な概念として論じられているが、この「生命」というのはいわゆる「生物」のことではなく、無生物にも見られる「いきいき」とした質のことである。この「生命」の考え方もホワイトヘッドに通じているという。

    「この概念の中では、「生命」とは何がしかの形ですべての事象、建築物に存在する、日々の実用的な生活の中にでもあるものなのです。・・・この考え方の本質は、古典的です。新しいことは、既存の科学的な思考を用いた構造的な形式という概念で説明できるということと、理解できるという点だけです。・・・同じような視点は、歴史を紐解くと、仏教の考え方やアメリカンインディアンの世界観の中にも表れています。仏教の世界観では、すべてのものの中には「生命」があると示されており、無数の経典によってそのことが記されています。・・・同じような考え方はアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学や書物の中でも述べられています。・・・ホワイトヘッド氏の考え方では、「生命」の無いものは無いのです。「生命」の可能性は事物に本来備わっているのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)

    ここで、東洋の思想との関わりに触れているのも興味深い。昨年の夏の特別研究プロジェクトでは、「新しい学問をつくる:西洋と東洋の知を融合させた、創造実践の学問を構想する」として、東洋哲学についての理解を深めたが、今年は、西洋(ホワイトヘッド)の側からの接続を試みることになりそうだ。

    さらに、アレグザンダーは、近代の機械的な世界観からの脱却を唱えるが、これも、ホワイトヘッドの考えと重なる。

    「ここ300年のあいだ、機械主義的な世界観によって私たち自身が「自己」から切り離されてしまいました。私たちは、強力で極めて正確な世界観を手にしています。しかし、その概念には「自分自身」の存在意義を明らかにするはっきりとした説明がないのです。これこそホワイトヘッドによって主張された有名な「自然からの乖離」現象なのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)

    以上のように、クリストファー・アレグザンダーの思想をさらに深く理解するために、ホワイトヘッドについて理解することは重要であることがわかる。

    しかしながら、そこには大きな壁が立ちはだかっている。それは、ホワイトヘッドの哲学は「このうえなく難解」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)だという点である。中村昇は『ホワイトヘッドの哲学』で、その難解さを、次のように表現している。

    「ホワイトヘッドは難解だといわれる。わたしもたしかにそう思う。なんの因果か、哲学を生業としているから、多少の難しさには慣れっこのはずだが、ホワイトヘッドの難解さは、どうにも手のつけようがない。群を抜いている。特に『過程と実在』は、最初読んだときは、まったく取りつく島がなかった。なにをいっているのかさっぱりわからない。しかも具体的な話をほとんどしないから、手がかりもない。本当にこまった。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)

    こう言われてしまうと怯んでしまうかもしれないが、まったく望みがないわけではなさそうだ。中村は、さらに続ける。

    「しかしよくよく読みすすめると、ホワイトヘッドの難しさは、この哲学者のせいではないことに気づく。ようするに、ホワイトヘッドが難解なのではなく、〈この世界そのもの〉が難解なのだ。・・・この状態をホワイトヘッドは、愚直にも真正面から描き切ろうとしている。これが、かれの本を難しくしている一番の理由だと思う。
     そんなホワイトヘッドの本でも、よくしたもので、何度もなんども読んでいくうちに、少しずつ霧がはれてくる。なんとなくわかってくるのだ。この世界も、長く住みつき、おおくの経験をつむと、いろいろわかってくる。あれとおなじだ。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)

    このようなわけで、ホワイトヘッドを一人で学ぶのはきわめて難しいだろう。そこで、本プロジェクトでは、みんなで挑戦してみよう、ということなのだ。しかも、アレグザンダーの思想に慣れ親しんでいる僕らならば、もしかしたら、それを糸口として理解への道がひらけるかもしれない。

    なお、あらかじめ、断っておくが本プロジェクトの担当者である僕(井庭)は、ホワイトヘッドの研究者ではないし、特段理解が深いわけでもない。そのため、僕が解説したり、質問に答えるということは期待しないでほしい。僕を含む参加者全員で、難解なホワイトヘッドの哲学に挑戦する、そういうつもりで本プロジェクトに参加してほしい。

    そのような難しい闘いではあるが、多少なりの勝算はある(あくまでも多少であり、また保証はないが)。それは、僕が普段、難解な本を読むときのプロセスや技を参加者に共有し、それを踏まえてみんなで取り組むということだ。ふだん僕は、難解な哲学書を読むときに、手に入るあらゆる入門書・解説書を片っ端から読みまくって、そこから本丸の哲学書にアプローチする。そうすることで、読み解き方を自分なりにつかみながら、自分で読みこなすことができるようになる。そのとき、僕は一人で20〜30冊くらい読むことになるわけであるが、それはなかなかにハードなことなので、それをそのままみんなにやってもらうというのは、非現実的だろう。そこで、本プロジェクトは、それを参加メンバーで分担しあうというやり方で行う。つまり、一人ですべてやる代わりに、「分担して読んでくる」+「紹介しあい話しあう」ことで、全員で理解を深めていくコラボレーションで取り組むのである。

    最後に強調しておきたいのは、本プロジェクトで目指すことは、ホワイトヘッドの哲学を単に理解することではなく、その概念装置を通して、世界を見る(認識する)ことができるようになることであるということだ。また、ホワイトヘッドの哲学を理解することで、アレグザンダーの概念装置をより精密に理解し使いこなせるようになることである。

    このような読書による概念装置の獲得ということについて、内田義彦が『読書と社会科学』で明解に語っているので、いくつか引用しておきたい。まず、概念装置とはどいうものかについて。

    「概念装置を脳中に組み立て、それを使ってものを見る。・・・概念装置を使うことによって、肉眼では見えないいろいろの事柄がこの眼に見えてくる。それも、ある程度ながら-----用いられた概念装置にかかわりのある限りにおいては-----否応なく、好みを越えて、否定しようにも否定しがたく見せつけられるかたちで見えてくるんで、その限りだれでもが同じ地盤に立つ。同時に先人の発見の伝達と蓄積が可能になってきます。」(内田義彦『読書と社会科学』)

    本を読むときに、単にそこに書いてあることを理解する・知る、というのではなく、認識の手段としての概念装置を獲得するために読むという読み方について、次のように述べている。

    「本を読むことで、認識の手段としての概念装置を獲得する。これがかなめです。それも、-----概念装置が自分の眼に代わってものを見る手段に化けちゃわないで、自分の眼そのもののはたらきを補佐する手段として役立ちうるようなかたちで獲得することがかなめですから------認識手段としての概念装置を習うについても、単にこれをを覚える、配線図のリプリントみたいに筋がきを頭にたたきこんじゃ駄目です。組み立てながら、たえず自分の眼をはたらかせてその効果のほどを験してみながら、組み立て方・使い方を体得する。そういう操作をすることで、はじめて既成の概念装置も、自前の概念装置として役立ちましょう。」(内田義彦『読書と社会科学』)

    そして、このように認識の手段としての概念装置を獲得するためには、単に受け入れるだけでなく、読んで、自分のなかでその概念装置を組み立て直す必要があると言う。これは僕もとても重要なことだと実感することだ。

    「概念装置は、同じ自分の眼を補佐する装置であっても、物的装置とちがって、身体の外部ではなく内部にあるもの、自分の脳中に組み立てるものです。・・・一人一人、苦労して組立て作業をやらなければなりません。製品を調達するのではなく、自己製作をする。新しい概念装置を自分で開発する場合はもとよりのことですが、先人が作り上げて学界の共有財産になっている既製の概念装置をそのまま使う場合でも、それを自分の認識手段として使いこなすためには、組立て作業それ自体を、一、一この眼を働かせながらキチンと、ていねいにやって、自家薬籠中のものとしておかなければなりません。でないと、その概念装置は、知ってはいても、自分のこの眼でものを見る認識手段としては、役に立たない。その意味では、既製の概念装置の修得も、真にそれを自分の概念装置として獲得するためには、新しい概念装置の開発とまったく同じ種類の自主性と労苦がいる、ということを強調しておきたいと思います。概念装置はすべて、新旧を問わず自前でやらなければならない。で、心血をそそいで組立て作業をやる。やらざるを得ない。」(内田義彦『読書と社会科学』)

    このように、独特の世界観をもつ哲学の本を読むということは、とても創造的な営みなのである。本プロジェクトでは、このような概念装置の組み立てという体験を、みんなで実践していければと思っている。とても大変ではあるが、やりがいのある、そんな「夏学期」をお楽しみに!


    【本プロジェクトで取り上げる文献】

    ■入門編の文献(全員共通)
    ・『ホワイトヘッドの哲学』(中村 昇, 講談社, 2007)
    ・『読書と社会科学』(内田 義彦, 岩波書店, 1985)
    ・『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)

    ■助走編の文献(下記のなかの1冊をグループで担当し、みんなに紹介)
    ・『ホワイトヘッド『過程と実在』:生命の躍動的前進を描く「有機体の哲学」 (哲学書概説シリーズ) 』(山本 誠作, 晃洋書房, 2011)
    ・『コスモロジーの哲学:ホワイトヘッドの視座』(チャールズ ハーツホーン, クレイトン ピーデン, 文化書房博文社, 1998)
    ・『ホワイトヘッド:有機体の哲学』(田中 裕, 講談社, 1998)
    ・『ホワイトヘッド:秩序への冒険』(ポール・グリムリー・クンツ, 紀伊國屋書店, 1991)
    ・『ホワイトヘッドへの招待:理解のために』(ヴィクター・ロー, 松籟社, 1982)
    ・『具体性の哲学:ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』(森 元斎, 以文社, 2015)
    ・『連続と断絶:ホワイトヘッドの哲学』(飯盛 元章, 人文書院, 2020)
    ・『日常の冒険:ホワイトヘッド、経験の宇宙へ』(佐藤陽祐, 春風社, 2021)
    ・『ホワイトヘッドと現代:有機体的世界観の構想』(山本 誠作, 法蔵館, 1991)
    ・『ホワイトヘッドと西田哲学の〈あいだ〉:仏教的キリスト教哲学の構想』(延原 時行, 法蔵館, 2001)

    ■本丸編の文献(全員共通:訳が2種類と英語原著があるので、それらを複合的に使用して理解する)
    ・『過程と実在〈1〉コスモロジーへの試論』(A.N.ホワイトヘッド, 平林 康之 訳, みすず書房, 1981)
    ・『過程と実在〈2〉コスモロジーへの試論』(A.N.ホワイトヘッド, 平林 康之 訳, みすず書房, 1983)
    ・『ホワイトヘッド著作集 第10巻 過程と実在 (上)』(A.N.ホワイトヘッド, 山本 誠作 訳, 松籟社, 1984)
    ・『ホワイトヘッド著作集 第11巻 過程と実在 (下)』(A.N.ホワイトヘッド, 山本 誠作 訳, 松籟社, 1985)
    ・"Process and Reality"(Alfred North Whitehead, Free Press, 1979)



    【参加条件】
    2021年春学期に井庭研究室に在籍していて一緒に特別研究プロジェクトをつくろうという思いを持ち、実際に行動が伴っている人、および、2021年秋学期に在籍予定の人。


    【必要経費】
    文献(書籍)購入代:約3万円(各自購入)


    【評価方法】
    出席、個人最終レポート、文献発表、話し合いへの貢献、プロジェクト全体への貢献から総合的に評価する。


    【授業スケジュール】

    ■入門編:『ホワイトヘッドの哲学』+『読書と社会科学』(春学期にも読むが、新規メンバー向け)+『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』の一部


    8/5(木)13:00〜18:00
    内田義彦『読書と社会科学』、および中村昇『ホワイトヘッドの哲学』についての話し合い

    8/6(金)13:00〜18:00
    アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』、および中村昇『ホワイトヘッドの哲学』についての話し合い


    ■助走編:解説書輪読(グループで分担書についてプレゼン)

    8/23(月)13:00〜18:00
    解説書のグループ発表1+内容についての話し合い

    8/24(火)13:00〜18:00
    解説書のグループ発表2+内容についての話し合い

    8/26(木)13:00〜18:00
    解説書のグループ発表3+内容についての話し合い


    ■本丸編:『過程と実在』読解

    9/13(月)13:00〜18:00
    ホワイトヘッド『過程と実在』第1部についての話し合い

    9/14(火)13:00〜18:00
    ホワイトヘッド『過程と実在』第2部前半についての話し合い

    9/15(水)13:00〜18:00
    ホワイトヘッド『過程と実在』第2部中盤についての話し合い

    9/16(木)13:00〜18:00
    ホワイトヘッド『過程と実在』第2部後半についての話し合い

    9/21(火)13:00〜18:00
    ホワイトヘッド『過程と実在』第3部についての話し合い

    9/22(水)13:00〜18:00
    ホワイトヘッド『過程と実在』第4部についての話し合い

    9/24(金)13:00〜18:00
    ホワイトヘッド『過程と実在』第5部についての話し合い


    ■総括編:まとめとふりかえり

    9/27(月)13:00〜18:00
    全体総括&ふりかえり

    9/28(火)13:00〜18:00
    全体総括&ふりかえり

    9/30(木)13:00〜18:00
    最終レポートを踏まえての語り合い
    井庭研だより | - | -

    2021年春学期 井庭研「ナチュラルにクリエイティブに生きる未来に向けて」シラバス

    井庭研シラバス(2021年度春学期)

    ナチュラルにクリエイティブに生きる未来に向けて:創造の研究 & 未来をつくる言葉をつくる(ことで、本当に未来をかたちづくる)

    [ 自然のなかの子育て / 創造的な学校・教育 / 企業理念の実践支援 / 生態系保全活動 / 新しい開発援助 / ともに生きる高齢者ケア / ワクワクする人生のZINE制作 / 道を極めることのボードゲーム開発 / 商いの実践探究コミュニティ研究 / 卒 資本主義 & 創造的民主主義への構想 / 音楽作曲 ]

    担当:井庭 崇(総合政策学部教授)
    研究会タイプ:A型(4単位)

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    2021年2⽉6⽇(土):エントリー〆切
    2021年2⽉8日(月)・9(火):面接@オンライン

    ※エントリーを考えている人は、「井庭研に興味があるSFC生の連絡先登録(2020年12月〜2021年2月用)」に登録してください。最新情報をメールで送ります。

    ※最新情報や説明の映像などを、こちら「慶応SFC 井庭研2021年度 新規エントリー者向け情報」(note)にアップしていく予定です。そちらのページもたまにチェックしてみてください。


    2021年度春学期は、以下の10プロジェクトのメンバーを募集します。

    (1) 自然のなかの子育て・暮らしのパターン・ランゲージの作成
    (2) 新しい創造的な学校・教育づくりのパターン・ランゲージの作成
    (3) 組織の理念を具体的実践につなげるためのパターン・ランゲージの作成
    (4) 生態系保全活動のパターン・ランゲージの作成
    (5) パターン・ランゲージによる新しい開発援助
    (6) パターン・ランゲージを活用した高齢者ケア実践の研修デザイン
    (7) 「ワクワクする人生」を生きている人の「人生の育て方」を紹介するZINEの制作
    (8)「 道を極める」感覚を遊びのなかで体感できる面白いボードゲームの開発
    (9) 商いの実践探究コミュニティの研究
    (10) 卒資本主義と創造的民主主義へのシステミック・チェンジの構想


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    ☆      ☆      ☆


    井庭研究室では、より自然で創造的な暮らし・生き方・社会へのシフトを目指して、一緒に研究・実践に取り組む仲間を募集します。

    井庭研では、これからの社会を「創造社会」(クリエイティブ・ソサエティ:Creative Society)だと考え、特に、自然とつながり人間らしく豊かに生きる「ナチュラルな創造社会」へのシフトを目指し、それが可能となるための支援メディア(パターン・ランゲージ)をつくるとともに、そのベースとなる理論・方法論を含む新しい学問の構築に取り組んでいます。

    研究・教育は「未来に向けての取り組み」であるため、まずは僕(井庭)が「これからの未来をどう見据えているのか」について語ることが不可欠だと思います。そこで、まず、そのことについて簡単に述べておきたいと思います(のちのVisionのところで、より詳しく紹介します)。

    僕が見ている・目指している未来社会は、「創造社会」と呼び得る社会です。しかも、自然との関わりを深めた「ナチュラルな創造社会」です。

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    自然(ナチュラル)」というとき、そこには、(突き詰めると表裏一体となる)2つの意味を持っていることに気づきます。一つには、自然(森林や海山など)などの「外なる自然」のことを意味しており、もう一つは、素の自分らしさと自由度をもっていきいきと生きるという「内なる自然」の意味です。これらは別ものではなく、相互に関係しており、理想的な状態では、これらは調和的に重なり合って、ひとつの「自然(ナチュラル)に生きる」ということに収斂します。

    この二つの「自然(ナチュラル)」が分離してしまっていることが、現代の諸問題の根源にあると、僕は見ています。「外なる自然」と「内なる自然」のつながり抜きに、どんなに人工的に別の手をつくしても、限界があると思うのです。ですので、これら2つの意味の「自然(ナチュラル)」---「外なる自然」と「内なる自然」---がうまく重なり合うようことが可能な未来を目指したいと思っています。

    そして、実は、その意味での「自然(ナチュラル)」は、「創造的(クリエイティブ)」であるということにも重なります。かつて、作家のミヒャエル・エンデは、「創造的であるというのは、要するに、人間的であるということにほかならない」と語りました。一人ひとり創造的に生きるということは、誰かがつくった(社会的に与えられた)「人工的」な人生ではなく、その人らしく(「内なる自然」の意味での)自然で人間的な人生を生きるということにほかなりません。そして、そういうことが可能なのは、人工的な環境のなかではなく、深く美しい自然(「外なる自然」)の秩序との触れ合いがある生のなかで、本当に実現できると考えているのです。

    その意味で、井庭研が目指す「創造的(クリエイティブ)」というのは、何らかのメソッドやテクノロジーを用いて「人工的」に飛躍的な思考を実現するというようなものではなく、一人ひとりが本来もっている創造性を十全に発揮するということなのです。この一人ひとりがもつ創造性は、人工的なものではなく、自然(ナチュラル)なものなので、それを僕は、「ナチュラル・クリエイティビティ」(Natural Creativity:自然な創造性)と呼んでいます。世の中的にはAI(人工知能)が全盛ですが、だからこそ、僕らは人間が本来持っている「ナチュラル・クリエイティビティ」の方に着目したいのです。

    ナチュラルにクリエイティブに生きる」とは、一人ひとりがもつナチュラル・クリエイティビティを発揮して生きていくということです。そして、それが最も高まるのは、「外なる自然」とつながり調和し共鳴するときである、と考えているわけなのです。このような考えのもと、井庭研では、一人ひとりが自身のナチュラル・クリエイティビティを発揮し、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことができる社会、すなわち「ナチュラルな創造社会」を実現することを目指して、研究・実践に取り組んでいます。

    以下では、井庭研が目指している未来像(Vision)、それに向かう研究・活動の根底にある「問い」(Mission)とアプローチ(Approach)、そして、その研究の学問的な位置づけ・野望に対する考え(Academic)、そして、そのための教育・育成の方針(Education)について説明します。


    ■Vision - 「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことができる「ナチュラルな創造社会」へ

    僕は、ここ一世紀の社会の変化として、3つのCの重点のシフト --- Consumption → Communication → Creation --- が起きていると見ています。「消費社会」から「情報社会」、そして「創造社会」へのシフトです。

    欧米では一世紀ほど前に、日本では戦後に「消費社会」が始まり、物やサービスを享受するということに人々の関心が集まり、それこそが生活・人生の豊かさの象徴となる時代でした。その後、1990年代から始まった「コミュニケーション社会」(いわゆる情報社会)では、インターネットと携帯電話が普及するにつれて、人間関係やコミュケーションに意識がより向けられるようになり、オンライン/オフラインを問わず、よい関係やよいコミュニケーションを持つことが生活・人生の豊かさを象徴するものになりました。そして、これからの「創造社会」の時代においては、自分(たち)を取り巻く世界や自分の暮らし・人生を構成するものを、どれだけ自分(たち)でつくっているのか、ということが生活・人生の豊かさを表すようになっていくと思われます。

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    創造社会はいま徐々に始まりつつあるのですが、その萌芽的な事例としては、ファブ(FAB)による「ものづくりの民主化」、社会問題を解決する独自のモデル・仕組みを試みる「社会起業家」、地域における「住民参加型のまちづくり」、自分たちでの新しいライフスタイルやワークスタイルの構築、自分らしい人生キャリアをつくる、などがわかりやすいでしょう。このような、自分(たち)でつくるという「創造化」は、これから、教育、ビジネス、組織、行政、地域、家庭などあらゆる場を変えていくことになるでしょう(情報化によっていろいろなことが変わったように)。

    このような創造社会では、一人ひとりがもつナチュラル・クリエイティビティを発揮しながら、日常や仕事上の問題を解決したり、これまでにないものを生み出したりしていくことになります。これには、そういうことができるという自由度・可能性が高まるという希望に満ちた素晴らしい面と、そうやって各自が自分で問題解決や創造をしていかないと、誰も代わりにはやってくれない(すなわち、自分たちでなんとかしなければ生き残れない)というシビアで過酷な面もあります。複雑多様化した社会を動的に維持・生成し続けるためには、一人ひとりがもつナチュラル・クリエイティビティを発揮することが求められるのです。

    「創造社会」に重なる未来ヴィジョンを早くから描き伝えてきたダニエル・ピンクは、ロジカルで分析的な「情報化」の時代に対して、これからの時代は、創作力や共感、喜び、意義というものが、より重要になってくると指摘しています。まず、「パターンやチャンスを見出す能力、芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力、人を納得させる話のできる能力、一見ばらばらな概念を組み合わせて何か新しい構想や概念を生み出す能力」が発揮される機会が増え、求められるようになります(ダニエル・ピンク『ハイコンセプト:「新しいこと」を考え出す人の時代』)。そして、「他人と共感する能力、人間関係の機微を感じ取る能力、自らに喜びを見出し、また、他の人々が喜びを見つける手助けをする能力、そしてごく日常的な出来事についてもその目的や意義を追求する能力」も重要になると言います。

    このように、一人ひとりが、自分の自然な創造性を発揮する「創造社会」では、このような力とセンス(感性)を磨いていく必要があり、それらをうまく発揮することそのための教育・支援が重要となります。さらに、一人ひとりが創造性を発揮するとともに、チームでのコラボレーションや、より広い他者との連鎖・増幅を通じて共創していくことができれば、自分たちで自分たちの社会をアップデートしていく「自己革新的な社会」になるでしょう。そうなれば、現在、すでに限界が感じられているような「一部の人が考え、それを承認して受け入れるだけの民主主義」から、誰もがその具体的なアイデア生成に寄与することで社会を形成していく「創造的民主主義」(クリエイティブ・デモクラシー:Creative Democracy)の世界へとシフトしていくでしょう。

    しかも、それは単に「創造的」であればよいだけではありません。現代社会が抱える諸問題を解決していくためには、「ナチュラル(自然)」という側面が欠かせないと思うのです。ここ一世紀の間に、日本をはじめ世界中の多くの人々が、自然から離れた暮らしをするようになりました。改めて、自然との関わり方自分たちの暮らし方について再考しなければならない時期に来ていると思います。

    解剖学者の養老孟司は『都市主義の限界』という本のなかで、「戦後社会の変革を、私は都市化と定義してきた」と述べています。都市化においては「なにごとも人間の意識、考えること」が重要だとされ、「排除されるのは、意識が作らなかったもの、すなわち自然」であると言います。そして、「排除された自然は、やがて都会人のなかでは現実ではなくなる」のだと指摘しました。そして、「人間を構成するもう一つの重大な要素」である「無意識」も、意識化できないがゆえに排除されてしまうと指摘しました。まさに現代社会で起きていることだと思います。

    さらに、「都市とはすべてが人間の所行で生じたものであるから、そこで起こる不祥事はすべて『他人の所為』なのである」ため、すべてのことが行為・思考に帰せられる「人工的」な世界になるわけです。養老孟司との対談のなかで宮崎駿が「視線の矛先が、いまの時代、人間にばかり向いているというのは、ドキリとさせられます」(『虫眼とアニ眼』)と語っているのですが、同感です。このように、人工的な環境のなかで、意識化された物事と人間同士の関係のなかで生きているために、現在のようなとても息苦しく、閉塞感を感じるようになってしまっているのではないでしょうか。

    そして、現代では、あまりにも人々が自然から離れてしまっています。哲学者ミシェル・セールは、現在のフランスでは農家の人口は全体の約10%に過ぎないけれども、一世紀前には80%が農民だったと言い、「われわれの子どもたち、いや、私以降の世代の大半が都会育ちで、農業の経験も動物や植物の生に触れるような体験も非常に少ない」(『惑星の風景 中沢新一対談集』)と憂いていたことがあるのですが、これは日本も同様でしょう。これからの「ナチュラルにクリエイティブに生きる」時代においては、もっと多くの人が、自然のなかに入り、農にも多少関わり、自分たちの身体をつくる「食」のこと、そして、「暮らしの環境」について考えていくことが重要になるでしょう。そして、そういうことに関わることが、生活・人生の豊かさを考えるということになるのです。

    これまでの近代の人工的な社会から「ナチュラルな創造社会」にシフトし、人々がより「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ようになる --- このような未来ヴィジョンのもと、井庭研では、そのような未来に向かうための研究・実践・教育を行っています。

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    ■Mission - 研究の根底にある問い

    井庭研での研究の根底にある問いは、「創造とはどういうことか」、「どうしたら一人ひとりのよりよい創造実践が可能になるのか」、そして「創造的な組織・社会を実現するにはどうしたらよいのか」ということです。その背景には、創造という出来事や、一人ひとりのよりよい創造実践、創造的な組織・社会の実現は簡単ではなく、蓋然性が低い(起きやすさが低い)ということがあります。その蓋然性の低さを乗り越えて、それらが可能になるのはいかにしてなのか、そのことを根源的に問うています。

    この問いに答えるためには、「創造の研究」に取り組むとともに、「どのような方法・メディアがあれば、人は自らの自然な創造性を発揮して、他者ともに協働的に創造実践することができるのか」ということを考える必要があります。そして、それがいろいろな分野でどのようなことなのかを具体的に明らかにしていくことも不可欠です(その成果が個々のパターン・ランゲージとして表現されます)。さらに、「ナチュラル(自然)であることとクリエイティブ(創造的)であることはどのように関係し、重なり合い、融合させていくことができるのか」ということについても、その本質を深く考えることが重要になります。

    井庭研で取り組んでいるすべての研究は、それぞれのプロジェクト目標を達成するだけでなく、今挙げたような根本的な問いに答えるための研究になります。

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    ■Approach - 創造実践のための言葉をつくる

    井庭研では、個人の思考・実践を支えるとともに、組織・社会のなかでのコミュニケーションを変えるメディアとして、「パターン・ランゲージ」の作成と研究に取り組んでいます。パターン・ランゲージが、僕らがつくっている「未来をつくる言葉」なのです。

    パターン・ランゲージ(Pattern Language)は、もともとは、人間的な自然な質を生む設計(デザイン)の知を共有するための方法として、建築分野で生まれたものでした。その後、ソフトウェアの設計(デザイン)に応用され、さらには教育や組織におけるやり方・型の共有にも応用されました。井庭研では、そこからさらに領域を広げ、暮らしや仕事、生き方のパターン・ランゲージをつくってきました。これまで十数年間で、70種類を超えるいろいろな領域の1700以上のパターンをつくってきました。それらは書籍として出版されたほか、パターン・カードは全国で使われています。

    それぞれの領域のパターン・ランゲージは、それぞれの領域での実践を支え、それについて思考したり、コミュニケーションしたりすることを支援します。それがあることで、多くの人が、起こりがちな問題(落とし穴)に陥ることなく実践したり、問題を解決したりできるようになります。また、今後のことを予期・計画できるようになったり、振り返り、改善していったりすることもできるようになります。さらに、パターン・ランゲージで提供されている新しい「言葉」を語彙(ボキャブラリー)として、実践について語ったり問いを投げたりしやすくなります。このように、パターン・ランゲージは、パターンに支えられた実践を通して、それを使う人たちの「未来をつくる」ことを支援します。

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    井庭研では、いろいろな領域に関するプロジェクトを行っています。それぞれのプロジェクトは、自然、創造、暮らし、生き方、仕事、組織、教育、芸術などの個別領域における課題・目標を持っており、これらのプロジェクトは、個別の目標を持ちながらも、その根底には、すでに紹介した「どうしたら一人ひとりがよりよい創造実践を実践できるのか」と「どうしたらチームや社会的によりよい創造実践ができるのか」という問いへ答えようとしているのです。また、ワークショップを設計・実施したり、日常の環境に埋め込むための新しいメディアのデザインなども行うことで、「ナチュラルでクリエイティブに生きる」ことを支援することに取り組んでいます。

    さらに、井庭研でつくるパターン・ランゲージは、「ナチュラルな創造社会」という「未来をつくる」ことにも寄与します。パターン・ランゲージがいろいろな領域でつくられていくことで、多くの人々がその人にとっての新しい領域の創造実践を始めやすくなる状況が生まれます。つまり、人々の創造実践の自由度が高まるのです。井庭研が目指しているのは、あらゆる領域でパターン・ランゲージが創造実践の下支えをしている世界であり、僕たちの研究・実践は「ソフトな社会インフラ」をつくることの一翼を担っていると言うことができます。

    このように、井庭研では、個々のパターン・ランゲージによって、各人がパターンに支えられた実践によってその人の「未来をつくる」ことを支援するとともに、さまざまな領域でパターン・ランゲージの「ソフトな社会インフラ」を整備していくことで、「ナチュラルな創造社会」という「未来をつくる」--- その二重の意味で「未来をつくる言葉をつくる」ことに取り組んでいるのです。

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    ■Academic - 今の実学、未来への実学、未来の実学となる「新しい学問」をつくる

    井庭研が取り組んでいるのは、社会的な意義をもつ極めて「実学的」な研究です。しかしながら、現在の問題を解決するというだけでなく、将来起きる問題を解決することにも寄与し、未来をかたちづくるということにつながっています。つまり、「今の実学」であるとともに、「未来への実学」「未来の実学」でもあるのです。

    学問的に見たときに、実は、上記のような問いに直球で答えてくれる学問分野は、現在ありません。そのため、既存の学問的枠組みや方法論を超えた「新しい学問」を構築しながら取り組むことが必要となります。それゆえ、井庭研では、新しい学問の土台をつくりながら、その上で具体的な研究を進め、そのことによってさらに土台が固まっていくというような、大胆で実験的なやり方で研究に取り組んでいます。

    その「新しい学問」を、僕は仮に「創造実践学」と名づけています。まだその全貌は見えていませんが、おぼろげに主要な骨格が見えてきているところです。もちろん、いまやっている研究のベースとなり、指針が得られるくらいに固まってきている部分もあります。その点は安心してください。「創造実践学」という名称には、創造実践を研究する学問だという「創造実践・学」(Study on Creative Practice)という意味と、創造の実践と学術的研究の両方に取り組む「創造の実践 / 創造の学」(Practice and Study of Creation)でもあります。

    この「新しい学問」を構築では、単に、既存学問同士を結びつけるというような「学際的」(インター・ディシプリナリー:inter-disciplinary)なものにはとどまりません。いろいろな学問領域を横断し、それらを超越して研究するという「超領域的」(トランス・ディシプリナリー:trans-disciplinary)な研究になります。つまり、すでに有効だと知っている方法や知識の「合わせ技」で戦うというのではなく、そもそもの根本から再考し、自分たちの方法や道具を自分たちでつくっていく必要があるのです。

    科学哲学者のトーマス・クーンは、パラダイムシフトが起きるような状況では、哲学に立ち戻ってそこから考えるということが重要になると述べました。「危機が認められる時代には、科学者たちは自らの分野の謎を解明する手段として、哲学的分析に立ち向かうことがある」(トーマス・クーン『科学革命の構造』)。同じように、井庭研では、ときに哲学にまで立ち戻り、自分たちの考えや方法を再構築するということをしています。そしてさらに、哲学のみならず、社会学、人類学、認知科学、心理学、教育学、建築学、デザイン論、芸術論、美学、数学、文学、経営学、思想史などを必要に応じて縦横無尽に飛び込み、学び、取り入れていきます。しかも、西洋の学問だけでなく、東洋哲学・思想とも積極的に関わり、西洋と東洋の知を融合させたこれからの学問をつくっていこうとしています。

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    また、学問のあり方も「ナチュラルでクリエイティブ」なかたちに変わっていくことになります。すでに上でも取り上げた哲学者ミシェル・セールは、農業に関わる人口の減少について触れた文脈のなかで、次のように語っています。「作家であれ哲学者であれ社会学者であれ、今世紀初頭にはほとんど万人が農業を直接に体験していたのに、現在では誰もそんな体験をしていない。すなわち二〇世紀最大の問題、最重要の事件は、思想のモデルとしての農業の消失だとさえ言えると思います」。これは非常に興味深い指摘です。これからの学問は、物事を分解して分析する機械論的なアプローチや「工業的な製造」型の設計・制御の思想にもとづくものではなく、生命的な複雑さをまるごとつかみ、それを育てていくような「農業的な育成」型の学問になるのではないかと僕は考えています --- それがどういうことなのかは、正直まだはっきりとはわかりませんが。

    井庭研では「新しい学問」をつくるんだという話は、そういうことに興味が湧く人にとっては、その挑戦・議論に参加できるという魅力があると思いますが、必ずしも学生メンバーの一人ひとりに求めるものではありません。それでも、これから取り組む研究が、そのようなワクワクする知的な冒険の一部であるということを「なんだか、面白そう!」と思ってくれる人を歓迎します。

    なお、今年の春休み期間中に、パターン・ランゲージのつくり方について研究する特別研究プロジェクトを実施します。春学期から新しく入るメンバーも原則として参加してほしいと思っています(春学期からの研究プロジェクト参加のための助走・準備になるとともに、いろいろなメンバーと仲よくなる機会になります)。

  • 2021年度 春の特別研究プロジェクト(井庭研)シラバス 「オンライン時代のパターン・ランゲージのつくりかた研究」(2021年 2月22日(月)〜3月5日(金))

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    ■Education - 本格的に「つくる」経験を積んでいくクリエイティブ・ラーニング

    井庭研では、以上のような研究において、本格的に「つくる」経験を積むクリエイティブ・ラーニング」(創造的な学びつくることによる学び)によって、物事への理解を深め、力を養っていきます。これからの創造的な未来を生きるみんなにとって、井庭研で「つくる」経験を徹底的に積むということは、人生における重要な"財産"を得ることになるはずです。井庭研での「つくる」経験を糧として、将来、自分たちで「未来をつくる」ことに寄与・貢献していってほしいと思っています。

    かつて、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を構想した石川忠雄 元・塾長は、これからの社会で必要となる人を育てるために、慶應義塾に新しい学部(SFC)をつくることを提唱しました。これからの変化の時代においては、「豊かな発想で問題を発見し、分析し、推理し、判断して、実行をすること」が必要になり、それが「人間が経験のない新しい現象に対応する時に使う最も重要な能力」であるとして、「『ものを考える力』を強くするという教育をどうしてもしなければならない」(石川忠雄『未来を創るこころ』)と考えたのです。こうして、「未来を創る大学」として、SFCでは「個性を引き出し、優れた創造性を養い、考える力を強くする教育」が重視されてきました。井庭研では、この問題意識と方針をしっかり受け継ぎ、さらに創造(つくる)の面を強化して、教育・育成にあたっています。

    パターン・ランゲージという「未来をつくる言葉」をつくるという研究・実践のなかで、「パターンやチャンスを見出す能力、芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力、人を納得させる話のできる能力、一見ばらばらな概念を組み合わせて何か新しい構想や概念を生み出す能力」および「他人と共感する能力、人間関係の機微を感じ取る能力、自らに喜びを見出し、また、他の人々が喜びを見つける手助けをする能力、そしてごく日常的な出来事についてもその目的や意義を追求する能力」を身につけてほしいと思います。

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    将来的には、なるべく大学院まで進み、しっかりと経験を積んでいくことを強く推奨しています。大学院への進学は、研究者になるためではなく自らの力を高め、センス(感性)を磨き、本当に「未来をつくる」ことができる人として、社会に巣立ち活躍するようになるためです。学部4年生で卒業する人がいても構いませんが、少なくとも修士までの「6年制一貫教育」だというくらいの心持ち・意気込みでいてくれると、本腰を入れて取り組み、大きく成長することができるのではないかと思います。そのくらい本格的に取り組んで初めて、日本や世界において実際に変化をもたらし、「未来をつくる」人になる道が開かれるのです。博士課程まで進み、その道の第一人者になるまで「突き抜け」、未来をつくることを先導していけるようになる人も歓迎します。

    僕は、井庭研で修士マスター:master)になるということは、「未来をつくる言葉」をつくることを自分の領域で経験し、ひととおりのことをマスターした人になるということであり、博士ドクター:doctor)は、社会の問題(病)が解消・治癒されるように治療するドクター(社会の問題を治す医者)になるということだと捉えています。そのためのマスター・コース、ドクター・コースであり、必ずしも研究者になるための場ということではありません(もちろん、「未来をつくる」一つの職業として、研究者という立ち位置は選択肢の一つになると思いますが)。これは、「21世紀の社会を担うプロフェッショナル」=「高度な職業人を育成する」というSFCの大学院(政策・メディア研究科)の趣旨にもずばり合う捉え方です。

    研究会に入る前から、そのように進路を決めたり、恐れおののいたりする必要はありません。ただ、井庭研で取り組んでいることや、そこで身につける力とセンス(感性)が、単に大学時代から就職に向かうための「通り道」なのではなく、自分の人生を自分でつくっていく(そして社会に貢献し、未来をよりよくしていく)ための力とセンス(感性)をしっかりと身につける重要なステップ=階段であると知っておいてもらえればと思います。一段上るだけでなく、何段も上っていかないと、新しい見通しの視野は開けてこないのです。

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    ■Project - 2021年度のプロジェクト

    2021年度は、以下の11のプロジェクトを予定しています。井庭研のメンバーは、どれかひとつのプロジェクトに参加し、研究に取り組みます。 各プロジェクトは、複数人で構成され、成果を生み出すためのチームとして、ともに助け合い、高め合い、学び合いながら、研究に取り組みます。

    (1) 自然のなかの子育て・暮らしのパターン・ランゲージの作成
    (2) 新しい創造的な学校・教育づくりのパターン・ランゲージの作成
    (3) 組織の理念を具体的的実践につなげるためのパターン・ランゲージの作成
    (4) 生態系保全活動のパターン・ランゲージの作成
    (5) パターン・ランゲージによる新しい開発援助
    (6) パターン・ランゲージを活用した高齢者ケア実践の研修デザイン
    (7) 「ワクワクする人生」を生きている人の「人生の育て方」を紹介するZINEの制作
    (8)「道を極める」感覚を遊びのなかで体感できる面白いボードゲームの開発
    (9) 商いの実践探究コミュニティの研究
    (10) 卒資本主義と創造的民主主義へのシステミック・チェンジの構想
    (11) 音楽作曲のパターン・ランゲージの作成(新規募集無し)


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    各プロジェクトの概要は、以下のとおりです。各プロジェクトで扱うテーマの範囲・特徴がわかる重要文献のリストは、こちら「2021年春学期 井庭研 各プロジェクトにまつわる文献リスト」を参照してください。

    (1) 自然のなかの子育て・暮らしのパターン・ランゲージの作成
    現代社会では、人間は自然との関わりの多くを失い、人工的な環境・制度のなかで育ち・暮らしています。その「人間関係」「人工的な環境・制度」のなかで息苦しさや窮屈さ、閉塞感を感じている人は多く、心身への悪影響も少なからずあるようです。そこで、本プロジェクトでは、子どもの健全な成長を支え、生きる力を育むこと、そして、よりいきいきと暮らしていく人生に向けての心身の豊かな土壌を養うことを目指します。具体的には、0〜14歳くらいの子どもの子育て中の親や、保育・教育に携わる人が、どのように「自然のなかの子育て・暮らし」を実現することができるのかを明らかにし、「自然のなかの子育て・暮らしのパターン・ランゲージ」を作成していきます。作成にあたっては、北欧から始まった「森の幼稚園」や、日本での里山遊び、シュタイナー教育、自然を読み解く力などについての文献調査を中心に、関係者のインタビューも行うことで、実践における大切なことを抽出・言語化・体系化していきます。

    (2) 新しい創造的な学校・教育づくりのパターン・ランゲージの作成
    軽井沢風越学園や大日向小学校 しなのイエナプランスクールなど、日本でも新しいタイプの学校が始まっており、また全国のいろいろな学校でさまざまな工夫がなされています。未来に向けた創造的な人を育てる教育は、どのようにデザイン(設計)され、実践されているのでしょうか? 本プロジェクトでは、主に「創造的な学び」(クリエイティブ・ラーニング)の面に注目し、そのような創造的な教育実践を行っている学校を研究し、関係者にインタビューすることで、設計・実践上の大切なことを抽出・言語化・体系化し、「新しい創造的な学校・教育づくりのパターン・ランゲージ」を作成していきます。

    (3) 組織の理念を具体的実践につなげるためのパターン・ランゲージの作成
    組織が大切にしている理念やコア・バリューが、個々の実践においてしっかりと体現されるようになるには、どのような支援ができるでしょうか? 本プロジェクトでは、理念やコア・バリューのひとつひとつが、どのような状況でどのように実践されているのかを明らかにし、それをもとに、理念やコア・バリューを実践につなげるためのパターン・ランゲージを作成します。本プロジェクトは、ある企業との共同研究として行われ、具体的にその企業の理念・状況に合わせてパターン・ランゲージを作成した後には、実際に組織内での活用導入・効果検証へとつなげていく予定です。

    (4) 生態系保全活動のパターン・ランゲージの作成
    人間の暮らしは自然との関係のなかで成り立っています。食品や衣類はもちろん、エネルギーや日々の生活で用いるあらゆる物は自然資源を活用しています。しかし、近代化の過程で、暮らしや産業の変化とともに人間と自然との関係も変化し、過開発による生態系の破壊(オーバーユース)、あるいは管理放棄による荒廃(アンダーユース)といった問題が発生しています。こうした状況に対し、各地域レベルでどのように自然との関係を再構築していくことができるでしょうか? そして、そのための活動をどのように展開していけばよいのでしょうか? 本プロジェクトでは、生態系保全・活用の活動がうまくいっている事例を研究し、そこから実践上の大切なことを抽出・言語化・体系化して「生態系保全活動のパターン・ランゲージ」を作成します。これまではフィールドワークとインタビューによって調査を進めてきましたが、来学期は、主に文献調査を中心として事例・知見を研究していきます。

    (5) パターン・ランゲージによる新しい開発援助
    これまで井庭研では、仕事、教育、暮らし、生き方などのさまざまな分野のパターン・ランゲージをつくってきました。それらのパターン・ランゲージは、いろいろな分野の実践上のコツ・大切なことを共有するための実践支援のために活用されています(実践を支える言語)。また、パターン・ランゲージを用いると、自らの経験や未来について語り合うことができるようになることもわかっています(コミュニケーションのメディア)。さらに、他者の実践・事例を見たときに、何をしてどういう効果が出ているのかを分節化して把握しやすくもなります(認識の眼鏡)。本プロジェクトでは、このような効果をもつパターン・ランゲージを、国内外の諸地域の人々のエンパワーに活かしていくことを試みます。例えば、フィリピンの若者の支援として、現地の関係者や支援者と協力し合いながら、これまで井庭研でつくってきたパターンのなかから重要なパターンのセットをつくり、現地語で提供し、活用するための伴走を行います(パターン・ランゲージ・リミックスと伴走型支援)。その実践のなかで、人々のケイパビリティ(潜在能力)を高める、新しい開発援助(発達・発展の支援)のかたちを構築していきます。本プロジェクトでは、海外だけでなく、日本の地方の高校生のエンパワーメントなどにも取り組みたいと思っています。

    (6) パターン・ランゲージを活用した高齢者ケア実践の研修デザイン
    高齢者ケアの分野では、現場での実践のなかで多くのことが学ばれていますが、そのような現場での学びにおいて、どのようによりよいケア・介護について意識・経験を豊かにしていくことができるでしょうか? 本研究プロジェクトでは、パターン・ランゲージを用いた対話や実践支援による新しいアプローチを開発し、実践導入していきます。具体的には、井庭研でこれまでに作成してきた「ともに生きることば:その人らしく生きるケアの実践」(仮)や『旅のことば:認知症とともによりよく生きるためのヒント』とともに、『対話のことば』や『コラボレーション・パターン』『おもてなしデザイン・パターン』など、井庭研で作成してきた様々なパターン・ランゲージを活用し、実際に介護施設等で研修を実施していきます。支援する側/支援される側という区分を超えて、自分たちの「ともに生きる」スタイルを育てていくことを促すことを目指します。

    (7) 「ワクワクする人生」を生きている人の「人生の育て方」を紹介するZINEの制作
    「自分らしい、よい人生を送りたい」という思いは、誰もが持っているでしょう。しかし実際には、世の中の常識的な生き方を踏襲して、思うようにはいかないと感じている人も多いのではないでしょうか。そのような現代の日本において、自分なりにワクワクする人生を生きている人は、一体、どのようにしてそのような生き方・人生が可能になったのでしょうか? 井庭研では2020年度に、ワクワクする人生を生きている方々にインタビューし、「ワクワクする人生の育て方:一度きりの人生を自分らしく生きるヒント」というパターン・ランゲージを作成しました。そのなかで、ワクワクする人生を生きている方々は、「庭」を育てるように自分の人生を育て、楽しんでいることがわかりました。本プロジェクトでは、その成果を活かして、「ワクワクする人生」を生きている人たちの「人生の育て方」を紹介する「ZINE」(ジン:オリジナルの小冊子の雑誌)を制作し、ワクワクする人生を生きたいと思う人の生き方の参考になることを目指します。

    (8)「道を極める」感覚を遊びのなかで体感できる面白いボードゲームの開発
    芸術でも、学問でも、スポーツでも、どのような分野でも、「道を極める」ということは、極めた者にしかわからない世界です。しかし、「道を極める」上で何が大切かということは、もしかしたら知ることができるかもしれません。そこで、井庭研では2020年度に、「道を極める」ということを研究し、「道を極める」ことのパターン・ランゲージを作成しました。その研究では、650年以上続いている「能」の世界の道の極めかたを、秘伝書である『風姿花伝』を読み解くとともに、能楽師にもインタビューをして、「道を極める」ための大切なことを明らかにしてきました。本プロジェクトでは、その成果を活かして、「道を極める」感覚を遊びのなかで体感できる面白いボードゲームの開発に取り組みます。ここでいうボードゲームというのは、「道を極める人生ゲーム」のようなものだと考えれば、イメージしやすいと思います。そのようなゲームがあることで、遊んでいるなかで、道を極める感覚を養ったり、チームメンバーと共通認識をもったり、家族で大切なことを共有し語り合ったりすることができるようになると考えられます。本プロジェクトでは、子どもから大人まで、ゲームとして楽しむことができるボードゲームの開発を目指します。

    (9) 商いの実践探究コミュニティの研究
    実践者がそれぞれ探究し、集まり交流する「実践探究コミュニティ」と呼び得るコミュニティがあります。小阪裕司さんが主宰するワクワク系マーケティング実践会では、1500店・社の会員が、日々の商いの実践について報告し、交流し、学び合っています。そのような実践探究コミュニティはどのように成り立ち、どのような学びが展開されているのでしょうか? また、なぜ、成立が難しい大人数の「学びのコミュニティ」が維持され、拡大し得ているのでしょうか? 本プロジェクトではその秘密に迫り、そのメカニズムを明らかにしていきます。本プロジェクトの成果は、単に現存するコミュニティの研究にとどまらず、これから立ち上がるコミュニティに対しても役に立つ知見を得ることを目指します。本研究は、小阪裕司さんのオラクルひと・しくみ研究所との共同研究です。

    (10) 卒資本主義と創造的民主主義へのシステミック・チェンジの構想
    地球温暖化に象徴されるような地球環境破壊は、人類の拡大的な活動の結果であり、それは資本主義による自然の搾取の結果だと言われています。そのような現状のなか、私たち人類は、資本主義や経済への依存の状態からいかにして離れることができるでしょうか? そのひとつの可能性が、「創造社会」(creative society)にあると思われます。一人ひとりが日常的な創造性を駆使し、いろいろな物や仕組みをつくることができるようになると、経済的な調達に頼らなくてよくなります。また、社会の共創システムが大規模に立ち上がることになれば、これまでとは異なる社会のあり方を切り拓くことができるでしょう。本プロジェクトでは、そのような資本主義を卒業する「卒資本主義」の可能性を探っていきます。また、民主的な社会の実現のために、一部の人に集合的決定を委ねるかたちとは異なる、新しい民主主義の可能性についても探究します。かつてアメリカのプラグマティズム哲学者ジョン・デューイが「創造的民主主義」(creative democracy)と呼び、日本の政治学者 宇野重規が「プラグマティズム型の民主主義」と呼んだ、民主主義の新しいあり方を、創造社会やパターン・ランゲージに絡めて構想していきます。

    (11) 音楽作曲のパターン・ランゲージの作成
    音楽の楽曲に潜む秩序・構造の分析と、作曲における発想・考え方を研究し、楽曲の設計のパターン・ランゲージとしてまとめていきます。パターン・ランゲージの分野のなかでは、芸術における創造に直球で向き合う珍しい、挑戦的なプロジェクトです。また、作曲の実践についてや、音楽をマスターするということに関するパターン・ランゲージも作成します。本研究は、映画やCMの映像音楽を手がける作曲家・音楽プロデューサーの渡邊崇さん(大阪音楽大学特任准教授)との共同研究です。本プロジェクトは、2020年度からの継続プロジェクトで、新規メンバー募集はありません。


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    【履修条件】

  • 知的な好奇心と、創造への情熱を持っている多様な人を募集します。
  • 井庭研での研究・活動に積極的かつ徹底的に取り組もうという気持ちがあること。
  • 「知的・創造的なコミュニティ」としての井庭研を、与えられたものとしてのではなく、一緒につくっていく意志があること。


    【その他・留意事項】

  • 井庭研では、たくさん本を読みます。難しいものもたくさん読みます。それは、知識を身につけるというだけでなく、考え方の型を知り、考える力をつけるためでもあります。さらに、他のメンバーとの共通認識を持ち、共通言語で話すことができるようになるためでもあります。創造の基盤となるのです。

  • 井庭研では、たくさん話して、たくさん手を動かします。文献を読んで考えるということはたくさんやりますが、それだけでは足りません。他のメンバーと議論し、ともに考え、一緒につくっていく、ということによって、一人ひとりの限界を超えることができます。こうして、ようやく《世界を変える力》をもつものをつくることができるのです。

  • 2021年度春学期も、全活動をオンラインで行います。安定したネット環境で参加してください。

  • 現1年生(9月生含む)、大歓迎です。長く一緒に研究・活動して経験を積み重ねることで、理解が深まり力がつくので、その後、より活躍できるようになります。そのため、井庭研では早い時期からの履修・参加を推奨しています。

  • GIGA生や海外経験のある人、留学生を歓迎しています。井庭研では、日本語での成果をつくるとともに、英語で論文を書いて国際学会で発表したり、海外の大学やカンファレンスでワークショップを実施したりしています。日本語以外の言語を扱えることは、活躍・貢献のチャンスが大きく高まります。ぜひ、力を貸してください。

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    【授業スケジュール】

    井庭研では、どっぷりと浸かって日々一緒に活動に取り組むことが大切だと考えています。大学生活の・時間割上の一部の時間を井庭研の活動に当てるというよりは、 井庭研が大学生活のベースになるということです。井庭研に入るということは、SFCでの「ホーム」ができるということもあるのです。創造的な活動とその社会的な変革は、毎週数時間集まって作業するというだけでは成り立ちません。いつも、どこにいても考え、アンテナを張り、必要なときに必要なだけ手を動かすことが不可欠です。そのため、自分の生活の一部を埋めるような感覚ではなく、生活の全体に重なり、日々の土台となるようなイメージをもってもらえればと思います。

    そのなかでも、全員で集まって活動する時間も、しっかりとります。各自が準備をしたり勉強したりする時間とは別に、みんなで集まって話し合ったり、作業を進める時間が必要だからです。井庭研では、 水曜の3限から夜までと、木曜の4限から夜までの時間は、メンバー全員で集まって活動する 《まとまった時間》 としています。これらの時間は、授業や他の予定を入れないようにしてください。


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    【評価方法】

    研究・実践活動への貢献度、および研究室に関する諸活動から総合的に評価します。


    【エントリー課題】

    このシラバスをよく読んだ上で、2月6日(土)までに、指定の内容を書いたメールを提出してください。

    エントリーメールの提出先: ilab-entry[at]sfc.keio.ac.jp ([at]を@に変えてください)

    メールのサブジェクト(件名): 井庭研(2021春) 履修希望

    以下の内容を書いたファイル(PDF)を、メールに添付してください。


    件名:井庭研(2021春)履修希望

    1. 名前(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名, 顔写真 (写真はスナップ写真等で構いません)
    2. 自己紹介と日頃の興味・関心(イメージしやすいように、適宜、写真や絵などを入れてください)
    3. 井庭研の志望理由
    4. この研究会シラバスを読んで、強く惹かれたところや共感・共鳴したところ
    5. 参加したいプロジェクト(複数ある場合は、第一希望など、明示してください)
    6. 持っているスキル/得意なこと(グラフィックス・デザイン, 映像編集, 外国語, プログラミング, 音楽, その他)
    7. これまでに履修した井庭担当の授業(あれば)
    8. これまでに履修した授業のなかで、お気に入りのもの(複数可)
    9. これまでに所属した研究会と、来学期、並行して所属することを考えている研究会(あれば)

    2⽉8日(月)・9(火)に面接@オンラインを行う予定です。詳細の日時については、エントリー〆切後に個別に連絡します。

    ※エントリーを考えている人は、「井庭研に興味があるSFC生の連絡先登録(2020年12月〜2021年2月用)」に登録してください。最新情報をメールで送ります。

    ※最新情報や説明の映像などを、こちら「慶応SFC 井庭研2021年度 新規エントリー者向け情報」(note)にアップしていく予定です。そちらのページもたまにチェックしてみてください。


    【教材・参考文献】

    井庭研共通の重要文献は、以下の通りです。プロジェクトごとの文献リストは、こちら「2021年春学期 井庭研 各プロジェクトにまつわる文献リスト」をご覧ください。



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  • 井庭研だより | - | -

    2021年春学期 井庭研 各プロジェクトにまつわる文献リスト

    2021年度春学期の井庭研「ナチュラルにクリエイティブに生きる未来に向けて:創造の研究 & 未来をつくる言葉をつくる(ことで、本当に未来をかたちづくる)」各プロジェクトにまつわる文献リストは、以下の通りです(井庭研共通の重要文献については、シラバスの【教材・参考文献】をご覧ください)。

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    (1) 自然とのなかの子育て・暮らしのパターン・ランゲージの作成




    (2) 新しい創造的な学校・教育づくりのパターン・ランゲージの作成




    (3) 組織の理念を具体的実践につなげるためのパターン・ランゲージの作成




    (4) 生態系保全活動のパターン・ランゲージの作成




    (5) パターン・ランゲージによる新しい開発援助




    (6) パターン・ランゲージを活用した高齢者ケア実践の研修デザイン




    (7) 「ワクワクする人生」を生きている人の「人生の育て方」を紹介するZINEの制作



    (8)「道を極める」感覚を遊びのなかで体感できる面白いボードゲームの開発




    (9) 商いの実践探究コミュニティの研究




    (10) 卒資本主義と創造的民主主義へのシステミック・チェンジの構想




    (11) 音楽作曲のパターン・ランゲージの作成



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    井庭研 - 2021春の特別研究プロジェクト「つくりかた研究」シラバス

    慶應義塾大学SFC 井庭崇研究室 2021春の特別研究プロジェクト
    「オンライン時代のパターン・ランゲージのつくりかた研究」

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    【担当教員】 井庭 崇
    【タイプ】 特別研究プロジェクトA(4単位)
    【実施期間】 2021年 2月22日(月)〜3月5日(金)
    【実施形態】 すべてオンラインで実施
    【授業形態】 講義・グループワーク

    シラバス(1/21 マイナー・アップデート・バージョン)

    【概要】本特別研究プロジェクトでは、オンライン時代のパターン・ランゲージのつくりかたの研究を行う。昨年度までに井庭研究室で開発し実行してきた方法は、リアル空間で、模造紙や付箋を駆使したやり方でのものであった。2020年度は、新型コロナウィルス感染拡大の状況下で、研究会がオンライン開催となり、複数のプロジェクトにおいて従来のやりかたに囚われない新しいやりかたを試行錯誤しながら研究を遂行してきた。そこで、本特別研究プロジェクトでは、それぞれの試みと結果を振り返りながら、完全オンラインでのパターン・ランゲージの作成方法としてまとめる。参加者は事前に、クリストファー・アレグザンダー著『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 - 生命の現象』、およびバーバラ・ミント著『考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』と『創造的論文の書き方』を読み、プロジェクト期間中にその理解を深める話し合いの時間を持ち、実践に活かす。また、グループワークで取り組むテーマによって、追加で読むべき文献を紹介する。

    【参加条件】2020年度秋学期に井庭研究会に所属していたか、2021年度春学期に履修許可を得た学生

    【受入予定人数】約30名

    【募集締切日】2021年2月13日(土)

    【評価方法】 プロジェクト活動への参加、課題、成果論文で評価する

    【必要経費】書籍代として 2万円程度

    【使用文献】参加者は以下の文献を、各自購入し、開始日までにすべて読んでおいてください。また、グループワークでは、必要に応じて、追加で文献を入手し読むことがあります。

  • ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)
  • 考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント, ダイヤモンド社, 1999)
  • 創造的論文の書き方』(伊丹 敬之, 有斐閣, 2001)

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    【実施スケジュール(予定)】

    2月22日(月)9:30〜18:00+α
    特別研究プロジェクトの目的と進め方の紹介、および参加メンバーの自己紹介。さらに、パターン・ランゲージの作成プロセスに関するレクチャー
    文献に関する話し合い:『ネイチャー・オブ・オーダー』第1・2章
    +キックオフ懇親会(夕方〜夜:オンライン)

    2月23日(火)9:30〜18:00
    パターン・ランゲージのつくりかた研究のグループワーク
    文献に関する話し合い:『ネイチャー・オブ・オーダー』第3・4章

    2月24日(水)9:30〜18:00
    パターン・ランゲージのつくりかた研究のグループワーク
    文献に関する話し合い:『ネイチャー・オブ・オーダー』第5・6章

    2月25日(木)9:30〜18:00
    パターン・ランゲージのつくりかた研究のグループワーク
    文献に関する話し合い:『ネイチャー・オブ・オーダー』第7・8章

    2月27日(土)9:30〜18:00
    パターン・ランゲージのつくりかた研究のグループワーク
    文献に関する話し合い:『ネイチャー・オブ・オーダー』第9・10・11章

    3月1日(月)9:30〜18:00
    論文の書き方に関するレクチャー
    パターン・ランゲージのつくりかたについての論文執筆のグループワーク
    文献に関する話し合い:『考える技術・書く技術』
    アカデミック・リサーチ・パターンの紹介。

    3月2日(火)9:30〜18:00
    パターン・ランゲージのつくりかたについての論文執筆のグループワーク。
    文献に関する話し合い:『考える技術・書く技術』
    アカデミック・リサーチ・パターンの紹介。

    3月3日(水)9:30〜18:00
    パターン・ランゲージのつくりかたについての論文執筆のグループワーク。
    文献に関する話し合い:『創造的論文の書き方』
    アカデミック・リサーチ・パターンの紹介。

    3月4日(木)9:30〜18:00
    ライターズ・ワークショップについてのレクチャー
    論文をよりよくするためのライターズ・ワークショップの実施

    3月5日(金)9:30〜18:00+α
    論文をよりよくするためのライターズ・ワークショップの実施
    ライターズ・ワークショップを踏まえての論文修正のグループワーク
    特別研究プロジェクトのふりかえり。
    +打ち上げオ懇親会(夕方〜夜:オンライン)

    最終的なグループワーク成果論文やふりかえりレポートは、3月末までに提出

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    Seminar Syllabus: Iba Lab B, 2020 Fall

    Iba Lab B
    Translating Pattern Languages into Various Languages

    (Thursday 2nd period, 2020 Fall semester)
    Entry submission deadline: July 19

    We live in a complex and changing society, and the future will be determined by and based on our current actions and experiences. Therefore, methodologies and tools regarding the creation of a future where we can live well are significant. The research conducted in Iba lab consists of creating and sharing “pattern languages” throughout the world as these sorts of methodologies and tools.

    Pattern language is the method of and the tool for identifying common patterns of good practices embedded in specific domains and sharing this wisdom with others. It was originally proposed in the domain of architecture in the 1970s and has since been applied to various other domains such as software development, education and organizations.

    For the past 10 years, Iba Lab has created over 70 pattern languages on diverse topics that provide tacit practical knowledge of creative human actions, comprising over 1700 patterns in total. Topics include the following: learning, collaboration, presentation, project design, open dialogue, education, reading, cooking, living well with dementia, living well with working and parenting, employment of people with disabilities, welfare innovation, management of child care, social entrepreneurs, value-creation marketing, change making, community innovation, hospitality, life transition, beauty in everyday life, natural living, disaster prevention and public policy design. These pattern languages have been practically utilized to improve practices and generate dialogues among people in various organizations and communities.

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    Some of these pattern languages have been translated to languages such as Traditional Chinese, Korean and German and published as books overseas. An even larger number of these pattern languages have been published in English and are being used in other countries, with one even being written about in a newspaper in the UK. Our pattern languages are known throughout the world and have gathered many fans. However, with the majority of our pattern languages only available in Japanese or English, we are not yet able to reach out to the ordinary people of many countries.
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    In Iba Lab B we plan to work on improving this current situation by translating Iba Lab’s existing pattern languages. The translating of works of art are fundamentally considered to be “re-creations,” a work in one language re-created into a different language. García Márquez, the prominent novelist who received the Nobel Prize in Literature 1982, said “A good translation is always a re-creation in another language.” Because pattern languages are “languages,” this concept of “re-creating” the language is even more significant.

    In Iba Lab B, students will learn the knowledge necessary for creating pattern languages (which are essential in re-creation as well) and in addition, work on actually translating pattern languages. There are two main types translating that will take place: (1) Translating from English (or Japanese) to Another Language, and (2) Translating from Japanese to English.

    (1) Translating from English (or Japanese) to Another Language
    This is for students whose native tongue is neither Japanese nor English. You will translate pattern languages written in English (or Japanese) to languages such as Chinese, Korean, Vietnamese, Malay, Indonesian, Thai, German, French, Spanish, Russian, etc. and gather the finished translation into a booklet. We will then continue by sharing and using these translations in countries or regions that use that language and, if possible, publishing them overseas. Additionally, we would like to hold dialogue workshops both in Japan and overseas using these translated pattern languages.

    (2) Translating from Japanese to English
    This is for students who can fluently read Japanese. You will translate pattern languages written in Japanese to English. We will aim to publish these English translations as books. Additionally, we would like to hold dialogue workshops both in Japan and overseas using these translated pattern languages.

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    Iba Lab puts an emphasis of a learning style we call “Creative Learning,” in other words, “learning by creating” and “learning through creating.” This is a learning style in which, by taking part in a creative practice where one makes something, one can construct knowledge within themselves while deepening their understanding of things and gaining new ideas. In Iba Lab B, we will deepen our understandings of what pattern languages are and what is important in making them by translating (re-creating).

    If anyone would like to create their own original pattern language after gaining experiences re-creating with translations, you can consult with Prof. Iba about when and how that can be done.

    Number of Students
    15

    Requirement
    The theme for our lab is creativity. We are looking for prospective lab members who are willing to commit creatively to the future!

    Class Schedule
  • Official meeting will be on 2nd period of Thursday.
  • Members are required to work on their projects outside of class time.

    Screening Schedule
    Entry submission deadline: July 19

    Entry Assignment
    After reading through this syllabus thoroughly, please submit the entry assignment described below via email by July 19.

    Email to: ilab-entry [at] sfc.keio.ac.jp (Please change [at] to @)
    Subject: Iba Lab B (2020 Fall) Entry

    Please attach your entry assignment in a Word, Pages or PDF file.

    Iba Lab B (2020 Fall) Entry
    1. Name, Faculty, Grade, Student ID, e-mail address
    2. Profile photo
    3. introduction of yourself (interests, future visions, Circles, activities, any other points to sell)
    4. Reason for your entry into Iba Lab, and your enthusiasm towards the research activity in Iba Lab
    5. Your native language and languages you can write well
    6. Skills/ things you are good at (graphic design, film editing, programming, music, etc.)
    7. Courses by Prof. Iba which you have taken before (if any)
    8. Favorite classes you've taken so far (Multiple answers are welcome)
    9. Labs (Kenkyukai) you have been a part of (if any)
    10. Other Labs (Kenkyukai) you are planning on joining next semester (if any)

    Assesment Method
    Grading will be based on participation, project, and final product.

    Materials & Reading List
    References

  • Pattern Languages Iba Lab created and published in English

  • Pattern Languages Iba Lab created and published in other languages

  • Important Introductory Papers from Iba Lab
    Other papers and information is provided at this page.

    Related Courses
    PATTERN LANGUAGE (GIGA)
    DESIGNING SFC SPIRITS (GIGA)
    Iba Lab A

    Contact
    ilab-entry [at] sfc.keio.ac.jp

    Iba Lab B - Translating Pattern Languages into Various Languages
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