井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

井庭研B1シラバス(2023秋)「Natural & Creative Living Lab:ナチュラルにクリエイティブに生きることを支援する創造実践学研究」

IbaLabLogo.jpg井庭研B1シラバス(2023年度秋学期)
「Natural & Creative Living Lab:ナチュラルにクリエイティブに生きることを支援する創造実践学研究」


■ 重要な情報

・井庭研は、B型研究会×2の体制で連動して運営しています。そのため、このB1シラバスだけでなく、B2シラバス「Natural & Creative Living Lab:研究プロジェクト実践」にも必ず目を通し、全体像を理解するようにしてください。

一部プロジェクトで、引き続き新規メンバーの募集を受け付けています。第二期の募集は、9月下旬までとします。エントリーがあった人から面接を設定していき、プロジェクトの定員に達したら募集終了となるので、早めにエントリーすることをおすすめします。どのプロジェクトが募集しているかの最新情報はB2シラバス(ブログ版)を見てください。

・井庭研とプロジェクトのことについて説明している井庭研説明会の映像を見たい人は、ilab-entry@sfc.keio.ac.jpまでメールで連絡をもらえれば、映像のアドレスを共有します。sfc.keio.ac.jpかkeio.jpのメールアドレスから送ってください。

・夏休み期間中に、特別研究プロジェクト「パターン・ランゲージの作成方法論研究」を実施します
(8/24、8/31、9/07、9/12、9/13、9/22)。井庭研の研究の方法についてとても勉強になる貴重な機会なので、可能ならぜひ参加してください。詳しくは、特別研究プロジェクトのシラバスを見てください。


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■ Purpose - 新しい発想の学術研究を通じて、新たな視点、概念、方法、メディアを生み出し、人々がいきいきと生きる未来の実現に貢献する

井庭研では、「新しい発想の学術研究を通じて、新たな視点、概念、方法、メディアを開発し、人々がいきいきと生きる未来の実現に貢献する」ことを自らのPurpose(存在意義)としています。僕らは、既存の学問分野の枠や常識にとらわれない、新しい発想で学術研究を行い、現状の問題を解決し、これからの未来をよりよくする新たな視点、概念、方法、メディアを開発します。そして、多様なアクターと組みながら、それらの成果を広く世の中に普及させ、人々がいきいきと生きる未来の実現に貢献していきます。


■ Vision - ナチュラルにクリエイティブに生きる喜びのある「創造社会」

井庭研のVision(目指している未来)は、「ナチュラルにクリエイティブに生きる喜びのある『創造社会』」です。

僕(井庭)は、ここ100年の変化を、「消費社会」から「情報社会」、そして「創造社会」(Creative Society)という流れで見ることを提唱してきました。消費社会においては、人々は家電や車など、物やサービスを購入し享受することが生活・人生の豊かさだとされていました。情報社会に入って、コミュニケーションに関心の重心がシフトし、よいコミュニケーションや関係性を持つことが生活・人生の豊かさを象徴するようになりました。そして、現在すでに一部で始まりつつある創造社会では、人々が自分たちで自分たちの使う物や考え、方法、仕組み、社会、あり方・生き方をつくり、どのくらい自分たちで「つくる」ことに関わっているのかが生活・人生の豊かさになっていくと考えられます。

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そのような「つくる」時代に思いを馳せるとき、テクノロジーでがんじがらめになった人工的な未来ではなく、より自然と共生し、それぞれの人が人間らしく自然に生きている未来に僕は魅力を感じます。井庭研では、そのような「ナチュラルにクリエイティブに生きる」未来を目指し、「Natural」(自然な)と「Creative」(創造的)、そして、「Joyful」(喜びのある)が重なり合うような暮らし・人生を実現することの支援の実践研究に取り組んでいます。

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■ Mission - 素晴らしい質の実践に潜む原理の解明と、その発見にもとづく実践支援

井庭研のMission(使命)は、「素晴らしい質の実践に潜む原理の解明と、その発見にもとづく実践支援」です。

「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことは、どうしたら実現できるでしょうか? その問いに答えるには、暮らしや社会的な活動のそれぞれの実践領域ごとに考える必要があります。そこで、井庭研では、学び、仕事、子育て、介護、人生設計などのそれぞれの実践において、「ナチュラルにクリエイティブに生きる」ことの内実を明らかにし、それを主に「パターン・ランゲージ」というかたちで表現し、実践したい人たちに届け支援するという研究に取り組んでいます。

パターン・ランゲージは、実践における「コツ」を言語化します。コツというのは、語源的には「骨」と書きます。つまり、実践を内側から支える軸のようなものが、コツなのです。パターン・ランゲージが言語化するものは、次のようなコツです。

  ①その実践における「基本の型」
  ②例外的に成功している人(「ポジティブ・デビアンス」)たちのやり方
  ③工夫や試行錯誤によって得た「グッド・プラクティス」

これらのコツを共有できれば、今うまくできずに困っている人たちや、もっとよりよく実践したいと思う人たちの手助けをすることができます。「手助けをする」といっても、一人ひとりに現場で直接的に助けるというのではありません。コツを言語化したパターン・ランゲージを届けることで、その人が自分でできるようになるのを支援するのです。

その人の内側から作用するメディアを共有することで、「支援する人/される人」という関係を超えた、「ともに生きる」ということが可能になります。実際にそのように機能するパターン・ランゲージをつくるのは至難の業ですが、だからこそ井庭研では徹底的に時間と手間をかけて、つくり込んでいくのです。

様々な実践領域でパターン・ランゲージをつくり、またパターン・ランゲージをつくる人を支援することで、ありとあらゆる領域でパターン・ランゲージが実践を支援する状態をつくっていきます。そのように整備されたパターン・ランゲージは、創造社会における「ソフトな社会インフラ」となるでしょう。人々は、そのような「ソフトな社会インフラ」の支えの上で、創造的な実践を始めることの自由度が高まります。これが、井庭研の研究で行うことです。

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これまでに井庭研でつくったパターン・ランゲージのうち、書籍として出版されているものに、次のものがあります。実際に手にとって、読んでみてください。


井庭研では、創造実践の支援の方法として主にパターン・ランゲージの作成に取り組んでいますが、他にもワークショップや新しい方法・道具などをつくる研究、創造的なコミュニティの研究なども行っています。


■ Values - Goodを超えてGreatを目指し実現する / つくる力をしっかり身につける / 自分たちのコミュニティを自分たちで育てる

【Goodを超えてGreatを目指し実現する】

井庭研では、成果のクオリティにおいても、取り組みの度合いにおいても、「いいね」というGoodにとどまらず、「素晴らしい!」というGreatなレベルになるように本気の活動をしています。そこでは、日々、①人の気持ちを心から感じ、手を差し伸べる②本質を追究し、徹底的につくり込む③新しい方法で取り組み、可能性を広げるということを大切にしています。

まず、僕たちが取り組む研究で最も基盤となるのは、①人の気持ちを心から感じ、手を差し伸べる感受性と優しさです。困っている人、助けを求めている人、呼びかけ応答を求めている人に対して眼差しを向け、寄り添い、自分を差し出して尽くす ------ そういう気持ちと行動が不可欠です。井庭研で行われているパターン・ランゲージの作成は、困っている人たちやもっとよりよく生きたいと願う人たちを支援するために行われています。そのため、自己実現や自分の満足・快適を優先・中心に考える人は、井庭研には合わないということを強調しておきたいと思います。

次に、②本質を追究し、徹底的につくり込むための明晰さと粘り強さが大切になります。物事の本質は、簡単には見えません。いくつもの事例を見ながら、そこに共通する特徴をつかみ、その本質を突き詰めて考えていくことが求められます(現象学の哲学では、これを「本質観取」と言い、井庭研ではそのことについても研究しています)。そして、その本質を表す表現を磨いていき、本質を見事に表す魅力的な表現になるようにつくり込んでいきます。そのとき、一人よがりな視点に陥らないために、複数人で何度も何度も話し合い、確かめ合います。本格的な創造ではいつもそうですが、井庭研で取り組む創造も、地道でつらく面倒な作業の連続です(しかし、楽しさや喜びも混じっているので、単なる苦行ではありません)。そうやってつくり込んだものだけが、人々の心に響き、実際に機能する素晴らしい(Greatな)作品になるのです。

そして、③新しい方法で取り組み、可能性を広げるということも、井庭研で大切にしていることのひとつです。これまでに広く採用されてきた方法は、すでに多くの人々によって実行されてきたはずです。その結果、現在の課題や困難が残っているのですから、同じようなアプローチで取り組んでも、問題は解決・解消しないでしょう。そのような状況では、これまでにない新しいアプローチで取り組むことが重要になります。井庭研では、パターン・ランゲージをはじめ、従来とは異なる新しい方法で取り組むことで、問題を解決する道を切り拓くとともに、これまでにない選択肢の可能性を広げ、その面でも世の中に貢献しています。

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【つくる力をしっかり身につける】

井庭研では、新しい発想の学術研究を通じて、新たな視点、概念、方法、メディアを生み出していくための力を、各自がしっかり身につけることを大切にしています。そのために、④感じたことを捉え、そう感じた根拠を明らかにする⑤本をたくさん読み、思考と創造の土壌を豊かにする⑥日々パターン・ランゲージを活かし、実践を高め続けるようにしています。

まず、何かを考えるときやつくるときには、自分の心で ④感じたことを捉え、そう感じた根拠を明らかにするようにしています。これは、まず、頭で意識的に考える前に内で感じること・直観としてつかんでいることが大切であることを意味しています。しかし、それをただ主張するのでは、単なる印象論や主観的な誤りに陥る可能性があります。そこで、感じたことを踏まえて、「そう感じたのはなぜか」「何がそれを確からしいと自分に感じさせたのか」の根拠を解明し、それを言葉で説明できるようになることが大切です。例えば、パターンのイラストを考えているときに、A案の方がB案より良いと感じたのであれば、それはどの部分がどうよいからなのかの理由を突きとめ、他の人も「確かにそうだ」と納得し得るロジックとして明示する必要があります。このような(受動的に)感じたことの本質(構造)を観取する(把握する)ということは、現象学の哲学的方法であり、また、パターン・ランゲージの考案者である建築家クリストファー・アレグザンダーの考えと方法にも通じるものです。まず感じて、それから考える --- Feel First, Then Think(FFTT)。これは、井庭研のあらゆる活動において重視されています。

そして、井庭研では、⑤本をたくさん読み、思考と創造の土壌を豊かにすることを心がけ、日々実践しています。人は何かを考えるとき、素手でゼロから考えているのではなく、自分がすでに持っている概念装置(考え方のフレームワークや理論体系など)を駆使して考えています。そのため、よい概念装置をいろいろ持ち、それを使いこなせるようになることが重要となります。また、創造(creation)を可能にする想像力(imagination)は、さまざまな経験や知識が自分の無意識の「土壌」のなかに沈み、分解・熟成することで豊かになります。思想・哲学的な本や実践領域に関する本、創造的な人たちの暮らしや生き方にまつわる本などを読むことは、そのような自分の「土壌」を豊かにすることに直結します。このように、思考の面でも創造の面でも、読書のもたらす効用は絶大であり、それを活かさない手はありません。井庭研では、各自が自分でどんどん本を読んでいくことを強く推奨しています。

さらに、井庭研では、⑥日々パターン・ランゲージを活かし、実践を高め続けることも推奨されています。僕らはこれまで20年間で、いろいろな実践領域の3,000以上のパターンを書いてきました。それらは、もともとは誰かのためにつくられたものなのですが、その本質的な普遍性から、僕ら一人ひとりにももちろん有効なものたちです。学び、プレゼン、コラボレーション、対話、読書、マネジメント、ケア、教え方、スタートアップ、暮らし、生き方などなど、井庭研のメンバーも、それらのパターン・ランゲージを自分の実践に活かすとともに、それを共通言語として語り合い、高め合うことにフル活用しています。

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【自分たちのコミュニティを自分たちで育てる】

井庭研では、自分たちのコミュニティを自分たちで育てるということを大切にしています。担当教員の名前がついた「井庭研」ですので、担当教員(井庭)はもちろん一つの中心的な役割を担うわけですが、だからといって、他のメンバーが従属的にぶら下がるような構造では、創造的な場としては素晴らしい場になるはずはありません。一人ひとりが、自分のいるコミュニティを育てていく努力をし、命を吹き込むからこそ、そこはいきいきとした創造的な場になるのです。そのため、まずはそのコミュニティにある⑦機会・環境に感謝し、最大限に活かすこと、また、⑧先生・先輩からどんどん学び、小まめに助け返すこと、そして、⑨仲間とともに挑戦し、喜びを分かち合うことをし続けることが大切になります。

井庭研では、⑦機会・環境に感謝し、最大限に活かすことを、忘れずにいることを重視しています。今ある機会や環境は、誰も何もせずに当たり前に「ただある」ものではありません。それは、担当教員や過去の先輩たち、そして今いるメンバーの努力や貢献によって生み出され、「あるようになった」ものたちです。「当たり前」だと思ってしまうと、有り難さ(そこにあることの難しさ・希少さ)は感じられず、自分には関係ないもの・適度に流してよいものになってしまうでしょう。そうではなく、そのような機会や環境をもたらしてくれた人たちに感謝することを忘れず、それを最大限活かして自分たちの力に変えることが大切です。

井庭研では、⑧先生・先輩からどんどん学び、小まめに助け返すことも大切にしています。人は経験を積むこと・知識を得ることで、できることが増えていき、その水準も高度になっていきます。そんな熟達した”すごい”人たちも、最初からそうだったわけではありません。ここで日々活動を続けるうちに、また個人的な努力の末に、できるようになったのです。先生や先輩がこれまで何を(どのような努力・経験を)してきて、今何をしているのか(実践・習慣)を聞き、自分の成長に活かすということは、自分を大きく高める契機となります。そして、先生や先輩が高いレベルで挑戦していることを手伝い、応援することで、いまの自分のレベルでは体験できないような、より高度なレベルでの実践経験を垣間見て体験できるようになります。そこで、経験や力の差のある先生や先輩たちから一方的に学びを得るだけでなく、その人たちを「助け返す」ことも、双方にとって重要な意味を持ちます。一気に大きく貢献というのは難しいので、日頃から、「小まめに助け返す」ことがポイントです。

井庭研では、日頃から、⑨仲間とともに挑戦し、喜びを分かち合うことを大切にし、味わっています。一人で行う挑戦では、自分の限界が活動の限界になってしまい、なかなか大きく飛ぶことはできません。そこで、研究会のメンバーや学内外の関係者の仲間とともに、得意を持ち寄り、励まし合い、高め合いながら、普通では実現不可能なレベルまで飛躍します。そして、地道で苦しく忍耐のいる作業の末、Greatな高みに到達したときの大きな喜びを、仲間とともに分かち合います。ナチュラルにクリエイティブに生きる喜びのある人生とはそのようなものであると考え、まさにそれを井庭研のなかでも実践・実現しているのです。

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■ 「創造実践学」という新しい学問領域での実践研究

井庭研で取り組んでいる研究は、既存の学問分野には収まらないものです。僕は、自分たちが取り組んでいる新しい学問にはまだ名前がないので、それを「創造実践学」(Studies on Creative Practice)と名づけました。創造(creation)の実践について、そして創造的(creative)な実践について研究する学問分野、それが「創造実践学」です。

創造実践学の主力となる方法が、パターン・ランゲージです。それぞれの領域での創造的なよい実践を研究し、それを言語化します。そして、それを用いて、人々の支援をしていきます。このように、創造実践学は、現在の問題や課題を解決する実学的な学問なのです。しかし、それだけにとどまりません。パターン・ランゲージをつくるということは、これからの社会の「ソフトな社会インフラ」を築くことだと言えるので、未来をつくる未来志向の営みでもあるのです。

井庭研では、なるべく長い期間どっぷりと浸かって、しっかり学び・研究することを大切にしてします。そのため、なるべく低学年のうちから参加し、経験を重ねていくことを強く推奨しています。そして、自分の研究のなかで創造実践学の思想と方法の感覚を「マスター」する修士課程(master course)や、それぞれの関心領域の専門家として「社会を治癒するドクター」になる博士課程(doctor course)に進学し、高度な技術とマインドを育んでいくことを推奨しており、実際に多くの人がその道に進み、日々がんばっています。

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■ 開かれた物語としてのパターン・ランゲージ

国内外でいろいろな分野の人たちによってつくられているパターン・ランゲージのなかでも、井庭研のパターン・ランゲージに特に特徴的な点があります。それは、僕たちが、パターン・ランゲージを、一つの「物語」のようにつくり込んでいるということです。もう少し限定して言うと、主人公を特定しない「開かれた物語」としてつくっているのです。

僕らがパターン・ランゲージをつくるときには、個別具体的な人物としては設定しませんが、「その実践をする人」という匿名の主人公を想像し、その人がある状況において問題に直面したり解決の行動をしたりするという「物語」を立ち上げます。そうすることで、読み手は、ひとつの物語のようにそれを読むことができるとともに、自分の物語として読むことができるようになります。

つまり、パターン・ランゲージを、単に現象を説明する説明的記述ではなく、読み手が「自分の状況に当てはまる」と思うこと、そして、そこで推奨されていることを魅力的だと思い、実際にやってみようと思うものになるような表現としてつくり込んでいるのです。

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僕は、これは、J-POPのようなポピュラー音楽の歌詞をつくることに似ていると思っています。聴き手が「自分の状況に当てはまる」と思い、そこで歌われていることを魅力的だと思い、自分の歌として口ずさんだり、カラオケで歌ったり ------- そういう歌の歌詞のようなものだと思うのです。

実際、作詞を手掛けている人たちが、歌づくりで語っていることは、パターン・ランゲージの作成と共通すると感じることが多々あります。AメロやBメロでその状況における悩みや迷いが歌われ、そして、サビでは。その状況を受け止め、乗り越えていくためのポジティブなメッセージが提示されます。聴き手は、その歌を聴き、歌詞を受け取るなかで、元気をもらったり、勇気づけられたり、世界をポジティブに捉えることができるようになります。

パターン・ランゲージも、ある状況における問題から始まり、それを乗り越えていく方法が示されます。それは、読み手が実感をともなって内側から「自分のことだ」「自分の近未来だ」と思えるように書かれるのです。パターン・ランゲージは、歌の場合とは異なり、音楽が持つ力を借りることはできません。しかしながら、うまくつくれば、読み手のペースで読み、自分のものとして内側からその人を温めるようなものになります。

実際、僕らがつくったパターン・ランゲージの読み手から、しばしば、「背中を押してくれました」「元気をもらっています」「心の支えになっています」「お守りのような存在です」「これがあったから、なんとかやってこれました」という声をもらいます。そういう声を聴くたびに、まるで心から共感する大好きな「歌」のような存在だな、と思うのです。僕らのつくった、開かれた物語としてのパターン・ランゲージが、誰かの人生をあたためる。そんな素敵な営みだなぁと、僕はいつも感じています。


■井庭研の全体像と仕組み

井庭研は、B型研究会×2というかたちで実施されています。

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B1研究会は、井庭研のすべての土台(Foundation)になるもので、全員が参加するものです。木曜5限に開講されます(必要に応じて延長して行います)。これは、全体ミーティングであり、文献輪読や運営上の話し合いなどを行います。また、各自が取り組んでいる研究の発表やそれに対する議論なども行います。

井庭研に所属するメンバーは、その学期に実施される「プロジェクト」のどれか一つに参加して研究を行うか、「個人研究」を行います。「プロジェクト」と「個人研究」の両方を行うことも可能です。

「プロジェクト」では、井庭研での研究経験を積んだメンバー(大学院生等)がリーダーとなり、研究方法や知識の伝授をしながら、プロジェクトで掲げているテーマの研究に複数人で取り組みます。プロジェクトに参加する場合は、全員、水曜日の午後(3〜6限)に集まり、まとまった時間を確保して、しっかり活動します(水曜日のプロジェクト活動は井庭研B2として行うので、そちらも履修するようにしてください。時間割上は水曜6限扱いとなっています)。

これに対し、「個人研究」では、各自の問題意識に基づき、自分で研究テーマも方法も考えて、取り組んでいきます。すべてが本人に委ねられているので自由度は高いですが、その分、自分で主体的に調べ、考え、研究として成り立たせる必要があります。その意味で、井庭研でのプロジェクト経験や、他の研究会での研究経験がなければ、実際問題として難しいでしょう。

新規メンバーは、まずはプロジェクトに入ることを強く推奨します。いきなり一人で個人研究をするよりも、プロジェクトに入る方が、研究の進め方や具体的なやり方を教えてもらえるとともに、活動のなかで学び合ったり、刺激し合ったり、喜びを分かち合ったりできるからです。まずは、B2シラバスにあるプロジェクトのラインナップを見て、自分の興味に合うプロジェクトを探してみてください。

4年生の卒業プロジェクト(卒プロ)は、4年生のときに参加しているプロジェクトを卒プロとして扱います。プロジェクトをしっかり行うことを徹底した上で、さらに個人的にやりたいことがある場合には、プロジェクトに上乗せして、個人研究を卒プロとして扱うこともあります。

井庭研では、全員が論文を執筆を行います。内容は、プロジェクトもしくは個人研究の成果です。学期半ばから研究と並行して執筆を行い、学期末には全員分をまとめて、論文集をつくります。井庭研B1の時間には、論文の書き方について学ぶ機会も設けます。


■ 履修上の注意・留意事項

  • 1年生か2年生の早めの参加を強く推奨します。長く一緒に研究・活動して経験を積み重ねることで、理解が深まり力がつくので、その後、より活躍できるようになります。そのため、井庭研では早い時期からの履修・参加を強く推奨しています。

  • 3年生後半や4年生からの受け入れは、原則として行っていません卒業プロジェクトの段階になって焦って研究会に入ろうとすることのないように、しっかりと計画的に考えて、早い段階から入るようにしてください)。

  • GIGA生や海外経験のある人、留学生を歓迎しています。井庭研では、日本語での成果をつくるとともに、英語で論文を書いて国際学会で発表したり、海外の大学やカンファレンスでワークショップを実施したりしています。日本語以外の言語を扱えることは、活躍・貢献のチャンスが大きく高まります。ぜひ、力を貸してください。

  • 井庭研メンバーは、原則として全員B1を履修する方針ですが、他の研究会(A型)に所属しながら井庭研B2のプロジェクトに参加・履修したい場合など、特殊な事情がある場合には、事前に相談するようにしてください(説明会の際、もしくは、ilab-entry@sfc.keio.ac.jpまでメールにて)。


    ■ 研究会の時間の計画

    #1 イントロダクション(10/5)
    研究会の進め方やスケジュールを確認し、研究会のPurpose、Vision、Mission、Valuesについて語り合います。

    #2 研究計画発表1(10/12)
    それぞれのプロジェクトや個人研究の研究計画を発表し、よりよくなるための議論をします。

    #3 研究計画発表2(10/19)
    それぞれのプロジェクトや個人研究の研究計画を発表し、よりよくなるための議論をします。

    #4 重要文献読解(10/26)
    井庭研の研究における重要文献を読んできて、その内容について話し合います(国際カンファレンスPLoP期間中)。

    #5 対外研究発表に向けての話し合い・準備1(11/2)
    11月下旬にある対外的な研究発表の機会(SFC万学博覧会)に向けての話し合い・準備をします。

    #6 対外研究発表に向けての話し合い・準備2(11/9)
    11月下旬にある対外的な研究発表の機会(SFC万学博覧会)に向けての話し合い・準備をします。

    #7 対外研究発表に向けての話し合い・準備3(11/16)
    11月下旬にある対外的な研究発表の機会(SFC万学博覧会)に向けての話し合い・準備をします。

    #8 対外研究発表のふりかえり(11/30)
    対外的な研究発表の機会(SFC万学博覧会)についてのふりかえりをします。

    #9 研究中間共有会(12/7)
    小さなグループに分かれ、それぞれのプロジェクトや個人研究の中間段階での進捗状況・成果について語り、お互いにアドバイスをし合います。

    #10 ライターズ・セミナー1(論文執筆における大切なこと)(12/14)
    論文誌筆のコツをまとめたアカデミック・ライティング・パターンに紐づけて、論文執筆に関する本の重要箇所を確認します。

    #11 ライターズ・セミナー2(各自の論文についての相談)(12/21)
    各自書いてきた論文をチームで読み合い、アカデミック・ライティング・パターンも活用して改善に向けた話し合いをします。

    #12 ライターズ・セミナー3(ライターズ・ワークショップ)(1/11)
    ライターズ・ワークショップのスタイルで、論文がよりよくなるための話し合いをします。

    #13 論文集の編集(1/18)
    論文の最終調整を行い、論文集を仕上げます。

    #14 研究成果発表会の準備(1/25)
    研究成果発表会の準備を行います。

    #15 研究成果発表
    それぞれのプロジェクトや個人研究の最終成果を発表します。


    ■ 評価の方法

    研究会の成績評価は、日頃の研究・実践活動、発表、論文、議論・話し合いでの貢献、成長の観点等から総合的に評価します。


    ■ エントリー方法

    【新規エントリー】

    井庭研に新規でエントリーする人は、このシラバスをよく読んだ上で、期日までに、[1] 新規エントリーシート[2] 文献課題を、それぞれ別々のPDFファイルで用意し提出してください(ファイル名に自分の名前を入れるようにしてください)。新規メンバーはプロジェクトに入ることを強く推奨しますが、すでに別の研究会に入っている/これまでに研究経験があるなど、個人研究の遂行能力がありそれを希望する場合には、[3] 研究計画も提出してください。

    第二期募集:一部プロジェクトで、引き続き新規メンバーの募集を受け付けています。第二期の募集は、9月下旬までとします。エントリーがあった人から面接を設定していき、プロジェクトの定員に達したら募集終了となるので、早めにエントリーすることをおすすめします。どのプロジェクトが募集しているかの最新情報はB2シラバス(ブログ版)を見てください。


    提出先: https://forms.gle/w7bQmoTcAze7q9W38 (井庭研 2023年秋学期 新規エントリーフォーム)

    このフォームに登録後、メールで ilab-entry@sfc.keio.ac.jp に、フォーム提出したということを連絡してください。

    [1] 新規エントリーシート

    井庭研(2023秋)新規エントリー

    1. 名前(ふりがな), 学部, 学年, 学籍番号, ログイン名, 顔写真 (写真はスナップ写真等で構いません)
    2. 自己紹介と日頃の興味・関心(イメージしやすいように、適宜、写真などを入れてください)
    3. 井庭研への志望理由、および、この研究会シラバスを読んで、強く惹かれたところや共感・共鳴したところと、その理由・考えたこと
    4. 履修:「B1とB2」か「B1のみ」か
    5. 参加したいプロジェクト(複数ある場合で、第一希望など順番がある場合は明示してください)
    個人研究を希望する場合には、研究タイトルを書いてください。
    6. 持っているスキル/得意なこと(グラフィックス・デザイン, 映像編集, 外国語, プログラミング, 音楽, その他)
    7. これまでに履修した井庭担当の授業(あれば)
    8. これまでに履修した授業のなかでお気に入りのもの、所属した研究会など(複数可)
    9. 並行して所属する予定の研究会(あれば)
    10. 補足(その他、何か連絡・相談があれば)


    [2] 文献課題

    まず、『総合政策学の方法論的展開』 (清水唯一朗, 桑原武夫 編, 慶應義塾大学出版会, 2023)の第2章 「新しい方法、新しい学問、そして、未来をつくる:創造実践学の創造」(井庭崇)を読んでください。これが井庭研で行っていることの概要になります。

    これに加えて、以下のいずれかを(1つ以上)読んでください(授業の文献宿題で読んだ人も、改めてざっと読み直してみてください)。



    読んだ本・論文のなかで、自分にとって面白いと感じた内容について、それがどこの何の話なのかということと、それを自分がどのように面白いと感じたのかを書いてください(A4で1〜3ページ程度)。


    [3] 研究計画(最初の学期から個人研究を行いたい場合のみ)
    個人研究として、どのようなテーマの研究をどのように行うのかの研究計画を書いてください(A4で2〜5ページ程度)。以下の要素を含めてください。

  • 研究タイトル(その研究を端的に象徴的に表す主題・副題)
  • 研究概要(その研究のエッセンスを数行でまとめるアブストラクト)
  • 研究背景(その研究が重要である背景や研究等の歴史、自分が取り組む個人的な経緯など)
  • 研究方法(どのような方法で研究に取り組むのか)
  • 遂行スケジュール(研究の進行、また、具体的に何月に何をする予定か)
  • 期待される成果(成果のイメージと、その学術的意義と社会的価値)
  • 参考文献(研究に関係する書籍・論文等のリスト)


  • なお、井庭研の新規面接は、担当教員だけでなく現役メンバーも一緒に参加して実施するため、エントリー時の提出物はメンバーも閲覧します。その点、あらかじめお知らせしておきます。


    ■ 重要文献

    井庭研の研究の背景や基本知識を知るために重要な本には、以下のものがあります。



    • 『時を超えた建設の道』 (クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1993)/ Christopher Alexander, The Timeless Way of Building, Oxford University Press, 1979
    • 『パタン・ランゲージ:環境設計の手引』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 1984) / Christopher Alexander, Sara Ishikawa, and Murray Silverstein, A Pattern Language: Towns, Buildings, Construction, Oxford University Press, 1977
    • 『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)/ Christopher Alexander, The Nature of Order, BOOK ONE: The Phenomenon of Life, The Center for Environmental Structure, 2002
    • 『パタン・ランゲージによる住宅の生産』(クリストファー・アレグザンダー他, 鹿島出版会, 2013)/ Christopher Alexander with Howard Davis, Julio Martinez, Don Corner, The Production of Houses, Oxford University Press, 1985
    • 『オレゴン大学の実験』(クリストファー・アレグザンダー他, 鹿島出版会, 1977)/ Christopher Alexander, Murray Silverstein, Shlomo Angel, Sara Ishikawa, Denny Abrams, The Oregon Experiment, Oxford University Press, 1975
    • 『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』(Mary Lynn Manns, Linda Rising, 丸善出版, 2014)/ Mary Lynn Manns, Linda Rising, Fearless Change: Patterns for Introducing New Ideas, Addison-Wesley, 2004


    • 『創造的論文の書き方』 (伊丹敬之, 有斐閣, 2001)
    • 『基礎からわかる 論文の書き方』(小熊英二, 講談社, 2022)
    • 『考える技術・書く技術:問題解決力を伸ばすピラミッド原則』(バーバラ・ミント, ダイヤモンド社, 1999)/ Barbara Minto, The Pyramid Principle: Logic in Writing and Thinking, third edition, Pearson Education Limited, 2021


    B2シラバス「Natural & Creative Living Lab:研究プロジェクト実践」につづく
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