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2009年04月26日

ニューバビロンとアイデアキャンプ

文房具をつかって自分たちで環境を整えながら創造的な活動をオフィスだけでなく街や野外でも行おう、というアイデアキャンプ。

1957年に結成された芸術/建築/都市グループであるシチュアシオニスト・インターナショナル(SI)のメンバーであったコンスタント・ニーベンホイスによる“ニューバビロン”を参照することもできるだろう。

住民のカスタマイズを受け入れる集住体とそれに付随する技術からなる「統一的都市計画」を表現したニューバビロン。画像はNew BabylonとかGoogleでConstant+Nieuwenhuysでimage検索などで見れる。

住人である「ニューバビロニアン」のモデルにはヨハン・ホイジンガによる「ホモ・ルーデンス」が、住人と環境との関係には住人らの「遊び」によって自発的かつ永続的に環境が再創造されていくというプロセスにはアンリ・ルフェーブルによる「空間の生産」が、大きな影響を与えている。

詳しい説明は建築家の今村創平さんによる解説 建築批評家の大島哲蔵氏による解説都市社会学者の南後由和さんのレクチャーのアーカイブが分かり易いだろう。

ニーベンホイスに影響を与え+受けたアルド・ファン・アイクやその流れを組むヘルツベルハーを見れば、ボトムアップで自己組織的なアクティビティに対する姿勢の共通点が見えてくるだろう。
ファン・アイクやその弟分であるヘルツベルハーらによる「オランダ構造主義」は以下のような特徴がある(マトリクスで読む20世紀の空間デザイン 彰国社 より抜粋)。
・「部分から全体へ」という微視的な視点が重要視される
・場所(部分)に応じた機能の相互的な関係を、造形・構造体・利用形態・スケールなどさまざまなレベルから複合的に関係づける
・ユーザが設計者の思惑を超えてさまざまに使いこなしていく手がかり=解釈の多様性を与えようとした
・コンピテンス(内発的学習意欲)を誘発する仕組み=ユーザが環境と相互作用する能力を発動させる仕掛けづくり
これらの特徴にはこちらのエントリーでも触れた。

アイデアキャンプは、新しい文房具と道具の使い方*ホモ・ルーデンス(→アイデア)*空間の生産(→自分でセットアップする空間+計画を超えた都市の使い方)*漂流/ホモ・モーベンス)、の統一的なひとまとまり、とでも言えるだろうか。メガストラクチャーとしての未来都市ではなく、ツールとスタイルが作り出す空間。ハイテックへのフェティシズムもなく、ローテクで色んな人がすぐに真似できるような身近さ。

そして資本主義に対抗しようとしている訳ではない。そうしたオランダにおけるSIの流れを受け継いでいるとも言えるレム・コールハースを参照してみる。コールハースは、SIのように資本主義に「突っ込み」を入れようとするのではなく、いったん受けてから「ノリ突っ込み」をしているのだ、と解説すると分かり易いのではないだろうか。だとしたら、さらに高度な技として、「ダルブボケ・ダブル突っ込み」もあり得るだろう。0/1ではなく[0...1]の世界。アイデアキャンプがそこまで高度かは分からないが。関西人にしか共有できなかったらスミマセン(笑

コールハースは新聞記者時代にニーベンホイスにインタビューしていたそう。

P1080602.JPG
日本語でニューバビロンの情報が得られる書籍としては、
アーキラボ 建築・都市・アートの新たな実験 平凡社
大島 哲蔵,スクウォッター―建築×本×アート 学芸出版社
がある。上の写真はその2冊。ヘルツベルハーの本もオフィスや学校などに関心のある人におススメ。

2009年04月02日

アフォーダンスと受動歩行・シナジェティックス

アフォーダンスってこれまで何冊か本を読んではいたものの、なかなか腑に落ちなかったのだが、受動歩行やH. Hakenのシナジェティクスとの関連が述べられている本を読んで、やっと分かった(ような気がする)。

受動歩行は卒業論文として取り組んだ。長さや重さやモーメントをうまく設計した二重振り子をつくれば、制御無しでも歩行していくというもの。脚のカタチと環境との相互作用(重力や回転)の中に、制御のような知性が組み込まれていると考えていいだろう。

中西泰人,浜田陽一,下山勳,三浦宏文:四足受動歩行ロボットの研究,第6回知能移動ロボットシンポジウム,pp.21-26(1992).

こちらは名古屋工大の二足受動歩行ロボット。

こうした下位のミクロなパラメータ(制御パラメータ:受動歩行では足の長さや重さやモーメント)と創発されてきた上位のマクロなパラメータ(秩序パラメータ:歩行スピード)との関連を調べようとするのが、自己組織化システムでありダイナミカル・システムズ・アプローチである。

アフォーダンスで言うところの「不変項」というのが、秩序パラメータ:歩行スピードに相当し、環境との相互作用の中で下位パラメータとそれらの関連のさせ方を探っているのが「ダイナミック・タッチ」なんだと理解した。

このミクロとマクロな関係は循環しているし、マクロなパラメータはさらに上位のシステムの制御パラメータとして働くこともある。物理現象の中でこうした関連を探るのがマルチスケールシミュレーションの研究と言える。
シナジェティクスも物理現象から社会現象までを取り扱おうとしていることに学生時代の自分ははげしい興味をかきたてられたものだった。しかしながら対象とされた社会現象があまりにもマクロなところや、今の自分の関心(マルチスケールメディアや心理的・認知的道具:高次の精神的な活動と人の物理的環境との相互作用の関連について)と少し違う気がする。

とはいえやはり、大きな示唆を与えているのは間違いない。というか、自分の中でアフォーダンスと、大学生・大学院生の頃に勉強していた受動歩行・シナジェティクスが(今頃)つながった!ということにオドロキを覚えた。


三嶋博之 エコロジカル・マインド NHKブックス

河野哲也 環境に拡がる心 勁草書房

H.ハーケン 協同現象の数理―物理、生物、化学的系における自律形成 東海大学出版会

(余談)
自分達のロボットの歩行距離を伸ばそうとした時に、意外とネックになったのが、床の剛性だった。足の長さが70cmぐらいあるロボットを作っていたので(なんでそのスケールにしたかの理由は、前任者の先輩のロボットもそうだったからなんだけど…)、ロボットが歩く度に木で作った斜面がたわんでしまい運動エネルギーがそちらへ吸収されてしまったのと、斜面の大きさが研究室の大きさ以上にはできず、四歩ぐらいしか歩かなかった(w
ロボットの名前はLucy。先輩の名前がMirockyで弥勒菩薩からとったから、オマエも仏像から付けろと言われ…盧舎那大仏からLucyと名付けた。写真はどこかにあるはずだから、見つけたらアップしたい。

拡張現実感と拡張した心に対応する現実

Augmented Realityの訳である拡張現実感。画像処理や無線タグを用いてアノテーション等を五感に提示する技術と言える。

その一方で、拡張した心(extended mind)という考え方がある。

実空間を情報技術で拡張するだけでなく、情報技術だけでなく様々な心理的道具によって拡張した心に対応できるような実空間をデザインすべきではないか。

ケータイの新しい使い方を編み出している若者達をメディア技術が無いと何も出来なさそうでけしからんだとか躾がなっていない、などと言わずに。

多義的で連続的な空間とするか、多機能でユニバーサルな空間とするか、のどちらかだと思っていたが、アイデアキャンプではセルフビルドの可能性を模索しているのかもしれない。

拡張した心の入門的な本としてはこれが読み易いかも。