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2010年03月31日

パーソナルファブリケーションと一品種一生産

3DプリンタやCNCカッターなどの価格の低下と共に、パーソナルファブリケーションやデジタルファブリケーションの可能性が広まりつつある。

そうした流れをまとめたニール・ガーシェンフェルドによる著書「Fab: The Coming Revolution on Your Desktop--from Personal Computers to Personal Fabrication」の邦訳「ものづくり革命」の前書きでは、月尾先生が文章を寄せている。

というのも、1992年に名古屋大学から東京大学に移ってきた月尾先生はずっと建築学科の人だったのに機械工学科に入ることになり、機械工学科でやる研究として「一品種一生産」と「感性情報処理」をテーマにしたのだが、この一品種一生産の概念はパーソナルファブリケーションとほぼ同じだからだ。

その内容は、
 月尾嘉男 贅沢の創造―21世紀・技術は芸術を目指す PHP研究所
に詳しい。
 内容(「BOOK」データベースより)
「最先端技術が支える「一品種一生産」時代の到来を大胆に予測し、
 停滞状況にある日本企業に新たな突破口を示す。」

その頃は、森精機のセーター編み機や、セーレンのデジタル染色システム(VISCOTEC'S ビスコテックスシステム)が、一品種一生産を可能にする技術として紹介されていた。しかしこの時代には、こうした機械があるのは工場の中だけであった。
プリンタがどこの家庭にも普及はしたけれど、すべての人がグラフィックデザインの知識やセンスがある訳ではないので、万人がデザイナーになる訳でもないが、そうした溝を埋めるための研究が感性情報処理でもあった。自分が服のデザインを対象にした対話型進化システムの研究をして、デザイナのセンスを対話型進化システムの中に埋め込もうとしたのも、そうした目的のためだった。

「一品種一生産」で検索するといくつかの対談などがヒットした。
「変革する21世紀社会への展望」
感性メディア技術の現状と今後の課題
フロンティア・オブ・コミュニケーション 新しい想像力のインターフェイスへ

いま自分がメディアアートにたずさわっているのもこの感性メディアの流れなのだと思うと、もっときちんと巨人or集合知的な巨人の方に乗らないとイケナイのだ、そして新しい概念を提示しなければ、、、と日々思うことが増えている。


2010年03月30日

デザインの組織プレー

先ほどのエントリー「アルゴリズミックデザインと設計支援」でも触れたような、
・異なる立場(設計者/施工者/利用者/投資家)
・異なる職種やさまざまな次元・スケールのデザイナー(1D:文章やソフトウェア、2D:グラフィックや布、3D:プロダクトや建築や都市、無形物:制度やスタイル)
がチームを組んで、何かをデザインするプロセスを考えること。

それは新しいスポーツや新しいプレースタイルを発明することに近いかも知れない。

かつてのエントリー「ワークショップと個と組織と」では、丹下先生をマンUのファーガソン監督に喩えた。

『アルゴリズミック・アーキテクチュア』出版記念トークで、藤村さんから丹下研や妹島事務所のようなデザインプロセスを考えたい、という発言があった。
藤村さんの超線形設計プロセスは、個人技としても使えるし、組織プレーとしても使えるのだが、個人技として使う場合の効用(初心者が迷走しなくて済む)と組織プレーとしての効用(模型がコミュニケーションを促し、パラメータのマトリクスでデザインの探索空間を明確に共有した上で最適化に進む)が、すこし異なっていて、多義的になっている。
組織プレーとしての超線形プロセスにおいては、模型が丹下研で描かれた地図に近しい役割を果たすことだろう。

アトリエか?設計事務所か?それ以外は無いのだろうか??という問題提起も、個人技に頼ったかつてのブラジルサッカーでもなくパワーに頼ったかつてのドイツサッカーでもないスタイルって何だろうか??という問いだと考えると、新しいポジション(投資家やユーザ?)を含めた新しいプレースタイルを色々と考えてみませんか??という話に喩えられる(?)だろうか。

これは、ソフトウェア開発における「アジャイル」や「スクラム」や「リーン開発」といったプロジェクトマネジメントのスタイルのデザインに近いだろうし、「ワールドカフェ」や「オープンスペーステクノロジー」や「アイデアキャンプ」といった新しいスタイルのワークショップをデザインすることにも近いだろう。

いま何人かの方々と一緒にオフィスデザインの本を作ろうとしているが、そこでは目標ツリーをレーダーチャート的に並べたようなフォーマットのダイアグラムを使って、オフィスを分析しようとしている。そのダイアグラムから、さまざまなオフィスで起るプレーとスタイルの類似点と相違点、そしてそれらとモノのデザインの関係が見えてくると良いな、と期待している。

加藤 浩, 有元 典文 認知的道具のデザイン (状況論的アプローチ) 金子書房 の 
第7章 加藤 浩・鈴木栄幸 協同学習環境のための社会的デザイン 「アルゴアリーナ」の設計思想と評価
では、学習環境のデザインを三つのレベルに整理し、
・ヒト(組織)のデザイン:組織、制度、規則、行動規範、価値基準、人的関係
・コト(活動)のデザイン:活動内容、目的、動機づけ、達成目標、必然性、賞罰、
             インセンティブ、行動のモデル、出来事(イベント)、
             活動の(時間的)場
・モノ(道具)のデザイン:器具・道具、教育メディア、インフラ、機能、
             ヒューマンインタフェース、意匠、
             ドキュメント(コンテンツ)、活動の(空間的)場
として、

「実際のデザインはこれらのレベルを往復しながら進められる。しかし、原則的にヒト・コト・モノの順をとると設計上最も重要なコンセプトである「コミュニティがどうあるべきか」ということが明確になり、以降のデザイン具体化の指針となる。」(p.178)

と述べている。

ワントップかツートップか(ワンフロアでないといけないか、階や棟が分かれていても大丈夫か)。あの選手は左サイドかトップ下か(ビル、家具、ICT、どれがキングか)。得点できるのか、予選を突破できるのか(オフィスに投資をしてリターンは本当にあるのか)。そうした議論にとらわれずに「チームがどうあるべきか」を考えることは難しいことでもある。

ダイアグラムを通して
・似たようなモノのデザインがなされていても、ヒトやコトのデザインが違う
・似たようなヒトとコトのデザインがなされていても、モノのデザインが違う
というのが見えると良いのではないか。
ヒト・コト・モノの関係を分析して表現するダイアグラムを、(立場や職種の異なる)何人かのプレイヤーが共通して持っていることは、チームがどうあるべきか、新しいプレースタイルとそれを実現するには何をどう揃えれば良いか、を考えるひとつの道具になり得るのではないか、と考えている。



アルゴリズミックデザインと設計支援

『アルゴリズミック・アーキテクチュア』出版記念トークを拝見。
(1) http://bit.ly/dvVByL (2) http://bit.ly/bUH2rx

トーク中に変数と関数の話が出てきたので自分自身の整理と、すこし感想を。

Geroは設計を3種類に区別せよと言っている。
1) routine design(すべての必要な知識がそろった状態でなされる設計)
2) innovative design(扱う変数はいつもと同じだが、変数の取り得る値をいつもとは違う領域に振るような設計)
3) creative design(新しい変数を導入して行う設計)

シンポジウムで出ていた変数と関数の話に対応づけると、
・決まった変数の中を探索したいの?/するの?:1)や2)なの?
・新しい変数を見つけながら(ここがトーク中の関数なのかな?)探索するの?:3)なの?
・探索を進めるための評価関数はいつの時点でどう決まるの?
という話を整理すると、トークの中身も分かりやすくなるのではないかと思う。

博士課程の時の研究では、デザインを探索だと捉え、対話型進化システムを使ってある人がデザインをしたプロセス=探索プロセスを再現する関数を自動生成することで感性情報を獲得する、という研究をした。
「選好関数を用いた対話型進化システムの制御と評価 遺伝的プログラミングのデザイン支援システムへの応用」http://web.sfc.keio.ac.jp/~naka/papers/ai98.pdf

この研究では、あるデザイナの探索過程を再現した関数をネットで配信して、ユーザとデザイナのコラボレーションを対話型進化システムの中で実現できる、ということを提案するところまでは出来た。1) routine designと2) innovative designは対応できたけれども、3) creative designには対応できなかった。研究としては、新しい変数を自分自身で導入するメタなプログラム(関数)を作ろうとしたが、それは挫折したのだった。

設計の過程は、自分・他者・環境との対話でもある。対話:インタラクションもしくはダイアローグをどう進めるか。それは建築だろうと情報システムだろうと同じことだが、その進め方には暗黙知的なスキルが含まれレベルにばらつきがあるので、レベルを押し上げるための手段:技術や道具として、CADやIDE、UMLやダイアグラムといった表記法、要求工学や観察工学といった工学的手法や、個人技としての発想技法やチームプレーとしてのワークショップやオフィスのデザインがある。

新しい技法・道具をつくることで、新しい自分・他者・環境との対話をデザインすることができる。
#もちろん、アルゴリズミックデザインも、そうした方法のひとつだろう。
設計の過程はデザイナーの頭の中に閉じてしまうことが多いが、模型を作って外在化する/ソフトウェアを使って外在化することが、新しい自分や他者とのコミュニケーションを促してくれる。

ひと言に道具と言っても、エキスパートがもっと上手くなるための道具と、普通のレベルの人が上手くなるための道具では、狙いも違う。もっと上手くなりたいと思っているつくり手が自分自身のための技術や道具を作っている場合もある。誰かと一緒に作る方法をもっとなんとか出来ないか、と思っている人もいる。
また中小路によれば、技術や道具の種別として、
・ランニングシューズ型(それが無くてもできるがあったほうが良い)
・ダンベル型(それがあることで鍛えられる)
・スキー靴型(それがなければできない)
がありうる。

自分がどんな技術・道具を作っているのかを意識しながら、オレこんなの使ってこんなの出来たんだぜ、と言い合える人々がたくさん増えていけばと思う。自分のためだけに作る場合もあるし、他者も使えるフォーマットにして、新しいフィールドを作ろうとする場合もある。フィールドまでを視野に入れると「創造するアーキテクチャ」になるはず。

CityCompilerアイデアキャンプもそうした道具とフィールドの一つにしたい。

2010年03月25日

サイバーアーツジャパン DAWN 

展示の様子を撮影した動画をアップしました。

東京都現代美術館に足を運んでくださったみなさま、どうもありがとうございました。
関係者の皆様お疲れさまでした。

2010年03月12日

Whole Earth CatalogとWIREDとCET

電子芸術国際会議ISEA(International Symposium on Electronic Art)という学会があるが、2006年に開かれた際にその一環としてINTERACTIVE CITY Summitなるものが開催されていたようで、イベントも色々と開催されたようだhttp://www.urban-atmospheres.net/ICSummit2006/

「スマート・モブズ」等の著者でありHotWired初代編集長であったハワード・ラインゴールドも参加している。

ラインゴールドはホールアース・カタログの21世紀版とも言える「Millennium Whole Earth Catalog: Access to Tools and Ideas for the Twenty-First Century」も執筆している。その辺りの経緯を語ったインタビューがWIRED VISIONに。

ラインゴールドのTEDでのトーク「ハワード ラインゴールド: コラボレーション」を見て、「新 思考のための道具 知性を拡張するためのテクノロジー — その歴史と未来」も合わせて読むと、その想いがより伝わってくる。

芹沢高志さんによる『Whole Earth Catalog』の可能性Hotwiredより、を読むと、その関連がより分かりやすくなるだろう。

そう言えば、アナログなインタラクティブシティ?とも言えるhttp://www.centraleasttokyo.com/ Central East Tokyoのプロデューサーである佐藤直樹さんは
『WIRED 日本版』創刊からのデザイナーでもあり、きっとWhole Earth Catalogやラインゴールド的な関心も高いに違いない。今更ながら気がついた、、、。

佐藤さんのインタビュー記事。「もっともっと自由でいいんじゃないかなって。」


2010年03月09日

地形的な建築と情報空間の接点


[大西麻貴+百田有希]《夢の中の洞窟》

地形的な建築とクラウドな情報空間がつながっている様子はこんなイメージかも。と現美でDAWNの設営をしに行って、ふと思ったのだった。

入江経一 x 中西泰人 :地形的な建築へ, 新建築, Vol.76, No.5, pp.222-225, 新建築社 (2001).

いま読んでもまったく意義を失っていない。というか、こうした姿カタチをまだ実現できていないだけなのかも。

マルチスケール時空間

東京大学のGCOEにおけるマルチスケール時空間統合プラットフォーム

CityCompilerともつながると良いかも。実装は何でやっているのだろう?Java Monkey Engineではないだろうけれど(笑

2010年03月08日

ハイブリッドデザインとマルチスケールデザイン

先週の土曜日、3月6日に街と暮らしのハイブリッドデザインコンテストの最終審査会が行われました。

最優秀賞、優秀賞、特別賞、いずれも良い意味で審査員の予想を超えて、さまざまな視点のハイブリッドデザインのかたちを見せてくれたと思いました。入賞されたみなさん、どうもおめでとうございます。応募していただいた皆様にも感謝したいと思います。

5/15(土)に受賞者のみなさんの再プレゼンを通したシンポジウムが開かれる予定です。とても楽しみにしています。

審査の間に「マルチスケールデザイン - ハイブリッドデザインのための方法論」というタイトルでお話をさせていただきましたが、その際の資料です。


アナログ・フィジカルなデザインでは、隣り合ったスケールの連続性を考えることになります(建築であれば、手触り⇔身体性⇔空間とか、部屋⇔建物⇔都市とか)。
丹下健三氏による「東京計画」や吉阪隆正氏が提唱した「不連続統一体」という概念もそうしたものでしょう。

そして、そこにデジタルな技術とデザインが入り込むことで、飛び飛びのスケールを接続できるようになりました。不連続なスケールの連続性を考え、ひとまとまりのカタチをつくりだすこと。それが物理空間と情報空間をハイブリッドにデザインする際のひとつのアプローチなのではないかと考えています。