国民国家、ポストコロニアル論


  1. 目的・内容
  2.  国民国家論およびポストコロニアル論は、社会学や文学研究などの分野において、現在もっとも注目ないし「流行」している分野である。
     この分野が注目されているのには、それなりの理由がある。一つは、これがきわめて包括的な問題をあつかえるアプローチだからである。国民統合や国家政治といった国家サイズの問題、また植民地支配や移民労働者といった国際関係から、個人のアイデンティティのレベルまで、マクロからミクロまで取り上げられる問題の幅は広い。また対象となるトピックにおいても、ナショナリズム/エスニック、ジェンダー、階級、思想、文化など広範であるうえ、学問領域でも政治・歴史・文学など多岐にわたっている。要するに、現代社会で注目されている様々な問題に、学問領域を越えて接近できることが、このアプローチの長所といってよい。
     しかしそれ以外に、国民国家論およびポストコロニアル論の最大の特徴は、人間のアイデンティティの問題、つまり「自分とは何者か」という視点から政治や国際関係を研究するという点にある。すなわち、「自分はなにゆえに〈日本人〉なのか」「自分はなぜこの社会では〈女〉としてしか存在しえないのか」といった問題意識から、国家や社会を見直してみるということが、このアプローチの基本的なものである。もともとこうした問題意識は、従来からもジェンダー研究やエスニック関連研究では散見したものであると同時に、人間を利益最大化戦略に従う抽象的個人としてしか扱ってこなかった経済学や政治学がとりこぼしてきたものであったといってもよい。このようなアイデンティティの問題から政治を扱っていることが、このアプローチが人気を集めている理由といえる。
     研究会では、現在の代表的な国民国家論およびポストコロニアル論の著作を、一週に一冊ずつ読んでいきたいと考えている。なお、このアプローチの基礎は20世紀後半の現代思想なので、履修者は研究会1の「現代思想の基礎」を並行して履修した方がベターだと思う。

  3. 参考文献
  4.  現代進行している分野なので、適当な入門書というものはない。カタログとしては、『国文学』1998年9月号の特集「『知』のプロジェクト」が約50冊を書評形式で紹介している。研究会で取り上げる著作は追って掲示するので、できるだけ触れておくことが望ましい。


5/17/1999イ・ヨンスク『「国語」という思想−近代日本の言語認識−』(上野陽子)
5/24/1999吉見俊哉『博覧会の政治学 まなざしの近代』(千葉達磨)
6/7/1999牧原憲夫『客分と国民のあいだ』(鈴木邦太郎)
6/14/1999山之内靖ほか『総力戦と現代化』(石野純也)
6/21/1999上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー』(貴戸理恵)