小林道彦・中西寛編『歴史の桎梏を越えて―20世紀日中関係への新視点』(千倉書房、2010年)
「辛亥革命と日本の反応―『崛起する中国』と近代日本」と題する論文を書きました。上掲書に所収されています。
1911(明治44)年10月、日本は中国(清王朝)で起きた革命を、ある特殊な感覚を持って迎えました。日清戦争を経て日本は古代から模範としてきた中国を「乗り越えた」と理解していました。
その中国で起こった共和政革命は、中国にとっての明治維新となるのか。むしろ、立憲君主制えを取る日本を越えて共和政になることは、東アジアにおける近代化レースの中で日本が追い抜かれることになるのではないか。
そうした日本のとまどいをよそに、革命は進行していきました。崛起する中国にどう向き合うのか。近代日本は大きな課題に直面することになります。
本稿では、新聞10紙、雑誌10誌の論調を追うことでこのテーマに世論レベルでアプローチしました。中国のめざましい発展を日本人はどう捉えたのか。今後も研究課題のひとつとして、このテーマに取り組んでいきたいと思います。ご高覧、ご批評いただければ幸いです。
この原稿は、当初、小島朋之先生への追悼として書いたものでした。「崛起する中国」というサブタイトルも先生のご著書から頂いたもの。先生の口癖は「いいんじゃない?」。お元気であったら、そう言ってもらえたでしょうか。
同書には、編者のおふたりのほか、多くの方の力が入った論文が並んでいます。静かに、しかし深く語りかけてくる一冊だと思います。
それにしてもこの装丁、相変わらず凝っていますね。さすがです。
いい顔の本。うれしいです。
<以下、目次。出版社のサイトから>
序論―小林道彦・中西寛
第Ⅰ部 分岐する運命―帝国日本と革命中国
第1章 伊藤博文の中国観―立憲政友会創設期を中心に―瀧井一博
1 国制としての立憲政友会
2 立憲政友会への旅―明治三二年の憲法行脚
3 もうひとつの旅―明治三一年の清国訪問
4 戊戌政変の体験―政治的中国との距離
5 張之洞との会見―経済的中国との出会い
6 通商国家戦略としての政友会創設―市場としての中国
第2章 辛亥革命と日本の反応―近代日本と「崛起する中国」―清水唯一朗
1 本稿の視座
2 革命の勃発と日本の反応
3 講和交渉の進展と中華民国の成立
4 清朝の滅亡と日中関係の彷徨
5 近代日本と「崛起する中国」
第3章 加藤高明と二十一ヵ条要求―第五号をめぐって―奈良岡聰智
1 日本外交の転機としての二十一ヵ条要求
2 第五号はいかにして提出されたのか
3 第五号の作成過程
4 第五号の秘匿
5 第五号はいかなる波紋を及ぼしたのか
6 海外メディアの反応
7 イギリスの反応
8 暗礁に乗り上げた交渉
9 二十一ヵ条要求への新視点
第4章 第一次世界大戦後の中国をめぐる日米英関係―大国間協調の変容―中谷直司
1 大戦の終結と日中関係の決裂
2 日米関係の変化―パリ講和会議
3 日英関係の変化―新四国借款団の結成交渉
4 「ワシントン体制」の成立と中国をめぐる国際政治の変容
第5章 王正延の外交思想―高文勝
1 王正延の文明観
2 王正延の国際認識
3 王正延の外交観
4 王正延の不平等条約撤廃
5 王正延の対日構想
第6章 危機の連鎖と日本の対応―朝鮮・満州・「北支」・上海一九一九~一九三二―小林道彦
1 ワシントン体制と朝鮮要因
2 朝鮮統治の動揺と張作霖の中原進出
3 政友会積極外交の迷走
4 経済外交と朝鮮自治論
5 危機の連鎖―朝鮮・満州・「北支」
6 朝鮮独立運動と第一次上海事変
7 新たな危機と体制の立て直し
第Ⅱ部 冷戦下の変容―帝国の解体から国交正常化へ
第7章 トルーマン政権の極東政策―長尾龍一
1 トルーマンの登場
2 ポスダム宣言
3 マッカーサー
4 国共内戦と米国
5 トルーマン政権と中国―アチソン外交
6 マッカーシズム
7 結語
第8章 ポーレー・ミッション―賠償問題と帝国の地域的再編―浅野豊美
1 米国による賠償政策の起源
2 賠償と日本人引揚命令―極東委員会成立をめぐって
3 帝国の分割と在外財産活用による地域形成―米国による帝国再編構想
4 終わりに―帝国の地域的再編の手段としての賠償
第9章 戦後日本における華僑社会の再建と構造変化―台湾人の台頭と錯綜する東アジアの政治的帰属意識―陳來幸
1 東アジアの冷戦と華僑社会
2 戦後における在日華僑社会の再建
3 華僑民主促進の成立と朝鮮戦争による情勢の変化
第10章 日中国交正常化交渉における台湾問題一九七一~七二年―井上正也
1 台湾問題をめぐる日中関係
2 佐藤政権の対中接近の模索と挫析
3 田中角栄訪中への道
4 日中国交正常化交渉と台湾問題
5 台湾問題をめぐる暫定協定
第Ⅲ部 歴史像の転換―二一世紀日中関係の礎
第11章 体制変革期における日本と中国一九二七~一九六〇年―中西寛
1 体制変革という視点
2 一九二七、八年の日中関係
3 日本の降伏と象徴天皇制の選択
4 安保改定をめぐる騒乱と体制競争の決着
5 「革命と戦争の世紀」としての二〇世紀東アジア
第12章 歴史は鑑か鏡か?―国際比較の中の日中歴史教科書―等松春夫
1 分断された記憶
2 南京虐殺事件―事例研究1
3 真珠湾攻撃―事例研究2
4 戦時下の強制労働(「従軍慰安婦」問題を含む)―事例研究3
5 満洲事変―事例研究4
6 東京裁判(および靖國神社)―事例研究5
7 教科書の叙述の背後にあるもの
第13章 「中国の台頭」と国際秩序―浅野亮
1 「中国の台頭」への分析視座
2 アジア秩序の変容と中国の役割
3 秩序形成の行方
結論―小林道彦・中西寛
あとがき
主要人名索引