Summer Readings --- 井庭研2010 夏休みの課題
井庭研の今年の夏休みの宿題は、こんな感じ。
MLに流したメール本文を掲載します。
井庭研の今年の Summer Readings は、次の3冊を指定します。井庭研における重要文献なので、各自この3冊を至急Amazon.com等で購入し、入手してください。
(1) The Timeless Way of Building (Christopher Alexander, Oxford University Press, 1979)
(2) Ubiquity: Why Catastrophes Happen (Mark Buchanan, Three Rivers Press, 2001)
(3) Orality and Literacy (Walter J. Ong, Routledge, 1988)
この3冊は、どれも井庭研のベースとなる考え方/思想を魅力的に書いてくれている文献です。表面的にはそれぞれ全く異なる分野の文献ですが、深いところでは相互に共通する思想をもっている、と僕は考えています。この夏は、個々の文献を味わい理解するとともに、これらの文献の背後にある(井庭研的)思想をつかむことに挑んでください。
上の3つの文献は、プロジェクト別にいうと、(1)が「創造メディアの構築」プロジェクト、(2)が「動きの地図をつくる」プロジェクト、(3)が「英語力強化法のイノベーション」プロジェクトに、一応直結するラインナップになっています。でも、そのため、これらの文献を読むことで、なぜ井庭研でこれらの3つのプロジェクトが並立しているのかが理解できるようになるでしょう。
今年の Summer Readings は、どの文献も英語版で読んでください。(3冊とも日本語訳も出ているので、どうしてもわからない部分については訳書を適宜参考して構いませんが、英語でも必ず読んでください。原著では同じ単語でも、翻訳の段階で違う日本語が割り当てられてしまい、文献間の共通点に気づけないことがあります。)
■■■ より深く読むためのヒント
特に新規生にとっては、これらの文献で扱っているテーマや、その背後にある思想を探るのは難しいことだと思うので、その糸口となるヒントを示しておきます。以下の点に注目しながら読んでみてください。
* * *
(1) The Timeless Way of Building (Christopher Alexander, Oxford University Press, 1979) *Hard cover [邦訳タイトル:『時を超えた建設の道』]
パターン・ランゲージの思想を書いた本です。著者は、数学出身の建築家。ここでは、近代の都市で失われてしまった「古きよき時代の街がもつ質感・秩序」をどのように取り戻すか、という考えが書かれています。パターン・ランゲージは、暗黙知を記述して共有するための方法だといわれていますが、アレグザンダーが目指したのは、単なる暗黙知の記述ではありません。コミュニティの自生的な秩序(spontaneous order)による全体性の成長を支援しようとしました。だからこそ、彼は建築家でありながらも、デザインされた構造そのものより、生成プロセス(generative process)の方を重視します。ということで、以下のことを気にしながら読むといいでしょう。
・著者アレグザンダーのそもそも問題意識は何なのか?
・"quality without a name"(名づけ得ぬ質)とは何か?
・"alive"(生き生きとした)とはどういうことか?
・アレグザンダーは、建物や町の"element"(要素)の本質は何だと考えたか?
・"pattern"とは何か?
・"pattern language"とは何か?
・"pattern language"は何を支援するのか?
・パターン・ランゲージが"language"(言語)であるとはどういうことか?
・"language"として、いかにして生成・創造を支えるのか?
◇井庭研の「創造メディアの構築」プロジェクトでは、パターン・ランゲージを、人間活動とそれにまつわるコミュニティの生成・創造の支援のメディアとして位置づけ、その活用方法を探究しています。井庭研では二年前に「学習パターン」をつくりましたが、独自のパターン・ランゲージ(の体系)を実際につくっているグループというのは、世界でもかなり稀です。その経験を活かしながら、僕らはさらなる次の段階を目指していきたい。そのためには、アレグザンダーの思想にいまいちど立ち返り、本質を掴み直す必要があります。
◇アレグザンダーは、この本に関連する重要な本をいくつも書いているので、できる人は、ぜひそれらも読んでみてほしいと思います。
* * *
(2) Ubiquity: Why Catastrophes Happen (Mark Buchanan, Three Rivers Press, 2001) *paperback [邦訳タイトル: 『歴史は「ベキ乗則」で動く』(新:文庫版)、『歴史の方程式』(古:単行本)]
自然や社会に潜む動的な秩序についての研究の動向を紹介している本です。この本では、具体的な秩序として"power law"に従っている事例がたくさん紹介されるので、この本を「ベキ乗則」についての本だと思っている人が多い。しかし、実は、本質的に重要なのはそこではなく、以下の点です。
・なぜ物理学において"history"(歴史)が重視されているのか?
・"accident"(偶然)、"history"(歴史)、"order"(秩序)はどのように相互に関係するのか?
・"critical state"(臨界状態)とはどういう状態か?どのような特徴があるか?
・物事を"avalanche"(なだれ)として見る視点
・"universality"(普遍性)とはどういうことか?
・なぜ"universality"に着目することが重要なのか?
・なぜ研究手段として"simulation"が重要なのか?
◇井庭研の「動きの地図をつくる」プロジェクトでは、システムの"history"をネットワークとして表現するという方法をつくりながら、実際に分析し、さらにそのようなネットワークがもつ"universality"を探究しています。この方法は最近の僕らのオリジナルな方法なので、本には登場しませんが、この本で書かれていることが重要な基盤となっていることは間違いありません。
◇"universality"の話は、A. -L. Barabasiの『Linked』にも出てきます。春学期の井庭研の輪読文献であり、また「シミュレーションデザイン」の授業の教科書でもあったので、井庭研メンバーのほとんどの人がすでに読んでいます。まだ読んでいない人は、『Linked』も、自分のリーディングリストに加えておいてください。
* * *
(3) Orality and Literacy (Walter J. Ong, Routledge, 1988) *paperback [邦訳タイトル:『声の文化と文字の文化』]
この本では、昨今よく目にするような「リテラシー」ではなく、口頭でのコミュニケーションの「オーラリティー」に着目している、世界的に有名な本である。面白いことに、「オーラリティー」こそが人類がもともと持っていて重要だった能力なのだ、という視点で、歴史を振り返っている点である。人類の歴史のなかで文字が誕生してから初めて、リテラシー(読み書き能力)ということが問題になった。しかし、人類が文字を使う前にも、言語は存在していた。その時代の言語というものは、文字として記録されることなく、口頭で話す、というなかでのみ存在していた。いうなれば、文字という「継続的に存在するもの」ではなく、音という「生成された途端に消滅してしまうもの」としてのみ、言語は存在していた。昔の「口承文学」の語り部は、定まった物語を記憶して再生していたのではなく、物語のパターン(型)をいくつももっており、それを即興で組み合わせることで、物語を語っていた。これがリテラルな(文字の)時代より前の、つまりオーラルな時代の記憶とコミュニケーションの特徴であった。
・"orality"と"literacy"の違い
・"orally based thought"の特徴とは何か?
・著者が言う"the age of secondary orality"とは?
・"oral literature"の語り部は、どのように物語を記憶していたのか?
・"orality"が「生成的」であるというのは、どういうことか?
◇井庭研の「英語強化法のイノベーション」では、英語力をリテラシーの観点ではなく、オーラリティーの観点から高める方法を探究したいと思っています。口承文学の語り部のように、パターンをため込み、即興で組み合わせながら、英語を話す、というようなイメージです。英語で話すためのパターン(型)は何か、またどのようにトレーニングすればよいのか。そういうことを、自分たちで実践しながら、考えていきます。
■■■ レポート提出形式/方法
内容:文献ごとに、井庭研の内容と関係が深い考え方をまとめるとともに、3冊に共通する思想についてもまとめる。
言語:日本語もしくは英語
用紙:A4
分量:10ページ程度
内訳:各文献2ページずつ+まとめ4ページ (自分で作成した図表を含む)
注意:だらだら書くのではなく、きちんと文章の構造化を心がけて書く。Section分けやパラグラフなども駆使する。書いて終わりではなく、自ら推敲し、他の人が読んで理解できる文章にブラッシュアップすること。
ファイル形式:PDF
ファイル名:半角ローマ字で姓名を入れる。(例:SR_TakashiIba.pdf)
提出期限:9月15日(水)24時
(期限内に提出がない場合、あるいは、明らかに内容・形式的に不足がある場合には、来学期の履修許可を取り下げることがあります。)
提出先:井庭研メーリングリスト
議論@合宿:9月末もしくは10月頭の週末に行う予定の「キックオフ合宿」で、この課題を通じて考えたことを話し合います。Summer Readingsの提出物は、全員分、印刷・配布します。
MLに流したメール本文を掲載します。
井庭研の今年の Summer Readings は、次の3冊を指定します。井庭研における重要文献なので、各自この3冊を至急Amazon.com等で購入し、入手してください。
(1) The Timeless Way of Building (Christopher Alexander, Oxford University Press, 1979)
(2) Ubiquity: Why Catastrophes Happen (Mark Buchanan, Three Rivers Press, 2001)
(3) Orality and Literacy (Walter J. Ong, Routledge, 1988)
この3冊は、どれも井庭研のベースとなる考え方/思想を魅力的に書いてくれている文献です。表面的にはそれぞれ全く異なる分野の文献ですが、深いところでは相互に共通する思想をもっている、と僕は考えています。この夏は、個々の文献を味わい理解するとともに、これらの文献の背後にある(井庭研的)思想をつかむことに挑んでください。
上の3つの文献は、プロジェクト別にいうと、(1)が「創造メディアの構築」プロジェクト、(2)が「動きの地図をつくる」プロジェクト、(3)が「英語力強化法のイノベーション」プロジェクトに、一応直結するラインナップになっています。でも、そのため、これらの文献を読むことで、なぜ井庭研でこれらの3つのプロジェクトが並立しているのかが理解できるようになるでしょう。
今年の Summer Readings は、どの文献も英語版で読んでください。(3冊とも日本語訳も出ているので、どうしてもわからない部分については訳書を適宜参考して構いませんが、英語でも必ず読んでください。原著では同じ単語でも、翻訳の段階で違う日本語が割り当てられてしまい、文献間の共通点に気づけないことがあります。)
■■■ より深く読むためのヒント
特に新規生にとっては、これらの文献で扱っているテーマや、その背後にある思想を探るのは難しいことだと思うので、その糸口となるヒントを示しておきます。以下の点に注目しながら読んでみてください。
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(1) The Timeless Way of Building (Christopher Alexander, Oxford University Press, 1979) *Hard cover [邦訳タイトル:『時を超えた建設の道』]
パターン・ランゲージの思想を書いた本です。著者は、数学出身の建築家。ここでは、近代の都市で失われてしまった「古きよき時代の街がもつ質感・秩序」をどのように取り戻すか、という考えが書かれています。パターン・ランゲージは、暗黙知を記述して共有するための方法だといわれていますが、アレグザンダーが目指したのは、単なる暗黙知の記述ではありません。コミュニティの自生的な秩序(spontaneous order)による全体性の成長を支援しようとしました。だからこそ、彼は建築家でありながらも、デザインされた構造そのものより、生成プロセス(generative process)の方を重視します。ということで、以下のことを気にしながら読むといいでしょう。
・著者アレグザンダーのそもそも問題意識は何なのか?
・"quality without a name"(名づけ得ぬ質)とは何か?
・"alive"(生き生きとした)とはどういうことか?
・アレグザンダーは、建物や町の"element"(要素)の本質は何だと考えたか?
・"pattern"とは何か?
・"pattern language"とは何か?
・"pattern language"は何を支援するのか?
・パターン・ランゲージが"language"(言語)であるとはどういうことか?
・"language"として、いかにして生成・創造を支えるのか?
◇井庭研の「創造メディアの構築」プロジェクトでは、パターン・ランゲージを、人間活動とそれにまつわるコミュニティの生成・創造の支援のメディアとして位置づけ、その活用方法を探究しています。井庭研では二年前に「学習パターン」をつくりましたが、独自のパターン・ランゲージ(の体系)を実際につくっているグループというのは、世界でもかなり稀です。その経験を活かしながら、僕らはさらなる次の段階を目指していきたい。そのためには、アレグザンダーの思想にいまいちど立ち返り、本質を掴み直す必要があります。
◇アレグザンダーは、この本に関連する重要な本をいくつも書いているので、できる人は、ぜひそれらも読んでみてほしいと思います。
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(2) Ubiquity: Why Catastrophes Happen (Mark Buchanan, Three Rivers Press, 2001) *paperback [邦訳タイトル: 『歴史は「ベキ乗則」で動く』(新:文庫版)、『歴史の方程式』(古:単行本)]
自然や社会に潜む動的な秩序についての研究の動向を紹介している本です。この本では、具体的な秩序として"power law"に従っている事例がたくさん紹介されるので、この本を「ベキ乗則」についての本だと思っている人が多い。しかし、実は、本質的に重要なのはそこではなく、以下の点です。
・なぜ物理学において"history"(歴史)が重視されているのか?
・"accident"(偶然)、"history"(歴史)、"order"(秩序)はどのように相互に関係するのか?
・"critical state"(臨界状態)とはどういう状態か?どのような特徴があるか?
・物事を"avalanche"(なだれ)として見る視点
・"universality"(普遍性)とはどういうことか?
・なぜ"universality"に着目することが重要なのか?
・なぜ研究手段として"simulation"が重要なのか?
◇井庭研の「動きの地図をつくる」プロジェクトでは、システムの"history"をネットワークとして表現するという方法をつくりながら、実際に分析し、さらにそのようなネットワークがもつ"universality"を探究しています。この方法は最近の僕らのオリジナルな方法なので、本には登場しませんが、この本で書かれていることが重要な基盤となっていることは間違いありません。
◇"universality"の話は、A. -L. Barabasiの『Linked』にも出てきます。春学期の井庭研の輪読文献であり、また「シミュレーションデザイン」の授業の教科書でもあったので、井庭研メンバーのほとんどの人がすでに読んでいます。まだ読んでいない人は、『Linked』も、自分のリーディングリストに加えておいてください。
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(3) Orality and Literacy (Walter J. Ong, Routledge, 1988) *paperback [邦訳タイトル:『声の文化と文字の文化』]
この本では、昨今よく目にするような「リテラシー」ではなく、口頭でのコミュニケーションの「オーラリティー」に着目している、世界的に有名な本である。面白いことに、「オーラリティー」こそが人類がもともと持っていて重要だった能力なのだ、という視点で、歴史を振り返っている点である。人類の歴史のなかで文字が誕生してから初めて、リテラシー(読み書き能力)ということが問題になった。しかし、人類が文字を使う前にも、言語は存在していた。その時代の言語というものは、文字として記録されることなく、口頭で話す、というなかでのみ存在していた。いうなれば、文字という「継続的に存在するもの」ではなく、音という「生成された途端に消滅してしまうもの」としてのみ、言語は存在していた。昔の「口承文学」の語り部は、定まった物語を記憶して再生していたのではなく、物語のパターン(型)をいくつももっており、それを即興で組み合わせることで、物語を語っていた。これがリテラルな(文字の)時代より前の、つまりオーラルな時代の記憶とコミュニケーションの特徴であった。
・"orality"と"literacy"の違い
・"orally based thought"の特徴とは何か?
・著者が言う"the age of secondary orality"とは?
・"oral literature"の語り部は、どのように物語を記憶していたのか?
・"orality"が「生成的」であるというのは、どういうことか?
◇井庭研の「英語強化法のイノベーション」では、英語力をリテラシーの観点ではなく、オーラリティーの観点から高める方法を探究したいと思っています。口承文学の語り部のように、パターンをため込み、即興で組み合わせながら、英語を話す、というようなイメージです。英語で話すためのパターン(型)は何か、またどのようにトレーニングすればよいのか。そういうことを、自分たちで実践しながら、考えていきます。
■■■ レポート提出形式/方法
内容:文献ごとに、井庭研の内容と関係が深い考え方をまとめるとともに、3冊に共通する思想についてもまとめる。
言語:日本語もしくは英語
用紙:A4
分量:10ページ程度
内訳:各文献2ページずつ+まとめ4ページ (自分で作成した図表を含む)
注意:だらだら書くのではなく、きちんと文章の構造化を心がけて書く。Section分けやパラグラフなども駆使する。書いて終わりではなく、自ら推敲し、他の人が読んで理解できる文章にブラッシュアップすること。
ファイル形式:PDF
ファイル名:半角ローマ字で姓名を入れる。(例:SR_TakashiIba.pdf)
提出期限:9月15日(水)24時
(期限内に提出がない場合、あるいは、明らかに内容・形式的に不足がある場合には、来学期の履修許可を取り下げることがあります。)
提出先:井庭研メーリングリスト
議論@合宿:9月末もしくは10月頭の週末に行う予定の「キックオフ合宿」で、この課題を通じて考えたことを話し合います。Summer Readingsの提出物は、全員分、印刷・配布します。
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