井庭崇のConcept Walk

新しい視点・新しい方法をつくる思索の旅

モバイル時代の英語力強化法:日本にいながらの環境構築(5)

2 . 3 「音」と「リズム」の習得

英語力を高める第三の方法は、コトバのもつ「音」と「リズム」を習得することである。

言葉は、単なる記号ではなく、音声として発せられ、音声として聴き取られる。だから、その言語がもつ「音」としての特徴を理解し、その音を身体的に生成できるようにならなければならない。

そして、いくつかのコトバをつなげたフレーズやセンテンスの場合は、さらに音をつなげる「リズム」が重要になる。リズムは、口先だけで生まれるのではなく、身体全体で生み出すものであるから、より身体性を意識する必要がある。

このように、「音」や「リズム」が重要なのはわかっているのだが、それをどうやって鍛えればいいのかについては、正直なところ、現在私自身も模索中である。すでに書いた「言語のシャワーを浴びる環境をつくる」や「表現のストックをため込む/使う」に比べて、まだまだ経験が浅いし、これは効果があると実感できるレベルに達していないのだ。

それでも、「音」と「リズム」の習得は、避けて通ることができない。そこで、ここでは、現在私がよさそうだと考えている方法を紹介することにしたい(つまり、上達するという保証はないが、私自身がやっているので、興味がある方はご参考にどうぞ、という話)。


「音」を知る

まず、日本語と英語では、コトバを構成する「音」の要素の種類が異なることを認識することが重要だ。子音の種類も、母音の種類も、その組合せのやり方も、英語は、日本語の場合とは異なっている。

私たちが日本語で慣れ親しんできたコトバの音の数は、英語の音の数より少ないのだ。だから、私たちは、英語のコトバを、日本語の音の要素に強引に引きつけて理解したり、発音したりすることになりがちである。本来はいくつもの異なる音であるにもかかわらず、それを日本語の「ア」にまとめてしまったり、「オ」にまとめてしまったりしている。そんなことをしていては、いつまでたっても、英語の音を聴いたり、発したりすることはできないだろう。

そこで、英語の音の要素にはどのようなものがあるのかを、徹底的に身体に染み込ませることに取り組みたい。私たちの身体と脳には、日本語の音の回路が相当深いところまで組み込まれてしまっているため、それを打ち破り、拡張するには、「徹底的に」やらなければならないだろう。徹底的に取り組んで、一度英語の音の回路ができあがれば、リスニングもスピーキングも次のステージにあがるはずだ。

音の要素を知ることで、聴こえる世界が違ってくるというのは、外国語に限らず、音楽においても当てはまると思われる。楽曲をただ漠然と聴くだけでは、どの楽器がどの音を出しているのかを認識することはできない。ところが、一度、個々の楽器の音を知ったり、ソロの演奏場面を見たりすると、個々の音を識別できるようになる。私の経験では、自分たちでバンドを組んで初めてベースの音をちゃんと認識できるようになった、ということがあった。英語の場合も、これと似ているかもしれない。


音の要素を知るために、私が現在使っているのが、松澤喜好氏の『英語耳』『英語耳ドリル』『単語耳』のシリーズだ。他の著者からもいろいろな本が出ているが、私は最終的にこれを選んだ。私のやり方は、次のような感じである。

まず、『単語耳』の理論編を読む。この理論編はかなりおすすめで、なぜ英語が聴き取れないのか、あるいはなぜ話した英語が通じないのか、という疑問が解消する。その理由がよくわかるのだ。なので、まずはこれから読むとよい。

その後、『英語耳』と『英語耳ドリル』を並行してやる。著者自身も書いているように、この2冊はどちから始めてもよいようになっている。『英語耳』の方は、音の要素をマスターするのに必要だが、これだけをやると単調で飽きてしまう。『英語耳ドリル』の方は音楽を聴き、歌詞を覚えていくので楽しいが、音をどのように発するのかという発声の説明はこちらにはない。なので、これらを両方並行してやっていくことで、近い将来、これらが交わる点がでてくるはずだ。私はそう考えて、並行して取り組んでいる。


(つづく)

[12] 松澤喜好, 『英語耳 [改訂・新CD版] 発音ができるとリスニングができる』, アスキー・メディアワークス, 2010
[13] 松澤喜好, 『英語耳ドリル 改訂版 発音&リスニングは歌でマスター』, アスキー・メディアワークス, 2009
[14] 松澤喜好, 『単語耳 英単語八千を一生忘れない「完全な英語耳」 理論編+実践編Lv.1』, アスキー, 2007


※本エントリの内容は、「モバイル時代の英語力強化法 ―日本にいながらの環境構築―」(井庭 崇, 『人工知能学会誌』, Vol. 25, No. 5, 2010年9月)には含まれていない、書き下ろし部分。
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